10・そんなことじゃドラゴン一体すら倒せないぞ?
次は学園の敷地内にある大きなホールのような場所まで向かった。
こちらにはどうやら、他の場所で試験を終わらせた受験生達も集まっているらしい。
「あっ、クルト!」
試験がはじまるまで、壁に体を預けていると。
入り口の方からララが駆け寄ってきた。
「さっきの魔法すごかったね! さすがクルトだよ!」
「そんなことないよ」
肩をすくめる。
実際、全然本気を出していないので、あんなもので褒められていたら体がかゆくなってくる。
俺とララが話していると、他の受験生達がジロジロ見てきた。
ララは美少女だ。
そんな女の子が俺と話しているものだから……嫉妬しているのかもしれない。
「それからわたし……クルトにお礼を言わないと」
「お礼? 昨日のことなら、もう良いぞ」
「昨日のこともなんだけど! 今日のことだよ!」
とララは指輪をつけた手をかざして、
「この指輪……きっとクルトがなにか細工したんだよね?」
「……どうしてそう思う?」
「うーん、勘かな!」
あっけらかんとララは言い放った。
「…………」
「えーっ! どうしてそんな目で見るの! こいつバカなんじゃないか、と思われているみたいだよ!」
ララは両手をバタバタさせた。
いちいちアクションが大きくて、面白かった。
「こういう時のわたしの勘ってよく当たるんだ! だってこの指輪……すごいものだけど、買った時はこれほどじゃなかったよ? せいぜい、ちょっといつもより魔法使いやすいかな? ってくらいだったもん!」
「ララの実力なんじゃないか?」
「違うよ。わたし、魔法には自信あったけど……ここでは他の人達と同じくらいだもん。昨日、クルトに指輪を見せた時になんかしてくれたんだよね? だから……ありがとう!」
頭を下げるララ。
先ほど、ララは「こいつバカなんじゃないか」と思われているように感じたみたいだが、そんなことはない。
勘というのは大事だ。
それは今まで蓄積された経験や知識に裏付けされたものだからだ。
最後の最後まで考え抜いても、それでも答えが分からない時。
俺も指運に任せる時がある。
しかも実際ララの勘は当たってるんだしな。
「でも! でも! クルトの方が何千倍……うんうん。何億倍もすごいよねっ! マッド人形に魔法を当てるどころか、壊しちゃうなんて」
「あれくらい出来ないと、ドラゴン一体すら倒せないぞ?」
「ドラゴンなんて倒そうと思ってないよ! というか人間が倒せるわけないよ!」
なにを言う。
前世では百体を超えるドラゴンを倒してきた。
その中にたった一体も、俺を本当に満足させてくれるドラゴンはいなかったが。
それに……。
「ドラゴンハンターがいるだろ? そいつ等はどうしているんだ?」
「ドラゴン……ハンター……?」
首をかしげるララ。
「そ、そんな恐ろしい人いないよ! ドラゴンって神話の中だけじゃないの?」
「えー……」
どうやらこの世界では『ドラゴンハンター』なる職業は一般的じゃないらしい。
前世ではドラゴンハンター達が、競うようにしてドラゴンを狩っていた。
一度そいつ等がドラゴンを乱獲しすぎて、彼等の怒りをかってしまったことがある。
その時、仲裁役として俺が出向き、人とドラゴンの間で平和条約を結んだのだ。
だが、10万年の時を生きる神竜とも出くわして、ただでは済まなかったが……今となっては良い思い出だ。
「それに俺ばっか褒めるみたいだけど、ララもすごいと思うぞ。赤色魔力だし、これから鍛えていけばどんどん伸びていくと思う」
話を変える。
手放しに褒めたつもりなのに、ララは肩を落として、
「ありがとう……でもわたしなんてまだまだだよ。だってわたしは『不遇魔力』なんだからね」
「不遇魔力?」
「クルトも知ってると思うけど、攻撃系統の魔法に向いていない魔力なんだ。そのせいで、冒険者として活躍することも難しいし……だから不遇って呼ばれてる」
赤色魔力が攻撃に向いてないだと?
俺の認識と全くあべこべじゃないか。
それに仮に赤色が攻撃に向いてなかったとしても、支援魔法や身体強化魔法を鍛えれば、十分冒険者パーティーとして活躍出来る。
「おかしな話だな……」
「え?」
「その認識は間違っている。赤色は間違いなく攻撃に向いている魔法だ。どこで知ったか分からないが……もっと自分に自信を持て」
ここまでくると、1000年前俺に嫉妬していた貴族が魔法革命をなかったことにした……と言われても信じそうだ。
……いや、あいつ等のことだからあり得るな。
「うん! 慰めてくれて、ありがとう。クルト好き!」
俺は本当のことを言っただけなのに、ララは間違って受け取ったらしい。
やれやれ。
「——最終試験を開始します」
おっ。
ララと話していたら、どうやら試験の時間がきたようだ。
どうやら拡声の魔法かなにか使って、ホールに声を響かせているらしかった。
「最終試験は対人戦です。今から順番に組み合わせとステージの番号を伝えます。受験生は速やかにその番号が振られたステージまで移動し、試験を開始してください」
ふむふむ。
「試験を開始する際、こちらで防御魔法を一人ずつ張らせてもらいます。その防御魔法が壊されるか、もしくはどちらかがギブアップ、時間切れのどれかが生じた場合、そこで試験は終わりです。あと私達試験官も、審判としてあなた達の戦いを見守ります。審判が戦いを止めたとしても、終わりになりますのでご注意ください」
なるほど。
長々と言っていたが、要は時間内に相手より強いことを示せばいいんだろう?
今まで、筆記とか的当てとかつまらない試験だったので、それを聞いて胸が弾む。
「わわわ、対人戦だよ。わたし、人と戦うの苦手だな……」
ララは膝を軽く曲げて震えていた。
それから順番に受験番号が呼ばれていった。
「受験番号99——受験番号200。ステージ1にて試験を執り行いますので、移動してください」
おっ、やっとのこさ俺の名前が呼ばれた。
「クルト、頑張ってね!」
「ああ」
「絶対勝ってよね!」
「当たり前だ」
「強い相手じゃないように、私祈ってあげるね!」
なにを言う。
強い方が良いに決まってるじゃないか。
相手、強かったらいいなあ。
ララに背を向け、円形のステージに上がった。