1・強すぎた魔法使い
「弱すぎる」
俺は目の前で倒れている『魔神フォンバクス』を見て、そう呟いた。
「わざわざここまで来てやったというのに……見かけ倒しだったな」
もしかしたらやられているふりをして、俺の油断を誘っているかと思ったが、どうやらこの様子ではそれもないらしい。
俺は溜息を吐いて、体からほとばしる魔力を一旦しまった。
——もう俺より強いヤツは、この世にいないんだろうか?
そう思ったら、悲しくなってきた。
俺は最強の魔法使いとなることを目指し、日夜鍛錬を続けていた。
さらに効率的な魔法を。
もっと強い魔法を。
そんな具合に、今ある魔法に改良を続け、さらなる高みを目指していった。
その結果、今まで信じられていた魔法のやり方みたいなのが、ことごとく非効率なものだということが分かった。
俺は今までの魔法の『常識』というものを、木っ端微塵に打ち砕き、新しい魔法のやり方というのを唱えた。
ただ自分が強くなるために、だ。
そうしていただけなのに、いつの間にか世界では革命が起こっていた。
俗に言われる『魔法革命』というものである。
既存のやり方を壊し、新たな魔法世界の扉を開けた俺のことを『異端者』と呼ぶものもいた。
賞賛されたことも、疎まれたことも両方ある。
だが、俺にとってはどちらでも良かった。
群れるつもりもなかったし、一人で魔法を極められればそれで良かったのだから。
そこで俺はさらに強いヤツを求めて、廃墟と化した城へと出向いた。
ここにはフォンバクスと言われる魔神がいるのだ。
こいつは殺戮の神とも呼ばれ、この世界に現れた瞬間、いきなり帝国を壊滅させてしまった。
魔神は壊滅させた帝国……城にて強い者を待ち構えているという。
一説によるとこの魔神。魔王よりも強いと言われているのだ。
そんなところに俺はシンパシーも感じ、魔神のもとへと向かったのだ。
こいつこそ、俺の求めていた強いヤツじゃないか……と思って。
しかし結果は散々なものであった。
「まさかこんなザコに帝国が滅ぼされたとはな」
情けない。
こいつに出会った瞬間、挨拶代わりに特大の魔法を放った。
魔神は防御魔法を展開させていたみたいだが、そんなものは紙切れ同然だ。
そして現在、こいつは床で無残に転がっている。
最初の一発で死んでしまったのだ。
あまりにあっけない幕切れであった。
「もしかして……この世には、もう俺を楽しませてくれる者はいないというのか?」
そう考えると、空しくなってきた。
同時に恐怖も押し寄せてくる。
今から俺は何年生きればいいんだ?
これからさらに魔法を鍛えたとしても、それを披露する場面がない。
なんせ今回魔神を一発で葬った魔法は、俺が十年前に作り出したものだったからだ。
もっと強い魔法があったのだが、それを出すこともなかった。
——この人生はもう退屈だ。
ならば。
1000年後の世界なら、俺をもっと楽しませてくれることがあるんじゃないか?
前々から魔神がザコである可能性も考えていた。
それに貴族から嫉妬されて、しょうもない嫌がらせをされるのも疲れたしな。
だから俺はとある魔法を作り出していたのだ。
「転生魔法——展開」
魔力を組んでいく。
そう、転生なのだ。
この人生はもう飽きた。
ならば1000年後の世界に転生しよう。
1000年後の世界なら、さらに魔法の技術も飛躍的に進歩しているだろう。
そんな世の中を俺は見てみたい。
そこだったら、俺を満足させてくれるヤツもいるかもしれないからだ。
「……よし。どうやら転生魔法は正常に機動してくれそうだ」
魔力の光が城内に満ちていく。
俺のありたっけの魔力を込めたのだ。
だんだんと目の前がぼやけていき、魂が引っ張られていくような感覚になった。
願わくば——。
1000年後の世界では俺より強いヤツがいますように。
こうして、俺は誰にも告げず転生魔法を発動させたのであった。