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089 幸せの代償

時系列が少しややこしいですが、まだ障壁が砕け散る前の時間軸になります。


 王城へと辿り着いたレアはどうやって中に入るかまでは考えておらず、門の前で考え込んでいた。相手は古くからの友とはいえ、王女だ。簡単に通してもらえるとは思えなかった。


「おい、そこで何をしている?」


 突如少女が走ってきたかと思えば城の門の前で足を止めたその様子を怪しく思った門兵が声をかける。まだ考えがまとまっていなかったレアはもう正直に行くしかないと腹をくくった。


「あ、すみません。アシュ……アシュリア王女に面会をお願いしたいのですが……」

「姫様に? 一般人が気軽に会える人ではない。ほら、立ち去りなさい」


 門兵はレアたちのことを怪しく思いつつも相手が女子供だからか、軽く注意するのみで諦めるように促す。


 だが、レアにとっては下手をすれば大切な友達の命に関わる問題だ。はい、そうですかと簡単に諦められるものではない。


「あの! レアと言う者が訪ねてきたと……そう、お伝えしていただけませんか?」

「姫様の知り合いか……? いや、君がそうであると言う保証もない。それに姫様は今作戦行動中だ。例えそうだとしても今は面会することはできない」


 レアの願いも聞き届けられることはなく、門兵は変わらず拒絶の意思を示した。その対応も当然と言えるだろう。どこの誰とも知れない者を一国の姫とそう簡単に会わせられる訳がない。正しい行動をしている門兵にレアも文句が言えず狼狽える。


 だが、作戦行動中という言葉がレアの焦りを加速させていた。ここで立ち止まっている間にも何が起こるかわからない。なんとかアシュリアと会える方法はないかと辺りを見渡し模索する。


 するとそこに一人の大柄な男が王城方面から門へとやってきた。


「なんじゃ揉め事か」

「これはデミラス様。外出されるのですか?」

「ちぃとギルマスのじじいに渡した魔術道具の件で改善案を思いついたもんでなぁ。それで? 何事じゃい」

「あぁ、いえ、そこの者たちが約束もなく姫様との面会を求めてやってきたものですから」

「あのお転婆姫にだぁ?」


 一体誰がと視線を向けた先にいたレア達を見てデミラスは表情を変えた。「ほう」とレア、正確にはレア達が着ている衣装をマジマジと見つめていた。


 少し恐怖すら感じるその視線にリアはその視線から逃れるように姉の後ろに姿を隠した。


「あの……デミラス様?」


 あまりにもまだ10代半ばに見える少女たちを凝視するデミラスに、門兵がまさかそういう嗜好がと恐る恐る声をかける。だが、デミラスは門兵の言葉には意を介さずレア達に問いかけた。


「嬢ちゃんらはレクトルとかいう小僧の知り合いか?」

「え? ご主人様をご存知なのですか?」

「ご主人様……ねぇ」


 その言葉を受けてデミラスはニヤリと笑みを浮かべた。デミラスの事を知らないレアとしては不安しか感じていなかったが、レクトルの名が出されたことで少し落ち着きを取り戻していた。


「やつには言いたいことがあるんじゃ。ちょいと付き合え」


 そう言ってデミラスは王城の方面へと戻っていく。ついて来いと言われたように思えたが、このまま王城の門をくぐってもいいのかわからずレアは門兵へと視線で問いかける。


「あ、あの……」

「……少々お待ちください」


 レア同様に困った顔を浮かべていた門兵はデミラスの元に駆け寄っていく。


「デミラス様!」

「なんじゃい」

「勝手な事をされては困ります。彼女達を通して何かあれば、責任を問われるのは私なのです。ただでさえ今は……」

「心配なぞ不要じゃわい。なんならわしが責任をとってもええ。それに、あの嬢ちゃんたちを追い返そうもんなら、後でお転婆姫に怒られるのはお主じゃぞ?」

「え? それはどういう……」

「あの嬢ちゃんたちはお転婆姫にとっちゃあ、そりゃあ大切な友達じゃあいうことじゃ。クビになりとうなかったらわしに従っとくんじゃな」

「は、はぁ、彼女達が姫様の……?」


 納得がいかないまでも、冠位(クラウン)の座にあるデミラスがそこまで言うのならと門兵はレア達が城の中へと入ることを許可した。


 なんとか許可を貰えたことに安堵したレア達は門兵にペコリと礼をするとデミラスの元へと駆け寄った。リアもその後を追いかける。


「あの、ご主人様のお知り合いなのですか?」

「あぁ、そうじゃな。小僧には言いたいことが山ほどあるんじゃ」

「言いたいこと……ですか?」

「お主らはその服がどういう経緯で創られたもんか知っとるのか?」


 デミラスにそう問われ、レアは着ている服に視線を移した。それはレクトルが持つ固有スキルによって創られたものだ。自分たちから頼み込んだのだ。知っているに決まっている。だが、それを今ここで目の前にいる男性に伝えていいものか。返答に迷っていた。


 門兵の様子ではきっと目の前にいるデミラスは身分が高い者なのだろう。だが主であるレクトルは基本、注目されることを嫌っている。奴隷である自分がその思いに反することはできない。


「知っています。ですが、お教えすることは……」

「あぁ、気にせんでええわい。こう見えてわしもお主と同じじゃからな」

「同じ……とは?」

「これじゃ」


 そういってデミラスが懐から取り出したものは奇妙な形をした金槌だった。それをヒラヒラと意味ありげにレアに見せつける。


 だが、デミラスと違ってレアには物だけ見てもそれがレクトルが創ったものだと判断できるようなスキルや力はない。なにか珍しい物なのかと首を傾げるだけだった。


「あの……?」

「なんじゃい、つまらんのぉ。これはお主の服と同じ、あの小僧に創らせたもんよ。スキルで生み出す魔術道具や魔装具にゃぁ興味もあるが、使えんもんには話にならん」

「ご主人様が……あなたは一体……?」


 レクトルが身内以外にも力を使って道具を創り出していた事に驚き、今目の前にいる者の素性が気になったレアは恐る恐る問いかけた。だが、返ってきた答えはレアをさらに困惑させるものだった。


「わしか? わしはデミラス。こう見えて冠位(クラウン)の第八位よ」

「ク、冠位(クラウン)……!?」


 まさかの自分が元の身分だったとしてもそれよりも上の存在に驚きを隠せないレアは困惑の表情を浮かべた。だが、デミラスはさらに驚きの言葉を口にする。


「身分なんぞ気にせんでええ。好き勝手するにゃあ役立つがなぁ、わしゃあ堅苦しいのは好かん。お主もそうじゃろう? なぁ、亡国の姫様よ」

「はい……え?」


 言われた言葉に同意をしたところで何かに引っかかり、気づく。


「そう驚くもんでもないじゃろう。わしは冠位(クラウン)なんじゃからな」

「そう……ですね」

「しかし、前の嬢ちゃんたちに加え、お姫様とはな。あの小僧もなかなかやりよるわい」

「わ、私がご主人様と巡り合えたのはただ運がよかっただけです」


 レクトルがレア達を求めたわけではない。助けた相手がたまたま元王族だっただけだ。むしろレクトルを求めたのはレア達なのだから。


 だからこそ、レクトルに救われてから幸運が続いているからこそ、レアは今の事態を不安に感じていた。良い事が続けばそれと帳尻を合わせるかのように悪い事が起きる。


 それはレア自身が生きてきた王国の歴史が証明していた。死ぬよりマシだと助ける為に使()()()()()が今度は自らに牙をむく。その時が来た。覚悟の上だったのでそれはいい。許容できなかったのはその矛先が自分たちではなく大切な友へと向きそうなことだった。


 その力の名は【幸運変動(フォルトゥナ・リウム)】。


 レアの妹であるリアが持つ固有スキル。それは運勢を操る力。自らが望むように幸運を引き寄せる力。そして、他人に不運を呼び寄せる力。


 かつてレアがいたシルミア王国を繁栄させ、そして崩壊へと導いた力だった。


 不作を豊作に。成功率が低い実験を成功へ。帝国の脅威に対策を。旅の道中の安全を。娘の病を。天気を。金を。


 徐々に欲にまみれていく願い。悪い事が起きそうであれば、さらに力を行使する。それは本来、未来に訪れたであろう幸運すらも消費し、リアの身体を蝕んでいった。


 予兆はあった。放っておけば必然的に悪い結果になる。良い未来が見えない。徐々に力を使用した後のリアの疲労感が増している。だが、王族以外の誰もがそれに目を背け、リアの元へと己の欲望を叶える為に訪れた。そうすれば問題は解決するのだから。


 国王の意見も通らない。抑え込めば、その力を独占するつもりだろうと市民の反感が凄まじいのだ。一度知ってしまった幸運を、人は簡単には捨てられない。


 だが、その報いはリアが固有スキルの使い過ぎによ生じた病に倒れた所で唐突に訪れる。そう、南の地からの魔物の氾濫だった。これといった事件もなく、油断していたのもあるかもしれない。障壁を形成する守護聖石の魔力不足にも気付かない。多くの冒険者は国外へと出稼ぎに出ていた。辺りも寝静まる深夜にそれは起きた。


 たまたま国外を監視していた兵士がトイレで不在になり、街の兵士も祝勝会で宴会騒ぎをしていた時だった。故に対応が遅れた。人員が不足した。成龍の一撃で障壁はいとも容易く崩れ去った。


 酔いが回った兵士たちは反撃の間もなく命を散らした。寝ていた市民は襲撃にすら気づいていなかったかもしれない。気づいたのは街の中心に住まう貴族と王族。だが、気づいた時には周囲は火に囲われ、眼前には今まで見たこともない魔物が数えきれない程闊歩していた。


 逃げる道もない。力もない。助けも呼べない。そもそも、この状況をひっくり返せる存在に心当たりすらない。できるのはただ死を待つだけ。


 幸せを願い続けたそれが報い。レアたちが生き残れたのはきっと自分たちの願いを叶えてはいなかったから。それでも民の願いを叶えたが故に、その民を、家族を、故郷を失った。


 それ故にレアは帝国を恨んではいない。引き金を引いたのはきっと自分たちだから。だが、それを他人に告げることもしなかった。何故なら、それはリアの力を明かす事に繋がるからだ。その力がしれれば、シルミアの二の舞になるか、もしくは二度とそのような事が起きないようにリアを殺されるかもしれない。どちらにせよ、いい方向へは向かないだろう。


 生き残った後、もうこの力は使わないとレアはリアと取り決めた。だが、どうせ死ぬ未来しかないのならとその誓いを破ったのはつい先日の事。レアが洞窟の崩落に巻き込まれ生き埋めになり、リアが取り残された時。


 散々不幸な目に遭ったのだ。そろそろ良い事が起きてもいいだろうと、最後の望みをかけて力の行使を決意した。


 その結果、リアだけでなくレアまでもが救われた。それは奇跡に近い巡り合わせ。なら、当然今度はそれに近しい不幸がきっと訪れる。


 助けてくれたレクトルには頼れない。レクトルこそがレアにとっての幸運の象徴だからだ。巻き込むわけにはいかない。だからこそ、レアは自身でこの不幸に抗うと決めた。服は少しでも事がうまく運ぶように、欠片でも幸運の力を借りられるように。大切な者を守れるように願いを込めて。


 暗い表情で俯くレアを見てデミラスは「ふむ」と少し考え毎をするが、すぐに思考の端へと追いやった。他人を気遣うことなど自分には似合わないと、そんなことに気を回すくらいなら自分の望みを叶える。それが冠位(クラウン)たるデミラスの本質だった。

 

 故に、望みを伝えにくい今の状況を吹き飛ばす為にレアの頭に手を乗せるとガシガシと乱暴に頭を撫でた。


「きゃあ! な、何を……」

「何を考えてるか知らんがな、そんなんじゃあうまくいくもんもうまくいかんぞ」

「デミラス様……」

「それよりもな、小僧に言いたいことがあるぅ言うたじゃろ」

「は、はい……」

「これなんじゃがな」


 そう言ってデミラスが手に持っていた奇妙な形をした金槌を再度フリフリと揺らす。


「ご主人様が創られたという……」

「あぁ、確かに信じられん力が込められておる。じゃがな、まったく使えんのじゃ。色々調べてみりゃしたが、はっきりせん。恐らく動力のようなもんと権限? がないように思えるんじゃがな。小僧の仲間なら何か心当たりありゃせんか?」

「動力と権限……ですか?」


 そこでレアは考えるが、そもそもレクトルの力について詳しく知っているわけでもない。答えが出る訳もなく謝罪をしようと口を開きかけた時、リアが恐る恐る可能性を口にした。


「ごしゅじんさまのじゅうしゃじゃないから?」

「なんじゃと?」

「あ、そっか!」


 リアの言葉に意味がわからないデミラスは訝し気にリアを見つめるが、その意味が理解できたレアはポンと手を叩いた。何かわかったらしいレアにデミラスは先を促すように問いかける。


「どういうことじゃ?」

「あ、いえ、ご主人様の力で生み出した物や力はご主人様のせか……家でしか使えないんです。外で使うには登録をする必要があるのですが、それにはご主人様と従者関係の契約を交わす必要があるという話でした」

「従者契約だぁ? お主らも結んどる言うんか」

「私とリアは隷属契約と従属契約を結んでいます」


 そう言ってレアは首に巻いていた布をまくり、隷属の首輪をデミラスに見せ、すぐに戻す。


「なんと……よもやそこまでじゃったとは……」

「ですからデミラス様がそれを使うのは難しいかと……思い……ま……」


 そこまで言いかけてレアはあることに気が付いた。それはそもそもこの場に自分が来る要因となったことにも繋がる重大なものだ。


 まだ大丈夫だと思っていた壁が脆く崩れ去るほどに、落ち着いていた焦りが加速する。こんなところで呑気にしている場合ではないと、慌ててデミラスにしがみ付く。


「あ、あの! 失礼を承知でお願いします! 私を……私たちをアシュリー……アシュリア王女の所へ連れて行ってはもらえませんか!?」

「お転婆姫の元へ? そういやぁ、お転婆姫の知り合いやぁ言う話じゃったな」

「時間がないんです! もしかしたらもう……」

「まぁ、待てぇ。少し落ち着かんかい」


 レアを自分から引きはがすと、デミラスは懐から今度は小さな宝石のついたアクセサリを取り出すと魔力を通し、突如話しかけた。


「わしじゃ。あぁ、くだらん小言は今はいらんわい。あのお転婆姫はどうしとるかわかるか? ……なんじゃ、間に合わんかったか。あぁなんでもない。気にせんでええ。じゃあの」


 話し終えると、デミラスは魔力供給を断ち切り、アクセサリを懐に戻した。


「残念じゃが、あのお転婆姫はもう朝一にゃあ出とったみたいやなぁ」

「ど、どこへ行かれたか分かりますか!?」

「確かライアミッツじゃったか。こっちにいるよりも安全じゃろうて国王の計らいで例の森の近くにあるカドラックへ送られよったはずじゃわい」

「カドラック……」


 確かシルミア王国の南西にある辺境の街だったはずだと記憶を辿るレア。朝一に向かったのなら既に向こうについて1時間以上は経過しているだろう。


 危険なのはアシュリアも分かっているはずだ。いきなり魔物が集まっている森に向かうことはないと思うが、デミラスが繰り返すお転婆姫と言う言葉に否定できない心が嫌な予感を膨らませていく。


創作世界(ラスティア)経由でシルミアまで行ければそこから……ダメ! 一概に森と言っても広すぎる! どうすれば……!)


 必死に頭の中で方法を模索する。すると、自分の手をギュッと握る暖かさに気付き、その原因へと目を向けた。そこには泣きそうな顔のリアが震える手でレアの手を握っていた。リアも姉の焦り様を見て何か感づいたのかもしれない。


「リア……」

「お姉ちゃん……ごしゅじんさまに……おねがい……」

「そう……ね」


 それは最後の手段だった。できれば自分たちだけで解決したかった。でも、くだらない意地でもし間に合わなかったら。大切な者を失ってしまったら。もう後悔はしたくなかった。


「デミラス様、申し訳ありません! その金槌の件についてはいずれ!」

「あ、あぁ」


 それだけ伝えるとレアとリアは創作世界(ラスティア)に向けて転移した。残されたデミラスは時空魔術もなしに転移を実行した2人を見て、また聞きたいことが増えたわいと思いつつも、当初の目的を思い出しその場を後にした。


次回10/21更新予定です。

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