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085 謀られた王女

今回は場面がコロコロと変わります。

バラバラに行動させると、書く順番に迷いますね。


 レクトルはみなを見送った後、ソファへと身を預けた。全員が出かけている為、部屋の中にはレクトルしかおらず、静かなものだった。


 今までは誰かと共にあり、色々な事に巻き込まれたためその時々で精いっぱいだった。だが、一人でゆっくりできる時間が生まれると、これまで考えなかったことに思考を割くようになる。


 レクトルの頭の中に浮かんだのは、この世界アーステリアへと転移する前にいた元の世界の事だった。


(この世界に来て、今日でもう1週間か。長い様であっという間だったな。元の世界は今、どうなっているんだろう。俺は行方不明扱いにでもなっているのだろうか)


 ふと、そんなことが気にかかる。だが、


(考えても無駄……か。それに、今更未練もない)


 すぐにその思考を深くと追いやる。むしろお金に困っていたところだったので助かったくらいだった。こちらでは既に十分な金額を手に入れられていた。心残りと言えば、アニメや漫画、ゲームといった娯楽に期待が出来ないことだろう。だが、その代わりに魔術がある。暇は十分につぶせるだろう。


 後は仕事が中途半端な状態で終わってしまった事くらいだった。だが、それも元の世界の戻ってまで終わらせたいと言うほどのものでもなかった。


(後輩たちには悪いが、後の事は任せた)


 そう届かぬ言葉を心の中で言い残すと、レクトルは自室へと移動した。そして、そのまま大の字になって布団へと倒れる。


「あー。やっぱり、休日と言ったら布団でゴロゴロしないと始まらないな」


 元々レクトルはインドア派で休日は自宅で過ごすことが多かった。久々に何も気にせずゆっくりできる時間をかみしめ、再びの眠りにつくのだった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ルーミエは朝早くにロイエンを見送ると、ギルド内を忙しなく動いていた。そこに朝早くやってきた一人の冒険者が声をかけた。


「なぁ、ルーミエさん。今日の依頼、端末を通しても何も表示されないんだが……まさか」


 通常、ギルドに預けられた依頼はギルドカードをギルド内に設置されている端末に通すことで、各自の依頼項目に受注可能な依頼が一覧で表示される。鑑定の宝玉への登録のみで紙で張り出したりする手間がなく、受注、管理にも適していた。冒険者も身の丈に合わない依頼を受けたりすることができなくなっていた。


 少し近代的なこのシステムも鑑定の宝玉やセカイの意思が絡んだ世創道具(アーティファクト)がカギとなっている。だが、普及しているのはギルドのみでコレギアなどは一部を除き未だ受注ボードに依頼がランク毎に紙で張り出され、冒険者がそれぞれその紙を持って依頼を受注している。


 だが、今日に限っては登録されていた依頼が全て削除されており、ギルドカードを端末に通しても依頼が何も表示されなくなっていた。


 この状態に見覚えがあるA級冒険者“挟撃”のジャックは自慢の青髪を不安げに揺らしルーミエへと声をかけていた。


「そうね。緊急の強制依頼があるわ」

「またか。ちょっと前にあったばかりじゃないか。あの西の森がらみの話なのか? ……それとも、あの噂がマジもんだったってのか?」

「詳しい話は他の方々が集まってからね」

「ギルドマスターは?」

「もう動いてるわ」

「そりゃ、相当だな。わかった。俺の方でも、普段顔出さない奴にも声かけとくよ」

「ありがとう。助かるわ」

「何、ここは俺たちの街でもあるからな。当然だ」


 手を後ろ手にヒラヒラと振りながらギルドを後にするジャック。その姿と入れ違いに、2人の獣人族の少女がギルドを訪れた。


「あら、初めて見る顔ね。ごめんなさい、今は新しい依頼を受けることはできないの」


 見た感じから冒険者志望とも思えなかった為、依頼を持ってきたのだろうと見ない顔にそう告げるルーミエだったが、少女は戸惑いながらも否定の意味を込めて首を振った。


「あ、あの、違うんです。ここにルーミエという方はいらっしゃいますか? ギルドのサブマスターだと聞いています」

「ルーミエは私だけど……何か用? 今少し忙しいのよね」

「お忙しいところすみません。ご主人様からコレギアの設立について、説明を受けて欲しいと言われてきたのですが……」

「コレギアの設立……? それって……あなたと、あなたのご主人様の名前を教えてくれる?」

「あ、失礼しました。レクトル・ステラマーレ様に頼まれて参りました、レアと申します。この子は妹のリアです」


 レアは深々とお辞儀をすると、リアについても一緒に紹介する。リアは軽く会釈をするだけですぐに姉の後ろに控えた。


「レクトルさん……! それじゃあ、あなた達が彼の!?」

「すみません。本当は昨日お伺いしないといけなかったそうなのですが、都合がつかず……その」

「いえ、大丈夫よ。そうね。コレギアの事については今は時間が欲しいのだけど、少し話、聞かせてくれるかしら? というより、あなた達にお願いしたいことがあるのよ」


 ルーミエは奥の応接間へとレア達を案内する。これで抱えていた問題がいくつか解決するかもしれないと安堵の吐息を零した。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 亡国シルミアとは異なる南の地に隣接する領土を持つライアミッツ王国。規模はアルトフェリアには及ばずも、軍部に力を入れた強固な騎士団“曇烏(レイゼンブール)”は漆黒の鎧を以て国の守護の象徴として今も南の帝国からの脅威から国を守り続けていた。


 その辺境にある小都市カドラックへとやってきたアシュリアは従者リスティとともに現在、南との国境にある森を監視している責任者の元へと向かっていた。


「直接とべないのは不便ですね」

「仕方ありません。友好国とはいえ、他国なのですから。それに、危機的状態にある国に対して手を出す国がないとは言えませんから」

「……どうして、助け合うことができないのでしょうか」

「みなが姫様のように優しい方ばかりではありませんから」

「ですが……」


 アシュリアが言葉を発しようとしたところで馬車が停止した。それを受けてリスティが御者の元へ向かう。


「姫様。着いたようです」

「いよいよですね」


 自分に任せられた任務は国にとって重要なものだ。その重みは友の国の喪失という形で痛いほど思い知っているアシュリアはふざける事もなく、気を引き締めると馬車を降りてリスティに続いて屋敷の中へと身を進める。


 辺境の小都市の中でも立派なその建物はカドラックの領主が住まう屋敷だった。案内に従いやってきたのは応接室だった。机の上には近隣の地図が広げられており、いくつかの丸や数字が記載されていた。


 恐らく現状の森の状況を示すものなのだろうとアシュリアが状況を知る為に地図を眺めていると、そこに壮年の男性が訪れた。


「待たせてしまったかな? 遠路はるばるご苦労。私がこのカドラックの領主、ラウド・リル・ハルバーツだ」

「いえ。私はアルトフェリア王国第三王女、アシュリア・ルート・アルトフェリアです。この度は魔物の氾濫の兆候が見られたとの報告より馳せ参じました」

「あぁ。ご協力、感謝するよ、アシュリア王女。来ていただいたばかりで申し訳ないが、まず現状について報告させていただきたい」

「事態が急を要するのは承知しています。どうぞ、続けて下さい」

「うむ。ではまず――」


 そこで説明された現状は確かに危機感あふれるものだった。


 アルトフェリアの西で起きていた異変に近い規模の魔物の集団が、それよりも幅広い規模で集まりつつあった。


「確認されているだけでもA級の魔物が100をゆうに超えている。最底辺のものまで含めればその総数は10万に到達しかねない」

「そんな……!」

「これはあくまで推測に基づくものだ。だが、決してありえないとは言えない状況でね。流石に傍観を決め込むにも限度というものがある。これ以上増えた場合、我々には対処の手すら思い浮かばない」

「そう……ですね」


 想像していたよりもはるかに多い魔物の数に顔を歪めるアシュリア。仮にそれだけの魔物を相手にして、どれだけ【聖罰の瞳】が効果を発揮するかわからなかったからだ。


「故に、我々は撃って出ることとした。アシュリア王女、あなたの力があればそれが叶う」

「なっ! ちょっと待ってください! 私が相手をするのは森から自然にあふれた魔物だけのはずです! お父様……アルトフェリア国王からもそう返事が言ってるはずです!」

「だが、それでは今となんら変わらない。魔物は未だ森の中で増幅を続けるのみで一度も外へは出てきていないのだ! このままではシルミアの悲劇が繰り返されることとなる!」

「それは……!」


 シルミアの名を出され、言葉に詰まるアシュリア。相手の気持ちが理解できるが故に、その決断に納得ができなかった。下手をするとその行為自体が悲劇を招く引き金と成り兼ねないからだ。事は慎重を要するものだった。


「既に準備は整っている。後は姫の到着を待つのみだったのだ」

「何を……言っているのですか?」

「ご協力いただけないならば、後は私どもだけで行うのみです。ですが、勝てる見込みが下がる。下手をすれば住民にも被害が及びかねない」

「民を……人質にとるのですか? それが……領主のすることなのですか!?」

「なに、心配には及びません。奴らは必ず悪意を以てこちらに向かってきます。アシュリア王女の力の前には無力でしょう。それに、今回引き連れるのは一部の魔物だけです」

「貴様!」


 卑しい顔でそう述べるラウド辺境伯にナイフを突き付けるリスティ。王女に対する態度どころかその行為にもう我慢の限界だった。


 いきなりの所業に周囲にいた兵士が剣を抜くが、領主であるラウドが手で制止をするとそのまま引き下がる。


「私を殺すのですか? それで一体何が解決するのです? 余計な混乱を招くだけでしょう。国家間の亀裂にも発展しかねない」

「……っ!」

「リスティ、剣を下げて下さい」

「姫様!」

「リスティ……お願いします」

「……っ! わかり……ました」


 アシュリアにじっと懇願するように見つめられ、ゆっくりとナイフを下げるリスティ。そのまま優雅に跳躍すると、元いたアシュリアの後ろへと戻る。兵士もラウドの視線を受けて剣を鞘に戻した。


「ふぅ、わかっていただけたようで何よりだ」

「わかってなどいません。あなたの選択は誤ればより大きな悲劇を招くものです。どうしてそんな判断を下せるのか……知りたくもありません。あなたの言葉にはまるで思いが感じられない、薄っぺらいものです。私は私の判断で動きます。あなたの指示は受けません。このことはお父様にも報告させてもらいます。いきますよ、リスティ」

「は、はい。姫様」


 そう告げるとアシュリアは屋敷を後にした。


 残された部屋で席に着く間もなく来客に退散されたラウドは、アシュリア達が部屋を出て行くのを見送ってから自身のイスに身を下ろした。そして、頬杖を突き、悪態を吐く。


「【聖罰の瞳】か。やっかいな」


 悪意、善意を判断するその固有スキルはラウドが述べた嘘入り混じった言葉を綺麗に事実と嘘、真実と虚栄を切り分けたのだろう。ラウドが動くのは自身の為だった。民の事など考えてもいない。それ故に薄っぺらいと、アシュリアは感じたのだった。


「よろしいのですか?」

「かまわんよ。所詮小娘。民が危険と知れば動かずにはいられない。ああいう正義を振りかざす者は制御も容易いものだ。計画に変更はない。実行の連絡を彼らに」

「わかりました」

「ふん。精々働いてくれよ。こんなところで終わるわけにはいかないのだから」


 これからの事を思い、ラウドの口は酷く吊り上がっていた。


次回9/23更新予定です。

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