083 レアのお願い
「あの、ご主人様、少しお時間よろしいですか?」
「あ、あぁ。どうしたんだ?」
レクトルたちが休憩を終え、そろそろBBQの片付けをして屋敷に戻ろうかという頃、レアが意を決した様子でレクトルへと話しかけていた。
その隣にはリアも姉の様子を窺うように立っている。
「サクラ様やベル様たちに与えられたような服を私たちにもいただくことは可能でしょうか?」
「へ? 服を?」
「は、はい……」
レアのお願いはサクラやベル、セピア、それに先日ハクナにまで創作した服をレアとリアにも創って欲しいというものだった。
「まだ回数はちょうど2回残ってるし、この時間じゃあ必要になることはないだろうから問題ないが……でも、どうしてだ? サクラたちが羨ましくなったのか?」
「そ、それは……」
そこでレアは言い淀む。少し様子を見ていたレクトルだったが、言ってから、もしそうだったとしても答え辛い意地悪な質問だったことに気が付いた。
そのため、答えを待たずに話を進める。
「何か要望はあるのか?」
「よろしいのですか?」
「あぁ。レアたちには色々お世話になってるからな。これぐらいのお願いを聞くくらいなんてことないさ。まぁ、この力に関しては回数制限があるのでそう何度も要望に答えることは難しいかもしれないが……」
「そんな……! 今回だけで十分です! ありがとう……ございます!」
「ごしゅじんさま、ありがとう」
姉のレアと同じようにリアもぺこりとお辞儀をする。
レアはその理由を語りはしなかったが、レクトルもしつこく問い詰めることはしなかった。言わないなら何か理由があるのだろうと、必要になれば、もしくはレアの中で整理がつけばいつか話してくれるだろうとその思いを尊重することにしたのだ。
「その代わりといってはなんだが、レアに頼みたい事がある」
「頼み……ですか?」
ただ、レクトルもただで願いを聞くということはなかった。先の思いもレクトルにとっては本心だったが、今回はたまたまレアにお願いしたいことがあったのだ。
「あぁ、これなんだが……」
レクトルが【保管庫】から取り出したのは鑑定の宝玉だった。夜空を取り込んだかのような漆黒の宝玉はまるで創作世界の星空を写し取ったかの如く眩く煌めいていた。
「綺麗ですね。これは?」
「これは鑑定の宝玉だ。色々あってコレギアを立ち上げることになったんだが……」
「コレギアの立ち上げ……ですか? ご主人様が?」
「そうだ。一応俺が代表となるわけだが、レアには副代表の座に就いてもらいたいと思っている」
「そうなのですか。わかり……ほぁえ? 私がっ!? 副代表……!?!?!?」
言葉の意味を理解するや否や、レアは素っ頓狂な声をあげた。
「む、無理です……! ベ、ベル様の方が向いておられるのでは!?」
「いやよ。なんで私がそんな面倒なことしないといけないのよ」
「あ、あぅ……」
第一にベルの名前が挙がるあたり、レアの仲間の評価がうかがいしれた。即座に拒否の言葉を返され、レアは周囲の仲間を窺う。だが、ベル以上の人材はそこにはいないように見受けられた。
というより、今この場にいる中で一番の年上はレアだったのだ。実際にはレクトルは見た目以上に精神年齢が高く、ベルに至っては半世紀近い時間を生きていた。
だが、レクトルは既に代表の座が決定しており、ベルには断られている。レアに逃げ道はなかった。
半ば諦める形でレクトルに向き直る。先ほど主に対して我が儘を言ったばかりなのだ。お願いを聞いて貰うのに、自分は断るという選択肢はそもそもレアにはなかった。観念して問いかける。
「何をするコレギアなのですか?」
「特に決まっていない」
「え? それはどういう……」
「そうだな……」
コレギアを作るのに、することが決まっていない。だが、既に鑑定の宝玉があるということはギルドに認可されているということだ。そもそも何故コレギアを作るのか、その理由すら知らないため、レアは意味がわからず首を傾げていた。
それに気付いたレクトルはコレギアを作ることになった経緯を説明した。
「ベル様たちのギルドカードを発行するため……」
「そうだ。ベルは元魔王だし、セピアは天使だ。流石に一般の鑑定の宝玉で閲覧できる状態になるのは騒ぎになるのが目に見えている」
「……そうですね。ですが、鑑定の宝玉は確か種族は他からも閲覧可能な範囲だったと思うのですが……」
「あぁ、そうだな。一般的には最初の記入事項……名前や性別、種族、ランク、スタイル、所属コレギアなどは他の宝玉からも参照が可能らしい」
「それでしたら意味がないのではないですか?」
「ギルドマスターの話では登録された鑑定宝玉であれば、情報の秘匿が可能とのことだった。通常は王族貴族などに対して使用するそうだが、問題ないだろうとのことだった。実際、悪魔や魔物を使役しコレギアに登録している所もあるそうだ」
「そ、そうなのですか」
悪魔が人の世界に普通に関わっているという話に驚くレアだったが、ベルを見て確かに悪魔とはいっても一括りには判断できないと認識を改めていた。
「悪魔とわかれば警戒は怠ってはだめよ。間違っても信用しないで」
「べ、ベル様……」
だが、それに警告を発したのは悪魔であるベル本人だった。自分を卑下する言葉にリアが首を振る。
「ベルさまはこわくないよ?」
「そうね。私は固有スキルのせいもあってこんなだけど、悪魔と言えば裏で暗躍し悪逆非道の限りを尽くすという事実は変わらないのよ。私のせいであなたが傷ついたとなれば、あなたのご主人様はどう思うのかしらね」
「気、気を付けます」
「えぇ、ぜひそうしてちょうだい」
レアが悪魔に対して薄まっていた警戒心を再び再燃させると、確かめるようにレクトルへと向き直る。
「それでは、私の仕事は月に一度の成果報告とアルトフェリアのギルドマスターから依頼を受けとる事ですか?」
「そうだな。詳しいコレギアについての話は明日ギルドで聞いてくれ。本当は今日の昼という話だったんだが、色々あっていけなかったからな。ルーミエさんというサブマスターがいるから、その人に俺の代理ということの説明と、遅れた謝罪をしておいてくれ」
「わかりました。コレギアの名称は何というのですか?」
「あぁ、そういえば言ってなかったな。この創作世界の星空と俺の故郷での小さな願掛けにちなんで《煌きの流星》と名付けた」
「《煌きの流星》……」
「かっこいい!」
レクトルの言葉にギルドでは答えを濁されていたサクラは目を輝かせ、称賛した。
「悪くないですね」
「いいんじゃない。あなたに合ってると思うわよ」
「はいなの。素敵な名前なの」
いつの間にか集まっていた仲間たちに褒められ、レクトルは恥ずかしくなって顔を背ける。その先にベルが周り込み、レクトルへ問いかけた。
「ちなみに、その願掛けってなんなの?」
「ん? あぁ、流れ星が消える前に願い事を3回唱えるとその願いが叶うというちょっとしたおまじないみたいなものだ。効果はない」
「へぇ……そんなのがあるのね。でも難しそうね。いつ来るかわからず、一瞬で消えるもの。しかも効果がないなんて。何のためにするの?」
「人っていうのはそういうのに縋りたくなる時があるものなのさ」
「ふ~ん」
どこか遠い目をするレクトルに対し、ベルはそれ以上は興味がないのか素っ気無い返事をするだけだった。
その時、夜空に一筋の光が煌いた。ちょうど上を見ていたサクラはすぐさま行動に移した。
「あ! えと、師匠と一緒、師匠と一緒、ししょ――あぁ!」
必死に願い事を繰り返すサクラだったが、言い終わる前に光は一瞬で消えていた。実際には一つ目の言葉すら光っている瞬間に間に合ってはいなかった。
間に合わなかった事実にサクラは絶望に暮れる。言えたら叶う。では、言えなかったら? サクラの瞳に涙が浮かび始める。
「し、しじょ~!」
「おわっ、だ、大丈夫だ。ちゃんと一緒にいるから」
サクラの頭をポンポンと叩き慰めるレクトル。
「うう゛~」
「ひとことも言えなかったの……」
落ち着いてきたサクラに対し、セピアも流れ星自体は見れたらしく、逆に願い事を言うことさえできなかった事にショックを受けていた。
「いや、だからただの願掛けだから。流れ星に願い事ができなくてここまで悲しむ人もそうそういないな」
「誤解はちゃんと解いときなさいよ」
「あ、あぁ」
そういうベルの顔はどこか涼しげだった。
(ふふっ。元魔王の力にかかれば、こんなこと造作もないわね)
一人満足げなベルは横で「むむむ」と唸り声をあげているハクナを後目にパンパンと手を鳴らし、「さ、戻るわよ」とこの場の終わりを告げるのだった。
その後は後片付けをする仲間の横でレクトルはレアとリアに服を創作し、サクラやベルたちを宝玉にて登録していった。
代表がレクトル、副代表にレア、そしてコレギアの登録メンバーにはサクラ、ベル、ハクナ、セピア、リアの名が並んでいた。戦乙女は含まれていない。
ギルドカードを作成してからサクラに【情報版】がないことを思い出し、その方法も【知識書庫】で調べ実践していく。
セピアとハクナは神界のセカイの意思と契約を交わし既に【情報版】を保有していたが、セピアはこの世界のセカイの意思とも契約を交わしたいとレクトルに相談した。
特に断る理由もないため、セピアの意思を尊重しサクラとセピアの儀式を実行した。この時、サクラはCランク、セピアは既にSランクで評価されていた。
(まぁ、あのステータスじゃ当然だな。何気にサクラも結構高い。)
すぐさま名前以外を秘匿情報として登録すると、惜しむ仲間を引き連れてバーベキューを開いた広場を後にした。
◇◇◇◇◇◇
レクトル達がバーベキューで楽しんでいた頃、ギルドマスターはなおも忙しく動いていた。そこにルーミエが顔を出す。
「レクトルさん、結局来なかったわね」
「全くだね。こちとら騒ぎになっているというのに、いい身分じゃないかね」
「国王陛下からはアシュリア王女が無事帰ってきたとの報告があったわ」
「はぁ、それも早くに戻ってきていたらしいじゃないか。糾弾はすぐくるというのに、なんで解決した時の連絡がこんなに遅いのかね? 報告がなってないよ。散々文句を言ってきていたのに、酷いと思わないかね!?」
悪態をつきながらもその手は止まらない。ロイエンが目を通しているのは現状判明しているトリューセンの被害状況を記したものだった。
そこには魔王の動向も記載されていた。
「トリューセンの被害は酷いものだね。絶望的じゃないか」
「やっぱりこっちにやって来そうなの? にしては避難はほとんど進んでいないようだけど」
「当然だね。もはや時間の問題だ。それに、陛下はあの魔王というものをよく理解している」
「どういうこと?」
「過去の失敗をしっかりと活かしているということさ」
30年以上前に猛威を振るっていた東の魔王。理知的に物事を進めるこの魔王は自身が立てた計画が狂うことを大きく嫌う、プライドが高い悪魔だった。
過去、自身が支配していた都から人々が逃げ出した時、魔王は自身が舐められたと逃げ惑う人々を一人残らず虐殺したのだ。
現状は東の魔王に支配されているわけではない。長きに渡り封印され、今となってはその支配権すらも人族の元へと戻ってきたのだ。
(最重要秘匿通信で届けられたこの情報……あのお転婆姫が成したというのは信じられないが、彼の少年からなら確かに可能なのかもしれないね。だが、あの時の話したい事がまさか“東の地の支配者”の力だったとは。しかもそれをアシュリア王女が継承した……全く、やってくれるね。一体どれだけ事態をかき乱せば気が済むのかね、あの少年は)
まだルーミエにすら伝えていない機密情報を抱え、ロイエンはいまだ顔を出さないレクトルに悪態をつく。鑑定の宝玉も【保管庫】の中なのか、通信は繋がっていなかった。
「彼女達はどうかね?」
「2人は明日中にはなんとか間に合うわね。それに、明後日にはさらに2人くらいはいけそうね」
「そうかね。でも……」
「えぇ、渦中の彼女は未だ籠の中よ」
「まったく……いらぬことをしてくれたものだよ帝国は」
「言っても仕方ないでしょ。私たちは私たちにできる事をするだけね」
「わかっているとも」
再度別の書類に手を伸ばしたロイエンの元に新たな凶報が届く。手紙を届けに来た兵士を見送り、中身を確認する。その瞬間、ロイエンの顔が悲痛にゆがむ。
「今度は何があったの?」
「この忙しい時に何をやっているのか……いや、慌ただしいからこそ狙われたのかね」
ロイエンは手紙の中身がルーミエから見えるように机の上に投げ出した。ふわりと落下した手紙にはこう書かれていた。
“先日投獄された元A+級冒険者レイル・アーガイックの脱獄が確認された。注意されたし”
また彼の少年と無関係とはいえない話だと、もはや何度目かわからないため息を零すのだった。
次回9/9更新予定です。
デミラスやレア、リアに創作したものの性能は後日記載予定。
決してまだ決まり切っていないわけではない
……ないったらない。




