082 バーベキュー
レアとリアの名前がごっちゃになっていたので修正しました。
あしからず
「はー、やっと戻ってこれたか」
「うー、全然お城みれなかった……」
王城からやっとの思いで創作世界へと戻ってきたレクトルはまだ住み始めて間もない星屑の館を、いつの間にか我が家として普通に受け入れていることに感慨深さを感じていた。
その横でとぼとぼと歩くサクラは途中で割り込んできた冠位デミラスのせいでお城探索が中断され、しかも自分にとって宝同然の【星桜刀】を色々と調べられたこともあり口をとがらせていた。
その【星桜刀】の解析はあーでもない、こーでもないと唸るデミラスに、魔導路に興味を持ったレクトルも加わって数時間にも及んだのだ。
レクトルも加わってしまったことでサクラも文句が言えず、しぶしぶながら付き合っていた。
レクトルが興味を示したのは元々ものづくりが好きで、どういう原理で動いているのか気になったからだった。てっきり魔術という特殊な力があるものだから、魔術道具や魔装具といえど、不思議な力で片付けられるものだと思っていたのだ。
だが、蓋を開けてみれば中には電子回路のような仕組みが広がっていた。込められたスキルや魔術を構成する魔法陣も、それらを繋ぐ魔導路にもそれぞれ意味があり、その組み合わせ次第で様々な結果を引き起こす。
ただ願うだけで新たなものを生み出す【我が内眠る創造の拠点】とは異なり、そこには創作の楽しさが確かに存在していた。元々設計の仕事に就いていたのも、いちから物を考えて生み出すのが好きだったからだ。興味を持ったレクトルは止まらなかった。
サクラの「もう終わり!」の言葉で我に返ったレクトルはそこでようやく仲間を放置していることに気付いたのだった。申し訳なく思ったレクトルはなおしつこく諦めないデミラスに対し、ひとつだけ創作することを条件に作業を中断させた。
デミラスの要望に従い、【我が内眠る創造の拠点】にて創作を行ったレクトルたちは感謝のお礼を述べるリスティを連れてその場を後にした。デミラスの興味は既に新たに創作した魔装具へと移っており、別れる際も時間が惜しいと後ろ手に手を振るだけだった。
食事も用意できるということだったが、既に陽が暮れており、レアたちに何も言っていないこともあったのでそれは遠慮すると、そのまま創作世界へと帰って来たのだった。
「まぁ、また今度案内してくれるという話だったしいいじゃないか」
「師匠と綺麗なお庭見たかったのに……」
「だから悪かったって。その時はまた付き合うから。な? それに、創作世界の庭だって綺麗だぞ?」
不機嫌なサクラをなんとか宥めようとレクトルは幻想的な雰囲気を醸し出している森の方面を指さす。それを見たサクラも、何も王城の庭園に拘る必要はないことに気付いた。ただ、レクトルといろんなところを巡りたかっただけなのだ。
「わかった。じゃあ、いこっ!」
「お、おい!」
サクラはレクトルの手を引いて森の中を目指す。されるがままに走るレクトルは後ろを振り返るとベルたちに伝言を残す。
「悪い、少し寄り道をしていく。レアたちに伝えといてもらえるか?」
「わかったわ。それで……もちろん、後で私たちにもあるのよね?」
「……………………」
ベルが言いたいのは、待たされたのはサクラだけではないということだった。見返りを要求されたのだ。自身の失態である為、レクトルは強く言えなかった。少し考え、そして足を止めた。
「師匠?」
その抵抗を感じたサクラは不安げに振り返った。だが、レクトルはその不安を吹き飛ばすように笑みを伴ってある提案を口にした。
「どうせなら、みんなでいくか。外でバーベキューをするのもいいかもしれない」
「バーベキュー?」
「外で肉や野菜を焼いて食べるんだ。綺麗な景色を見ながら食べると、いつもよりもきっとおいしいぞ?」
「……! うん! 楽しそう!」
喜ぶサクラを見て安堵すると、レクトルはベルたちに向き直る。
「レアたちも呼んできてくれるか? その間にサクラといい場所を探しておくから」
「わかりました。戦乙女たちもですか?」
「いや、なんでだよ。あれを起こしたら俺たちの食べるものがなくなるだろ。レアリアとセピアだけでいい」
「ふふっ、神界の防衛機構をそんな扱いするのはあなたくらいのものね」
「後でばちが当たっても知りませんから」
ベルは楽しそうに笑いながら、ハクナはどこか不満げに呟くと星屑の館に向けて歩き出した。レクトルの中ではゴーレムのようなものと処理されており、活動に必要がないならそっとしておくと決めていた。
神界関係は関わるほどドツボに嵌る気がしてならなかったのだ。
「じゃあ行くか」
「うん!」
ベルたちを見送ったレクトルはサクラと共に星屑の館までの道筋な横にある森の中へと入っていく。きちんとした道は整備されていない。ただ、転移してきた場所にある噴水の泉から森へと流れる道筋に沿って歩いていた。泉の道の幅も川には程遠い、排水溝程度のものだった。
その周囲も整備された道ではないが、獣道よりマシな程度に通り道があったのだ。暗い森の中だが、流れる水から光の粒子が浮き上がり、消えていく為まるで祭りの中のイルミネーションのように幻想的な明るさが確保されていた。
「謎の泉の水のおかげで光には困らないな」
「うん。これも綺麗ー」
その光を眺めた後、サクラは手元へと視線を移す。さっきレクトルのことを引っ張った時からその手は繋がれたままだった。そこに、ギュッと力を籠める。
「どうしたんだ? もしかして怖いのか?」
「ううん」
サクラはレクトルの問いにフルフルと首を振る。手に力を感じたレクトルは綺麗とはいえ、暗い森の中。怖くなったのかと思って声をかけたのだがサクラはそれを否定した。
それでもサクラの手の力が弱まることはない。レクトルはそれ以上言葉を発することなく、口では否定しているがきっと不安なんだろうと深く考えずにサクラの手をギュッと握り返した。
それに気づいたサクラはチラッとレクトルの顔を窺うが、レクトルは前を向いたままだった。もう一度しっかりと繋がれた手を見てサクラは笑顔を浮かべ、ルンルンと元気よく手を振って森の中を歩いていった。
レクトルとサクラがたわいない会話をしながら歩いていると、その先に開けた場所が見えてくる。その場所で泉の道は広場の中央を避けるように円を描くように分かれ、さらにその先で5つに分岐していた。
「ここならちょうど良さそうだな」
「ここでバーベキューするの?」
「あぁ。真ん中の広場で肉や野菜を焼いて食べるんだ」
「うん!」
そこでサクラは一番のりと泉の道を飛び越え、広場の中央にかけていく。レクトルもゆっくりとその後を追う。その間に従者の契約を通してベルにおおよその場所を連絡するのも忘れない。
「師匠! 早く!」
「そんなに急がなくても何も逃げないぞ」
広場の中央に到着してから、レクトルはあることに気付いた。
「しまった。思いつきで来たから何も準備してないな」
「何がいるの?」
「そうだな……まず火を起こすのに炭、バーベキューコンロも欲しいところだ。外で食べるんだし、イスや机も……」
「できないの……?」
「だ、大丈夫だ。なければつくればいいんだからな」
サクラの悲しそうな顔を見てレクトルは慌てて否定する。【我が内眠る創造の拠点】でバーベキューセットでも作ろうかとまで考えて、ある程度は魔術で代替できそうなことに気付いた。
ものは試しとレクトルは【知識書庫】から適した魔術を探し、いくつか検討をつけると順に行使していく。
「びょんびょんする!」
するとその数分後には立派なバーベキューセットが出来上がっていた。地属性魔術によって作られたコンロに、緑属性魔術で作られた机にイスがいくつも並んでいた。
コンロはそれっぽい形に整えられただけだった。ただ、膨大な魔力がつぎ込まれ、どんな熱でも形が変化しない耐熱性を誇っていた。
だが、イスの方にはレクトルのこだわりが垣間見えた。木の枝を軸に蔓で各所を繋ぎ、座る場所や背もたれには格子状に編まれた蔓が張られていた。その蔓には弾力性があり、サクラがはねても壊れない強度を有していた。
「ふぅ、なんとかできたな」
横で椅子をトランプリンのようにして遊ぶサクラをよそにレクトルはあるものを作り出していた。それはバーベキューに欠かせないものだった。
「真っ黒!」
「これは炭って言うんだ」
「炭?」
「この炭を燃やして食材を焼くんだ。火力が高く風に強い。炎ではなく遠赤外線で焼くから中まで火が通って普通に焼くよりおいしいんだ」
「えんせきがいせん?」
「サクラにはまだ難しいかな」
レクトルは説明を諦めると発動していた時空魔術を解除し出来上がった炭を地属性魔術で作ったコンロへと入れ、魔術で火を入れる。
「あったかい」
「中は熱いから気をつけるんだぞ」
「うん」
ある程度準備が整った所で後ろの方から声が聞こえてきた。レクトルが振り返ると、ベルとハクナ、それにセピアがやってきたところだった。
「あら、もしかしてそれ魔術でつくったの?」
「よくわかったな」
「これ、すごい座り心地いいんだよ!」
「へぇー。もしかして、さっきのあれに触発されたのかしら?」
「うっ」
それはデミラスに対しての事だった。楽しそうに自身が生み出した魔装具について語るデミラスにレクトルがあれやこれやと質問していたのだ。その話を聞いて、レクトルも何かをつくりたいと思ったのは事実だった。
「でも、これは魔術道具でも魔装具でもない。ただの魔術の組み合わせだ」
「ただの魔術……ね」
ベルはその魔術で出来上がったコンロやイスを眺め、込められた魔力にため息をついた。
「あまり外で使うのはおススメしないわね。本当に静かに暮らしたいならなおさら……ね」
「あ、あぁ、もちろん」
ベルはそれだけ告げるとイスに座った。その後、セピアがレクトルの元へとかけよる。
「お兄ちゃん、お帰りなさいなの」
「あぁ、留守番させて悪いな。暇だっただろ?」
「ううん。途中お客さんもいたから大丈夫なの」
「客? そういえば、レアとリアはどうしたんだ?」
「レアお姉ちゃんはお買い物に出かけたの」
「買い物?」
そこでレクトルはこのバーベキューを思いつきで始めたことを思い出した。つまりはそれ用の食材を買いに行ったのだろうと推測した。
レアたちに迷惑がかからないように王城での食事を断ったのに、結局迷惑をかけてしまった事を少し後悔した。
「そうか。もしかして何か既に作ったりしていたのか?」
「ううん。色々あってこれからだったの。だからちょうどよかったって言ってたの」
「そうなのか? それならいいんだが……」
ひとまず料理が無駄にはなっていないようで安堵の吐息を零すレクトル。少し気になることはあるが、後で聞いたらいいとセピアを連れて机に向かう。
「あなたが焼いてくれるの?」
「主に焼かせるのか?」
「だって、これは私たちを待たせたお詫びなのでしょう?」
「ぐっ、そうだな。任せろ。完璧な形で提供してやる」
「期待してるわ」
イスに座ろうとするや否やベルに言われ、レクトルはそのままコンロの前に用意したイスに座る。前世の知識を活かして舌をうならせてやると意気込んでいた。
しばらくするとレアとリアがリアカーのようなものに食材を載せてやってきた。
「とーちゃーく」
「お、お待たせしました」
「レア、急に決めて悪いな。大丈夫だったか?」
「は、はい。ちょっと考え事をしていたので、いい気分転換にもなりました」
「考え事?」
「な、なんでもありません。大丈夫です」
「そうか? リアもありがとう」
「うん!」
レアたちは食材をすでに温まったバーベキューコンロの付近にまで運び、調理を始めた。
「あぁ、今日は主が焼くのよ」
「ご主人様がですか? ですが……」
「いいのよ。私たちを待たせた罰なんだから」
「え……と」
「いいんだ。焼くのは任せてくれ」
「わ、わかりました。なら、私たちは下準備をしますね」
「頼んだ」
事情を知らないレアは戸惑っていたが、レクトルがトングを持ってコンロの前に立ったのを見て了承した。
レアたちは野菜や肉を手ごろなサイズにカットしていくと大きめの皿に移し、レクトルへと渡していった。事前に【秘伝のレシピ集】にてバーベキューというのがどんな食材を扱うものか調べていたレアに隙はなかった。
レクトルは食材を受け取ると熱の加わり方などを調整し、順次焼き上げていく。サクラたちもその匂いにつられ、机から立ち上がりコンロの周りに集まっていた。
「いーにおい!」
「おいしそうなの」
「ご主人様まだですか?」
「これ、もういいんじゃないの?」
「お前らな……」
もう待ちきれないと急かす従者に呆れつつも肉を裏返し手は止めない。そしてそう時間がかかることもなく徐々に焼きあがってくる。
「ほら、もういいぞ。好きに食べていくといい」
「わーい」
「あ、これをかけて食べてください」
すると、レアがどこからか瓶に入ったソースを取り出しみんなの皿に注いでいく。それをレクトルは指ですくい、舐めとった。
「これ……もしかしてバーベキューソースか!? すごいな、よく再現できたな」
「【秘伝のレシピ集】に載っていたんです。お口に合いましたか?」
「あぁ、このキャベツみたいな……ミウロナ? だったか、にもあってうまいな。さて、肉も……何もねぇ」
レクトルが味わって一口食べている間に網の上は空になっていた。
「ほら、早く焼かないとみんな待ってるわよ」
「私次これ食べたい!」
「これもおいしそうですよ」
「いっぱいあって迷うの」
主そっちのけで楽しそうに騒ぐサクラたちを見て、レクトルは文句も言えず焼き担当に従事することを決めた。どうせすぐにお腹いっぱいになるさと先日レアが作りすぎた時のことを思い出し、網の上に食材を並べていく。
「ちゃんとレアやリアの分も残してあげるんだぞ」
「ちゃんととっていますよ?」
そう言われレアの方に視線を向けると、申し訳なさそうに皿を受け取るレアがいた。リアも既に皿を持って肉を幸せそうに食べていた。
「……俺のは?」
「あなたが持ってるじゃない」
そう言われ、レクトルは自身の皿を見る。もちろんソース以外何も入っていない。食べたのはキャベツもどきだけだ。
「そんな悲しそうな顔をしなくても……ほら、私の分けてあげるわよ?」
「…………」
そういってベルは自身の皿にあった肉を箸でつまみ、レクトルの口元へ運んだ。
その行為に戸惑うレクトルだが、漂う肉の香りに負けて口を開く。そこへベルが箸を差し入れた。
「おいしい?」
「あぁ、うまい」
「あー! ベルベルズルい!」
こっぱずかしくなっていたレクトルだが、サクラに見られていたらしく、「私もするー」とサクラも肉を箸で掴んでレクトルの口元へ入れようとした。
「口、あけないと食べられないよ?」
「そ、それ、食いさし……」
だが、サクラが掴んだ肉は既に一口噛まれた後だった。ただ、サクラの皿にはもうそれしか肉がなかったため、サクラは無理やりレクトルの口へと押し込んだ。
「ど、どう?」
「あ、あぁ、おいしい……ぞ」
「えへへ」
と自分が焼いたわけでもないのにそう言われ微笑むサクラ。
このままでは食べ差し合いに発展しかねないとレクトルは食材が焼けるや否や自分の分の食材を皿へと確保した。それから声を上げる。
「ほら、次の分、焼けたぞー」
「あら、先に取るなんて卑怯よ」
「主特権だ」
「横暴ね」
冗談を言い合いながらも肉を確保するベル。そこにレクトルが追加で供給する。
「あ、ちょっと! 何するのよ!」
「肉ばかりじゃなくて野菜も食べろ」
「好き嫌いはだめなんだよ?」
「あ、こら、サクラまで! あなたがやるから真似するじゃない!」
「なんで俺のせい……」
理不尽な怒りにさらされながらも、にぎやかに時は過ぎていく。
そしてみんなが満腹になり、広場に横になって星を眺めていた。
「こういうのもいいな」
「そうね」
「楽しかった!」
「またしたいの」
「きっとできますよ」
寝転ぶレクトル達を余所にレアとリアは片づけをしていた。その二人を眺め、何か手伝うかとレクトルは立ち上がろうとして、そういえばレアに何か頼み事があったんだと思い出す。
なんだったっけと頭をひねり、昨日の事を思い出した。コレギアのことで詳細説明を聞きにギルドに行ってもらうつもりだったのだ。そして今の時間を確かめる。既に夜だった。
アシュリアのどたばたで完全に頭の中から消えていたのだった。
「まぁ、いいか」
これが仕事なら大失態だが、ここは異世界だ。相手もあのギルドマスターなら大丈夫だろとレクトルは再び寝転がった。ルーミエさんにだけは明日謝ろうと決めて目を瞑り、感じる夜風に身体を委ねるのだった。
次回9/2更新予定です。
……月曜更新です。間に合えば日曜かも。




