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081 その裏側で

前話少し修正しました。

大筋は変わっていませんので特に読み返す必要まではないです。

更新日、開き直って月曜にしようかな……


 レクトルたちが冠位(クラウン)であるデミラスに捕まり【星桜刀】について色々調べていた頃、アシュリアは父親である国王に連れられ、ある部屋を訪れていた。


「ここは……」


 その場所は先ほどまでレクトル達を案内していた客向けの“鳳凰の間”とは異なり、国にとって需要な案件について議論が交わされる場所だった。取り扱われる案件が故に、厳重に管理されたその場所はネズミ1匹すら侵入を許さないほどに強固な術式が所せましと張り巡らされていた。


 国王が部屋の扉を閉めると、最後の術式が起動し部屋の内部が時空魔術によって完全に隔離される。部屋の中にいるのはアシュリアと国王、そしてルフェウスだけだった。術式が問題なく起動したことを確認すると、国王はイスに座りアシュリアへと問いかけた。


「さて、アシュリアよ。お前に大事な話がある」

「は、はい……!」


 国王の真剣な言葉に、アシュリアは姿勢を正し言葉を返す。その雰囲気から何かを汲み取ったのか、お転婆は身を潜め、アシュリアも真面目に対応していた。


「南の地との境界の森に魔物が集まりつつあることは知っているな?」

「……はい」

「その対応に、お前を寄越せという要請が来ている」

「え?」

「はぁ……陛下、言葉は正確に伝えるべきですよ」

「ふん、娘をただの道具としか考えとらん奴らの為に私が気を遣う必要を感じんな」


 国王の言葉に呆れと共にルフェウスが言葉を挟むと事情を説明する。


「姫様。誤解なきようにお願いします。森に集まる魔物は刻一刻と増え続け、溢れる魔物に対処する手も既に許容値を越えつつあるそうです。そこで、最悪の事態を防ぐために一度間引きの手を入れようということになったようです。要請があったのはその際に姫様の【聖罰の瞳】による広範囲攻撃を実施してほしいとのことでした」

「そ、それは……でも私の【聖罰の瞳】はあくまでも悪意や害意などに対して働きます。そこにただいる魔物相手では倒せないのでは……?」


 そんなことは周知の事実のはずだった。ただ森に住まう魔物に放っても倒せない可能性の方が高かった。存在するだけで周囲に毒などの悪影響を振り舞く魔物のようなものなら話は別だが、何も魔物自体が悪というわけではないからだ。


 魔物がいるからこそ成り立つ産業もあれば、生まれる希少な鉱物や植物なども存在する。必ずしも殲滅することが正義とは限らないのだ。父親である国王はもちろん、要請を出した国の重鎮もそんなことは承知していた。


「そうだ。だから、奴らは一度こちらに敵意を向けさせる為にとある仕掛けを施すつもりらしい。つまり、自ら魔物を呼び込むわけだ。そんな場所に娘を送り出せと……喧嘩を売っているとしか思えん」

「自ら魔物を……そんなことができるんですか?」

「知らん。その方法までは口をわらなんだからな」

「お父様はあまり乗り気ではないんですね」

「当然だ。そんな危険な場所に娘を送れるわけがない。だが……少々事情が変わった」

「え?」


 そこで国王は少し悩むような素振りを見せるが、首を振ってそれを払いアシュリアに向き直った。


「“東の地の支配者”の力を手に入れたということは、あの勢力に対抗できるのか?」

「それは……私もそう思っていました。元々、レクトル様の所にお邪魔したのはそれを当てにしての事でした。でも……」


 そこでアシュリアはレクトル……正確には元魔王で、本来の“東の地の支配者”の称号を保有していたベルに教えてもらったことを国王にも説明した。


「魔物を生み出すだけで、制御まではできないと……」

「はい。生み出された魔物は各々の特性と性格次第で勝手に行動し、力の制御からは外れるそうです」

「それでは確かに先代ベルフェゴールが言う様に被害がただ拡大する可能性の方が高そうですね」

「……………………」


 国王はその話を聞いて深く考え込んでいた。そして気づいたのは、とある可能性だった。


「それはつまり、向こうも同じということか」

「まさか、陛下……」

「どういうことですか?」

「今集まっている魔物を逆に南側に押し出そうと考えられているのでは?」

「そ、それは……!」


 ルフェウスの推測に悲痛の声を上げたのはアシュリアだった。それの意味するところはシルミアの悲劇を南側で起こさせるに等しい行為だったからだ。


 被害者から加害者に。いくら帝国の行いが原因としても、それと同じことをすれば批判は免れない。事は国が亡ぶかどうかという規模の話なのだ。どれだけの命が失われるのか、アシュリアは想像したくもなかった。


「わかっている。許されることではないだろう。だが、だからといって、こちらが蹂躙されるのを黙って受け入れることもできん。それを許していれば、幾度と繰り返されることだろう。こちらですら“東の地の支配者”の力があった場合について検討し、ある程度の使い道を立てているくらいなのだ。いくつか検討された良識ある使い道に、その力を長く持っている帝国が思いつかないわけがないのだ。端から私たちを敵に回しているということだ。あれだけの魔物が密集しつつあるというのに、未だに警告ひとつない。それが何よりの証拠ではないか」

「でも……!」

「いえ、やはりやめた方がよろしいかと」

「ルフェウス……」


 国王の危険な提案に否定の言葉をかけたルフェウスは静かに理由を説明した。


「5年前のシルミアの悲劇の時に起きた帝国への糾弾をお忘れですか? あの時は皇太子であった現シャルディア皇帝が当時のアルテンシア皇帝を討つことで終息へと向かいました。陛下……アシュリア様に殺されたいのですか?」

「ぬぐぅ!」

「そ、そんなことしません!」


 ルフェウスの思いがけない一言に腹を押さえ呻き声を上げる国王に、実の父親である国王を殺すとまで言われたアシュリアはルフェウスに対しなんてことを言うんだと抗議の声を上げた。


「冗談です。ですが、起きる悲劇に対する責任をとるのは難しいかと思います」

「なら、どうすればいい」

「こちらに溢れた魔物に対しての対処をつめるのが最善でしょう」

「それにも限度があるから言っている。もう手をこまねいている時間もないのだ。……そういえばアシュリア、あの少年は強いのか?」

「え?」


 森に集まりつつある魔物の氾濫に対して今集めている戦力を思い出していると、ふとあることが気にかかり国王はアシュリアへと問いかけた。魔王や天使すら従える少年。戦力に加わってくれればという欲が生まれていた。


「それはレクトル様の事ですか?」

「そうだ。少なくとも魔王に打ち勝ったのだろう? 勇者を超える……とまでは言わないが、相当な力を持っているのではないのか?」

「……確かに本気ではないロイエンおじ様に勝ってはいましたけど、伝承にある勇者のような凄まじい力があるのかと言われるとわかりません」

「何故そう思う?」


 アシュリアはレクトルとロイエンの戦いを思い出しながら、自分がそう思った理由を探した。そして、なんとなくのあたりをつける。


「レクトル様はどこか戦い方を探っているようでした。戦った場所がギルドの地下ということもありますけど、使っていた魔術も低級のものばかりです。戦闘に関する技術はロイエンおじ様にも遠く及ばないと思います」

「なるほど……」

「それに、レクトル様とベル様はほとんど戦ってはいないそうです」

「そうなのか?」

「はい。ベル様はレクトル様に口説かれたのって言っていましたけど……レクトル様からベル様へ向けられる感情は愛情というよりは信頼のような……」

「ふむ……」


 ベルがアシュリアへ密かに語っていた話には真実と嘘が入り混じっていた。それは元々ベルがレクトル達に手を出すのをやめた一番の理由がハクナにあったからだった。神子と共にある者。下手をすれば自身よりも上の存在を相手に戦う気はベルにはなかったのだ。


 元より平穏に暮らしたいだけ。魔王を恐れる人族や勇者に追われる毎日に辟易としていた。流石に神子の事については主が公にしていないこともあり口にすることもできず、誤魔化す形で口説かれたと言うことにした。実際にレクトルが提案した口説き文句に乗ったのも事実だったからだ。自身を維持する膨大な魔力に平穏な地。ベルにとってそれは口から手が出るほどに望んでいたものだった。それに加え、今は退屈を退けるにぎやかな仲間たちもいた。


 嘘とはいってもそれに悪意がないのであればアシュリアは感知することができない。故に実際のところどうなのか、はっきりとしたことはアシュリアにはわからなかったのだ。


 その話を聞いた国王は再び考え込んでいた。どの選択が一番いい未来に繋がるのか。


 しかし、実際のところ答えは決まっていたのだ。それはアシュリアが行方不明になったと知る前から、ある報告を受けた時に。


 そして、今回レクトルからアシュリアが譲り受けた力はそれを後押しする形となった。だが、それは“東の地の支配者”の力ではない。アシュリア自身を守る天使の遺産【星屑の涙】の方だった。


「わかった。では、アシュリア。お前には南と東の地の境界へと出向いてもらう」

「お父様……まさか」

「いや、さきほどの事は忘れてくれて構わない。それに、こちらから魔物に手を出させることも許可しないつもりだ。溢れて森から出てきた魔物のみの対処に限定することとする」

「いいんですか?」

「あぁ、むざむざ危険な橋を渡る必要もないからな。無論、リスティと第八騎士団も護衛につける。だが、危ないと思ったのならすぐに逃げなさい。死ぬことはこの私が許さない」

「は、はい、わかりました」


 国王のあまりにもな気迫に負け、アシュリアは承諾の言葉を返した。ルフェウスはその様子に呆れていたが、口を挟むことはなかった。その裏に潜む本当の理由を知っていたからだ。だが、国王の言葉はそれで終わらない。


「本当か? 本当にわかっているのか? お前は優しいからな。誰かが襲われていても、自分の身に危険が迫っていれば逃げれるか? 少しの迷いが死を招くかもしれないんだぞ?」

「わ、わかってます」

「判断は迅速に行うんだぞ? 劣勢だと思ったならすぐに――」

「もう、大丈夫だから! お父様心配しすぎです!」

「だがなぁ!」

「万が一間に合わなかったらレクトル様の家に駆けこみますから!」

「しかし――ん? いや、待て待て待て。聞き捨てならないな。何故、そこであの少年の家が出てくる? 拠点に戻ればいいはずだ」

「それは……」


 思わず口に出てしまった言葉に、アシュリアは明らかな狼狽を示した。その様子を訝しむように見つめる国王。


「アシュリア。私にまだ隠していることがあるのではないかな?」

「え~と」


 じっと見つめる国王に対し、アシュリアの目は泳いでいて焦点があっていない。強くなる圧にアシュリアがついに降参した。


「……レクトル様からレア姉さまにいつでも会えるようにと腕輪をもらいました」

「腕輪?」

「これです。これを使えば一瞬でレア姉さまのところまで移動できるんです」


 そして手に通した銀色の腕輪を見せるアシュリア。それを覗き込むようにルフェウスも固有スキルを発動させるが、結果は芳しくない様で表情はすぐれない。


「まさか、またランクEXとかいうんじゃないだろうな」

「いえ。今度は逆ですね」

「逆だと?」

「はい。この腕輪自体には特に力は感じられません」

「何?」

「え? そんなはずは!」


 その言葉に国王以上に驚いたアシュリアは自分の腕輪を持ち上げ、眺める。一度城の前にアシュリアの腕輪の力で移動してきたばかりなのだ。これが偽物だとは思えなかった。回数制限があったのかもしれないが、それでもルフェウスなら何かしらの力が見えるはずだった。壊してしまったのかと疑うが、特におかしなところは見当たらない。


「あぁ、いえ、勘違いさせてすみません。特に術式やスキルのようなものがないというだけです。どうやら触媒としての役割があるようですね」

「触媒……ですか?」

「ええ。大元としてある何かに派生して存在しているようです。力もそこから受け取っているだけのようでこの腕輪だけでは何の力もありません」

「それで? 使えるのか?」

「どうなんですか? 姫様?」


 詳しくわからなかったルフェウスはそのままアシュリアへと問いかける。


「え? 使えると……思いますけど……」


 そう答えつつもアシュリア自身まだ一度しか使った事がないので自信が持てずにいた。しかも創作世界(ラスティア)から出る時だけで、向かう時に使ったことはまだ一度もないのだ。


 レクトルの話ではイメージを思い浮かべれば行けるかもという話だった。だが、自身が住まう王城に関しては強くイメージすることができても、レクトルの家はただ一度訪れただけだ。転移にどれだけのイメージが必要なのかはわからないが、確信をもっていけると言い切ることができなかった。


「不安げだな。そんなことで危機回避に使えるのか? 試してみたらどうだ?」


 国王は興味本位で使用を促す。もちろん、娘が緊急時に使用しようとしていることもあり、動作確認も兼ねていた。


「今ですか?」

「できないのか?」

「……やってみます」


 アシュリアももしこれで行くことができなかったらと不安になってきていたこともあり、やってみることにした。国王の口車に乗って頭に創作世界(ラスティア)、そこにある星屑の館を思い浮かべる。


「導いて!」


 そして、意を決して腕輪の力を発動させた。


 腕輪は問題なく効果を発揮し、瞬時にアシュリア、そして国王とルフェウスを創作世界(ラスティア)へと誘った。


「できました!」

「ここは……!」

「ほう……」


 無事に転移できたことに喜ぶアシュリアを余所に、驚愕を露にするルフェウス。自身が持つ妨害や結界、ありとあらゆる対抗措置をまるで素通りして転移が実行されたからだ。


 最悪、自分だけが取り残されると思っていた。だが、蓋を開けてみれば何の違和感もなく、ただ扉を通り過ぎたかのごとく各種障壁がスルーされた。自身の力に自信のあったルフェウスはその力の異様さに警戒心を高めていた。


 使いようによっては国王を誘拐することも容易いと思ったからだ。


「心配しても仕方あるまい」

「陛下……」

「アシュリアの様子を見る限り、問題なかろう」

「それに頼りすぎるのもどうかと思いますが……そうですね、今は置いておきます」

「それで、ここがどこだかわかるか?」

「……いえ。気候や陽の位置からも推測は難しいですね。私が知るものと一致しません」

「そうか……」


 辺りを見回しながら場所を突き止めようとするが、それは叶わなかった。レクトル不在の為、陽が昇っており、今は星空を見ることはできない。アシュリアはほとんど夜の創作世界(ラスティア)しか見ていない為、そう長くいたわけではないのにずっと明るいのを新鮮に感じていた。


「こっちですよ!」

「姫様! 危ないですよ!」

「やれやれ。もう少し落ち着きを持ってほしいものだな」


 さっき別れたばかりだったが、レアにまたすぐ会えるとテンションが上がったアシュリアは星屑の館目指して駆けていく。時折後ろを振り返り、国王やルフェウスが自分を見失っていないかを確認するのを忘れない。


 そしてすぐに星屑の館の元に辿り着く。


「随分と立派な屋敷だな」

「そうですね。状態もいいです。貴族なのでしょうか?」

「わからん。恩寵は名乗っていなかったと思うが……」


 国王らが色々と憶測を立てているのを気にも留めず、アシュリアは昨日来た時と同じようにコンコンと戸を鳴らす。


 するとすぐに駆け足が聞こえ、扉がゆっくりと開けられた。


「は、はい、どちら様でしょうか? ってアシュリー!?」

「レア姉さま! また遊びに来ちゃいました!」

「遊びにって……さっき別れたばかり――え?」


 すぐさま目に入ったアシュリアに驚きレアが苦言を呈しようとして他の気配を感じ、ご主人様かと視線を上げたところでそこにいた人物を見て固まった。


「久しいな。レア姫よ。息災なようでなによりだ」

「アルト陛下……」


 レクトル不在の中、思わぬ来訪者に困惑を隠せないレアだった。


次回、8/25更新予定です。

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[気になる点] 地雷女確定じゃんw 今の所この国クズしか居ないですね。
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