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009 初戦闘


「でも、あのタイミングで出会えたのは奇跡だったんですね」

「何がだ?」

「だって、ご主人様(マスター)があの時、あの場に転生していなかったら、私はもしかしたらもうここにはいなかったかも知れないんですから」

「それは……そうなるのか」

「はい。だから、私にはご主人様(マスター)をこの世界に送ってくれたその人には感謝しかありません」

「人かどうかわからないけどな」


 確かに奇跡に近いかもしれない。存在が消えかけている神の前にそれを助けることができる無限に近い魔力の保持者が現れる。逆に都合が良すぎて何か作為的なものすら感じるくらいだ。


 俺自身との遭遇についてはハクナが使ったスキル【運命糸】に導かれたにしても、転移してからあの早さだ。転移した場所自体が彼女のいる位置に近かったのだろう。


 しかし、この世界にきたタイミングは俺があのタブレットを起動したからだ。もしあの時に道端に落ちていたタブレット……情報版(ノティーティア)を拾わなかったら? もしくは適正診断を実施しなかったら? ハクナは間に合わずに消えてしまっていたのだろうか。


 いや、俺が元いた世界とこの世界アーステリアが同じ時間軸とは限らない。時を越えた可能性だってあるんだ。まぁ、こればかりは情報が無さすぎて今考えても答えなんて出ないだろう。


「あの、ご主人様(マスター)

「んっ? なんだ?」

「ごはん……」

「……さっき言った通り一文無しだ。取り敢えず今日は元の世界で森にでもなってる木の実や草でも探すか? 川で魚とかいればいいんだが、そもそも魔物以外の生物がいるのかどうか……」


 一度立ち上がり、神のくせに食いしんぼうだなとハクナを見てふと思う。それに……


「なぁ、ハクナ。ここの住民はみんなそんな感じの格好なのか?」

「えっ?」

「できれば、ずっと目のやり場に困ってたんで羽織るのがあるなら着てほしいんだが…」

「……!」


 ハクナは顔を赤く染めると立ち上がり、左手で胸を隠して右手を天に掲げる。すると水が生まれ、それを回すように下ろすと途中でローブに変わりハクナを包んでいく。そして一言、


「……エッチ」

「なっ!」


 心外だ。俺が強要したわけではなく、その姿で俺の前に現れたのはハクナだろうに。何故それを指摘した俺が責められなければならない。理不尽にも程があるだろう。


「別にそんな目で見てたわけじゃない。天使みたいで可愛いなと思ってただけだ!」

「か、かわっ!?」


 真っ赤に顔を染める彼女を放って、スキル【我が内眠る創造の拠点(ラスティア・ラヘル)】を解除する。来たときとは逆で、自分を包み込むものに穴を開けて抜け出すようなイメージだ。


 するとちょっとした立ち眩みの後、辺りの景色が元いた草原のものになる。少し慣れたからか、行ったときほどの強い眩暈は感じなかった。


 やはり、外はまだ明るかった。この立ち眩みのような感覚にもなれないとな。考え過ぎかもしれないが、元の世界に戻った瞬間に襲われでもしたら目も当てられない。


「ちょうど昼くらいだな。近くの川に魚がいればいいんだが」


 そう思ってさっき顔を確認した川を探していると、遠くから音が聞こえてきたのでそちらに視線を向ける。すると、かなりの速度で走ってくる馬車が見えてきた。


 そこに落ち着きを取り戻したハクナが何事もなかったかのように横に並び当たりをつける。


「行商の馬車ですね。魔物に追われているみたいです」

「魔物!? あれが……」

「犬型の魔物が3匹。護衛がいないなら行商の馬車には厳しいかもしれません」

「……助けられそうか? 上手くいけば食料を分けてもらえるかもしれない」


 まだ俺は戦いについては“ド”のつく素人だ。魔術の使い方もわからないのでハクナに対応可否について確認する。


 流石にハクナ頼りにだけはなりたくないので、魔術に関してはおいおいハクナに習おうと思っている。戦う力を教えてほしいなんて言ったら闇の神討伐を目論むハクナなら喜んで教えてくれそうだ。


 ……ほどほどでいいということを伝えないと神滅レベルまで際限なく鍛えられてしまいそうで怖いな。


「わかりました」


 ハクナはそう答え、馬車の方へ駆け出しながら詠唱を開始する。俺は慌てて後を追いかけながらその戦闘を観察する。


 馬車は3匹の犬型の魔物に追いかけられているようだ。犬型魔物からは少し黒い煙が漏れ出ている。なんだかやけに嫌悪感を感じる煙だ。


「我欲するは凍てつく氷槍、貫け【氷旋槍(アイニス)】!」


 詠唱とともに魔法陣が浮きあがり、紡がれる言葉に従ってハクナの周りに3つの水塊が生まれ、それが氷の槍となり敵に向かって一直線に射出される。


 槍は吸いこまれるように各魔物に見事に突き刺さり、犬型魔物を貫いた。


「これが魔術か。すごいな」


 初めて魔術をみた。漫画やゲームではよくあるが、リアルで見るとこれまたすさまじい。詠唱に従い魔法陣が浮き上がったと思うと、空気中に水が生まれ、それが渦巻き凍り付いて槍となり翔んでいった。


 ただ氷の槍を作っているわけではなく、きちんと工程を踏んでいるようだ。凍り付く際には周囲の温度も下がったように感じた。様々な力が働いているのだろう。


 記憶では魔術適正には水属性はあったが、氷属性はなかった。だとすれば氷の魔術は水の魔術より工程を多く踏む分、上位に位置するのかもしれない。


 一番驚いたのは詠唱の言葉がよくアニメであるように若干反響していたことだ。後で聞いた話では、発する魔力の影響でそうなるらしい。その為魔術の詠唱は隠すのが難しいとのこと。


 すると馬車が止まり、中に乗っていた行商人のおじさんが出てきて魔物の方を確認した後、動かないのをみて安全と判断したのかこちらに駆け寄ってきた。かなりふくよかな感じで走るたびに腹がはねている。


「すみません、危ないところを助けていただきありがとうございます!」

「いえ、無事で何よりです。この辺りでは先のような魔物がよく出るのですか?」


 まずは情報収集だ。適度に織り交ぜていこう。


「そうですね。普段は一匹遭遇するかどうかといったところなのですが、今日は運が悪く3匹に追いかけられ困っておりました」

「そうですか。それは災難でしたね。間に合ってよかったです」

「それにしても、3匹の魔物を同時に一撃でとは素晴らしい魔術ですな」


 そう言ってハクナの方を見る行商人。


「えぇ、頼りになるパートナーです」


 一瞬なんて言ったものかと考えたが、これが1番しっくりきたのでそう答えた。ハクナは顔を赤くして俯いている。


 ……そんな変な回答だっただろうか?


「是非、お礼をさせてくださいませんか?」

「それでしたら、食料を少し分けていただくことはできませんか?」

「食料をですか?」

「えぇ、手持ちを切らしてしまいどうしようかと困っていた所でして」

「それでしたら、是非一緒に食事と致しましょう。レヌアの村までまだ少し距離がありますし、ちょうどいいでしょう」

「それは助かります。是非ご一緒させてください」


 なんとか飯にありつけそうだ。今後のことも考えないとな。レヌアの村っていうのは、あの遠くに見える村のことだろう。そこまで一緒に連れていってもらうのも悪くないかもしれない。


 この異世界での初めての食事だ。ゲテモノでないことを祈るがもしそうだった場合断りづらいな。失敗した、せめて何か確認してからの方がよかったかもしれない。


 もう遅いが、いざ前にした時に対応できる自信がないので、行商人が準備をしている間にハクナに確認してみる。


「ここでは移動中の商人とかはどんな飯を食べてるんだ?」

「人族のご飯ですか? そういえば、転生者だって言ってましたね。普通ですよ? まぁ、日持ちしないものは旅の馬車ではありませんが、パンとか干し物とか缶詰とかそんな感じです」

「缶詰があるのか。結構技術は進んでいるんだな。なら安心できるか?」

「はい。仮にも助けてもらった相手に変なものは出さないと思いますけど」

「まぁ、こっちとあっちで常識が違うかも知れないからな」

「……?」


 ハクナは首をひねっていたが、缶詰があるならそれなりに技術は発展してそうだ。もしかしたらそれも魔術で作っているのかもしれないが、わざわざ缶詰にするくらいだ。ゲテモノではないだろう。


「それにしても神様も腹減るんだな」

ご主人様(マスター)は神のことをなんだと思ってるんですか?」

「いや、だって神様だし。全知全能じゃないのか?」

「神といっても神族というだけで、確かに【神術】に関連する強大な力や性質を保有していますけど人間と身体の構造が大きく変わるわけじゃないですよ?」

「でも不老不死なんだろ?」

「……それをいったらエルフだって何千年と生きますし、吸血鬼も不老不死です。獣人族の中にも種類によっては数百年生きる者もいますよ」


 ……流石異世界。種族が豊富だし、いろいろとぶっ飛んでる。


 俺たちは行商人のおじさんが料理の支度をしている間、先ほど倒した魔物を見ていた。


「さっき見えた黒い煙が消えているな」

「あぁ、瘴煙ですね。さっき獣核を打ち抜いたのでもう大丈夫ですよ?」

「瘴煙? 獣核?」


 また出てきた知らない言葉に思わず聞き返す。


「魔物には基本的に力の源となる(コア)が存在するんです。魔物の種類に応じて獣核や龍核、魔核など様々なものがあります。瘴煙はその(コア)から発せられるもので、その量や濃度で魔物の強さを測ることも可能です。魔物にとっては力の源ですが、人にとっては有毒となりますので注意が必要です」

「へぇ、確かになんか見た時は嫌悪感みたいなのを感じたな」

「瘴煙が黒い程悪性が強いですが、中には白い白煙を纏う善性のものもたまにいますよ」

「なるほど。ということは売ったら高かったりするのか?」


 その言葉を聞き、ハクナがしまったという顔をし気分を落とす。


「……ごめんなさい」

「……? 安いのか?」

「いえ、確かに魔物の部位としては高く取引されてるんですけど。ただ、お金がないと言っている中、見事に全部打ち砕いてしまったので……」

「あぁ……いや、いいよ。知らなかったし。今度余裕ある時は注意することにしよう」

「はい」


 それにしても、龍核に魔核か……。これってやっぱこの世界には龍の魔物もいるってことじゃないか。勘弁してくれ……


 そうこうしているうちに食事の準備が整ったようだ。


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