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079 国王より上の立場にある者

すみません。またまた遅れました。


 目の前であっさりと国王からの許可が降りた事にレクトルが驚いていると、国王はゆっくりとレクトルへと向き直った。


「レクトルといったな。娘の事……よろしく頼む」

「え? あ、はい……え?」

「お父様……?」


 嫁に行くわけでもないのに、その言葉にはどこか託すような、切実な思いが感じられ不思議に思ったアシュリアは父親の顔を窺った。それは王女が自由に創作世界(ラスティア)へと出入りすることになるのを何とか避けようと言い訳を考えていたレクトルが思わず了承の返事をしてしまうほどに真に迫ったものだった。


「うむ。では、私はここで失礼する。アシュリア、お前には大事な話がある。ついてきなさい」

「え? でも、お父様、私にはレクトル様たちにお城の中を案内するというお役目が……」

「あ、いえ、ここまでで十分に見学させてもらったので大丈夫です。元々我儘みたいなものだったのもありますし」

「でも……」

「ふむ……、そういうことなら代理の者を用意しよう。居館は無理だが、ある程度は大目に見よう。行きたいところがあるなら彼女に頼むといい」


 そう言って国王が示す先にいたのは“鳳凰の間”を訪れてからレクトルたちをもてなしていた侍女、リスティだった。


「リスティと申します。なんなりとお申し付けください」


 リスティがペコリとお辞儀をすると、国王は頷き「ではな。何分急なうえ、もてなせるわけではないがゆっくりしていくといい」と一言残し、そのまま“鳳凰の間”を後にした。


「お、お父様! 待ってください! あ、あの、レクトル様、この度は本当にありがとうございました。レア姉さまのことも、“東の地の支配者”の権利のことも、感謝してもしきれません! このお礼はまた、必ず!」

「いや、もう十分――」


 レクトルの制止の言葉も空しく、アシュリアは深々とお辞儀をするとすぐさま国王の後を追って部屋を出て行った。


「嵐のような子だったわね」

「全くだ。さっさと家に帰ってゆっくりしたいところだな」

「えー、お城見ていかないの? 王様にもいいよって言ってもらえたのに……」

「うっ、そ、そうだな。こんな機会滅多にないだろうからな。せっかくだし、お城の探検といこうか!」

「……! うん! 探検する!」


 サクラのしょんぼりとした表情を見てレクトルは慌てて言い換えた。この短い期間でも既に見慣れつつあるその光景にベルは呆れの籠ったため息を零した。


「はぁ、相変わらずサクラには甘々ね」

「仕方ないだろ? なら、ベルはあんな表情をされて断れるのか?」


 そう問われ、ベルはサクラへと視線を向ける。そこにはこれからのお城探検を楽しそうに待つサクラの姿があった。浮かれ、「お城っ、お城っ」と身体を左右に揺らしながらお菓子を食べている。


 断ると言うことは、そこへやっぱり探検は無しと残酷無比な言葉をサクラに告げられるかと言うことだった。


「無理ね」


 きっぱりとベルはそう断言した。ベルも長年サクラを自身の生贄として育ったことに罪悪感を感じているのか、レクトルに次いでサクラには甘かった。


「ほら、人の事言えないじゃないか」

「五月蠅いわね」

「なら、私が言ってきますよ? 主の意向を汲むのも、従者の務めですからね!」

「え?」


 そう胸を張ってサクラの元へ向かったのはハクナだった。最初は言われたことをぱっとすぐに理解できなかったレクトルだが、その意味を理解するや否や即座に行動に移した。


「サクラ~!」

「待て待て待て待て」

「きゃっ」


 サクラを呼ぶハクナを慌ててレクトルが止める。腕を思いっきり引っ張ったため、バランスを崩したハクナが悲鳴を上げていたが、レクトルにはそれを気にする余裕もない。名前を呼ばれたサクラが振り向き、ハクナやレクトルの様子を見て首を傾げ、尋ねた。


「どうしたの?」

「何でもないぞ。お菓子、おいしいか?」

「うん! おいしいよ!」

「そうか、なら、よかった。零さないように食べるんだぞ」

「わかった!」


 そう言ってサクラはまた次のお菓子へと手を伸ばす。その様子にレクトルはほっと一息つくと、ハクナを責め立てた。


「お前マジか、なんてことをしようとしてるんだ!?」

「え? だから従者の務めを教えようと……」

「あんたホント信じられないわね。慈愛の心ってものがないの!? 鬼なの!? 悪魔なの!?」

「あなたには言われたくないです!」


 悪魔、しかも元魔王に悪魔呼ばわりされる神の子。普通なら神子であるハクナを擁護しようものだが、ここでは違っていた。やり取りを見ていた者がいたら、誰でも止めていただろうことは明白だった。


「サクラはひどい目に遭っていたんだ。せっかく楽しい思いをしているのに、それを奪うことはないだろう?」

「でも、従者は主の意向に従うものです!」

「だから、俺も探検しようって言ったじゃないか」

「それはサクラが要望したからじゃないですか! それに私だってひどい目に遭いました! でも、ご主人様(マスター)は手を差し伸べてくれないじゃないですか!」

「そ、それはそれ、これはこれだ」

「そんなのズルいです!」


 まるで子供のような我儘を言い出したハクナにレクトルは内心戸惑っていた。ここまでハクナが食い下がってきたことがなかったからだ。


 それに、ハクナが言っているひどい目というのは神界での出来事である可能性が高かった。サクラたちにはハクナの力にもいずれなると言ったものの、今そう簡単に返事ができるものでもなかった。


「ハクナが言っているのは神界の事だろう? 規模が違う。あんなのはな、今の俺たちにどうこうできるものじゃない。俺は命を無駄にしたくない。それは俺だけの話ではなく、ハクナやサクラ、ベルたちみんなを含めてだ」

「それは……待ってください。あんなのって……ご主人様(マスター)は闇のか――」

「その話はまた今度だ」


 レクトルはハクナが何を言おうとしたのかを察し、そっとその口に指を這わせた。国王は立ち去った後とは言え、この場にはまだ侍女であるリスティがいたからだ。


 まだ誓約はこの場での会話になるので生きているかもしれないが、それでも神関連の話についてまでは他人に話す気にはなれないでいた。闇の神に関してはセピアの心の中で一度邂逅を果たしていたが、遠く離れた所で、しかも記憶の外、確定した過去から干渉したレクトルたちに攻撃をしかけてきた超常の存在に勝てる気がまるでしなかったのだ。


 レクトルの雰囲気からあるものを察し、ハクナは口をつぐんだ。それを確かめるとレクトルもハクナの口から指を離す。


「また今度、教えてくれるんですよね?」

「そうだな。いつかは話さないといけないと思っていたところだ」


 ハクナは目を瞑り、レクトルの言葉を心の中で反芻するとゆっくりと目を開いた。


「……わかりました。約束ですからね?」

「あ、あぁ」


 ハクナのどこか儚い印象を与える表情に戸惑いを覚えつつもレクトルは了承の答えを返した。


「よかったの?」

「まぁ、な。いつか話さないといけないと思っていたのは本当だ。まだ覚悟はできていないが、逃げてばかりもいられないからな」

「妬けるわね。私には何かないのかしら?」

「いや、これ以上重荷を増やさないでくれよ……」


 そんなやり取りを交わしていると、ハクナはサクラの元へと歩みよっていた。一瞬反応するレクトルだったが、今度は止めることはなかった。


「サクラ、探検をするならさっさといかないと時間がなくなっちゃいますよ」

「わわっ。わかった!」


 サクラはハクナに言われるや否や、残っていたお菓子を口に入れるとレクトルの元へとやってくる。


「お、お待たせ」

「口の中に物がある状態で喋らない。行儀が悪いぞ」

「う、うん。ゴクン。これでいい?」

「口元、汚れてるぞ」

「むー」


 次々とくる指摘にサクラは不貞腐れ、頬を膨らませつつも、スキル【清浄】を発動させ火の粉と共に汚れを飛ばす。


「よし。じゃあいくか」

「よろしいのですか?」

「え? あ、はい。お待たせしてすみません」

「ふふっ。可愛らしいと思いますよ? 見ていて和みました」

「そ、そうですか?」

「はい。それで、行きたい場所のご要望などはありますか?」


 レクトルの出発の合図に声をかけたのは今までずっと入口でそのやり取りを見ていた侍女リスティだった。王城での厳格な雰囲気がまるでない子供がはしゃぐ姿にどこか安らぎすら覚えていた。


「行きたい場所か……サクラはどうだ?」

「んー、何があるのかわかんない」

「だよな。何かおススメの場所はありますか?」

「そうですね……庭園なんかは綺麗でおススメですよ? アシュリア姫お気に入りの場所でもあります」

「庭園か……悪くないな」

「うん、行ってみたい!」

「では、ご案内します。どうぞ、こちらへ」


 リスティは扉を開けて、レクトル達を部屋の外へと促す。それに従い部屋を出たレクトル達はリスティの案内に従って庭園を目指した。


 その道中も外に見える景色や道中の調度品や鎧などに目移りするサクラに適宜対応しつつ、城の中を歩いていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。


「少し、失礼します」

「はい」

「どうしたの?」

「何かあったみたいだな。あんまり関わりたくないから少し離れていよう」


 騒ぎの原因へと向かったリスティに対し、面倒事はごめんだとレクトルはサクラを引き寄せ通路の端に身を寄せながら様子を窺った。


 メイドへ事情を窺うリスティ。レクトルが遠目で見ている限りではどうやら一人の男が騒いでいるように感じられた。


「離さんか! お前らに指図される筋合いはないわい。わしはなぁ、忙しいんじゃ! 下らん事で呼びつけおってからに、いい加減にせぇよ!」

「お、落ち着いてくださいデミラス様。事は一大事だと陛下は……!」

「ふん! 一大事ぃ言うなら本人がこんかい! 王命などに従う筋合いもわしにはないんじゃ! どうせ、いつものごとく武器をつくれぇ言うだけじゃろがい!」

「で、ですからすぐに陛下も参られますのでどうか……!」


 暴れていたのはえらく恰幅のいい焼けた筋肉質の肌の男性だった。どこか王国の武器屋にいたガルニスを彷彿とさせた。止めに入っているメイドの女性なんか突っ張り一つで吹き飛ばされそうなほどに体格差が激しい。


 それでも止めに入らないといけないなんて大変だなとレクトルが他人事の様に思っていると、そこへリスティが割り込んだ。


「デミラス様。お久しぶりです」

「なんじゃい、お主か。なら、アルトハイデンの奴もやっときたのかぁ?」

「いえ、私は今別のお客様をご案内中ですので。国王陛下もじきに参られるかと」

「はぁ、話にならん。そんなら、奴に伝えとけ。俺に頼み事があるなら、お前さんがこちらに出向けとなぁ」


 そのまま後ろ手に手をヒラヒラと振ると歩き出すデミラス。それを見てまた慌てて止めに入るメイドたち。リスティもすぐさまデミラスの正面へと回る。


「デミラス様、お待ちを」

「ふん! じゃかぁましい! わしの道を塞ぐでないわ! それになぁ、だいたいお主直々に案内するなんて一体どんな大物が……」


 そこでレクトルとデミラスの目が合った。レクトルは「ヤバッ」と慌てて視線を逸らすが、デミラスはじっと見つめたままその視線を外さない。


「……なんでぃ、ガキじゃねぇか……」


 リスティは国王直属の侍女の中でも優秀でリーダー的立場にある者だった。故に相手をするのも、国王以外ではそれ相応に身分のある者になる。だが、目の前にいるのはどう見ても子供にしか見えなかった。それも4人だ。


 デミラスは呼びつけられ、待たされた鬱憤もあり普通とは異なるレクトルたちに興味を示した。


 関わりたくないと思うレクトルの想いは届くことなく、デミラスはレクトル達の元へと歩み寄っていく。歩く度にわずかに振動を感じるほどに重量感のある肉体はまだ十代半ばのレクトルには恐怖すら覚えるほどだった。


 レクトルの前で立ち止まったデミラスはくいっと顎で促すように問いかけた。


「おい、小僧。名は?」

「レ、レクトルと申します……」

「知らねぇ名だなぁ。何者でぇ?」


 レクトルはその答えに返すことはできない。言えないことを除いたら、納得してもらえるとはとても思えなかったからだ。


(くそ、やっぱり早く帰っておけばよかった! でも、デミラス……どこかで聞いたような……)


 レクトルが後悔していると、再びリスティがデミラスの前に立ちふさがった。


「彼らはアシュリア様のお客様です。どうか失礼の無きよう」

「お転婆姫の? あぁ、そういやぁいなくなったってぇ騒いでたな。ってこたぁ見つかったのか。ん? なら、奴が遅れているのはもしかしなくてもそのせいかぁ?」

「それは……」


 リスティは鋭い指摘に押し黙ってしまう。だが、それは相手の予想が正しいと認めたに他ならなかった。


「相変わらずの親バカかい。娘の方を優先するってぇなら、どうせ大した用事じゃなかったってことだよなぁ?」

「どうしてもお待ちいただけませんか?」

「くどい。わしの時間は貴重なんじゃ。これ以上は待てんわい」

「……わかりました。後日、こちらから伺いますよう陛下に申し伝えます」

「フン、全く。その時は土産もちゃんと持ってくるんじゃぞ」


 頭を下げるリスティを見てレクトルは上司が客先の平社員に頭を下げるような、見てはいけないものを見てしまったような気分になり、居心地が悪くなった。


「……なんか偉そう」


 だが、それはサクラも同じだったようで、ふと言葉が口から零れていた。それはレクトルが防ぐことが出来ないほどに自然に、だが、確実に発せられていた。


「何か言ったかぁ?」

「偉そうだって言った!」

「ちょ!? サクラ!?」


 レクトルは慌ててサクラの口を塞ぐが時既に遅い。


「何も知らねぇガキが。痛い目にあいたいらしいなぁ?」

「悪い奴には屈しないもん!」


 そう言ってサクラは手元に【星桜刀】を出現させる。それにレクトルはさっきの言葉以上に慌て出す。王城内での武器の抜刀……罪に問われてもおかしくないと思ったからだ。


 だが、事態は思わぬ方向へと転がっていく。サクラが掲げる【星桜刀】を見た瞬間、デミラスが目の色を変えたのだ。声色に真剣みが増す。


「……おい、その武器……どこで手に入れた? ちょいと見せてみぃ」

「え? あっ!」


 ひょいっとサクラの手から【星桜刀】を摘み上げるデミラス。一瞬の出来事にサクラは盗られたと認識するのが遅れるが、わかるや否やすぐさま【転移回帰】を発動させ自身の手元へと引き戻す。


「こいつぁ……」

「盗っちゃダメ! これは私の!」


 手元から消え、サクラの元へ抱きかかえるように戻った【星桜刀】をジロジロと様々な角度から見つめるデミラス。そこには先ほどまでの怒りは消え失せ、ただただ好奇心のみが支配していた。


「デ、デミラス様?」

「静かに。黙ってな」


 あまりにもの豹変ぶりにリスティが問いかけるが、デミラスは手のひらを向けて黙らせるだけだった。サクラがまた盗られるのかとデミラスから守るように後ろに【星桜刀】を隠すが、デミラスが観察を止めることはない。


 サクラが思い出したように【星桜刀】を【魔力浸透】の効果を以て自身の魔力に溶け込ませることで仕舞うとデミラスはようやく顔を上げた。


「すげぇな。ここまで精密なもんは見たことがないわい。嬢ちゃん、一体それをどこで手に入れたんでぇ?」

「あ、あげないよ! これは私が師匠に創ってもらったんだから!」

「ほう……見つけたのではなく、創った……とな?。して、その師匠ってのは?」


 そこでサクラはレクトルの方を見た。レクトルは内心、バカっ、こっちみるんじゃない! と思っていたが、今の状況、サクラに乗り切れるものでない事も確かだったので、黙ってその視線を受け止める。


「小僧が……?」

「まぁ、……一応」

「面白ぇ。確か、お転婆姫の客って話だったな。わしの名はデミラス・スミス・オルフェゴール。《無限の大地》所属の国宝級鍛冶師にして、冠位(クラウン)の第八位だ。話……聞かせてくれるよなぁ?」


 ニヤリと笑いを浮かべるデミラスの瞳は絶対に逃がすまいと爛々と輝いていた。


次回8/12更新予定です。

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