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078 王との会談


「レア姉さまとはもしやシルミアの第一王女の事ですか?」

「そうですよ。無事だったんです!」


 レアやリアとこの一日でどんなことをしたのかをまるで修学旅行から帰ってきた子供のように親である国王に語るアシュリアに問いかけたのは王の後ろに控えていたルフェウスだった。


 ルフェウスが今の立場についたのは4年前の為、レアやリアと直接の面識はなかった。ただ情報としては知っていたのでその確認をしたのだった。


 話が途切れた事をいいことに、王はレクトルへと問いかけた。


「お主が匿っていたのか?」

「いえ、私がレアたち姉妹と出会ったのはほんの数日前のことです」

「何?」


 そこでレクトルはレアたちとの出会いについて国王に語った。リアに助けを求められて崩落した洞窟の中でレアを助けたこと。瀕死の状態だったために、治癒魔術にて治療を行ったこと。彼女たちを身の回りの世話を任せる為に奴隷の主の座を亡くなった元の主から引き継いだこと。元王族であることを知ったのはその後だったこと。


 王は静かに話を聞いていた。そして口を開く。


「お主たちとの事情はわかった。では、当時の事については何か聞いておるか?」

「当時というのは?」

「もう5年前になるのか……シルミアの悲劇が起きた時の事だ。特にシュナッツ……国王や王妃については何か聞いておるか?」


 国王にはレア姫やリア姫が生きていたことを知り、もしかしたら他にも生き残りがいるのではという希望が生まれていた。もしどこかで生きているなら力を貸したい。その思いから情報を集めようとしたのだった。


「いえ……。レアたちの事情を知ったのも昨日アシュリア王女の話を聞いた時だったので……」

「そうか……」

「……っ、シュナッツ王は……レア姉さまを逃がす時に……亡くなった、そうです」

「アシュリア?」


 王がレクトルへと投げかけた質問の意図を悟り、事情を聞いていたアシュリアは脳裏に心優しかったシュナッツ国王の姿を思い浮かべつつもここは自分が伝えるべきだと懸命に答えた。


「レア姉さまから……寝る前に、聞きました。……国が襲われた時に、何があったのか……を」

「無理はしなくていいんだぞ」


 目に涙を浮かべ、必死に言葉を紡ぐアシュリアを見て王は優しく語り駆ける。当時娘がシルミアの悲劇を知った時の姿が思い浮かび、今は時間がある為ゆっくり事情を聞ければいいと思ったが故の言葉だった。だが、当のアシュリアは首を振り、言葉を続けた。


「大丈夫ですっ。レア姉さまの悲しみに比べたら、大したこと、無いですから……」


 そこからアシュリアが語った当時の内容はレクトルも知らない苦痛にまみれた人生だった。


 国境の街で突如発生した魔物の襲撃

 伝令が届く前に王都には竜種が押し寄せ障壁が粉砕された

 地獄のような光景が繰り広げられ、王都はあっという間に壊滅させられる

 崩れる王宮からからくも逃げ出すが、そこで再び竜種と遭遇し一人、また一人と倒れる騎士や臣下たち

 王や王妃すらその刃に倒れるが、何故かレア達は竜種に連れ去られた

 巣から隙を見て逃げ出すも深い森の中。迷い、木の実や植物の葉などで腹を満たす生活が続く

 やっとのことで街の近くまでたどり着いた時に運悪く盗賊に遭遇

 なけなしの魔術道具なども全て奪われ、奴隷にされる

 奴隷商に連れていかれる途中、今度は運よく冒険者に救われる

 だが、そこでまたレア達を連れ去った竜種が現れ怒りに任せ冒険者を皆殺しにしていく

 再び連れ戻されたレアたちはどういうわけかその竜種の世話をすることに

 ただ、その竜種も年老いており、冒険者たちとの闘いの傷もあって1年足らずで命を落とした

 今度こそ自由だと再び街を目指したレア達だったが、既に盗賊に着けられた奴隷の証があった

 街についたところで主なしの逃亡奴隷として奴隷商へと連行される

 そこで夜目のきく獣人族ということで新たな主に引き取られ、鉱山で鉱石を違法採掘する日々が続いた

 最小限の食事に悪環境、弱る体力の中、地震が起き洞窟が崩落して命の危機に


 レクトルに出会ったのはそんな矢先の事だった。


「……レア姫は元気そうだったか?」

「……はい。今はレクトル様に仕え、毎日が幸せだと言っていました」

「そうか……」


 王は目に涙を浮かべつつもそれ以上述べることはなかった。レクトル自身もその内容に衝撃を受け、帰ったら何かしてあげられることはないかと思考を巡らせていた。


 サクラたちもその話を聞いてどこか元気なく俯いていた。


「何か褒美を与えねばなるまいな」

「え?」


 色々と思うところがあったのだろう。黙っていた国王だったが、突如としてそんなことを言い出した。そのいきなりの言葉に今に引き戻されたレクトルは戸惑いの声を上げた。


「友の娘を助けてもらったのだ。何もしないというわけにはいくまいて」

「いえ。褒美の為にしたことではありません。それに、奴隷として仕えてもらってるのに、褒美までいただけません」

「歳に合わず意思がはっきりとしておる……なら、主の為ではない。レア姫やリア姫の為に、受け取ってはくれぬか?」

「どういうことですか?」

「奴隷に対し、いち国王が物を与えることはできぬ。だが、主であるお主を通してなら話は別だ。当時力になれなかったのだ。せめてでもの償いをしたい」

「……そう言うことでしたら……」

「感謝する」


 そういうと立ち上がり、この場を後にしようとする国王。それを見て慌てて止めたのはアシュリアだった。


「ま、待ってください、お父様! 肝心の話がまだできてません!」

「む、そうだったな」


 娘のことで頭がいっぱいだった国王は問題が解決すればもう用はないと本気で考えていた。元々アシュリアの話し合いの場を設けて欲しいという願いを聞き入れたのも、娘に何かしたかを問いただすためだった。


 アシュリアの言う大切な人というのがレア姫たちだということを知れた。相手として問題がないどころか、むしろこれからもお願いしたいくらいの相手だったのだ。当初の怒りは消え、国王はご満悦だった。


 故にその言葉を無下にすることもなく、再び席に着いた。


「して、話とはなんだ?」

「私はてっきりギルドマスターに報告した内容をこの場でも話さないといけないのかと思っていたのですが……」

「あぁ、例の件か……構わぬ。その件については既に問題なさそうだと指導狂(ベルセルク)より報告を受けている。アシュリアも認めているのだ。今起きている問題とお主たちは別件なのだろう」

「今起きている問題?」

「それよりも私は先ほどから気になって仕方がないことがあるのですが……」


 レクトルが気になるワードに対して質問しようとしたところで、割り込むように会話に入ってきたのは王の後ろに控えていたルフェウスだった。


「どうしたのだ? お前にしては珍しいな」

「いえ、さきほどアシュリア様を見させていただいた時に、アシュリア様の称号にあるものが見えまして」

「あるもの?」


 その言葉にピクッと反応を示したのはアシュリアだった。元よりそのことについての話し合いの場を設けてもらったつもりだったのだ。先に知られていることに驚いていた。


(そうでした。ルフェウスさんなら私の力に気付くのも当然ですね)


 今まで散々見られてきていたのだ。そこに思い至ることができなかったことを恥ずかしく思いつつも隠すつもりなどなかったので、アシュリアは正直に話した。


「元々、そのことについてお話するつもりでした」

「何のことだ? ルフェウスが言っていた新たな力というやつのことか?」

「はい。レクトル様と交渉し、私が“東の地の支配者”の称号を受け継ぎました」

「……何!?」

「……!」


 最初言われたことが理解できなかったのか固まっていた国王だったが、その意味を理解するとガバッと立ち上がり、アシュリアを見て、レクトルに視線を移した。


 全く事情を知らない侍女リスティも驚愕に目を見開いていた。普段なら平静を装う彼女にとっても、信じられないものだったのだ。


「バカな!? 一体何故……あの力がどういうものか知らないわけではあるまい!?」


 さっきまでのご機嫌はどこへやら。突如としてレクトルに向けて怒号をあげる国王。その怒りの根源は娘を思ってこそのものだったが、そこにはさきほどまで感謝を述べていた王の姿はなかった。


「お、落ち着いてくださいお父様!」

「これが落ち着いていられるか! あの力がどれほどの災いを生んできたと思っている! アシュリア、シルミアの一件も事の始まりはこの力が原因なのだぞ!? わかっているのか!?」

「わ、わかってます! でも、それでも、今アルトフェリアにはこの力が必要じゃないですか!」

「だからと言って、それをお前が持つ必要はない! お前まで失っては私は……!」

「大丈夫です! そのための力も、レクトル様から授かりました!」

「何を……」


 そう言って喚くアシュリアは自分の首にぶら下がっていたネックレスを国王へと差し出す。それを見ると国王はルフェウスへと視線を移し、何かを促す。


「失礼します」


 それを受けルフェウスが前に出ると、ネックレスへと手をかけた。そして固有スキルを発動させる。


「これは……!」

「どうした? これに、我が娘を、アシュリアを守れる力があるというのか?」

「私の力でも全てが見れない……ということは恐らくランクEXに分類されるものと思われます」

「何!?」

「え?」


 その言葉に驚いたのは国王だけでなく、それを受け取ったアシュリアもだった。まさか、あの場でパッと渡されたものがそこまで価値があるものだとは思っていなかったのだ。精々お守り程度のものだと考えていた。


「しかも姫様専用装備です。装備しているだけで各種保護スキルが付与されるようですね。【物理保護】【魔力保護】が確認できます。それに、身に着けていれば【闇属性軽減】【罠看破】【状態異常抵抗】【継続回復(中)】が適用されるようです。それ以外にもまだ秘めた力があるようですが、そこまでは読み取れません」

「バカな……そのようなもの、聞いたことがないぞ。その一部の効果ですら国宝ものではないか」

「確かに、これだけのスキルに姫様のスキルがあれば万が一にも命を落とすことはないでしょう」

「……これを一体どこで手に入れたのだ?」

「師匠がつく――むぐぅ」


 サクラが余計なことを言おうとした瞬間すぐさまレクトルがその口を塞いだ。サクラはムームーと唸っていたが、レクトルはそれどころではなく必死にいい言い訳を考えていた。


 レクトル自身ヤバいものだとは思っていたが、それはランクEXとなった原因であろう固有スキル【神聖成樹(セフィロト)】に対してだった。他のスキルの集合体に関してはサクラたちに作った服で見慣れていたこともあり、大したものだとは思っていなかったのだ。


 それがその一部だけで国宝もの。それを生み出したのが自分だとバレればそれこそ自由な暮らしなどできないだろう。


 そんな主を見かねて助け船をだしたのはベルだった。


「天使の遺産よ」

「ベル……?」

「天使の……?」


 主にまぁ、任せなさいと手をヒラヒラと返すとベルは国王へと向き直る。国王はレクトルの対応を訝しみながらも、気になる言葉にベルへと先をうながす。


「そう、天使のよ。私たちの主が天使を助けたのは知ってるのよね?」

「あぁ、簡単にだが報告は受けている」

「そのお礼にいくつかの魔術道具(マジックアイテム)をもらっているの。それはそのひとつよ」

「セピア様から……? わ、私がもらっちゃってよかったんですか!?」


 それに驚いたのは国王よりもそれを受け取った本人であるアシュリアだった。お守り程度だと思っていたものが国宝以上の価値があるもので、しかも天使から授かったもの。恐れ多いとネックレスを持つ手が震えていた。


「大丈夫よ。あの場にはあの子もいたでしょ。それに、それはもうあなたのものよ。一度登録されれば譲渡はできない。あなた以外にはガラクタでしかないわ」

「そ、そんなことは……でも、わかりました。大切にします」

「しっかりと身につけなさいよ。そうでなければ意味がないもの」

「は、はい……」


 ベルの言葉を受け、アシュリアはしっかりとネックレスを握り、自身の胸へと押し当てる。目を瞑り、心の中で天使セピアへと感謝の言葉を述べた。


「何故、これほどのものを? お主らがそこまでする理由はなんだ?」

「それならさっきから言ってるじゃない。ただ、静かに暮らしたいのよ」

「バカな。それだけの為に、これほどの力や道具を手放すというのか?」

「あら、“それだけ”とは随分な言いようじゃない? さっきあれだけ怒っていたあなたならわかりそうなものだけど。それに、かく言う私もその平穏を手に入れる為に魔王の座を捨てた身なの。口には気を付けたほうがいいわよ?」

「……ではお主が」

「そう。元東の魔王、ベルフェゴールよ。それも名乗ったのに、本当に娘のことしか頭にないのね」

「…………」


 国王はその言葉を受けても何も反論せず静かに見定めるだけだった。驚きの声をもらしたのはルフェウスとリスティだ。彼らはギルドマスターとの誓約に入っていなかった為、ロイエンからの報告は受けていなかったのでその辺りの事情を知らなかった。


 それでもこの話題をかわしているはここで交わされた誓約があるからだった。王を中心に交わされた誓約はレアたちのことだけでなく、この場での会話全てに適用される。それがわかっているが為に下手に隠すことをしなかったのだ。


「彼女が魔王……? しかし、障壁は未登録にのみ反応しただけで、瘴気には……」

「元……よ。私はもう魔王じゃないわ」

「それでも、悪魔であることに変わりはないはずです」

「そうね。でも、私はもう魔王核を失ってるの。私の力の源は彼の魔力よ。瘴気じゃないわ」

「なるほど。そして、それがお主の力なのだな」

「…………」


 ルフェウスの追及を軽く流すベルだったが、突如としてその矛先がレクトルへと向いた。国王の鋭い推察に焦るレクトルだったが、国王はそれ以上追及することはなかった。


「何、心配は不要だ。どうやらアシュリアのことも考えてくれていたようだからな。むしろ、今までよりも安全になったと言ってもいい。無論、“東の地の支配者”については東にある国々の代表以外には秘匿とするが、心配は減ったと言えるだろう」

「え? なら、またレア姉さまのところに遊びに行ってもいいんですか!?」

「お前はもっと反省なさい!」

「痛いです! お父様!」


 どうやら親ばかとはいえ、躾はしっかりとしているようでただただ甘やかしているだけではないようだった。それでも、甘えられれば断れないのは同じなのだが……。それは今も同じ状況と言えた。


「どうしても、駄目ですか? せっかくレア姉さまと再会できたのに……」

「ぬぐぅ」


 今にも泣きそうな顔でしょんぼりと俯くアシュリア。事情が事情だけに国王もその願いを一蹴できずにいた。5年も前に亡くなったと思っていた親友が生きていたのだ。また会いたいと思うのは当然の事だった。


「本当にあの少年とは何もないのだな?」

「レクトル様と?」


 国王の思いがけない問いかけの意味がすぐにはわからず、首を傾げるアシュリア。レクトルと父親である国王とをキョロキョロと見つめ、そこで目に入ったサクラのムーっとした態度を見て意味を悟り、国王の言葉をきっぱりと否定した。


「大丈夫ですよお父様! レクトル様には既にサクラ様やベル様など素敵な方々がいますから! それにレア姉さまにも怒られちゃいます」

「わ、私!?」

「ちょっと、そこでなんで私の名前があがるのかしら?」


 何故抗議の声を受けたのか理解できないアシュリアだったが、戸惑うサクラたちを無視して再度大丈夫ですよと国王に返す。


「レア姫まで……いや、まぁ当然か」


 命を救われ、今が幸せだと言うならそれ相応の待遇にあると言うことだ。それは奴隷の立場にあるレア姫たちをそのままにしているアシュリアの意思からも明白だった。今までの彼女ならどんな我儘を言ってでも自分の意思を貫き通しただろうからだ。


 それが交渉すらないということは、本当に今の場所にレア姫たちがいるのが幸せなのだと、彼女たちの為になるのだと認めているのだ。


 目の前にいる若いのにどこかしっかりとしている少年を見据え、国王は静かにうなずいた。


「好きにするといい」

「はい! だからお父様大好きです!」


 ガシッとアシュリアに抱き着かれた国王の緩んだ顔は王の威厳もない父親そのものだった。そして、そのままこの話し合いの場は御開きとなるのだった。


ダイジェストで語られるリアとレアの過去。

本章をリアレア編にするかベル編にするか悩み、後者となりました。

またどこかで彼女達の話はしっかりと書くつもりです。

次回8/4更新予定です。

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