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076 王女の帰還

少し遅れました。


「楽しいひと時というのはあっという間に過ぎるものなんですね」


 外の景色は創作世界(ラスティア)では朝になろうと相変わらずの夜空のままだったが、いつもの体内時計で目を覚ましたアシュリアは昨日の事を思い出しながら寂しそうに呟いた。


「アシュリー」

「おはようございます。レア姉さま」

「おはようございます……」


 その呟きで目を覚ましたのか、隣で眠っていたレアが身を起こして挨拶を交わす。それに笑顔で返すアシュリアの顔は元の笑顔に戻っていた。


 今までの時間を埋めるように夜遅くまで雑談を続けていたアシュリアはそのままレア、リアと川の字に並んで1つのベッドで眠っていた。王女の身にある為、そういった経験を過去したことがなく新鮮な気持ちだった。


 だが、それが許されるのも今回限りだ。いや、正確には許されてすらいないのだ。第一王女が無断外泊。王城はきっと騒ぎになっていることだろう。このままここに留まれば、それこそ昨日レクトルが言っていたように言い訳できない状況に陥るのは明白だった。


「レア姉さま、昨日は一日、ありがとうございました。久々に楽しかったです」

「アシュリー……また、遊びに来ていいんですよ? ご主人様には私から話を通しておきますから」

「……はい。その時はぜひ」

「ん~、もうあさ?」

「リア、ほら、ちゃんと起きて。準備しますよ」

「は~い。あ、アシュリーお姉ちゃん、おはよう」

「はい。おはようございます、リアちゃん」


 まだ寝ぼけ眼なリアを連れてレアが布団から出ると、着替え、主を迎える為に朝の準備に取り掛かっていく。それを見送ったアシュリアも準備を整えると楽しいひと時を過ごした部屋を後にした。


 居間には既に起きていたレクトルがいた。


「おはようございます。早いんですね」

「あぁ、アシュリアか。おはよう。ちょっと昨日創ったものについて調べておきたくてな」

「昨日……?」

「それで、今日はどうするんだ?」


 レクトルが何を調べているのか気になったアシュリアだったが、レクトルのその質問に我に返る。今は好奇心に流されている状況ではないことを思い出したのだ。


「はい。王城に戻ります。昨日は私の我儘を聞いていただきありがとうございました」

「そうか」


 そういってお辞儀をするアシュリア。レクトルはそれに対し、軽く答えを返すだけだった。ただの少女になれるのは昨日で終わり。これ以上レクトルに迷惑をかけることはできないと、我儘は1日だけとアシュリアは決めていた。


「ま、とはいっても今すぐというわけじゃないんだろう? 朝食くらいは食べていくといい」

「はい! ぜひ、お言葉に甘えさせてもらいます」

「師匠、おはよ~」

「おはようなの、お兄ちゃん」


 アシュリアがイスに座ると、サクラが降りてきた。それにセピアが続く。


「おはよう。よく眠れたか?」

「うん。でも、下の方が楽しそうだったよ」

「え? も、もしかして五月蠅かったですか?」


 夜遅くまで談笑していたアシュリアはその楽しさと嬉しさのあまり、他人の家なのに特に周りを気にしていなかったことを思い出す。自分の欲の為に誰かに迷惑をかけていたのなら堪らないと少し後悔したが、サクラは気にした様子もなく答える。


「ううん。なんか笑い声が聞こえる家っていいなって、あったかい気持ちになったよ」

「そ、そうですか?」

「サクラ……」


 サクラはレクトルに助けられるまで薄暗い洞窟の中で何年も過ごしていた。話し相手になってくれたのも自分の中にいる悪魔フェニアだけだったのだ。


(やっぱり、なんだかんだ言って寂しかったんだな。流石に人が増えすぎだと思っていたが、サクラにとってはいいことだったのかもしれない)


 レクトルが行き当たりばったりで行動した結果でも、それが誰かの為に繋がるのなら悪くないなと思っていると、残りの仲間が降りてきた。


「あ~いい匂いがします」

「ちょっと、そんなこと言いながら降りたら一緒にいる私まで匂いにつられて降りてきたみたいじゃない。やめてくれない?」


 スンスンと調理場から漂う香りにつられ鼻を鳴らすハクナの足を後ろからゲシゲシと軽く蹴りながらベルが起きてきた。


「痛いですよ、ベルフェゴール」

「いいからさっさといきなさいよ。ほら、私たちが最後じゃないの」


 なおも蹴り付けながらやってきたベルは何事もなかったかのように席に着いた。それにハクナが文句を言っていたが、ベルは気にした様子もない。


「にぎやかですね」

「そうだな。ちょっとうるさいくらいだけどな」

「そういえば、ハクナ様はどういった方なのですか?」

「へ?」


 唐突な質問に間抜けな答えを返してしまうレクトル。質問の意図が分からず、逆に聞き返した。


「どういった……とは?」

「あ、いえ、変な意味じゃないんです。ただ、魔王様や天使様、レア姉さまたち王族、それにサクラ様は魔王様繋がりだとお聞きしましたが、ハクナ様だけは聞いていなかったので気になったんです」

「あぁ、ハクナは……ハクナだろ?」

「それは――」

「お待たせしました」


 レクトルの濁した返事にそれはどういう意味ですか? とアシュリアが再び問いかけようとした時、レアとリアが朝食の準備を終えたらしく、部屋に入ってくるなりお皿を並べていく。


 その瞬間、アシュリアの興味は瞬時に目の前の料理へと移行する。


「すごい……今日のもおいしそうです。これもレア姉さまが?」

「そうですよ。ご主人様の故郷の料理です」

「おいしいよ!」

「故郷の……? でも、この料理は……」


 アシュリアは目の前に出された料理――ピザ風に盛り付けられたパン――を見てとある少女の事が脳裏に浮かんだ。あった事は少ない。それはレアたちがいたシルミア王国とは別の国の王女だったが、彼女は異世界からの転生者だった。


 これは秘密だと言いながらも料理が得意な妹に作ってもらったと嬉しそうに話していた。その時彼女が食べていたのがマトール(その王女はトマトだと言い張っていた)やチーズを使ったピザと言われる料理だったのだ。


「知っているのか?」

「は……はい。異世界の……料理だと」

「……へぇ」

「レクトル様は……その、異世界人……なのですか?」

「だとしたら何か問題があるのか?」

「いえ。ただ、納得しました。奴隷の扱いがこちらの世界の常識とはかけ離れていましたから。レア姉さまたちを助けていただいたのが、レクトル様で本当に良かったです」

「レア達にはこっちも助けてもらってるからな。あそこで巡り合えたのがレア達でよかったと思っているのはお互い様だ」

「ご主人様……」


 その言葉に、とこかうっとりとした表情でレクトルのことを見つめるレアを見て、慌てたようにレクトルはピザを口にした。


「うん、おいしい。ほら、早く食べないとチーズが固まってせっかくの料理がおいしくなくなるぞ」

「ふふふ、そうですね。いただきましょうか」

「いただきます!」


 それを合図に全員が朝食を食べていく。サクラがビヨーンと伸びるチーズを楽しそうに伸ばしながらも器用に食べていく。逆にセピアは伸ばさずにチマチマとかじりながら食べていた。


 中にはうまく食べられず具を落とす者もいたが、みな一様に笑顔だった。


 食事が終わると寛ぎつつも、この後の話へと移行する。


「それでどこまで送ればいい? ギルドか? それとも王城?」

「そうですね……」


 そう問われ、考え込むアシュリア。今ギルドに向かってもまだ兵士たちが残っているかわからないが、かといって王城まで送ってもらうとなると騒ぎになるのは明白だった。できればレクトル達を巻き込まないように一人で戻れるのが理想だが、いつも馬車で移動していることがほとんどでアシュリアは道程を明確に記憶しているわけではなかった。道中の危険もある。


「王城まで送るよ」

「え? ですが」


 「う~ん」と唸りながら悩むアシュリアを見て、レクトルは「はぁ」とため息をつくとそう提案した。アシュリアは迷惑がかかるとそれを断ろうとしたが、言葉を発する前にレクトルが理由を述べた。


「アシュリア王女は見ている限りでは信頼はできるがどこかおっちょこちょいというか、心配になるところがあるからな。送った後に別の誰かに誘拐されたなんて事態になりかねない」

「そ、そんなことは……」

「そうですね。私からもお願いしますご主人様」

「レア姉さままで!? 私ってそんなに信用無いですか?」

「親にも無断で外泊を進言するような娘だからな。お転婆もほどほどにした方がいいぞ」

「うう~」


 否定できず、その結果迷惑をかけているので言い訳もできないアシュリアはただ唸るだけだった。


「お城に行くの?」


 そのやり取りを見ていたサクラがレクトルに問いかけた。その瞳はどこか期待の眼差しが垣間見えていた。


「……ついてきたいのか?」

「うん。近くで見てみたいなって。……ダメ?」


 街についた時ははしゃいではいたが行きたいとは言わなかったサクラだが、やはり興味があるようだった。


「ダメってことはないが、危ないかもしれないぞ? それに、ゆっくり中を見て周れるわけでもないし……」

「私から話を通しましょうか? ……ことがうまく運べたら、にはなりますけど」

「まぁ、そうだな。頼めそうならお願いするか」

「ありがとう!」


 サクラには甘々なレクトルがそのお願いを無下にするわけもなくついてくることが確定した。ただ、そうなると何かあった時に守り切れるか不安だったため、レクトルは残りのメンバーへと問いかける。


「ベルたちはどうする? ついてくるか? ここで待ってるか?」

「もちろんついていくわ。あなたといると退屈しないもの」

「わ、私もついていきます!」

「セピアは……」


 同行を願い出た2人に対し、セピアだけが迷っているようだった。


(セピアは人見知りのようだからな。人が多そうな王城にいくのは気が引けるのかもしれない)


 そう判断したレクトルはセピアに対し優しく語りかけた。


「それならセピアはここで待っていてもらってもいいか? レア達がいるし、寂しいということもないだろう」

「はいなの」

「俺もいるぜ!」

「あぁ、そうだな。クルスも、留守番を頼む」

「任せときな。土産には期待してるぜ!」

「はいはい」


 うさぎのぬいぐるみに何を買ってきたらいいんだと行く前からレクトルは頭を悩ませる。かわいいリボンでも買ってやるかといたずら心が芽生えた時、あることを思い出しセピアに話しかけた。


「もしかしたら、城に来てほしいとなることがあるかもしれない。その時は来てもらってもいいか?」

「……お兄ちゃんと一緒なら」


 クルスを抱きしめながらそう答えるセピアの様子に無理をしている様子がないことを確認すると、レクトルは頷いて答えを返した。


「はは、もちろん一緒にだ。一人で行かせたりはしないさ。それじゃあ、行ってくる」


 外へと出る際にレクトルは新たなローブに身を包む。


「それ、新しいの?」

「ん? あぁ、そうだ。昨日1回残っていたからな。危険があるかもしれないし、念のために創っておいたんだ」

「似合ってるじゃない」

「そうですね」

「うん、かっこいいよ!」

「はは、ありがとう」


 それはレクトルの固有スキル【我が内眠る創造の拠点(ラスティア・ラヘル)】によって生み出された創作物だった。


 こうなることは昨日からある程度予測していたレクトルは、危険があるだろうとその対策を講じようとした。そこで今更ながらに自分の装備がこの世界へとやってきた時のままだったことに気が付いたのだ。


 仲間の強化ばかりに気がいって自分を疎かにしていた。ただ、結局のところ、レクトルが創作時に願ったのは仲間を守れる力だった為同じだったのかもしれない。


 RPG終盤に手に入るようなしっかりとしたローブだったので、これを自分が着るのかとできた時は気恥ずかしかったレクトルだが仲間には好印象のようでほっと一息着く。


 濃い紫色の所々に施された金と銀の装飾はかなり手の込んだデザインとなっており、それぞれが魔術効果を持った媒体として存在していた。その内側には宇宙が広がっているかのような光景が広がっている。


(ここにも星空……か。この創作世界(ラスティア)といい、星の魔術といい、コレギアの鑑定の宝玉といい、本当に何の縁なんだか)


 自分がそこまで星に興味があったとは思えないレクトルは、ここまでご丁寧に揃えられる理由がわからなかった。


 取り敢えず、これで不足の事態にもある程度対応出来るだろうと、準備を終え仲間の様子を窺う。


 特に準備をするものも無いようで、レクトルに続く。


「では、レア姉さま、いってきます。色々とありがとうございました」

「はい。気をつけて、無理しないようにしてくださいね」

「アシュリーお姉ちゃん、バイバイ」

「バイバイ、リアちゃんも元気でね」

「うん、またね!」


 大きく手を振って別れの挨拶を交わすアシュリアとレアたち。星屑の館から見えなくなるまでそれを続けると、アシュリアはやっと手を下ろした。


「そんな泣きそうな顔をしなくても……」

「うぅ……」


 ふとアシュリアを見たレクトルは今にも泣きそうな、と言うよりも既に崩壊している様子を見て驚きつつも努めて優しく言葉をかけた。


「またいつでも会えるだろ?」

「レクトル様はそうでも、私は簡単にはいかないんです。そもそも、ここにはどうやって来たらいいんですか?」

「そうだな……」


 流石に今の様子を見て知らんぷりは出来ず、レクトルは細い銀色の腕輪をアシュリアに差し出した。


「これは?」

「この世界への通行証みたいなものだ。それがあれば自由にここへと出入りができる」

「え?」

「あら、いいの? 面倒事は避けたいって言っていたのに。彼女、入り浸るかもしれないわよ?」

「そ、そこまでは……でも、こんな貴重なものをいただいて、よろしいのですか?」


 レクトルがアシュリアに差し出したものがレア達が持っているものと同じ元の世界(アーステリア)創作世界(ラスティア)とを行き来するものだと知り、面倒事を避けようとしているレクトルが王族の出入りを許すようなことをしたことに驚いたベルは彼女の性格上起きうる懸念事項を口にした。


 その言葉を受けてアシュリアは流石に否定を口にしたが、遠慮しつつもそれを返そうとはしない。大切な人との大事な繋がりとなるものだからだ。


「まぁ、レアたちにも息抜きは必要だろうしな。ただ、来るときはちゃんと許可を貰ってからくるように」

「はい!」


 取り敢えず、許可が必要となればそう何度もこれないだろうと予防線をはったレクトル。当のアシュリアはその腕輪を嬉しそうに眺め、自分の腕へと通していく。


「ちなみに、これはどうやって使うんですか?」

「念じればいいはずだ。この創作世界(ラスティア)にいきたい、もしくは元の世界(アーステリア)に戻りたいとその腕輪に強く、な」

「念じる……」


 腕輪を眺めながらそう復唱するアシュリアは、「これでいつでもレア姉さまに」と腕輪に頬擦りしていた。


 それを見て、許可以外にも何か使用制限でも設けようかとレクトルが考えていると、レクトルの甘さにため息をはきつつ前を歩いていたベルが再び振り返り問いかける。


「それでどうするの?」

「どうするとは?」

「行き先よ。王城に行くにしても、あなた行った事ないんでしょ?」

「そうだな、ここに来たのもギルドからだったし、近い所に一度転移してそこから移動するしかないのか?」


 ベルの疑問を聞いてそれを思い出すレクトル。


「私がありますが、それでは駄目なんですか?」

「基本戻る場所は転移した場所になるはずだ」


 レクトルはそう答えつつも、他の所に戻りたいと考えたことがなかったことに気が付いた。最初に戻ったのが元の場所だったから、そういう仕様なのだと勝手に解釈しただけだったのだ。


「もしかしたら、出来るかもしれないのか?」

「そうなんですか? では、やってみますね!」

「え?」


 何気なく呟いたその一言を聞き取ったアシュリアは、使ってみたい興味にかられそのまま実行に移す。


「いざ、王城へ!」

「いや、ちょっとま――」


 レクトルの制止も空しく、その周囲を光が包むと転移が実行される。


 光が収まった先にあったのは、王城だった。それも、レクトルの眼前に聳え立っていた。


「わぁ、すごい! 本当に着きました!」

「近くどころか、もう敷地に入ってるじゃないか!」


 喜ぶアシュリアを他所にレクトルがそう叫んだ瞬間、王城を包む淡い青色の守護結界が警報を発した。内部に未登録の魔力反応を感知したからだ。


「おい、これって不味くないか?」

「無茶苦茶するわね。いきなり内部に特攻するなんて」

「いや、俺のせいじゃ」

ご主人様(マスター)!」


 すると何処からともなく兵士が現れ、あっという間に包囲されていく。


「賊め、一体何処から侵入した!?」

「おい、あれ……!」

「姫様!?」


 どんどんと状況が緊迫したものへと変わっていく。その光景を呆然と眺めていたアシュリアだったが、このままじゃ不味いと兵士との間に立って弁明する。


「みなさん、違うんです! 彼らは!」

「姫様が離れた! 今だ!」

「姫様はこちらへ!」

「きゃあ!」


 だが、アシュリアの言葉が届くことはなく、レクトルたちからあっという間に引き剥がされると、武器を構える。その矛先は当然、友人の恩人へと向けられていた。


 それを受け、サクラが【星桜刀】を取り出して対抗しようとしたところで、レクトルが制止する。


「師匠、離してー」

「これ以上事態をややこしくするな」

「どうするの?」

「一旦は様子見だ。……なんで、そんなに嬉しそうなんだ?」

「そんなことないわよ? ただ、あなたって期待を裏切らないわよね」

「だから俺のせいじゃ……」


 その時、自分たちを包囲している兵士たちの雰囲気が変わったように感じてレクトルは周囲を観察する。すると、兵士の一人が呟いた「国王陛下……」という言葉を聞き、その兵士が眺める先へと視線を移した。


 そこには、城のバルコニーから顔を覗かせ、レクトル達を真剣な眼差しで見つめるアルトフェリア国王の姿があった。


そして3章冒頭へと戻る……ここまで間が空く予定はなかった

忘れてた人も多いのでは?


次回7/21更新予定です。

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