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075 アシュリアの想い

すみません。最近仕事が忙しく少し遅れてしまいました。


「……確かに受け取りました。ふふっ、レア姉さま共々、よろしくお願いしますね?」

「……? なんのはな――」

「あの、ご主人様」

「ん? どうした?」


 レクトルがアシュリアの言葉の真意を聞き出そうとした時、もう待ちきれないとレアがレクトルに話しかけた。


「すみません。どうしても確かめたいことがありまして……。ベル様はその……あのベルフェゴール様なのですか?」

「あーー」


 レアにそう問われ、レクトルはベルたちの事を秘密にしていたのに隠すことなく普通に話していたことを思い出す。レア達が魔王の事をどう思っているのか分からなかった為、言葉に窮するレクトルだったが対応を考える間もなく問答無用にアシュリアが答えを返した。


「そうですよ。レア姉さまは知らなかったのですか?」


 どこか得意げに話すその姿にムッとなるレア。魔王に対する恐怖よりも、何か自分だけ仲間外れにされている疎外感が勝ってしまい、面白くなかった。


 レアにとってベルは数日接している中で、奴隷の身である自分にも普通に接してくれることからむしろ前の主より好印象ですらあった。それが正体が魔王と知ったからといって簡単に変わるものでもない。


 騙されていたわけではなく、気を遣われていたというのは言われるまでもなくすぐに気づいたが、それでも、納得できないものがあった。その原因はアシュリアだ。


 アシュリアが自分よりも自身の主であるレクトルやその仲間の事を知っていそうな感じなのが気にくわなかったのだ。自分の方がアシュリアよりも長く一緒にいるのに奴隷の面目丸つぶれであると妙な対抗心を燃やしていた。


「ア、アシュリーは何故知っているのですか?」

「先ほどまでギルドでそのことについての話し合いに立ち会っていましたので」

「ご、ご主人様……」


 えへんと胸を張るアシュリアには何を言っても無駄だとレアは自身の主に助けを求めた。


 アシュリアは昔からレアの知らないことを自慢げに話すことが多かった。月に1度か2度程度開かれていたアルトフェリアとシルミアの交流の場、レア達と出会えるその数少ない時の為に勉強を頑張っていたと言っても過言ではない。


 そのため、5年前にシルミア王国が魔物に襲われ、レアたちの生死が不明とわかってからは日々をただ呆然と過ごしていた。それから復帰したのはシルミアの悲劇からさらに1年が経過してからだった。


 1周忌として訪れたシルミアの地を見て、アシュリアはレアやリアの分も生きるのだと決意した。不甲斐ない今の自分は見せられないと奮起したのだ。そのおかげもあってか、今回の奇跡の再会を胸を張って迎えることが出来ていた。


 レクトルはどこか哀れな子羊のような目をレアに向けられて降参の意を示した。自分の思っていた反応と違う現状にこれもベルの人柄がなせる業かと勝手に納得すると、レアたちにベル、そしてセピア達の事を簡単に説明することにした。


「……その、黙っていて悪かった。別に悪気があって秘密にしていたわけじゃないぞ? 余計な心配をかけたくなかっただけだからな」

「わかっています。でも、知らない方が後々失礼があった時に困ります……!」

「別に大丈夫だと思うけどな。まぁ、バレたのなら仕方ないか」

「そうね。でも、変にかしこまる必要はないわよ。今まで通りに接しなさい」

「は、はい……」


 ベルも正体がばれても特に脅えもしないレアたちを嬉しく思い、そう告げた。生粋の魔王というわけではなく、まがい物の為今の関係を心地よく感じていた。


 そのやり取りをレクトルは微笑ましく眺めていると簡単にベル、そしてセピアの事をレアとリアに説明した。レアはベルの事には驚きこそしていたが、セピアや戦乙女(ヴァルキュリヤ)については昨日本来の姿を見たこともありすんなりと受け入れていた。


「私たちがここにいる間にそんなことがあったのですね」

「ベルさまがまおう……」


 リアも魔王については知っていたのか、驚いてはいたがそこに恐怖は感じられなかった。どこか「おー」と有名人にでもあったかのような反応をしていた。


「何故か私たちが元王族というのが大したこと無い様に感じるのが不思議です」

「ははは」


 確かに、魔王に天使ときたら王女よりも格は上なのかもしれないとレアの言葉に渇いた笑いを返すレクトル。それに、まだ明かしていないハクナの存在が知られれば今回の比ではないだろう。そちらに関してはレクトルは口のチャックをきつく結ぶことを決意した。


 逆に戦乙女(ヴァルキュリヤ)についてはアシュリアが「あれって本物なんですか!?」と驚いていた。レアとの再会に歓喜しあまり気に留めていなかった玄関の銅像がまさか本当の戦乙女(ヴァルキュリヤ)だとは思いもしていなかったからだ。


 余程信じられなかったのか、実際に玄関まで確認にいくほどだった。その時に「きゃあ!」と小さな悲鳴が聞こえたのだが、好奇心旺盛な彼女が何か失礼なことをしたのかもしれないとレクトルは特に気にすることもなかった。


「取り敢えず今日はもう帰られますか?」

「え?」


 確認から戻ってきた王女にそう告げるレクトル。一応、相手は王女であり、客である為、敬語で話していた。ただ、その言葉をかけられたアシュリアは信じられないという顔でレクトルを見つめていた。


「こ、こんな時間に帰れとおっしゃるのですか?」

「こんな時間? まだ夕方にもなっていませんよ?」

「え? でも、どう見ても夜じゃないですか?」


 そうして窓の外を指さすアシュリア。それを受けてアシュリアが驚いた理由を悟ったレクトルはそういえば、転移した後そのまま放置で屋敷に向かったんだとさっきの状況を思い出し、今更ながらに少し罪悪感を感じていた。急いでいたため、いつもしている説明をしていなかったのだ。


「あぁ、ここはいつも夜なんです」

「え? どういうことですか?」

「んー、なんて言ったらいいんでしょうか……ここはアーステリアとは別の世界でして、私がこの世界にいる限りずっと夜なんです」

「別の……世界?」


 王家に名を連ねる者が知らず知らずの内にとはいえ無断で国境を越えたかもしれないことを心配していたアシュリアはまさかの別世界という言葉に困惑する。


 海の先すらまだ未知数なところが多いのに、世界を超える。そんなことが可能なのか? 嘘を言っているとは思えないが、すぐに真実と肯定することは簡単にはできなかった。それはスキル【聖罰の瞳】で悪意がないと分かっていてもだ。


「何か証拠のようなものはありますか?」

「証拠と言われても……そうだ」


 そこでレクトルは現実世界とは異なるこの世界独自の法則を思い出し、それを以て違う世界ということを証明しようとした。


「外を見ていてください」

「外をですか?」

「はい。それじゃあ、いきますよ?」


 レクトルは 【我が内眠る創造の拠点(ラスティア・ラヘル)】の力を発動させると元のアーステリアへと単独での転移を実行する。


 すると、レクトルが不在となったこの創作世界(ラスティア)に変化が訪れた。


「外が……明るく……」


 その変化を受けて、アシュリアは外へと駆けだす。扉を開けて外に出ると、先ほどまでは確かに満点の星空が天を埋め尽くしていたのに、今は雲一つない晴天が広がっていた。


「うそ……信じられない……本当に人のいるいないで昼夜が変わるの? そんなのって……。でも、レクトル様の話が本当なら……」


 アシュリアがまぶしさに目を細めていると、晴天だった空が再び夜空へと変わる。来た時と変わらない、過去見たこともないほどの美しく煌く星空が再度姿を現した。レクトルが創作世界(ラスティア)へと戻ってきたのだ。


「どうですか?」

「すごいですね……未だに信じられませんが……レクトル様の言葉を信じたいと思います」

「それはよかった。では、ギルドまでお送りしますよ」

「あの……もしよろしければ、一泊させていただくことはできませんか?」

「え? いや、流石にそれは……」


 流石に王女を泊めるということには後々問題になる未来しか見えず、レクトルにはすぐに了承を返すことはできなかった。レクトルはむしろ、何故そんなことを言ってきたのか理由が気になった。


「無理を言っているのは承知でのお願いです」

「理由を聞かせていただいても?」

「せっかくレア姉さまと再会できたのです。もう少しお話したい……私は王女だから……この機会を逃したら、いつここに来ることができるかわかりません」

「今はよくても結局後で怒られますよ? 下手をすれば私が捕まります」

「そ、それは……き、きちんと説明すればお父様も分かってくれると思います! それに、レクトル様からいただいた“東の地の支配者”の手土産もあります。もしレクトル様が捕まりそうになっても、私が守ります。だから……」

「できれば、レアたちが望まない限り、彼女達のことは黙っていてもらいたいですが……」

「それはかまいません。流石に公にできないのはわかります。元とはいえ、王族を奴隷としているわけですから、快く思わない者も多くいるでしょうし」

「あなたはいいのですか?」

「ふふっ、レア姉さまにあんな顔で断れたら私にはもう何も言えないですよ」


 既に説得を試みたが、結果は惨敗だったと悲しくもどこか嬉しそうに話すアシュリア。それを聞いて、レクトルもほっとした笑みを浮かべた。レア達が戻りたいと思うならその思いを無下にする気はなかったが、せっかくなら残ってほしいという思いがあったからだ。


 命の恩人とはいえ、畑や料理などここまでレクトルが望むように対応してくれる人は少ないと思っていた。仲間たちとも良好の関係にある。元王女という肩書はあるが、いまさら他の人に、という気にはなれなかった。


「そう……ですか。レアが……」

「はい。だから、レア姉さまのことはレクトル様に預けます。ですが、ここに遊びに来ることは許してもらいたいです」

「来るのは難しいのでは?」

「こっそり抜け出してでも、会いに来ます」

「危ないですよ」

「大丈夫ですよ。レクトル様からいただいたこのネックレスもありますから」


 アシュリアが首にかかっていたネックレスの宝石を手に取りレクトルへと見えるように前に出す。それは空の景色と同じ、漆黒に煌いていた。アシュリアの黒髪とも合っており、見事な調和を醸し出している。



 そっと【魔力解析(アナライズ)】をかけるレクトル。それは創った時と同じく、レクトルにただ事実を突きつけた。


 ○【星屑の涙】

 ・Rank:EX

 ・固有スキル:【神聖成樹(セフィロト)

 ・付与スキル:【物理保護】【魔力保護】

 ・保持スキル:【闇属性軽減】【罠看破】【状態異常抵抗】【継続回復(中)】

 ・装備条件:専用装備 (アシュリア・ルート・アルトフェリア)

 ・備考:悲劇の中にありながらも希望を見出した少女の涙が形になったと言われている。神に連なる系譜の元、自身を神聖化しありとあらゆる悪意から攻撃対象として指定されなくなる。持ち主の生存率を高めることができる専用装備。


 そのスキル性能を見て、レクトルは少しやらかしたと思いつつも時すでに遅いと目を背けた。ランクEXのものは相当な技能レベルがないと鑑定もできないとのことなので、ただのおまじない程度のものと思っているアシュリアがきづかないことを祈るばかりだった。


 アシュリア自身は普段、余程窮屈な生活を送っているのか、徐々に涙ぐみながらまるで聞き分けのない子供の我儘のようにお願いを続けていた。実際、レクトルとしては創作世界(ラスティア)という逃げ道がある以上、元の世界の問題はある程度無視することが出来た。


 ただ、騒ぎは起こさないことに越したことはないので問題を増やしたくなかっただけだった。ただでさえ魔王や天使といった問題を抱えているのに、王族関係のいざこざまで増えたら堪らないと思っていたのだ。


 だが、その思いは目の前の少女の涙を無視してでも押し通すものかと問われればレクトルは否と答えただろう。故に、


「わかったよ」

「いいの……ですか?」

「まぁ、少女の涙を無視できるほど無情にはなれないものでね」

「ふふっ。女の子ばかりいるのに、それじゃあやっていけませんよ?」

「それを実行している人が何を……。後、ここにいる間は王女としては扱わないからな。窮屈なのは苦手なんだ」

「はい。問題ありません。それと、ありがとうございます」

「お礼はいらない。それに……レアたちのことは俺からも頼みたいとこだったしな」

「はい! 任せてください!」


 深々とお辞儀を返すアシュリアにレクトルはヒラヒラと手を振ってその場を後にした。


 その後、アシュリアはレアの料理に舌鼓を打ち、王城に引けを取らない豪勢な風呂に驚きつつも堪能しながら疲れを癒し、寝室でレアやリアとの久々の会話に花を咲かせた。


 レクトルはその楽し気な様子を邪魔しては悪いと、夜まではサクラと訓練したり、残りの創作の使い道を考えたり、明日の行動を考えたりと久々にゆったりとした1日を過ごしていた。



 その頃、ギルドでは大きな騒ぎが生まれていた。といっても、ギルド全体で起きているわけではなく、レクトル達が話し合いをしていた部屋が中心で、その場にいるのも関係者に限られていた。


 それは大きく2つの事件が発端となっていた。トリューセンへの魔王による襲撃。そして、王女誘拐。その2つの事件に関わっていると思われる少年の姿を思い出し、ロイエンは苦悶の声をあげた。


「一体、どういうことなんだね!? さっきまでのあの場は幻だったとでもいうのかね!? 連絡をとろうにも場所すらわからないとは……!」

「この場所、やっぱりギルマスも知らないのね。てっきり世界を回っていたギルマスなら知っていると思って何も聞かなかった私の失態ね」

「ルーミエ君が自身の失態を認めるとは珍しいね。だが、こればかりは仕方ないよ。私はこの大陸を制覇したつもりだったのだがね。ラスティアなんて聞いたこともないね。宝玉に登録できたからにはあるはずなんだが……まさか他の大陸というわけでもあるまいに」


 レクトルが立ち去った後に報告に挙がった魔王の襲来。トリューセンが襲われたという報告に対し、情報を整理しようとしたロイエンの元に、王女が消えたという報告が続いてなされ、何をバカなとギルド内を探すが確かにどこにも姫の姿を確認することができなかった。ルーミエにも頼み、トイレも探してもらうが結果は同じだった。


 かといって、ギルドから出たかと思えば、前を守る兵士からは姫様や怪しい者は見みかけていないという報告が返ってくる。それは裏口も同じだった。


 ロイエンとして考えられるのはレクトルが使った時空魔術による転移だったが、もしそうだとしてその目的が分からなかった。あの状態からどう転べば誘拐などに繋がるのか。可能性として考えられるのはアシュリアがレクトルを追いかける要因となった話の内容次第だが、ロイエンはその中身については何も知らない。


 アシュリアのスキル【聖罰の瞳】によって悪意がないことも分かっていたため、姫の誘拐については本当にレクトルが連れ去ったのなら大丈夫だろうとあまり事態を深刻にはとらえていなかった。コレギアにも登録したばかりで連絡もすぐにできるはずだった。


 だが、結果としてはレクトルはまだ時空魔術の中に宝玉を収納したままなのか連絡機能は繋がらず、かといってその場に直接向かおうにも申請書に記載してある場所は誰も知らない場所だったのだ。


 他に手がない以上、アシュリアの件に関してはレクトルが宝玉を取り出すことにかけて、定期的に連絡を飛ばすことを試すのみとなった。


 その対応をルーミエに任せると、ロイエンはもうひとつの事案に取り掛かる。魔王の襲来。襲われた街トリューセンはレヌアの村をはさんでこのアルストロメリアとは真逆に位置する街だった。


 そして、東の魔王を名乗る悪魔は何か探し物をしているようだったという報告が挙がっていた。その容姿はベルフェゴールと名乗った渦中の魔王とは異なり、金髪の男の姿だったという。


「ベルフェゴール君の復活を聞きつけた元東の魔王が襲撃に来たというのが妥当かね。狙いは彼女の魔王核か。こちらの件についても、彼に早々話をつける必要があるね。トリューセンへの応援もあるが、魔王がアルストロメリアへ来るのが先か、彼に連絡が通じるのが先か……全く、後少しあの場が長引いてさえいれば……」


 もう過ぎてしまった事とはいえ、結果は大きく異なっただろう。彼女の様子からしたらもしかすると、魔王の助力だって得られたかもしれないのだ。


 ギルマスの責任だと隣で喚きたてる兵士を余所に、ロイエンは窓の外、先の見えない未来に思いを馳せていた――


次回7/14更新予定。

そして、今話でついに50万字突破!

前回越えたと思っていたけど、見間違いか超えてませんでした。……おかしいな

これからもよろしくお願いします。

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