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071 コレギアの設立

最近再び週刊更新ギリギリ気味に……

また早めに更新できるようにしたいところです


「そうかね? では、簡単に話だけさせてもらうよ。ここではなんだ、先ほどの部屋の方が落ち着くかね。すぐに準備をさせよう」

「はいはい、わかってるわよ」


 ロイエンの言葉にどうせ準備するのは私ですよと、ルーミエが頼まれる前に返事をすると先に上へ昇る階段へと向かう。


「すみません」

「レクトルさんが謝ることはないわ。いつものことだから。それに、ギルマスがランクSでありながらあっさりと負けるさまは見ていてなんだかスッキリしたわ。感謝したいくらいね」

「ぬぐっ」


 振り返り、ニコリと笑うルーミエ。余程鬱憤がたまっていたのかもしれない。今回の試験は彼女にとっていい気晴らしになったようだった。その言葉にロイエンが歯噛みする。


「これを機に鍛えなおすことをお勧めするわよ?」

「私はもう冒険者は引退したのだよ」

「そんなんだから余所(よそ)に舐められるのよ」

「……早く行きたまえ」

「はぁ。あ、そうだ。ひ……彼女の事、ちゃんとお願いしますね」

「あぁ、わかっているよ」

「ほんとかしら。まぁいいわ。これ以上問題は増やさないでね」


 それだけ言い残すと、ルーミエは階段をあがっていく。


「我々もいくとするかね。どうやらあまり時間をかけたくないようだから道すがらになるが、簡単に説明させてもらうよ」

「あぁ」

「ちょっと待っていてくれたまえ」


 それだけ伝えると、ロイエンはまだ興奮冷め止まない様子でこちらを窺っていたメイドへと歩み寄る。


「大丈夫かね?」

「はい。貴重な体験をさせてもらいました」

「ほほほ、それは何よりだね。今日の事は後で聞きたいのだが、私はあの裏通路の後処理を最後にしなければならないので、前を歩いてもらえるかね?」

「わかりました」

「悪いね。来た道通り、一本道で迷うこともないだろう。それに、私たちもすぐ後ろを行くからね」

「心配には及びませんよ。ただ、ロイエンおじさまも大変なのでしょうけど、あまりルーミエさんに迷惑をかけたら駄目ですよ?」

「む、善処しようではないか」

「もう、本当に改善する気あるのですか?」


 どこか気を使いながらも親し気に話すロイエンとメイド。それを不思議に思い、レクトルが話しかけた。


「彼女はギルドの職員じゃないのか?」

「む、……そうだね。彼女とは以前の職場で知り合ったのだがね、今日限り臨時で来てもらっているのだよ。まぁ、君への特別待遇だね」

「いや……そんなことに気を遣ってもらう必要なんてないんだが……」

「そうはいくまい。何しろ、魔王と天使を迎えるのだ。何か粗相があってはいけないからね」

「あんた自身が粗相の塊じゃないか」

「ほっほっほ」

「おい……」


 何かはぐらかされた気がしたレクトルだったが、話すほどイライラが募りそうだった為そこで追及をやめた。


 実際、ロイエンとしてはかなり言葉を選んで返事をしていた。今回の事情聴取の中で、彼女の力が根本にあったからだ。それを悟られないように、かつ誓約に引っかからないように嘘は述べず、それとなくはぐらかしていた。


 その話をじっと聞いていたメイドは気になっていたことを問いかけた。


「レクトル様はお若いのになんというかその……物怖じせず、度胸がありますね。ロイエンおじ……ギルドマスター相手でも平然としているのはすごいと思います」

「え……やっぱりマズいのか?」


 様付けをむず痒く思いながらも、もてなす側としてはそういうものなのだろうと深く考えず返事をした。レクトル自身、これはどうなんだと思いながらも特に今更改善する気も起きないでいた。元の世界では例え相手が気に入らない奴でもこんな態度をとることは絶対になかっただろう。


 これも、一種のスキルによる影響と言えた。レクトルは自身の身の内で知らず知らずのうちに変化が起きていることをあまり理解できていない。


「いや、最初にも言ったが構わないよ。私自身、かしこまった事は苦手だからね。彼女が言っているのはそう言うことではないよ」

「はい。態度に関しては同じ意見ですね。ロイエンおじさまは調子に乗りやすいので、適度に痛めつけるのがちょうどいいと思いますよ。私が言いたかったのは、例えそうだとしても、行動に移すことが出来る人は少ないということです。仮にもランクS相手に面と向かって強く言える人は極わずかですから」

「ほほ、辛辣だね。まぁ、今回に限っては彼の方が強いみたいだがね」

「そうですね。ロイエンおじさまも本気じゃありませんでしたけど、それでもレクトル様の方がお強そうでした」

「ほう……」

「はは……」


 その予想にロイエンは興味を示し、レクトルはただ渇いた笑いをこぼすのみだった。


「上いかないの?」

「おや、すまないね。少し話し込んでしまったか」

「そうですね。それじゃあ、私が先導しますね」

「頼むよ」


 サクラが暇に耐えられなくなったのか、長話を始めたレクトル達に先を促した。師の戦いを見れて満足し、まださっきの部屋に残っていたお菓子が食べたくなったのだ。どうせ待つなら、何もないここではなくさっきの部屋に戻りたいと思っていた。


 ロイエンが結界装置などの処理を終えると先ほどまでの部屋へと戻る階段を昇るレクトルたち。その道中でレクトルはロイエンから簡単なコレギアについての説明を受けていた。


「コレギアというのは簡単にいうとギルドの元となった組織の事だね。ギルドの発端はコレギアだが、今ではギルドが主体となって各国のコレギアを管理しているのだよ」

「設立には何がいるんだ?」

「まず、君はどういったコレギアを設立するつもりなのかね?」

「というと?」

「そうだね……例えば――」


 そこでロイエンはいくつかのコレギアを代表で挙げていった。


 魔物の殲滅を生業とする大規模討伐コレギア《荒ぶる魔狼》

 各国に散らばり物資の流通を一手に担う商業コレギア《夢見の庭》

 武器や魔術道具などを生産するドワーフ族が中心の鍛冶コレギア《無限の大地》

 各地で治療院を設立し人々の傷や病を癒し研究する医療コレギア《芽吹きの風》

 闇に紛れ、各地の情報を取り扱う諜報コレギア《暗がりの耳》


 各々のコレギアは自らの役割を定め、それを運用していた。目的があり、コレギアがあるのだ。レクトルのようにその目的がコレギア設立――正確には身分証の自由発行にその秘匿――というのは珍しい……というより存在しなかった。


 かといって何もしない、依頼を受けつけないコレギアというのは承認されない。


 参考にどんなコレギアが実在するかを聞いたレクトルはその中でも自分に合ったものものがあるか考えるが、どれをするにしても面倒が増える未来しか見えず、決めきれないでいた。


 悩むレクトルにベルが声をかける。


「いっそ孤児院でも開いたら? あなた、少女ばかり集めてるんだしちょうどいいじゃない」

「なんでそうなる。全部成り行きだろ? 自ら望んで仲間にしているわけじゃない」

「それなら、今後も成り行きで増えるかもしれないじゃない。ふふっ」

「勘弁してくれ……。それを主にしてしまったら本当にそうなりそうで怖い」

「でも、お兄ちゃんなら困っている子がいたらきっと助けてくれるの」

「師匠、優しいもんね!」

「あのなぁ」


 ベルの提案に否定的なレクトルに対し、セピアやサクラが賛同する。そうなった未来を想像しげんなりとするレクトル。自分のこの性格も改めたほうがいいかもしれないと思いつつも、じゃあ目の前で酷い目に遭っている子供を見かけて目をそらすことができるのか? と問われるとレクトルは否と答えるだろう。


 結局のところ、人の心というものはそう簡単に変わるものではないのだ。地道な経験に裏打ちされた思いか、もしくは人生の転機となるような本人にとっての大事件でもない限り。そうレクトルにとって、子供が虐げられる事が許せないとここまで思いつめるようになったあの事件のような――


「別に何にと絞らなくてもいいんじゃないですか?」

「え?」


 嫌な事を思い出しそうになっていたレクトルはハクナのその一言を受け現実に戻る。ただ、その言葉の意味するところがよくわからず、ハクナに問いかけた。


「それはどういう意味だ?」

「そのままの意味ですよ? ご主人様(マスター)の好きなようにすればいいんです。依頼内容は自由、ただ、受けるかどうかはその内容と報酬次第……なんてどうですか? そもそも、さっき例に挙がったコレギアと違って私たちは数人しかいない小規模なものなんですから、来る依頼何でもかんでも受ける事はできないですよ」

「そうか……なるほど。そういうやり方もありなのか」

「まぁ、駄目ということはないね。ただ、難しいところだね。依頼をする側も何を依頼できるのかわからないということだ。持っていくまで答えがでないとなると……誰も依頼をしに来なくなるのか、もしくはなんでもやってもらえると客が増えるのか、なんとも言い難いね」

「前者は歓迎だが、後者は勘弁願いたいな。見て決めるということは、持ってこられた依頼全てに目を通さないといけないということになる。量が多ければそれだけで一日が終わってしまいそうだ」


 そうこうしているうちに階段を昇り切り、元の応接間へと戻ってきたレクトルたち。その時、ちょうどタイミングよくルーミエが宝玉を抱え、部屋へと入ってきたところだった。


「あら、随分とゆっくり来たのね」

「まぁね。そちらの準備は終わったのかね?」

「えぇ。一通りそろってるわよ」


 ルーミエは机の上に鑑定宝玉といくつかの資料を並べていく。ロイエンは裏道を閉じるとレクトルやその仲間達とともに再度腰掛ける。サクラは座るや否や、早速とばかりにお菓子を口に運ぶ。


 それを見て自分の仕事を思い出したメイドは、そのまま部屋を出ていく。扉を開けた所でその前に立っていた兵士が声をかけた。


「お疲れ様です」

「終わったのですか?」

「いえまだです。お茶汲みです」

「そうですか。お気をつけて」

「はい!」


 兵士ににこやかに答えると、給湯室へと向かっていく。その後ろ姿を見送った兵士が隣の兵士に声をかける。


「なんだか楽しそうだったな」

「世話好きですからね。普段できないことができて楽しいのでしょう」

「それにしても長いな。何者なんだ?」

「わかりません。俺たちには王やギルマスの考えてることは想像もつかないですよ」

「それもそうだな。さっきの様子を見るに、特に問題はなさそうだが……」

「そうですね。それが一番です。ただ、何があるのかわかりませんので気は引きしめておきましょう」

「あぁ」


 兵士たちがそんな話をしていると、紅茶淹れたメイドが戻ってきたため扉を開けて中へ入れる。扉が閉まると、魔法陣が扉の表面にポゥっと浮かび内部の音を遮断した。


 紅茶を全員に配り終えると、メイドは再びレクトルたちの後ろに控える。


「では、取り敢えずコレギア設立に当たり最低限必要なものについて話をさせてもらおう」

「あぁ、手短にな」

「それじゃあ、こちらの紙に記入をお願いしたいのだけど」


 ルーミエがレクトルへ、スッと差し出した紙には次の記入項目が存在した。


 ・コレギア名称

 ・コレギア代表者

 ・所属メンバー

 ・拠点

 ・主な活動内容

 ・承認責任者


「実にシンプルだな。理にかなっている」

「細かいものはおいおい取り決めていくことになるからね。取り敢えず、それさえ埋めて鑑定宝玉に登録さえすればコレギアとしては承認されたことになる。代表には月に一度、活動の報告義務が存在する。一定の活動が見込めない場合、是正通知が入り、それでもなお改善されない場合は解体となる。その場合は鑑定宝玉も返還となる為、彼女達の秘密を守りたいのであれば注意したまえ」

「活動報告……それは必ず代表がいかないといけないのか?」

「そういうわけではないね。月に一度宝玉より出力される活動書をギルドに届ければいい。嘘の活動書などを用意したりしない限り代表以外でも問題ないよ。というより、基本的には代表が来る方が少ないね。忙しい者が多いというのもあるが、君と同じように面倒臭がりがほとんどだよ。いや、全く彼らにも困ったものだね」

「……………………」

「何かね?」

「いや、何も?」


 お前が言うなという視線を一身に浴びたロイエンは何食わぬ顔で問いかけるが、レクトルとしては面倒が嫌いなのは確かなので反論することなく流すことにした。ロイエン相手には反論するだけ無駄だということをこの短い間で理解したのだった。


「それと、さっきの話だが、なんなら私たちの方から依頼をさせてもらう……というのはどうだね?」

「ん? どういう意味だ?」

「何、君の事だ。コレギアを設立したからと言って何か宣伝し、依頼を集めるといったことはしないのだろう? 新規に設立されたコレギアに対して、そうそう簡単に依頼がくるものではないのだよ」

「そうか。まぁ、当然だな。店を新しく開いても、評判が集まるまでは音沙汰ないのと同じだな。何もB to Cにこだわる必要もないということか。B to Bならある程度そっちで依頼も絞ることが出来る。そこにはあんたの意思が介入することになるが、大本からの依頼なら活動実績としては十分なはずだ」

「B to C? というのはよくわからないが、実績としてはそうだね。基本的には我々では対処できないようなものを依頼する形になるからね」

「やるかやらないかの判断権限はこっちになるんだろ? 強制でないならそれでいい。仕事が少ないならそっちの方がいいな」

「バカね、騙されてるわよ」

「え?」


 レクトルが採用の動きを見せたところで、ベルが指摘した。まさかベルから反対の声があがるとは思っていなかったレクトルは視線でベルに続きを促す。


「私たちの主ならもっとしっかりしなさいな。ギルドで対応できない依頼なんてどんな依頼がくるかわかったもんじゃないわよ」

「でも、変な依頼は断ればいいんだろ?」

「それがあなたにとって許せないものでも断れるの? 今までは見知った範囲で済んでいたかもしれないけれど、ギルドと繋がるということは各地の情報が流れてくるということよ。女性を襲う通り魔が現れた、子供が多く住む街が大型の魔物に襲われている、子供が生贄に連れていかれた、なんでもいいわ。あなたが無視できない理由だったらいいんだもの」

「それは……」


 レクトルのその消え入る言葉は確かに無視できそうにないなと、ベルが不安に思っている通りだと認めたに等しかった。実際、簡単には断ることはできなかっただろう。言われるがままに赴くか、下手に悩み、心を摩耗させることになっていたかもしれない。


「でも、知らなかったらいいの? 後で知って、師匠は辛くない?」

「サクラ……そうね、確かにそれもあるわね。でも、どこかで割り切らないといつかつぶれるわよ」

「大丈夫ですよ。その時は私たちが手伝いますから」

「……! うん、私も師匠の事手伝う!」

「セピアも……お兄ちゃんに助けてもらったから……今度はセピアの番なの」

「お前ら……あのな、せっかく盛り上がってるところ悪いんだが、なにも絶対コレギアをつくらないといけないわけじゃないんだぞ?」

「でも、あったら便利なんでしょ?」

「それはそうなんだが……」


 自分の事を心配し、手伝うと言ってくれる皆の思いを嬉しく思いつつも、危険を自ら呼び寄せるようなことは避けたいと思うレクトル。


 どうするのが一番か悩んでいると、向かいにいたロイエンが盛大に笑いだした。


「ほっほっほ、随分と慕われているようだね。このままではこちらが悪者にされそうだ。なに、そう思い詰める必要はないよ。さっき彼女が例に挙げたようなことを依頼するつもりはない」

「本当かしら」

「当然だね。なにせ、そんなことを依頼すれば、それはレクトル君の力が公になることに他ならない。秘匿を誓約している以上、それを破ることに繋がることを私から依頼することはできないのだよ。まぁ、そういった情報を望むということであれば資料を回すことはできるが、それもその後の行動を求めるものではない。まぁ、何かいい対応策でも貰えればこちらで動くくらいだね」

「そうか。ここにも誓約が働くのか」

「あぁ、なにせ魔王と天使だ。扱いも慎重になるというものだよ。あくまで我々の切り札になってもらいたいといった程度だね。依頼自体、月に一度あるかないかといったところだね。なので、君達でも依頼は個別で請け負う必要はあるよ」

「ふーん、まぁ、そういうことならこれ以上私からは何も言わないわ」

「……………………」


 レクトルは内容をしっかりと吟味し、メリットとデメリットを比較し、そして決断した。


「わかった。まぁ、最初から特にコレギアを創って何かしたいわけじゃなかったんだ。取り敢えずやってみてから後の事は考えようと思う」

「まぁ、いいんじゃない? 後悔だけはしないようにしなさいよ」

「あぁ。何かあったらっ手伝ってくれよな」

「うん! 何でも言ってね!」

「ありがとう」


 そして、ここに新たなコレギアが設立されるのだった。


次回6/16更新予定です。

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