008 不死の運命(さだめ)
いかにもゲームチックな強化項目が並んでいるなと思っていると、1個だけ浮いている効果があった。
不老不死。物語の種類によっては最終目的とまでされる人類の夢の一つだろう。ただ、そこにはもちろんデメリットもある。よく描かれているのが他者との死別だ。
周りは普通に歳をとり、自分だけがそのままの姿を永遠に維持し続ける。他の人からは化け物呼ばわりされ、仲良くなったものも自分より先に老いて死んでいく。そして、自分は死にたくても死ぬことを許されない。孤独との闘いだ。
神である彼女もそれを知っているからこそ言いだし辛かったのだろう。
さて、では俺はどうだろう? 不老不死、別にそれ自体に興味はない。なら、なってしまった後では?
これは自分がというよりも相手がどう思うかによるな。化け物呼ばわりされて罵倒されるのは勘弁願いたい。そうなるとあまり人とのつながりは作らない方がいいのかもしれない。それだけリスクを背負うことになるからだ。
俺自身は別に人とのつながりを積極的にとってはいない。人付き合いが苦手なので、最小限に抑えたくなるのだ。
友人と呼べる相手は少なかった。卒業や仕事の都合などで離れることもあり寂しくはあったが辛くはなかった。でもそれは距離的な話だ。会おうと思えば会うこともできただろう。
では死に別れでは? 両親を事故で亡くした時は確かに辛かった。恋人が一向にできない俺を色々と気にかけてくれていた優しい両親だったので、もう会えないとわかった時は孤独を感じ、事故を起こした相手側を恨みもした。
でも、相手側は逃げたりせず誠意を持って対応してくれたこともあり今はもう許している。世界でも同じようなことは五万と起こっている。いつまでもクヨクヨしてたら、それこそ天国にいる親に呆れられてしまうだろう。
まぁ、思い出すのも辛い別れも経験している。でも、彼女の事に関しては完全に俺の責任だ。それに、親もあの子も、突発的な死だった。今回のような時の経過は関係ない。誰にだって起こりえるものだ。考えたって仕方がないだろう。
あとは娯楽だな。この世界では向こうみたいにゲームや漫画、小説といったものはほとんどないだろうし、娯楽施設なども期待できない。しいて言うなら魔術が使えればのめりこめそうなんだがな。
それに、今回はちょっと話が異なる。
「まったく、言い辛いんだったら最初に説明しろよな」
「言ったもん。永久に共にって……キスの前に」
そういってプイッとそっぽを向く。照れているのか頬が赤い。それに拗ねているのか若干膨れてもいるようだ。
「あれか……いや、流石に伝わらないだろう。それにあれには拒否権がなかった」
「嬉しすぎて?」
「唐突過ぎて、だ。なんでそうなる」
なんか子どもを相手にしてる気分になってきた。気が弱くなると性格が変わるのか? しゃべり方まで子供っぽくなってるじゃないか。……まぁ、それはそれで可愛いらしいんだが。
はぁ、俺もやばいな。疲れてるのか、このままいたら毒されそうだ。この姿、精神年齢まで下げられるのか? でも、今はハクナ頼みなのはこちらも変わらないんだ。ここは穏便に済ますしかないな。
「ま、別にいいけどな」
「え……怒ってないの?」
「怒ってはいるだろ。事前に説明はちゃんとしろって」
「えっ? いや、まぁ、うん。でも……」
「不老不死については今さらとやかくいっても仕方ないしな」
「……嫌じゃない?」
ぐっ、そのうるんだ瞳での上目遣いはやめろ。くそ、いつから俺はロリコンになったんだ。まさかこれも策略の内なんてことはないだろうな。
「ま、ここに知り合いはいないしな。それに、ハクナも不老不死なんだろう?」
「……うん。神族だから。神格覚醒したら大人にはなるし、神力が尽きれば消えちゃうけど」
「なら問題ないさ。1人にはならないってことだからな。心のよりどころがあるなら、周りに置いていかれて孤独に絶望することもないだろう」
「わ、私が心のよりどころ……」
そこを拾うなよ……そして顔を赤くするな。ったく。そして、神格覚醒ってなんだよ。不老不死だけど成長はするってことか? まぁ、確かに神が子供のままだったら子なんてできないか。あれ? 不死なのに子供を作るのか? それに不老なのにどうやって今まで成長を?
疑問に思いつつも、神話なんて色々あるし気にしないことにした。問題になるとしてもどんだけ先の話だってことだ。
でも、不死に関して許容できないこともある。
「だが、痛みを伴うのは別だ。殺されても生き返りまた殺される。そんな苦しみの連鎖に放り込まれるのは御免だ。いくら不老不死だからって闇の神とやらの討伐には出たりはしないからな」
「それは……はい、わかりました」
おっ、調子が戻ってきたか? 言葉遣いが直ってきたな。何よりだ。さっきまでの調子でいられたらこっちが持たないところだった。
最初はスキル覚醒の時テンション高かったのに、覚醒したスキルや今までの会話で俺が不老不死を喜ぶような人間じゃないと判断して落ち込んでいたのかもしれない。
実際、実感がまるでないからあんなことを言ったが、どうなんだろうな。なんとなく、今の感じは悪くないと思ってはいるが……
「でも、これからどうするんですか? この屋敷でのんきに暮らすんですか?」
「調子が戻ってきたと思ったらずいぶんな言い草だな……」
自分の心配事がなくなったからか気遣いもなく言葉に容赦がない。
「飲み水は確保できても、食料は元の世界にいかないと無いと思いますけど」
「まぁ、金策についてはおいおい考えるさ。ここが創造の拠点っていうだけあっていろいろできそうだしな」
実のところ試したくてウズウズしているのだが……
そう言うと、ハクナのお腹がクゥと鳴る。
「……ご飯のこと考えたらお腹減りました……」
「お前な……」
顔を真っ赤にしながらお腹を押さえるハクナ。さっきまでは緊張していたのかもしれない。それが、不老不死の件が片付いて安心したのか、気が緩んだんだろう。
もしかしたら、しゃべり方もさっきの口調の方が素なのかもしれない。考えたら親との会話にも敬語なのは変だしな。地が出たのだろう。神だけど。
女の子とそんなに話した事がない身としては、自分にそこまで気を許してくれたのを嬉しく思う。
相手は神の子といえど、ここでは唯一の知り合いだ。すでにかなり心救われている。自分にとってもかなり不思議だが、彼女とは家族といってもいいくらいの親しさを感じるほどだ。流石に異世界に一人放り出されたのでは心細かったのかもしれない。
それにしても神の威厳を全く感じない。出会った瞬間は神々しさのようなものを感じていたんだがなぁ。
ここまで早く他人に気を許したのは生まれて初めてかもしれない。思わず何か魔術的なのを疑ってしまうほどだ。
まぁ、あまり積極的に関係性を作ろうとはしてこなかったんだが、その機会が少ない分一度できた関係は大切にするほうだ。共にいると言ってくれた彼女の思いが長く続くよう、なんとか頑張ってみようと心に誓う。
「まぁ、もう遅いしな…」
そう外を見ながら答え、疑問に思う。あれ?
「そういや、まだ昼じゃなかったか?」
「あ、スキルの中の世界だから」
「時間の流れが違うのか? それとも、ここはずっと夜なのか?」
「私に聞かれても……」
そりゃそうだ。神だって万能ではないのだろう。むしろこの固有スキルである創作世界に限っては俺のほうが詳しいだろう。調べるべきことは盛りだくさんだがな。
一番はやっぱりスキルや道具の創作についてだが、コソコソやるよりはやっぱりさっきああ言ったからにはハクナに伝えた方がいいだろう。
隠してたとしても、いずれバレるしな。その時に面倒なことになるのは目に見えてる。だったら最初から正直に話した方がアドバイスなども貰えるし事が円滑に進みそうだ。
ここまで積極的になれるほど早く人と打ち解けることは過去なかったため内心戸惑う。しかも相手は女の子だ。
力を得て、一人の少女を救うことができ、自分に自信が持ててきたのかもしれない。いい方向の変化なら歓迎だが、せめて力に溺れ暴走することのないように注意することとしよう。
「取り敢えず、一旦元の世界に戻るか。まずは飯の調達だな」
「そうですね。お金はあるんですか?」
「……ないな。そういや話してなかったが俺は実は所謂転生者で、この世界のことについては右も左もわからないんだ。こっちに飛ばされたのはハクナと出会う数分前だしな」
もう何を隠して、何を伝えるのか考えるのも面倒になったので流れに任せて全部ぶっちゃけることにした。仮にも神であるハクナには何かこの状況がわかるかも知れないと思ったのもある。
「転生……ですか?」
「あぁ、もしかしたら転移かもしれないが何か知ってるか?」
「他の世界に干渉できるのは、セカイの鍵かシステムの意思そのものくらいだと思いますけど私も詳しくはちょっと」
「そうか」
「ごめんなさい」
「別に謝る必要はない」
ハクナは頭を下げるが、実際わかれば儲けもの程度の気持ちで聞いただけだ。わからなかったのは残念だが、かといってそれを咎める気はない。
他の世界から転生させる。それが神でもそう安々と出来ることではないとわかっただけでも上出来だろう。神よりも星の意思の力とやらのほうがすごいということらしい。そのセカイとやらについても、おいおい理解していけばいい。
新たにでてきたセカイの鍵とやらのニューワードは一旦無視だ。