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070 決着

ついに一周年。これからもよろしくお願いします。


 激しい爆発の嵐が収まり、周囲が見守る中レクトルは油断なくロイエンがいた場所を見つめる。そのおかげもあってか、舞う土煙の中からボヒュッと飛び出してくる氷の槍を視認するや否や戦いの継続を認識し即座に次の魔術を発動させた。


 氷の槍に対しては何も対処しない。なぜなら、既に展開中の【護覆壁(マジリア)】にて事足りると判断したからだ。その予想に反することなく、ロイエンが放った【氷旋槍(アイニス)】はパキィンという音を鳴らしてレクトルへと届く前に砕け散る。


「我求めるは地駆け巡る戒めの拘束、捕らえよ【蔓根巣(ルートウェブ)】!」

「やはり魔術に対しても障壁を張っているようだね。むっ!?」


 ロイエンは【火球弾(メボル)】の嵐を全て剣撃にて切り払った後、牽制に放った魔術が剣撃同様にレクトルへと到達する前に弾かれたことを確認すると、魔術での攻撃は諦め物理攻撃での打開を模索する。


 得意とするのが物理と回避のロイエン、魔術と防御のレクトル。対局に位置する二人だが、膠着するかに見えた戦いに対し、先に行動を起こしたのはレクトルだった。避けられ弾かれるならまず行動を阻害してしまえばいいと放たれたのはD級に属する緑属性魔術の【蔓根巣(ルートウェブ)】だ。


 地面を蜘蛛の巣が張り巡らされたように覆いつくす植物の根と蔓が、そこに足を踏み入れた者に対し絡みつく罠の要素を持った拘束魔術だった。今回はその範囲が結界内の全てを網羅していたため、無条件にロイエンへと襲い掛かる。


 だが、ロイエンはその蔓や根が届く前に跳躍すると、【千変万化(アシュト・ルミエ)】を大剣へと変貌させレクトルへと振りかぶる。ガキィンという鈍い音と共に【守浮盾(フィジルド)】によってその一撃は阻まれるが、ロイエンは構うことなく回転するように再度上段に構える。だが、その手に握る【千変万化(アシュト・ルミエ)】は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。刃は【守浮盾(フィジルド)】に阻まれたままの位置に残っていた。


「何を……!」

「ふん! 【壊塵(かいじん)】」


 レクトルが壊れたのか? とその意図に気付かず油断した瞬間、ロイエンは【千変万化(アシュト・ルミエ)】の柄を刃無きままに振り下ろす。その奥義の発動とともに放たれた一撃と同時に刃部分も元へと戻り、寸分違わず同じ位置へと叩きつけられた。


「めちゃくちゃすぎだろ!?」


 大剣のLv.8奥義【壊塵(かいじん)】は攻撃対象となった防御系統の力を低下させ、その分だけ自身の力を上昇させる効果を持つ。見事にその力を発揮したロイエンの一撃はガシャンという甲高い音を立ててレクトルの防壁を打ち破った。


「これで終わりだよ」

「くそっ! 【火球弾(メボル)】!」

「なっ!?」


 ロイエンの所業に慌てたレクトルは焦りと共に使い慣れた魔術を放つ。だが、それは今までの緻密な【魔術制御】を施されたものとは程遠い、率直な力を込められたものとなった。


 ロイエンはそのまま剣を突き付けて降参を宣言させればそれで終わりだと思っていた。故に少し油断していたのもあるだろう。突如目の前に現れた直径1mはあろうかという火球の直撃を受けた。いや、辛うじて【千変万化(アシュト・ルミエ)】を間に介入させ防御に成功していた。


 だが、レクトルの制御がまともにかかることがなく放たれた【火球弾(メボル)】は威力や速射性、魔術強度などに過剰に魔力が注がれ、先ほどまでレクトルが放っていた魔術とは比較にならない威力を有していた。


 「あ、やばっ」っとレクトルが思った時にはもう遅く、ロイエンはその一撃を受けて押し出された。


「ぬぐっ! バカな、これが初級魔術だというのかね!? む!? しまっ!!」


 魔術強度を強化された【火球弾(メボル)】を打ち破ることができず、そのまま地面を滑るように後ずさる。爆発が起きることはないが、目の前にある【火球弾(メボル)】から放たれる確かな熱量がロイエンを襲う。そして、地に足をつけたロイエンをさらなる不幸が襲った。


 レクトルが事前に放っていた設置型の魔術【蔓根巣(ルートウェブ)】がロイエンが足を踏み入れたことで再度起動したのだ。この戦いの中、レクトルは基本一度発動させた魔術は全て待機状態を維持していた。そうすれば、再度の詠唱を必要とせず、弾数に追加で魔力を消費することで無詠唱に近い形で魔術の再行使が可能だったからだ。


 通常の者なら維持するだけで魔力を消費するためメリットは少ない。魔力残量を気にする必要がないレクトルだからこそできる戦法といえた。


 地面から生えた植物の根や蔓が目の前にある【火球弾(メボル)】の熱にも負けずロイエンの身体を拘束していく。


(くっ、当然のように本来の魔術より生える拘束の数も強度も段違いだね。ここまでくるとやはり固有スキルを疑うが……私のありとあらゆる武器を使いこなす【免許皆伝(オールマイティ)】の魔術版というのが現実的だろう。それでも、全属性の魔術を使え、かつ強化されるとなるとその性能は破格だね。魔力保有量も異常だ)


 ロイエンの推測は当初よりは現実味を帯びつつも真実とは異なる。だが、無限に近い魔力を与えるスキルに【神術】という天使どころではない神に連なる力。想像が及ばないのは当然といえた。


 ロイエンは【千変万化(アシュト・ルミエ)】を盾の形状に変化させ【火球弾(メボル)】を受けきると、魔術を放つ。


「我望むは氷結の庭。踏み荒らす者に、幻想砕く呪いを振りまけ! 【凍地陣(グレイスフィル)】!」


 ロイエンの足元から冷気が広がり、【蔓根巣(ルートウェブ)】を凍てつかせていく。それを確認すると、凍りついた蔓や根を砕き、奥義を放つ。


「【衝波】!」


 盾の先から迸る衝撃が異常な強度を誇っていた【火球弾(メボル)】を打ち破った。


「流石、ギルドマスターだな」

「まったく……規格外にも程があるよ。君のランクUなんて異常な位が、どこを基準に設けられたものか未だに測りかねるね」

「そればっかりは俺も知りたいところだな」


 思わず放ってしまった全力の【火球弾(メボル)】をなんとかロイエンが凌いだことに内心安堵するレクトル。それの思いを気取られないように平然とロイエンの疑問に答える。


「……まぁいい。いい加減、この試験もそろそろ終わらせるとしよう。実力に関しては十分測ることもできたからね」

「そうか。なら、降参してもいいんだぞ」

「そうはいかない。私としてもギルドマスターとしての矜持があるからね。簡単に負けを認めるつもりはないよ」

「俺だって、サクラたちの前で負けるつもりはないさ」

「ふん、なら精々後悔しないよう全力を出すことだ」

「むっ」


 ロイエンが纏う雰囲気が変わった事に身構えるレクトル。ロイエンは右手に長剣、左手に短剣を携えると、フッとその姿をかき消した。どこに、とレクトルが思った瞬間、クナイのような武器が突如地面にカッと突き刺さる。


 そこにレクトルが意識を奪われた瞬間、背後に響く衝撃音。だが、レクトルが振り向いた瞬間には既にそこには誰もいない。


「またちょこまかと……」


 レクトルは【気配察知】を発動させてはいるが、魔術とは異なりスキルは魔力が絡むものではない。【魔術制御】に重点をおいたレクトルはまだその辺りの扱いがうまく出来ておらず、高速で移動を繰り返すロイエンを捉えきれないでいた。


 周囲に展開した【守浮盾(フィジルド)】のあちこちで攻撃を防いだ音と衝撃が響く。ロイエンは【空間掌握:領域】を活用した空中跳躍で攻撃をしかけレクトルを翻弄する。だが、その攻撃は先ほどまでと同じく全てが【守浮盾(フィジルド)】によって阻まれる。だが、ロイエンはただ攻撃を無駄に繰り返していたわけではなかった。


 よく見ればレクトルも気づくことができたかもしれない。だが、経験が浅く、ロイエンを捉える事に必死なレクトルにはそこまで考えが及ばなかった。


 着々と準備を整えたロイエンは仕上げへと取り掛かる為、一度距離を取って【空間掌握:領域】によって作成した空気の足場に着地する。


「今度こそ終わりにさせてもらおう」

「何?」


 特にさっきまでと大きな変化を感じられなかったレクトルはその言葉に違和感を覚えた。厳密に何故と問われると答えられないが、先ほどまでと異なり嫌な予感がしたのだ。それは知らずの内に習得していた【危険予知】による警告だったが、それを知らないレクトルはただ己が感じた直観に従い行動する。


 弓を構えレクトルを狙うロイエン。


 それに対し、嫌な感じが消えないレクトルは事前に準備していた奥の手を行使することにした。レクトル自身もこの試験を顧み、十分に収穫はあったと仕上げに入る。


 ロイエンの放つ奥の手。それは固有スキル【免許皆伝(オールマイティ)】が持つ隠された力のひとつだった。


「【紫電(しでん)】【狂風(くるいかぜ)】」


 それは通常なら行使不可能な奥義の多重発動。つがえる矢が雷と風を帯びる。


「せいっ!」


 放たれた矢は混ざり合い、嵐を引き連れてレクトルに迫る。しかし、それだけでは終わらず、弓を今度は剣へと変化させると、まるで矢と並走するかのようにロイエンは駆け出した。矢がレクトルの障壁に接触するかといったタイミングでさらに重ねるように奥義を発動する。


「【弱呪(ちからなくし)】」


 それはロイエンが今手に握る剣の奥義ではなかった。発動を受け、光輝いたのはレクトルが展開する【守浮盾(フィジルド)】、そのあちこちに打ち込まれた小さな針状の武器だ。それは無差別に攻撃を仕掛けていた際に、ロイエンが打ち込んだものだった。光輝くそれら全てが【千変万化(アシュト・ルミエ)】の欠片だったのだ。


 【弱呪】は暗器術のLv.6奥義。刺した対象を弱体化させる効果を持つ。弱った障壁に弓術Lv.6奥義【紫電】が止めを刺し、Lv.4奥義【狂風】が吹き飛ばす。そこにロイエンの持つ剣がレクトルに向けられ決着


 ――そうなるはずだった。


 だが、それはレクトルが矢が触れる直前に発動したとあるスキルによって、叶わぬ未来となった。


「【怠惰(アケーディア)】」


 それは本来大罪の悪魔が持つと言われる7人の悪魔の一人が所有する固有スキル。通常とは異なる法則の元効果を発揮するこの力は、レクトルが試験が始まる前にベルから【能力共有(シェアギフト)】を通して借り受けたものだった。


 本来持つ(おも)な力は意欲の低下だ。だが、その応用範囲は広く、それは意識だけでなく力にも作用する。レクトルはセピアを助ける為の戦いの際に発生した外での攻防の話をベルたちから聞いていた。


 そこでベルが戦乙女(ヴァルキュリヤ)を無効化する為に【怠惰(アケーディア)】を使用したという話を聞いて今回の作戦を思いついのだ。ロイエンは数多の武器を使いこなす武人だが、それは固有スキルや各種武術スキルに頼ったものだと推測された。


 なら、そのスキルを無効化、ないし弱体化できれば勝機が増すのでは? というのがレクトルの思惑だった。


 結果としてそれは成功したと言える。


 【弱呪】が発動仕掛けていた小さな針状の暗器は輝きを失いその効果を発揮することは叶わなかった。ロイエンの放った矢は万全の状態の【守浮盾(フィジルド)】へとぶつかり電撃を迸らせるが、障壁を破壊するには至らない。雷も風もレクトルへと届く前に霧散する。


「なっ!?」


 ロイエンはその事態に驚愕し、すぐさま退避しようとして異常に気付く。武術スキルの恩恵を失ったロイエンは少したたらを踏むような形で前に進み、踏みとどまる。


(な……これは一体!? スキルの力が……失われている!?)


 それはロイエンが保有するスキルのほぼ全てに影響が及んでいた。それは武術系のスキルだけではなく、常日頃から多用していた【身体強化】や【魔力感知】、【気配察知】にまで……


 困惑するロイエンの首筋にスッと、添えられるものがあった。あまりにもな状況に思考が停止しかけていたロイエンだが、今は戦いの最中だ。そっと目を向けると、首元に添えられていたのはレクトルが持つ武器【起源刃:霊煌】の【魔力刃】だった。


 それを見てロイエンは静かに目を瞑り、呟く。


「参った。降参するよ」


 その声を受けて喜びの声を上げたのはレクトルではなく、サクラやセピアといった見物席にいた見学者組だった。レクトルは安堵し、「ふぅ」と吐息をこぼしただけだ。


 実際、ロイエンにはスキルに頼らない戦い方もあったのだが、今回の試験は別に生死に関わったり、重要なものをかけたりしたものではない。ギルドマスターとしての矜持は確かにあったのだが、それは全ての手の内を明かしてでも守るべきものというわけではなかった。


 ここまで戦えるのなら実力としては十分だった。最初はどう見ても素人の剣で頼りないと感じていたロイエンだが、焦りと共に放たれた【火球弾(メボル)】を受け、認識を改めた。それは上級魔術に匹敵する程の威力を有した低級魔術だった。


(一度使用した上級魔術すらあれだけ制御してのけるなら心配も不要だろう。加減が必要ない相手となれば、きっと彼は容赦しないはずだ)


 コレギア代表の素質としては十分だった。故に、これ以上不要な戦いに自ら引くことで幕を下ろしたのだ。


 レクトルは取り合えず勝てたことにほっと胸をなでおろし、全魔術を解除して【起源刃:霊煌】の刃も消し去った。


「【保管庫(ストレージ)】」


 そのまま【保管庫(ストレージ)】を発動し、【起源刃:霊煌】をしまう。それを見たロイエンがレクトルへと話しかける。


「時空魔術まで習得しているとは。君は全魔術適正者(エレメンタルマスター)だったのだね」

全魔術適正者(エレメンタルマスター)?」

「今更隠す必要もないと思うがね。まぁ、いい。少しやりすぎた感はあるが、取り敢えず試験は合格だよ」

「そうか。なら――」


 レクトルが今後の話をしようとした時、周囲を覆っていた結界が解除された。その瞬間、レクトルに突撃を仕掛けてきた者がいた。だが、レクトルは特に慌てることもなくその者を受け止める。


「サクラ」


 勢いのままレクトルに抱き着いていたサクラはその言葉に顔を上げ、先ほどまでの戦いの感想を述べた。


「師匠すごかった!」

「あぁ、ありがとう」

「無断で私の力を使わないでくれるかしら?」


 祝福するサクラに対し、レクトルに文句を述べたのは勝手に固有スキルを借用されていたベルだった。ベルにとっては別にスキルを使われた事が嫌というわけではなかった。ただ、試験の前に頭を撫でられた理由がその為だったとすぐに理解したからだった。


 目的も分からず、レクトルが【怠惰(アケ―ディア)】のスキルを使うまでずっと頭の中でもやもやが続いていたのだ。素直に祝福できないのも仕方がないというものだった。


「悪いな。言ったらバレるかもしれないだろ?」

「……高くつくわよ?」

「……お手柔らかに頼む」

「さぁ? それは後のお楽しみね」

「お、おい……」


 ベルは少し慌て気味のレクトルを見て満足したのか、何をしてもらおうかしら? と少し楽し気に候補を考えていた。そのにこやかな笑顔を見て、取り敢えずレクトルはどんな要求をされてもあれな内容でない限り極力答えようと決意を固めるのだった。


「ほんとーに素晴らしかったです。私、感激しました!」

「あ、あぁ、ありがとう」


 そんなレクトルに次に話しかけてきたのは、今回の話し合いの中もてなしてくれていたメイドだった。ロイエンとルーミエはギョッと慌てていたが、レクトルは目の前でこういう戦いを見るのが初めてなのだろうと推測し、深く考えることはせずに取り敢えず感謝の言葉を述べた。


「そ、それでどうしますか?」

「ふむ。レクトル君。君に問題がないのであれば、これからコレギア開設に当たっての説明に移らせてもらうが、どうかね?」

「え?」


 レクトルはベルやセピアの事情説明の事ばかりに頭を費やしていたため、その後の事は特に考えていなかった。特に予定もしていなかったコレギアの事なんて考えてすらいなかったのだ。


 怪我はしていないが、試験のせいで精神的に疲れ、段々と面倒に感じてきたレクトルは帰りたいが為に細かいことは後回しにした。


「また、後で来るから細かい事はいい。簡単にだけ教えてくれ」


 そこで、レクトルはロイエンから簡単な説明を受け、自分の軽はずみな発言に後悔することになった。そしてそのつけは別の者へと押し付けられていくのだった。


次回、6/9更新予定です。

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