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069 VS ギルドマスター

すみません。眠ってしまい少し遅れてしまいました。

戦闘シーンは書くのが難しいですね。


 ロイエンは足元に描かれる光の筋が魔法陣であることを認識、それが引き起こす結果をすぐさま理解すると行動へと移した。スキル【空間掌握:領域】を発動させると、爆発が起きる前に周囲の空気を圧縮させ自身を覆うように展開する。空気による壁を生成したのだ。


 だが、それでもこの大規模魔術に対抗するには到底足りないことを理解している。慌てつつも冷静にその意図を探る為、未だ迫りくる無数の刃から覗き見える少年を見据える。


(血迷ったのかね!? いきなりのルール無視とはやってくれるものだ! やはり魔王と共にある者……人を殺すことも厭わない闇に生きる者ということなのかね? 私も老いぼれたものだ。奥に潜むその意思に気付く事さえできぬとは……!)


 その瞬間、起きる爆撃を受けロイエンは違和感を感じる。いくら【空間掌握:領域】による障壁を展開したとはいえ、放たれたのはA(クラス)に分類される火属性魔術【煌爆炎(ブラスメテア)】だ。空気の壁などいとも容易く貫通し、その衝撃が身を襲うのが当然だった。ある程度の負傷は覚悟していたのだ。


 だが、蓋を開けてみれば凄まじい爆音とは裏腹にいつになっても熱や衝撃が届くことはない。ロイエンは意を決して展開していた障壁を外部に向けて放つように解除した。その瞬間、視界が少し晴れ、立ち込める熱気を感じたが、それは通常の【煌爆炎(ブラスメテア)】が発動した後に感じるべきはずのものと比べ、遥かに低かった。むしろ暖かく感じるほどだった。


 数キロの範囲を爆撃殲滅する本来の【煌爆炎(ブラスメテア)】からしたら、その威力も範囲も到底及ばない。


(これは一体どういうことだね? もしや、幻影魔術!? 確か彼は魔王復活の儀式の際にそれ系統の魔術を使用したと言っていたね……。だが、熱量は確かに感じる……いや、そんなことよりも、これが幻影魔術だとしたならばその目的は……!)


 ロイエンはその意図に気付き、手に持つ【千変万化(アシュト・ルミエ)】の形状を扇上に変化させる。わざわざA(クラス)の魔術にまで見せかけて稼いだ時間。この後にどんな攻撃が控えているか想像もつかなかったからだ。すぐさま振り抜き辺りに漂っていた煙を吹き飛ばすと同時、【魔力感知】【気配察知】を全力で発動させた。


 煙が晴れたその先には様々な魔力光を放つ少年、レクトルの姿があった。


「なっ……!」


 その姿を目にし、驚愕に目を見開く。それはまるでありとあらゆる武器を使いこなす自身と対局に位置する者だったからだ。



(ふぅ、なんとか間に合ったな)


 無事に目的が達成できたことに安堵するレクトル。先ほど放った魔術はロイエンの推測とは異なり、幻影などではなく嘘偽りないA(クラス)の火属性魔術【煌爆炎(ブラスメテア)】だった。ただ、【魔術制御】を用いて威力、効果範囲、魔術効果などを絞っていただけだった。


 ロイエンがその結論に至らなかったのは【魔術制御】の性質による。レクトルが使用するように、【魔術制御】のスキルには全10項目(威力・弾数・速度・軌道・効果範囲・持続時間・速射性・魔術強度・魔術効果・魔力隠蔽)に関して、通常消費する魔力より過剰に消費することでその出力を変動させることだが可能だ。


 だが、それは威力や効果範囲を絞ったところで消費魔力が減るということではない。基準として存在する魔術から威力を上げようが絞ろうが、同様に追加で魔力を消費するのだ。


 それ故に、低級の魔術を使用するのではなく、わざわざ上級の魔術を過剰に魔力を消費してまで威力を絞って放つという行為に意味がない為、その推測に至らなかったのだ。レクトルは自分の能力を前提とした相手の意表を突くことで、時間を稼ぎ、また相手の取る行動から今後の作戦を立てようとしていた。


 結果としてそれは成功したと言える。ロイエンは先ほどまでの友好的な態度から一変したいきなりの大魔術の行使に戸惑い、攻撃ではなく身の守りに入った。まずレクトルが先手を取ることを優先したのは一重に自身の能力(ステータス)故だった。


 上がっているのは相変わらず魔力と理力、そして少しの速力のみで、防御面に至ってはサクラとの特訓やセピアとの戦闘で多少は上昇したものの、未だ二桁に突入したといったところだった。今回の相手はランクSのギルドマスターだ。ロイエンに軽く一発入れられただけでも、それだけで決着がつく恐れすらあった。


 その為、レクトルは稼いだ時間を使ってまず自身の強化を行うことにした。それも、特に守りの面に偏った強化だ。早口で詠唱を行い、その効果を重ね掛けしていく。


 守力を増加させる地属性魔術【立塞者(プロテクター)

 護力を増加させる風属性魔術【守抜者(ガードナー)

 速力を増加させる雷属性魔術【走駆者(クイッカー)

 状態異常耐性を強化する緑属性魔術【耐抗者(レジスタリア)

 感知範囲を拡大する無属性魔術【先天知(ハイセンス)

 周囲に物理攻撃を防ぐ盾を展開する闇属性魔術【守浮盾(フィジルド)

 周囲に魔法攻撃を防ぐ障壁を展開する光属性魔術【護覆壁(マジリア)


 各々の魔術はレクトルの周囲をその属性光を纏い包み込む。それは色は異なれど虹の様に煌き光る。一つ一つはそれほど階級(クラス)が高い魔術というわけではなかった。だが、レクトルにとっては発動すること自体が重要だったのだ。


「バカな……7属性……だと!? そんなはずは……いや、何らかの魔術道具(マジックアイテム)かスキルかね……?」


 その魔力光からそれが異なる属性の魔術であることを看破するロイエン。通常、魔術適正に関しては2属性持ちがそこそこ、3属性以上でかなり珍しく4属性以上となるとほぼ存在しなくなる。


 それが7属性……先ほどの【煌爆炎(ブラスメテア)】が幻ではなかった場合、8属性となる。ありえない。それがロイエンの下した結論だった。なんらかの絡繰りがあるはずだと思考を研ぎすませる。魔術道具(マジックアイテム)かスキルか、それを見極める事が勝敗に繋がると言わんばかりに。


 ロイエンは様子見は終わりだと手に持つ【千変万化(アシュト・ルミエ)】を握る手に力を込めると、その形が双剣へと変化する。レクトルをひと睨みすると、フッとその姿が掻き消えた。


 トッ、トッ、と一瞬姿が現れるにつれ瞬時に近づき、レクトルの横でキィン! と甲高い音が鳴り響く。


「むっ!?」

「うおっ! あぶなっ! いきなりだな!」


 ロイエンの双剣による攻撃をレクトルが展開していた【守浮盾(フィジルド)】が防いだのだ。その隙を逃さず反撃とばかりにレクトルが【起源刃:霊煌】を振るうが、所詮素人が振るう剣、その攻撃は容易く躱され、再びその姿が掻き消える。


 その後もロイエンは【守浮盾(フィジルド)】の合間を狙う様に連続で攻撃を繰り返すが、その全てが同じように弾かれていく。レクトルはその結果に安堵しつつも攻撃に気付くのが防いだ後という現状に悪態をつく。


(くそっ! 魔術で強化してもほとんど目で追えないぞ? 本当に人間か!?)


 正確には氷狼族という獣人なのだが、それでもレクトルには人が出せる動きには思えなかったのだ。まだセピアのようなスキルを使用しているのならわかるが、以前出会ったランゲールもそうだったが、魔術やスキルという不思議な力を使わずに瞬間移動みたいなことをやってのける意味が理解できなかった。


 だが、それはロイエンも同じだった。ロイエンは固有スキルのお陰で武器を使った戦闘が得意というだけで、何も魔術が苦手というわけではない。むしろ水属性の適性に至っては“氷原の英雄”の称号を与えられるほどに熟練していた。【魔力感知】もある。


(これも幻影なのかね? それともスキルなのかね?)


 だが、いくら展開された防衛魔術の綻びを見付け攻撃を仕掛けても見えない障壁に阻まれるのだ。なら、と今度は素直に実際に隙に見える、感じるところ以外に攻撃を仕掛ける。儀式魔術すら騙し偽る幻影魔術の使い手。自分の認識が正しいということ自体が間違っているのでは? と感じたからだ。


「くっ!」


 結果は同じ。甲高い音と共に弾かれるだけだった。連撃による複数個所の同時攻撃、緩急をつけた遅延攻撃、フェイント、様々な攻撃を試すがその全てが通らない。ロイエンの動きを上回る速度で魔術を制御しているのかと考えもしたが、どうにもレクトルが反応できているようには見えなかった。


 それもそのはずで、これもレクトルによる【魔術制御】の賜物だった。


 一度発動さえさせてしまえば【魔術制御】で効果時間を延長し、弾数によって量産できる。今回はさらにそれに加え、魔術強度、魔術効果により効果を増幅させ、一部を魔術隠蔽により感知できなくさせていた。


 見た目的にはいくつかの【守浮盾(フィジルド)】が浮遊し、一枚の【護覆壁(マジリア)】が覆っているだけだが、実際には隙間なくぎっちりと【守浮盾(フィジルド)】が存在し、何層にも重なって【護覆壁(マジリア)】が展開されていた。


 強度も過剰に供給された魔力により、上級の域に到達している。


 レクトル本人は感知しきれていないように見えるのに、対応は正確。ロイエンは一度距離を置き、対策を考える。


(全く……ランクといい、得体の知れない少年だね。剣はどう見ても素人。だが、魔術に関しては異常だ。これが本物なら複数の属性の魔術を同時に展開し、維持し続けているのだからね。間違いなく、申請通り魔術タイプの後衛なのだろう。だが、これだけでは実力が測れたとは言えないね。むしろ第三者の介入を疑いたくなるが……)


 チラッとこちらの戦いを眺める観客席のあるエリアへと視線を向けるロイエン。そこにはハラハラと二人の戦いを何やら話し合いながら見学している少年の仲間、魔王や天使たちの姿があった。だが、それは純真に応援しているようで、こちらに何かしかけている様子はない。


 それに、張ってある結界は外部への被害防止だけでなく、不正防止のため外部からの干渉も防ぐ機能があった。今の状態では負けることはないと思うが、勝てる見込みもなく、コレギア設立に対しての見極めにも足りない。ロイエンは奥の手の使用を視野に入れ始めた。



 レクトルはロイエンの猛攻をふんだんに魔力を盛り込んだ各種魔術で防ぐことができたことに安堵すると、ロイエンが距離を取ったことを機に次は攻撃方法について確認に移る。


「火球よここに、燃やせ!【火球弾(メボル)】!」

「ふん、何がしたいのかね?」


 ボヒュっとレクトルが放った【火球弾(メボル)】をまるで埃でも払うかのように【千変万化(アシュト・ルミエ)】を振るい軽くあしらうロイエン。


「さぁ、何がしたいんだろうな?」

「むっ!?」


 一度発動すればこちらのものと、ロイエンの言葉に何でもないように答え手のひらを上に向けるとボボボボボッと自身の周囲に大量の【火球弾(メボル)】を生み出すレクトル。


「これならどうだ?」

「甘い」


 手を突き出し生み出した【火球弾(メボル)】をロイエン目掛けて放つ。だが、その全てが類まれなる剣術により切り払われる。


(これは……)


 そこで、自身が切り捨てた魔術に対して違和感を覚えるロイエン。切り裂いた段階で爆発するものと掻き消えるものが存在したのだ。


(これも、幻影魔術なのかね……? 数でこの私を翻弄しようとでも?)


 再度レクトルへと視線を向ければ先ほどを超える数の【火球弾(メボル)】が生み出されていた。その各々に、力の緩急が感じられた。つまり……


「この私を試そうというのかね? いやはや、舐められたものだよ」


 また幻術が混じっているのだろう。もしかすると少年を覆っている魔力光も幻影なのかもしれないとあたりをつけると、これ以上自身が弄ばれるのが気にくわないロイエンは深く腰を沈め……


「ふっ!」

「……っ!」


 一気にレクトルの前へと跳躍した。慌てたレクトルは出現させた【火球弾(メボル)】を一気に放つが、またすぐ掻き消えたロイエンを捉える事ができず地面にあたり爆発する。


 それもつかの間、再度背後に現れたロイエンは【千変万化(アシュト・ルミエ)】に魔力を注ぎ、レクトルの障壁を切り裂いた。


「マジかよ……!」

「貰った!」


 それに慌てたレクトルがすぐさま【守浮盾(フィジルド)】を修復し、後ろに跳躍する。ロイエンの一撃により剣閃の軌道上に割り込ませた【守浮盾(フィジルド)】は容易く砕かれたが、それにより速度が落ちた為なんとか回避に成功した。


 速力はある程度成長しており、反応を強化していたお陰もあるだろう。それでも危機一髪だった。回避に成功した瞬間、同じ目はごめんだと【守浮盾(フィジルド)】に供給する魔力をさらに増加させ、何層にも渡って配置していく。


「ふむ……。やはり剣技は素人かね」

「うぐ、悪いな。……始めたばかりなものでねっ!」

「ほう」


 剣で受け止める事すらしなかったことから、隠しているわけでもなくお飾りなのだとロイエンは理解する。返ってきた回答もそれを認めるものだった。


 反撃とばかりに放たれた【火球弾(メボル)】をひょいと躱すと、その答えに満足し【千変万化(アシュト・ルミエ)】を今度は槍の形へと変化させる。


 剣は未熟。だが、魔術に関してはかなりの腕前。特に幻術を得意とし、相手を翻弄して戦うタイプ。ただ、使う魔術が低級のものがほとんどなのはそれしか扱えないのか、相手を殺すことが禁止だからか上級を使わないのか判断に迷っていた。


 一応の評価を下すと、後は状況への対処法だと足に力を籠め踏み込む。だが、狙いすまされた一撃はガキィンと再び【守浮盾(フィジルド)】に阻まれることとなった。先ほどまでの一撃よりも込められる魔力は多く、貫通力に特化した槍の一撃を以てしても、だ。


 しかも中途半端に貫通したせいで、槍となった【千変万化(アシュト・ルミエ)】は空中に固定されてしまっていた。


「これは……!」

「同じような攻撃が通じるわけないだろ! 我求めるは閉じ込める高温の牢獄、焼き――」

「甘いわ! 奥義【旋華(せんか)】!」

「なっ!」


 ロイエンは【千変万化(アシュト・ルミエ)】を一度やりの形状から変化させ、抜き取ると再び槍に再構築させ、すぐさま奥義を放つ。槍より突如吹き荒れた風の嵐が【守浮盾(フィジルド)】もろともレクトルを吹き飛ばした。

 

 奥義――それは魔術適正に各種階級の魔術があるように剣術などのスキルに備わった特殊な効果を持った技のひとつだ。ロイエンが放ったのは槍術のLv.5奥義【旋華】だった。巻き起こる風は風属性の魔術適正を必要とせず発生する技の極致だった。中には武術からはかけ離れた遠距離攻撃を可能とするものまで存在する。


「そろそろ終わりにさせてもらうよ」

「流石に気が早いんじゃないか? 焼き尽くせ【炎塔華(フレアクル)】!」

「ぬぅ!」


 レクトルは中断されていた詠唱を再開させるとロイエンを囲う様に炎の柱を発生させた。地面より立ち上る炎柱は先ほどまでとは異なり、確かな熱量を以てロイエンに襲い掛かる。


 徐々に迫りくる炎の柱にもロイエンは慌てる事なく、ゆったりと身構える。


「やれやれ、いい加減舐めるのも大概にしてもらいたいものだね。この程度で私を閉じ込められると思われているとは。幻術ではないようだが、所詮D級魔術。なんということはないね。【神風(かみかぜ)】」


 巻き起こる風の刃が【炎塔華(フレアクル)】を瞬時にかき消した。その手には双剣が握られている。


 だが、レクトルもそれで勝てるとは思っていなかった為、次策を行使していた。


「これは……」


 【炎塔華(フレアクル)】をかき消した先に待っていたのはロイエンを覆いつくすように周囲に生成された【火球弾(メボル)】だった。だが、ロイエンが感じることができる魔力でも、それは先ほどまでのものと比較にならない規模であることが一目瞭然だった。


「まったく……本当に得体が知れないね」


 その呟きと同時、大量の【火球弾(メボル)】がロイエンへと飛来し、盛大な爆発を引き起こした――


次回6/2更新予定。

この話を公開し始めてからついに1周年です!

一応、毎週更新は守れてる状態で一安心。気長に頑張ります。

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