068 報酬の条件
プロットは大まかな内容しか書かないので、細かく書くと想定より長くなりがちです。
前回あとがきに追加したので気付いた方がいるかわかりませんが、話が進まないので章タイトルを変更しました。
(この後の展開的に書きたい優先度が変わったともいう。本章は元々の章タイトルの導入までとなる予定です)
あって困るものではないが、想定よりも多い額を既にもらっていたので、これ以上請求するのは気が引けたレクトルは他に何かないかと模索する。不要と一蹴してもいいが、せっかくの機会なので逃す手はないと考え必要なものを頭の中で羅列していく。
そこで、レクトルは依頼を受ける前……冒険者への登録時のルーミエとの会話内容を思い出した。
「なら、コレギアの新規設立の推薦者になってもらえたりはできるのか?」
「コレギアの? 君が新しく設立させるのかね?」
思いがけないその提案に、ロイエンは再度問いかけた。その瞳は相手を見定め、意図を探る様に、真剣みを帯びていた。だが、レクトルとしては目的はある者の深く考えておらず、取り敢えず候補の一環として可能なのかどうかという軽い気持ちで聞いていただけだった。
「あぁ、ある程度事情は話したが、俺の仲間には特殊な立場の者が多いからな」
「なるほど、確かに。魔王に加え天使だからね……通常のコレギアに加入するのはやめた方がいいだろう。それはこれからも共に歩いていくという決意の表れなのだね。欲しいのは身分証の発行権限かな?」
「……察しがいいな。コレギアでも冒険者の登録ができるということだったからな」
「ここで発行しても構わないが、君が懸念しているのは情報の管理だろうね。確かに、記録、閲覧ができるのは登録した鑑定宝玉だけとなる。他のギルドやコレギアからも相互に自由閲覧が可能だが、最初に記入してもらった情報……名前や性別、種族、ランク、スタイルなどに限られる。それ以外の活動実績や能力評価などは別途承認が必要となる。自分で管理した方が安心できるのは確かだね」
「へぇ、そうなのか」
レクトルとしては現状のメンバーでの登録ができたとして、ハクナの事が気がかりだったのと、今後もし似たような立場の仲間ができた時にいちいち事情を説明するのが面倒だったからなのだが、思いがけないメリットもあるようだった。
ロイエンにとっても、この提案のメリットは大きかった。当初は価値の高いものを与え、その恩による繋がりをと考えていた。だが、コレギアとなれば目的はどうであれ依頼を請け負う組織となる。その性質上、拠点となる場所が明確化され、一定期間ごとのギルド本部への活動報告義務が生じる。
活動内容が商業、産業、護衛、討伐、調査、医療……どの分野に重きを置くにしてもそれは変わらない。ある程度の活動がなければ権限が剥奪されてしまうのだ。そもそもレクトル自身はコレギア自体が目的ではないのでその継続に力を注ぐかと言われると微妙なところだったのだが、継続が認可されなかった場合は鑑定宝玉も返還となる。なら少なくとも最低基準は満たすだろうとロイエンは考えた。
場所と連絡手段。それが確立されるのであればそれに越したことはない。コレギアの設立に関して問題はあるが、それもどうにかできるだろう。今回限りとならないということがロイエンにとって重要だった。
実際には最初にロイエンが推測したように身分証の発行権限があるということだけが目的だった為、レクトルはここまでのことは考えていない……というより知らなかった。コレギアという組織がどういうものなのか、1つの組織を運用するということが一体どういうことなのか、それを知りレクトルが後悔することになるのはまだ少し先の話だ。
「ふむ。ランクUというのがランクSの先にあるということであれば、私が推薦者になれば取り敢えずコレギア設立の条件は満たしていることになるね」
「どうするの? 予備の鑑定宝玉もあるからギルマスが承認するなら認可可能だけど?」
「いや、こればかりは流石に無条件にとはいかないね。仮にも私が推薦者として登録されるからにはそれ相応の理由が必要になる。ただ、現状の彼の実績は他に明かせないものばかりだからね。説明がつけられないのだよ。他の者に追及された時に答えられなくなる」
「ならどうするんだ?」
「そうだね……私とひとつ手合わせしてもらえないかな? それで君の実力を測らせてもらいたい。何も勝たないといけないというわけではない。コレギアの代表としての条件はランクA以上だからね。その素質有りと私に判断させればそれでいい」
「手合わせ……か」
「もちろん命を奪い合うようなものは無しだ。どちらかの戦闘不能か降参で決着としよう。どうだね?」
戦う気なんかこれっぽっちもなかったレクトルは意外な提案に迷っていた。コレギア自体そこまで真剣に考えていたわけではない。後々、できたらいいな、その程度の思いで聞いただけだったのだ。だが、今の流れ的にこのまま設立にまでいきそうな勢いに戸惑っていた。
ただ、言われた理由は納得ができるものだった為、特に断るつもりもなかった。
今迷っているのはその戦い方だった。この異世界に転移させられてから初の1対1の対人戦。しかも相手はランクSにまで上り詰めた物理、技巧派タイプだ。仮に戦い、何もできずに負けた場合、コレギアの代表として認めてはもらえないだろう。ある程度戦える必要がある。時間があれば色々と対策などを考えたものだが、想定外の事態だった為に準備が整っていなかった。
(それでも……試したいことはある……か。ダメだったとしても命に関わるわけじゃない。コレギアに関しても絶対必要というわけじゃないからな。ランクSの達人と命のやり取りの心配なく戦える機会なんて早々あるものじゃないはずだ。なら……)
レクトルはロイエンへと視線を向けると、憎たらしい顔が目に入る。苛立たしいその顔はちょこちょこと考えていた戦略の実験台にちょうどいいじゃないかと思いを固める。
「それでいい。場所はどこでするんだ? できれば人目に付くところは遠慮したいんだが」
「お、やる気になったかね? そうだね……この地下に訓練場があるんだが、そこでいいかね? それなりに広く、障壁もある為安全だよ」
「私も師匠が戦うところ見てみたい!」
「いいんじゃないかしら? もちろんサブマスターである私も見学するわ。ひ……あー、あなたも見るわよね?」
「はい、ぜひご一緒させていただきます」
「もちろん私たちも見るわよ。主らしい戦い……期待してるわね」
「お兄ちゃん、頑張ってなの」
「大変ですね。ご主人様も」
サクラが見学を表明するとそれにルーミエが許可を出した。メイドにも確認を取ると、ベル、セピア、ハクナがそれに続く。
結局今この場にいる全員が移動する形となった。そこでレクトルはあることが気にかかりロイエンへと問いかける。
「ちなみに、扉の前にいる兵士たちはどうするんだ?」
「そのまま立っていてもらうよ。訓練場へはここから直接移動できるからね」
「そうなのか?」
「あぁ。きたまえ」
ギルドマスターの護衛としているのであれば、ついてくるのでは? と思っての言葉だった。事情を知らない兵士がついてくるのは遠慮願いたいレクトルはそれでいいのかと思いつつも安堵する。
ロイエンが立ち上がると部屋の端にある棚の上に飾ってあった置物に手を翳す。そのまま魔力を通すと壁の一部が四角く波打った後にスゥっと消え、そこに下へ降りる階段が現れた。
「隠し通路か」
「一応ね。通常の道もあるが、こちらはどちらかというと避難か要人用だね。こちらから入る時は通常の通路側はロックされる。途中で誰かが入ってくることはないよ」
「なるほど」
「では、ついてきたまえ」
ロイエンがそのまま階段を降りていってしまったので、サクラたちを立ち上がらせてレクトルもその後に続く。ルーミエは勝手な行動に「はぁ」とため息をつくと、メイドの方に向かいエスコートしながら最後尾を降りていった。その時にルーミエが内側の壁に埋め込まれた水晶に手を触れ魔力を通すと、先ほどとは逆に道が塞がれていった。
階段は足元がギリギリ確認できるような絶妙な明かりで灯されていた。レクトルはその漂う雰囲気を不気味に感じつつも一本道の為迷うこともなく訓練場へと辿り着く。
「君はこっちにきたまえ。見学組はそっちの扉だね」
「わかった」
「師匠、頑張ってね!」
「あぁ。そうだ、ベル」
「なに?」
「一応、サクラたちの事頼むな」
「え? ちょ、ちょっと……」
「むー」
レクトルはベルの頭に手を乗せ、サクラたちの護衛を任せる。精神的に幼いサクラやセピアならまだしも、ベルに対しそういった対応を取ることが無かった為、ベルは戸惑いの声を上げた。その顔は少し赤く染まっている。その光景を見て、不満の声をあげたのはサクラだった。
「ベルベルだけずるい!」
「え? い、いえ、こ、これは違うのよ、サクラ」
「サクラも、応援よろしくな」
「うん! 任せて!」
何故言い訳をしないといけないのか、自分でもよくわからないまま手と首を振って否定するベル。むくれるサクラを見て、レクトルはサクラにも同様に頭を撫でて頼み事をする。それに満足したのか笑顔で答えるサクラ。
レクトルとしては理由があってしたことだったのだが、その理由を話すことはしなかった。レクトルはそのままロイエンの案内に従い、広場へと出る。
「なんなのよ、もう……」
その後ろ姿を撫でられた頭を押さえながらベルが見送った。いままでそんなことをされたことが無かった為、その意図がわからず、その表情はいまだ戸惑いに満ちていた。
レクトルが手合わせの場としてロイエンに案内されたそこは洞窟の中のように整備されていない壁に覆われていたが、崩れるような気配は感じられない。さらに、広場の中央には直径20mくらいの円形に沿って障壁を展開する魔術道具が配置されていた。
レクトルとロイエンが中に入るのを確認し、ルーミエが術式を起動させる。ドーム状に障壁が形成されるのを感心したようにレクトルが眺めていると、ロイエンが試験の詳細の説明を始めた。
「勝敗の条件は先ほど述べたように、どちらかの気絶か降参の言葉だ。また、相手の命を奪うような行為は禁止とする。その場合は罪人として扱われるため注意したまえ。それに加え、この障壁が破壊された場合は試験を中止する。彼女達の安全の為にも、過度な攻撃は控えるように。ある程度の怪我なら聖女の娘であるルーミエ君に治癒の魔術の心得があるので対処可能だ。ここまでで何か質問はあるかね?」
「この障壁? はどれくらいの強度があるんだ?」
「一応、ランクSの魔術攻撃やLv.10の奥義にも耐えられるようにはなっている。余程の事でもない限り壊れることはないよ」
「そうか、わかった」
奥義? と頭に疑問符を浮かべつつも安全ならそれでいいと了承する。
「では、いいかね? 審判はルーミエ君に務めてもらう」
「はい。それじゃあ、白線の前に立って構えてね」
その言葉にロイエンの腕に巻き付いていたリングがほどけ、剣の形を形成していく。形状を自由に変化させられる世創道具【千変万化】だ。ロイエンは万が一に備え、形状を変化させて身に着けていたのだ。レクトルはその光景に驚きつつも、自身も【保管庫】より【起源刃:霊煌】を取り出し魔力を通し刃を形成する。
「ほう……近接型なのかね? 登録では完全に後衛だったと記憶しているが……」
「どうだろうな」
素っ気無く答えたレクトルは西の森でも目にしたロイエンの武器をじっと見つめる。それは明かりがあるとはいえ、地下の空間、その少し暗がりの中にある為かかなりの輝きを放っていた。
(透明なボディの中に、光の粒子が揺らめいている……もしかしてあれがオリハルコンなのか? しかも、硬い金属なのに形状を変えられるのか。まさか、それでいろんな武器を? オリハルコンの特性かあの武器の特性かはわからないが、見た目に惑わされない方がよさそうだな。まぁ、それはこちらも同じか)
レクトルがある程度憶測を立てていると、審判を行うルーミエがゆっくりと手を挙げた。
「では、正々堂々と戦うように。はじめ!」
「はぁあ!」
「む!?」
その言葉と同時に横に振られた手を合図に、レクトルはその場から一歩も動くことなく【起源刃:霊煌】を横薙ぎに全力で振るう。その際、魔力を込める量を増大させ、その刀身を延長させた。
【起源刃:霊煌】の【魔力刃】は込める魔力次第でかなりの範囲で自由に刃を形成することができた。膨大な魔力を込められた魔力刃は優に10m以上は離れたロイエンとの距離を瞬時につめる。
ロイエンは虚を突かれたその攻撃をしかし落ち着いて迎え、【千変万化】で受け止める。通常なら実態を持たない刀身である【起源刃:霊煌】の刃を物理的な刃で受け止めることはできず通り抜けるだけなのだが、受ける刃に魔力を通す事で触れる事が可能となる。特にオリハルコンはその魔力の浸透性に優れた特性を誇っていた。
「まだまだ!」
「これは!?」
だが、レクトルはそれをも見越していたのか、休む間もなく追撃をかける。受け止められた状態のままレクトルはさらに【起源刃:霊煌】へ魔力を供給し、その刀身から幾重の刀身をさらに分岐させロイエンへと殺到させた。
もはや剣とは呼べないドドドドドと押し寄せる刀身をロイエンは柔軟な身のこなしでかわし、弾き、時には受け流していく。
「無茶苦茶だね」
レクトルはその光景をただ眺めていたわけではなく、繰り出す刀身とは別に【並列制御】を駆使し魔術の詠唱を進めていた。
「我祈るは破壊の具現。力の象徴たる炎の意思よ。愚かに蠢く有象無象に慈悲すら残さぬ鉄槌を」
ロイエンは反撃の隙をうかがい、的確に攻撃に対処していた。そして、その隙を見付けいざ反撃に動こうとした瞬間、足元を大量の魔法陣が埋め尽くしていく。
「これは……まさか!?」
その魔法陣は障壁内の地面を完全に覆いつくす範囲にまで広がっていた。そして、詠唱を終えたレクトルが発動のトリガーとなる術名を唱え、起動する。
「爆ぜ散らせ【煌爆炎】!」
それは火属性魔術のA級に分類される人体など軽く消し飛ばす威力を誇った広範囲殲滅魔術だった。そのいきなりの所業に、ロイエンは動揺、驚愕しながらも辛うじて対処に動く。
「くぅ!」
「師匠!」
「…………っ!]
外で見ていた者たちすら息をのむ光景。カッっという光の後、障壁の内部を凄まじい轟音と爆発の嵐が吹き荒れた――
次回5/26更新予定です。




