065 勇者の力
本人が登場すらしていないのに設定が明かされる勇者。
登場はまだまだずっと当分先の予定です。
「ベル……お前も災難だったんだな……」
「なに? バカにしてるのかしら? 顔が笑ってるわよ?」
「そんなことはない」
確かに笑いを堪えていたレクトルはムニムニと自分の顔を弄り、なんとか平静を装うが時すでに遅い。ベルのジト目は消えなかった。その向かい側ではロイエンが納得がいったとばかりに自身の顎髭を撫でていた。
「これが聖女ティリエの力……まさしく、勇者の力ということだね。というより、あの少女は見たことがあるね。そうか、彼女が……」
「あああああああああああああああ」
ロイエンは変身前と変身後のティリエと面識があったが、別人として知っていた。この時初めて勇者の仲間と魔王を封印した聖女が同一人物だということを知ったのだった。
そして、自分の母親の恥ずかしい姿を公開されたルーミエは悶絶していた。追撃の“聖女”というロイエンの言葉が突き刺さる。その言葉の意味が分からなかったレクトルはロイエンへと問いかけた。
「彼女が聖女なのか? それに、今のどこら辺が勇者の力なんだ?」
「魔王を封印した功績で聖女に認定されたのだよ。それに、君は知らないだろうが勇者の力は自身ではなく、他者に影響を与えるものなのだよ」
「他者に?」
「あぁ。しかも、女性限定、かつ若い子に限られる……ね」
「それはまた何とも定番な……」
ラノベを愛読していたレクトルが頭に思い浮かべるのは、自分と同じようにこの世界へ招かれた異世界人が、女神より与えられたチートな力を使って強い少女ばかりを仲間に加え魔物や魔王と戦う勇者の姿だ。
「定番……?」
「あぁ、いや、ハーレム野郎の事は置いといて、勇者の力そのものについてはどんなものだったんだ?」
自分の失言を誤魔化すように、気になっていたことを再度問いかける。ベルの映像で流れていた姿からも勇者がレクトルと同じ世界、もしくは似た世界から来た異世界からの来訪者である事は明白だった。
だとすると、強力なスキルを保有している可能性が高くなる。瘴気と共に生きる者に対し特攻性を持つという勇者は、レクトルの今の仲間からしたらできれば関わりたくない相手だった。もし出会った時、相手の力を知っているかそうでないかでは対応に大きく差ができる。
だが、ロイエンから返ってきた言葉はレクトルの予想に反するものだった。
「ハーレム野郎? どうやら勘違いをしているようだが、勇者は女性だよ。そこのサクラ君……だったかな? 君の仲間と見た目そう変わらないね」
「え? サクラと……?」
「……?」
自分を見つめるレクトルに、話をよく聞いていなかったサクラは戸惑いながら首を傾げていた。どこか可愛らしいその姿に、レクトルは何でもないとポンポンと軽く頭を撫でるとそのまま思考にふける。
サクラと同じくらいの勇者が若い少女に限定された力を発揮する。普通に考えたらイケメンばかりを集めたパーティで聖女でもやらされそうなものなのにと考え、あることが思い浮かぶ。
「もしかして、勇者は男性嫌いなのか?」
「いや、あれは男性が嫌いというよりは、どちらかというと少女が好きといった感じだったね」
「なるほど……そっち系か」
レクトルの中で、勇者は百合かロリコンとこの瞬間に決定づけられた。そういうことなら、見た目少女にしか見えないベルやセピアは大丈夫だろうかと警戒の段階が少し下がる。いや、別の意味で警戒心がはね上がった。
だが、肝心の力についてはさっきから話がそれてばかりでまだ何もわかっていない。
「力については?」
「随分と彼女の力を気にするのだね。君はあまり自身の力を知られるのは嫌なのではないのかい?」
「う……それは」
余りにもな正論に言葉に詰まるレクトル。自分の力は秘密だが、勇者の力を教えろと言うのは理不尽な要求だ。さっき、ベルへの侵攻の際に偉そうなことを言っておいてこれでは説得力もなくなってしまう。
仕方がないとレクトルは諦めかけていたが、そこで呆れたように少しため息を吐いたロイエンが呟く。
「まぁ、彼女の力については有名なので隠すほどの事でもないのだがね」
「え?」
「まぁいい、いずれ分かることだ。今ここで教えた方が君の話を聞くときに有利に働きそうだしね。それに、君の気持ちも分かる。魔王が仲間にいるのであれば、勇者の力は君達にとって脅威だろう。君達との関係が険悪なものになるのはこちらも避けたいところだしね。知ったところで何か対策が立てられるものでもない。別に構わないよ」
「そうなのか?」
「あぁ、隠すことなくむしろ嬉々として自身の力について語り広げていたのは彼女の方だからね」
思いがけないロイエンの言葉にレクトルは驚く。こちらの意図がわかってなお力を明かすことをいとわない、対策が難しい力。それでも、何も知らないよりはマシだとレクトルは考えていた。
仮にも恐らく戦うことがほとんどない世界からいきなりやってきて魔王すら退けうる力を保有するに至っているのだ。生半可な力でないことは理解していた。
いよいよ明かされる勇者の力に、レクトルはそれに抗う覚悟を決め、思わずゴクリと喉が鳴る。
「勇者リサ・ルクウィーリトゥム・セキハラの固有スキルは【職業扮装】。自身が製作した装備に職業と呼ばれる役割を与え、あるリスクと引き換えに装備した者にその役割に添った力を授けるものでね。それが装備できるのは勇者自身に認められ、勇者装備を与えられた従者に限られる。その者たちは尊敬の意を込めてこう呼ばれているよ……職業解放者、と」
「は…………?」
まさに開いた口が塞がらないとはこういう状況の事を言うのだろう。その顔は変身したティリエを見た時のベルよりも間抜けな顔をしていたかもしれない。
この世界では本来コスプレという言葉は存在せず、その言葉は十中八九勇者が製作した装備の事を指す。後はそれにあやかって何人かの商人が似たものを売り出しているくらいだった。
元の世界での言葉の意味を知らないロイエンは至って真面目に話していたが、レクトルにはその力の名はもはやギャグにしか感じられなかった。ドッキリを疑うレベルにその思考は混乱している。いまだにロイエンの言葉を呑み込めず、思考の端でくすぶり続けていた。
「どうしたのかね? やはり、脅威に感じるかね? 何せ勇者の力を纏った装備を無数に生み出す力だからね。その種類は千差万別。ある条件さえ満たせば、複数の者に与えることが可能ときた。現に、今勇者装備を与えられている者は優に20人を超えているという。誰がその力を得ているかもわからない。力も様々となれば対処は難しいと言わざるを得ないだろう?」
「すまん、ちょっと待ってくれ……」
レクトルは頭を抱え、聞くに堪えないロイエンの言葉を手で制止させる。深刻かつ真面目な話なはずなのに、ふざけているようにしか思えない。それでも頭の中でなんとか情報を整理し、対処を考えていく。そこで、ロイエンの言葉の中にあったある内容が気になった。
「ん? その、コス……勇者から装備を授かった者が負うリスクってなんなんだ?」
「あぁ、人によってはリスクとはならないのかもしれないが、勇者装備を授かった時点で成長が止まるのだよ。その影響は肉体的な事に留まらず、能力面にも及ぶ。まぁ、その分勇者装備には強力な力や能力があるのだが……まさに、少女を好む彼女らしい力だとは思わないかね? なにせ、装備を与え契約を交わした時点でか弱い少女の姿と力を永遠のものとするのだからね」
「それは……不老不死にするということか?」
「いや、流石にそこまで万能なものではないよ。言葉のまま、成長しないだけだね。10歳で授かったなら10歳のままそこで成長が止まる。故に、のちに訪れる老化もない為寿命が来ない。だが、それ以外は別だ。大怪我を負い死ぬこともあれば、病気にもなる。当然だね。守りに特化した勇者装備でもない限り、その身体は一般的な少女でしかないのだから。そして、特筆すべきところはその止められた成長の力は製作者である勇者へと送られることだ」
「勇者に?」
「これが途轍もないのだよ。数値に囚われない技術や知識は別だが、能力値の成長値やスキルの熟練度は勇者に加算され、本来肉体を育てるはずだった生命エネルギーは勇者の老化を防ぎ寿命を引き延ばすのだよ。彼女が勇者としてこの地に呼ばれて40年近く経過しているが、従者と同じく未だに当時のまま若く瑞々しい姿を保っているよ。今では《勇者の楽園》というコレギアを作って慈善活動をしているようだが、一部からは不老集団なんて呼ばれているね」
「それは……かなりエグイ力だな……」
レクトルは勇者の力がまるで一種の依存症に近い力に感じていた。強大な力を持った装備を与えることも、若い姿を保たせることも。装備を手放せば、残るのは成長しない肉体。解除できたとしても時の流れに残された停滞した身体。力を求めて装備を使えば、その力は勇者に送られる。
まるで裏で暗躍し自らの手を汚さずに事を成し、力を集める悪役のようだった。とても勇者が持つ力とは思えない。しかも質の悪いことに対象にされているのが少女という事実がレクトルの琴線に触れた。
まさか、同郷の者の手によってこの世界の子供が虐げられているのか。その未来を、可能性を奪われたりしているのか。そのことに気付いた時、レクトルの中に勇者に対して怒りの感情が灯り始める。
「その勇者に装備を与えられた者というのは、強制されているのか?」
「む? いや、どちらかというとあれは彼女達が望んだことだね。それに、ただ装備として使う分ならリスクを負う必要はない。真の力を発揮するため従者となる契約をした時だけだからね。むしろ勇者が彼女たちに向ける気持ちよりも、職業解放者たちが勇者リサに向ける愛情の方が大きく、本気なくらいだよ。なにせ、勇者に助けられた者たちがその大半を占めるからね」
「そうか……」
勇者に戦いをしかけることすら考え始めていたレクトルはロイエンの言葉に安堵の吐息をこぼす。その様子を見ていたロイエンがニヤリと笑みを浮かべた。
「なんとなく、君という人となりがわかってきた気がするよ。まぁそこは心配する必要はないよ。そんな相手と子供を作ったりもしないだろう?」
「そうだな。子供なんて……は? 子供!?」
「ん? あぁ、そういえば言ってなかったかね。勇者と職業解放者の間には子供を授かった者がかなりの数いるのだよ。何を隠そう、ここにいるルーミエ君も勇者リサと聖女ティリエの間に生まれた黄金の血を受け継ぐ者なのだよ。私とて不思議なのだがね。成長が止まった身体で子供を授かれるというのは」
また、自分の秘密を勝手に明かされたルーミエは抗う気力をなくし、机に突っ伏している。ロイエンの言葉にビクッと身体を震わせるが、起きあがる気配はない。
「いや、そこじゃない。そこも確かに気にはなるがそこじゃないんだ。ちょっと待ってくれ……聖女ティリエってのはさっきベルを封印してたあの魔法少女の事だよな?」
「そうだね。よく知っているね。確かに彼女があの後勇者と契約し、得た勇者装備に込められた職業は魔法少女だよ。その力は――」
「いや、そんなことはどうでもいいんだよ」
レクトルは勇者の固有スキルを聞いた時以上に混乱していた。ふざけた名前程度ではない。それはレクトルの常識にとってありえないものだったからだ。
「勇者は女性なんだろ? そして聖女ティリエ? も女性だったはずだ。この世界では女性と女性の間に子供ができるのか?」
「普通はありえないね。これも勇者の力らしいね」
「万能すぎだろ、勇者の力」
もはや何でもありかとその時点でレクトルは勇者に関する思考を放棄した。取り敢えず、魔王よりもヤバい奴とだけが認識として残っていた。
「少女好きなヤバい奴とか、ベルの事関係なく関わりたくないな」
「私としては君も大差ないと思うのだがね……」
「俺が? 勇者と? 冗談……」
そこでレクトルは自分と勇者の共通点を比較していった。
少女を集め、仲間にしている。
装備を与え、戦力を強化している。
契約を交わし、従者としている。
強大な力固有スキルを保有している。
異世界からの来訪者である。
レクトルの力によるものではないが……寿命が長い者が多い。
ロイエンが思っている以上に、その共通点は多かった。それはつまり、レクトルが勇者リサに対して感じたように、周りもレクトルに対して同じように思っている可能性が高いということだった。
「マジか……」
驚愕に打ち震えるレクトル。ロイエンは想像以上の落ち込みように勇者に失礼ではないかね? という言葉をなんとか飲み込み、話題の転換を試みる。元より、それが彼にとっての本題だった。そのための準備を進めていたのだ。余計な話だけで終わらせるつもりはなかった。
「勇者の力についてはもういいかね?」
「あ、あぁ、そうだな。いろいろと助かった。よくはわからなかったけどな」
「何、構わないよ。私としてはそろそろ君達の話を聞きたいのだがね。差し当たっては、聖女に封印された東の魔王が復活した経緯などを……ね」
その瞳はここからが本番だと言いたげに、真剣みを帯びていた――
戦闘はまた次回……まるで章タイトルを無視して勇者編に突入しそうな勢い。
次回5/5更新予定です。
ついにやってきた長いGW……! といっても、休日出勤があるので一般的な10日とはならないんですけどね……




