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061 妖精の事情


「うぉ!」


 いきなり放たれたあまりにもな絶叫にレクトルは驚き、耳を押さえる。両手で両耳を押さえた為、妖精が囚われた檻から手を放す結果となり檻はそのまま落下し地面へとぶつかった。


「ぎゃん!」


 図らずもその衝撃で妖精は叫びを止め、受けた衝撃に目を回していた。


「――っ、いきなり叫ぶか普通?」

「うるさかったよー」

「びっくりしたの」


 レクトルは落としてしまった檻を再び拾い上げる。まだクラクラと目を回しているからか、妖精が再び叫び声をあげることはなかった。レクトルは観察するように檻の中を覗き込む。裸ではない。簡素ではあるが、服はちゃんと着ているようだ。背中に生える羽も含めて、その姿はレクトルが思い浮かべる妖精像そのものだった。


「しかし、妖精か。精霊とはやっぱ違うのか?」

「妖精は精霊とは違ってひとつの種族なの。クルスも動物型の妖精なの」

「そういえば、サクラもそんなこと言ってたな」

「うん。フェニアに教えてもらったんだよ」


 元妖精のクルスに【生存本能(コナトゥス)】の意思が入ったのか、【生存本能(コナトゥス)】の意思が妖精として具現化したのかはよくわからなかった。物心ついた時からクルスとは一緒だったとセピアはレクトルに語った。隣にいるのが当たり前の存在。だからこそ失って悲しかったのだと。


 今となっては敬遠していた【生存本能(コナトゥス)】と同一の存在ということを知り戸惑っているようだが、それでもサクラと一緒にクルスを抱いて寝ている辺り根っこの部分では変わらないんだろうなとレクトルは思っていた。


 妖精としての定義も曖昧だ。クルスは動物型というが、見た目ぬいぐるみにしか見えない為レクトルには無機物型とかじゃないのかと疑問に感じるほどだった。他の種類も本来の姿とはどこか外れており、一目で妖精だとわかるのだとか。


「クルスが動物型ってことは、この妖精にも種類があるのか?」

「小人型だと思うの。他にも水棲型と植物型がいるの」

「へー。でも、俺としては一番このタイプが妖精って感じがするな」

「起きないの?」

「うーん」


 サクラの問いかけにレクトルは微妙な顔をする。目を回しているだけっぽいので起こすことはできるだろうが、その後がまたさっきの繰り返しになりそうで面倒事を避けたい身としてはなかなか行動には移れなかった。


「一応、この檻は壊しとくか」

「どうするの?」

「そうだな……サクラ、妖精を傷つけずに檻の鍵だけ斬れるか?」

「任せて!」


 頼まれた事が嬉しく、サクラが手を挙げて了承する。フンスと意気込むサクラだが、逆に妖精を傷つけないか不安になるレクトル。鍵のある方をサクラの方へ向けると、サクラは【星桜刀】を出現させた。その瞬間、その瞳はすぐに真剣な、研ぎ澄まされたものへと変わっていく。


 一息つき、サクラが呼吸を整える。そして、一閃。振る時の刀の向きなどを教えていたのは一体いつ頃だったかとレクトルが戸惑うほどの綺麗な剣筋を以て見事に鍵が真っ二つに分断され、下側がポトリと落下した。


 レクトルはその切れ端を見て斬られた事を知り、その際に檻を持つその手にまったく抵抗を感じることがなかった事に驚いていた。【星桜刀】の切れ味がすごいのか、サクラの技量が異常なのか、どちらにせよそれは達人の域に達しているように感じられた。


「……流石だな。こりゃもう免許皆伝なんじゃないか?」

「ま、まだまだだよ! 師匠と特訓、もっとしたい!」

「あ、あぁ、そうだな。サクラは向上心があってエライな」

「えへへ」


 レクトルがこれ以上一体何を教えろと……と呆れながらも要望を満たしてくれたサクラの頭を感謝の気持ちを込めて撫でる。サクラは褒めてもらえたことが余程嬉しかったのか、満足げに笑っていた。


「うー、頭がクラクラする……」


 すると、目を回していた妖精が意識を取り戻した。レクトルはまた叫ばれたら堪らないと、扉を開けた状態で檻を地面に置いた。


「大丈夫か?」

「はっ! あんたはさっきの! わ、私は食べてもおいしくないよ!」

「食べねぇよ。失礼だな」


 さっき叫んだ時といい、何故食べられると思ったのか不思議に思うレクトル。まさかこの世界の人族は妖精を食べるのか? と驚愕の事実に内心動揺を隠せないでいた。


「あ、あれ? 人間??」

「他の何に見えるんだよ……」

「え? いや、その……え?」


 何か理解できないものでも見るような目で何度もレクトルを見て頭を傾げる妖精。恐怖もなくなったのか、檻の奥で震えたいた場所から徐々に身を乗り出し顔を出す。そしてあることに気づく。


「あ、あれ? 檻が開いてる???」

「あぁ、もう出られるぞ」

「も、もしかして助けてくれたの?」

「そうだよ。悪者もセッピーがやっつけたんだよ」


 そういってサクラはベルたちに拘束されている賊の方を指さす。


「な、なんだー、それならそうと言ってくれればよかったのに」

「言う間もなく叫ばれたからな」

「あはは。でも、ありがと。助かったよ。セッピー」

「セッピーは俺じゃねぇ」

「あれ?」


 レクトルはセピアの両肩を掴み、自分の前に立たせる。


「賊をやっつけたのはこのセピアだ」

「君がセッピー? ……セピア?」

「セピアが名前で、セッピーはサクラがつけたあだ名だ。檻の鍵を開けてくれたのもな」

「なの」

「そうだよ!」

「なるほどなるほど。とにかく助かったよ。私はシャオルー。このお礼はいつか必ず返すね。それで、君は?」

「んっ? 俺か? 俺はレクトルだ」

「レクトルね。……それにしても君、すごい魔力だね。いやー、あまりにも強大な魔力なだったから、化け物にでも襲われたのかと焦ったよー」


 頭をカリカリとかきながら、妖精シャオルーはレクトルを見て脅えていた理由を語った。どうやら妖精は魔力を感知する器官が他の種族より発達しているらしく、レクトルの魔力を過敏に感じ取ってしまったようだった。


 その感じ取った魔力の質と量が今まで感じたどの魔物よりも異常だった為、化け物に襲われたと勘違いしたとのことだった。特に小人型の妖精は魔力の感知に優れており、見た目よりも魔力で相手を判断するらしい。逆に動物型は見た目、植物型は匂いなんかで判断するという話を聞き、レクトルは思わず自分の匂いを嗅いでいた。匂いと強さの関連性がいまいちわからなかったからだ。


「まぁ、自分で言うのもなんだが、魔力だけはあるからな」

「そうなんだ……ねぇ、その強大な魔力を見込んでお願いがあるんだけど……」

「お願い?」

「うん。私、最近この辺りの魔力が淀んでいたのと、あいつらに捕まってまともに聖樹へも帰れなかったからさ。魔力が心許ないんだ」

「聖樹……ねぇ。世界樹みたいなものか?」

「聖樹は精霊女王(ティターニア)が住まう神聖な樹で、聖樹がある場所は魔力が満ちた“精霊の聖地”って呼ばれてるよ」

「ほう……精霊の」


 レクトルは思いがけず手に入った精霊の情報に興味を示す。今朝レアと話していた“精霊の恩寵”が頭をよぎる。見送ろうとしていたものが、また手の届くところに転がり込んできた感じだ。


「それで、もしよかったらレクトルの魔力でこの身を癒したいんだけど……いいかな?」

「そういうことなら構わない。魔力に関しては困ることはないからな」

「ありがとう! 3日もあれば安定すると思うから!」

「あぁ。……ん? 3日?」


 それはどういう意味だ? とレクトルが問いかける間もなくシャオルーの姿が黄色い光の塊になると、スーっと漂う様に移動し、そのままレクトルの胸の中へと入り込んでいった。


「……え?」

「師匠の中に入っちゃった」

「大丈夫なのか? これ。どういう状況?」


 レクトルは驚き、少し身体を動かすが妖精が出てくることはない。


「多分、お兄ちゃんを聖樹の代わりにしようとしてるの。妖精は宿り木から力を借りて生きるものなの。クルスもセピアから力を貰ってるの」

「そうなのか」


 たどたどしいセピアの説明になんとなく魔力の吸収源となる依り代みたいなものが必要なのだろうとレクトルは解釈する。取り敢えず3日経ったら出てくるのだろうと、一旦今回の事は保留にすることにした。


 身体の中に妖精がいるというのは不思議な感じだが、特に何も変わったを感じなかったからだ。魔力を吸われているのかもしれないが、今となっては微小な変化は感じることもなくなっていた。


 レクトルは他に目ぼしいものがないことを確認すると、ベルたちの場所に戻っていく。


「何かあったの? 随分な叫び声が聞こえたけど」

「あぁ、妖精が捕らえられていたんだ」

「妖精ですか? はっ! もしかして食べちゃったんですか!?」

「なんでそうなる……」


 ハクナの言葉にレクトルが恨めしい目線を向ける。サクラもセピアも一緒にいたから問題なかったが、誤解を招く言葉はやめてほしいと思うレクトル。冗談も時には大きな被害となる。


「だって、その妖精と一緒じゃないですし、食べないでって叫び声がさっき……」

「そんなわけないだろ。この世界では妖精は食べるものなのか? 例えお金を積まれても御免こうむるな。妖精なら色々あって今は俺の中に入っていったよ」

「あぁ、そういうこと」

「やっぱり、どこも魔力がないですからね……」

「わかってたんなら変な冗談はやめてくれ……」


 はぁ、とため息を吐くとレクトルは地面に転がる賊へと向き直る。起きていたはずの貴族の男も今は何故かのびていたが、特に気にすることなく問いかける。


「それで、何かしゃべったのか?」

「いえ、貴族だなんだと、こんなことをして許されると思っているのかと喚くばかりだったのでベルフェゴールが……」

「五月蠅かったのよ。気づいたらやってたわ。もちろん後悔はしてないわよ? お陰で静かになったもの」

「あーはいはい。ちょっと期待してた俺がバカだったよ」

「それでどうするの?」

「どうするって……」


 賊は貴族だという男含めて全員が気を失っていた。一応気になったレクトルは賊に対し【魔力解析(アナライズ)】を実行する。最初の2人は冒険者の成れの果てといった感じだった。ランクもⅮと高くない。


 そして貴族だと喚いていた男の名に関してはハイン・ノート・フルールと表示された。ミドルネームがあることからも予想がつくように、はったりなどではなく本当に貴族だった。レクトルが確認した能力値(ステータス)からわかる階級は男爵だ。ただ長男なのかどうかなどは能力値(ステータス)からはわからない為、この貴族の親にとってこの男の重要性まではわからない。


 この国、アルトフェリア王国では一般的な国王を頂点とした公・侯・伯・子・男の五等からなる五等爵が採用されている。他の国でも基本的には変わることは少ないが、頂点に君臨する者は国王の他、皇帝や教皇など様々だ。小国においては大公なども存在する。


 逆にそれら全てに属さない、国王の位より上の階級も存在していた。国の頂点より上。それはつまり、世界に認められた者に送られる階級だ。主に冠位に認定された者に与えられるものだが、今回は特に関係がない。


 賊と手を結んでいた男の階級が男爵となれば、階級としては貴族の中で一番下だった。それでも貴族であることに変わりはない。明らかに面倒事になる未来しか見えないレクトルは対応について悩んでいた。


 このまま放置していても顔を見られてしまっている以上、後々面倒に巻き込まれる可能性は高い。かと言って、街に入る前に出会った盗賊と同じように門番に差し出すにしても説明を求められるだろう。これからギルドに顔を出さないといけないのに、無駄に時間を取られたくはなかった。


 ましてや貴族だ。目を覚ませば犯した罪をはぐらかされたり、あることないことを言われるかもしれない。権力の力で罪から逃れることもあるだろう。レクトルは元の世界の知識から貴族に対し、あまりいい印象を持っていなかった。まぁ、それは悪役として貴族が描かれるものをよく読んでいたからだろう。そして報復にあうのだ。


「いっその事消し飛ばすのはどうかしら?」

「冗談でもやめてくれ。サクラたちもいるんだぞ。それに、大した被害を被ったわけでもないのに、人殺しになる覚悟は持てそうにない」

「難儀な性格ね。この世界じゃ賊なんて殺されて当り前よ?」

「だとしても、だ。俺と共にある限りはそこは控えてほしい。まぁ、そうしなければ仲間が傷つくっていうなら話は別だが……余程の事がない限りは大丈夫だろ?」

「まぁ、そうね。分かったわ。主の意向には従うわよ? でもそれならどうするの?」

「そうだな……」


 レクトルは転がる貴族を見て、襲い掛かる前の会話を思い出す。そして躊躇いなく決断するのだった。


ギルドまでの道のりは長いですね。3章冒頭に戻る頃には忘れられてそうです。

その代わり、いつもよりは少し早めの更新。遅れ気味だったのを戻していきたい。

今年度も今日で終わりです。そして、あと2ヶ月もすればこの作品投稿からもう1年。

長い様であっという間ですね。これからもよろしくお願いします。


次回4/7更新予定です。

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