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057 魔王という存在


「それでどうだ? 何かスキルに対して効果ありそうか?」

「え? ……わからないの」

「そうか。感じるより、調べたほうが早いかもしれないな。【魔力解析(アナライズ)】」


 レクトルが早速とばかりに解析をかけると問題なくその結果が表示される。


「これは……」

 

○名前:セピア・トーメント 天使族 10歳 ♀

○称号:“光神の従者”、“滅びを招く者”、“多重心格”

○Rank:―

○ステータス:

 ・体力:8732/8732

 ・神力:8832/25369

 ・筋力:1821

 ・理力:2421

 ・守力:872

 ・護力:2802

 ・速力:1204

〇スキル

 ・固有スキル

  【生存本能(コナトゥス)】【心層投影(リライトフル)

 ・契約スキル

  【光神の加護(無効)】

 ・付与スキル

  【聖域】【天の羽衣】【天剣】【開闢】【物理保護】【封印規制】

 ・スキル

  【魔術適正:光】【魔術適正:聖】【双剣術】【天術】【瞬天】【光翼】【瘴気転換】【無詠唱】【使役権限】【継続回復(中)】【魔力感知】【気配察知】【天童】


「どうなの? お兄ちゃん」

「ん? そうだな。装備による付与スキルは増えてるが、セピアの固有スキルはそのままだな。まだ装備効果が適用されていないのかもしれない。あれは【心層投影(リライトフル)】のみを封印するものじゃなくて、対象を選べるものだったからな」

「どうすればいいの?」

「やり方か……」


 種族の欄にあった半堕天の記載が消えているなと関係ないところに注目していたレクトルはセピアに問われ、その答えに詰まる。この世界に来たばかりのレクトルはスキルが付与された装備に関して大した知識を持っていたわけではなかった。自身が所持している装備もスキルがあるのは【起源刃:霊煌】だけだった。それも、【魔力刃】を生成するのに必要なことは魔力を込めるだけだ。特に対象指定が必要な今回のような事例には当てはまらないだろう。


(悩んでも答えは出ない……か。【知識書庫(アーカイブ)】で調べたほうが早そうだな)


 そう思い、魔術道具(マジックアイテム)を起動させてスキルの対象指定方法を調べようとした時、サクラがセピアへと話しかけていた。


「強く思えばいいんだよ? こう、ん~~って。そしたら頭にパァッと浮かんできて、それから――」

「え、えと、う、うん。う~~~んっ?」

「いや、サクラ……」


 まるで説明下手の典型的な擬音を混ぜた言葉で教え始めたサクラを見て、それじゃ伝わらないだろと制止をかけようとした瞬間、開きっぱなしだったセピアの能力値(ステータス)表示にポンっと変化が起きる。


「ん?」


 気のせいかと動きがあった場所に目を走らせると、セピアの固有スキル【心層投影(リライトフル)】に【光神の加護(無効)】のように(封印)の表示が追加されていた。


(マジか……あの説明でできるというのはセピアがすごいのか、サクラがすごいのか悩むところだな……)


 レクトルは中身が子供同士の為、逆に伝わりやすかったりするのかもなといい加減に解釈すると、まだ続きそうな説明を途中で切り上げさせるために言葉を発する。


「もういいぞ、サクラ。問題なく出来たみたいだからな」

「え? できたの?」

「あぁ、どうだ? 何か変わったところはあるか?」

「わからないの……でも、不安な感じにはならない……かも? なの」

「そうか。でも、まぁこれで問題は解決したはずだ。後は様子見だな」


 これで終わりとレクトルが立ち上がろうとすると、意を決したセピアが離れるローブを掴み引っ張った。少しバランスを崩しかけたが、大した力で引っ張られたわけでもない為すぐに立て直す。


「っとと。どうした?」

「あ、あの……」


 どこかモジモジと身をよじり、言葉を詰まらせるセピア。それを見て、視線の高さをセピアに合わせ言葉を待つレクトル。


「ゆっくりでいいぞ」

「う、うん……本当に……ありがとう……なの。でも、セピア何も返せない……の」

「そういうことは考えなくていいんだ。子供は元気に遊んでいれば、それでいい。大人はそれを守るもんなんだ」

「でも……セピア、お兄ちゃんとそんなに変わらないの」

「あー、それはだな……」


 流石に本当は30歳なんだと言うこともできず、今度はレクトルが言葉を詰まらせる。だが、レクトルが答えを返す前に、セピアが俯いていた顔を上げレクトルと視線を合わせると……


「お兄ちゃん……」

「うん?」

「セピア……また迷惑かけちゃうかもしれないの」

「……あぁ」


 気にしなくていい。そう言葉にしようとしたレクトルだったが、セピアの様子からある決意を感じ、肯定の言葉を返した。


「でも……離れたくないの」

「あぁ」


 ギュッと、貰ったばかりのスカートを掴み、勇気をもらう。


「これからも一緒にいたい……の。そのために、セピア……頑張るの」

「あぁ」

「だから、契約するの。セピアは……主であるお兄ちゃんに、忠誠を、誓うの」

「あぁ……ん?」


 セピアの言葉を受け、レクトルがヒヨルから受け取っていた契約石が光輝く。そしてセピアがその契約石に触れると、一層強く煌き、砕け、光となってレクトルとセピアへ吸い込まれていく。


 その光は紋様となってレクトルとセピアの手の甲に刻まれた。


「あっ! また!」


 今度こそ自分が主導権を握って、極力対等な契約を結ぼうと思っていたレクトルは、不意を突かれ再び主従の契約が結ばれた。


 これで神子、魔王、人に続き天使がレクトルの従者として加わったことになる。……戦乙女のオマケつきで。


「ダ、ダメだったの? でも、契約するって言ってたの……」

「あーいや、ダメってことはないんだが、出来れば対等での契約にしたかっただけだ」

「それは……無理なの。ハクナお姉ちゃん……水神子様の主であるお兄ちゃんと対等にはなれないの」

「あー、確かにそうなるのか。俺が気にしなくても、セピア達に譲れないものがあるなら仕方ないな。取り敢えず、これから、よろしく頼む」

「はいなの!」



 そして、食事も落ち着くと今後の対策を練ることになった。レアとリアは昼食の後片づけ中でリビングにはいない。結局、残った料理も全てゲイラが食べつくしていた。


「それで、どうするの?」

「ベルのせいでもう魔王と天使であることはバレてるからなー」

「私のせいじゃないでしょ。あれはあなたが……そうよ! どう落とし前つけてくれるのよ」


 ベルが状況を思い出し、そもそもの理由に思い至り、再びレクトルへと詰め寄った。だが、レクトルはそれを意に介さず話を続ける。


「そんなことより、今は明日をどうするか、だろ?」

「そんなことって何よ!?」

「ベルが暴れたから事態がさらにややこしくなったんじゃないか。それに、おかげで力は取り戻せたんだろ?」

「それは! ……そうね。もういいわ。あなたが気にしないというなら、これ以上言っても仕方ないわね。でも、哀れむような目で見たり、笑ったりしたら許さないわよ?」

「なんでそうなる。そんなことするわけないだろ?」

「そう、ならいいわ」


 落ち着いたのか、ベルがイスに座りなおす。レクトルは話を戻すぞと再び明日の対策へと身を乗り出す。その前に、あることが気になりこの場にいるメンバーへと問いかけた。


「そもそも魔王や天使というのは、この世界の一般人からしたらどういうものなんだ?」

「魔王とは恐怖の象徴よ。そして、魔物の王となる者ね」

「そうですね。この世界に住まう共通の敵、といった感じでしょうか。人族も獣人族も、ドワーフ族も、エルフ族もその全てが敵対しています」

「魔物の王で、共通の敵……か。それは穏便に済ますのは骨が折れそうだな」

「なら、私を差し出す?」

「それはないな。変なこと心配するな。面倒だからってベルを売るつもりはない」

「そ、そう。別に心配はしてないわよ」


 どこか照れ臭そうにそっぽを向くベル。


「それにしても、誓約を交わしたからといって、普通にその魔王を街中に入れる事を許容するんだな。そこまで強制力が強いものなのか?」

「そうですね。この世界ではセカイの意思は絶対ですから」

「破れるものではないのよ。破れば、その報いは自身に返ってくるもの」

「そうか……」


 レクトルの頭に思い浮かんだのは、サクラの父親の最後だった。確かに、交わした誓約を破ったことで、ことを起こす前に天罰が下された。そう、破った後ではなく、破ろうと動いた時点で、だ。つまり、万が一魔王が暴れるつもりでも、暴れる前にそう思った時点で天罰が下るということになる。


 確かに、事が起きてからではなく、事前に処理されるのであれば交わされた誓約は重いと結論づけるレクトル。


「でも、それだけ全ての種族と敵対している割に、まだ滅ぼされてはいないんだな」

「そりゃそうでしょ。それだけの強さがあるもの」

「でも、ベルの能力値(ステータス)を見た感じだと、確かに普通の人族からしたら強いのかもしれないが、世の中にはSランクが50人近く存在するんだろ? 一気にかかられたら魔王とはいえ無事ではすまないんじゃないか?」

「あぁ、なんか勘違いしてるわね」

「勘違い?」

「私は魔王とはいえ、あくまでオリエンス……先代の東の魔王から引き継いだまがい物よ。その実力は本来の魔王には遠く及ばないわ。当然よね。強引に魔王核を移植されただけなんだもの」


 手をヒラヒラと振りながらなんてことないように語るベル。


「それって……」


 あれだけの能力値、力を持つベルが遠く及ばない存在。そして人類に対し敵対している。本来の魔王を知る者がベルの事を知ったらどうなるのか。レクトルには想像できなかった。


「ベルは……どうなんだ?」

「何?」

「恐怖の対象として見られることに、何か思うところはないのか?」

「私の心配? さっきは私に心配するなって言ってた割に、自分はするのね」

「まぁ……な。俺はこの世界のことを知らなさすぎる。それに、仲間を悪く見られるのはあまり気分がよくない」

「…………別に。あなたがそう思ってくれるならそれで充分よ。その代わり、何かあったらちゃんと私を守りなさいよね」

「あぁ」

「はいはい! 私もベルベルの事守るよ!」

「ふふ、ありがとう」

「うん!」


 私もベルベルのこと怖くないよと言うサクラの頭を撫でるベル。その穏やかな笑顔のベルを見ていると、レクトルはただ魔王だから敵だ、排除すべき存在だとするこの世界の認識に疑問を感じずにはいられなかった。


「そういえば、既に倒されている魔王もいるんだったよな? ベルみたいに封印されてるならまだしも、それほど強い魔王の中でも完全に倒されてるやつは一体どうやって倒されたんだ?」

「勇者よ」

「勇者?」


 その言葉に、やっぱりこの世界にもいるのかと眉を顰めるレクトル。リア充の代表格なイメージでどうにも好きになれなかった。定番といえば、定番だ。ただ、それがレクトルではなくどこかの誰かというだけだ。


(といっても、俺が勇者に選ばれたなんて言われても、その職務は放棄しそうだな……)


 ハクナの闇の神討伐というお願いと同じだ。人1人が背負うにはあまりにも重すぎる。でも、身内にベルがいる以上、無視することもできない。


「えぇ、南の魔王アマイモンは勇者によって打倒されたのよ。同じく、北の魔王アリトンを封印したのも勇者一行という話ね。もしかしたら、オリエンスはその快進撃に恐れたのかもしれないわね。だから、東の魔王の座を私に押し付けて逃げ延びた……」

「それは……勇者一人でそんなに戦力に差が出るものなのか? さっきの話では、本来の魔王とはベルとは比べ物にならない力があるんだろ?」

「勇者は特別なのよ。あいつらには魔物や魔王といった()()()()()()()()()への特攻性があるの」

「特攻性……つまり、能力値を無視した弱点攻撃ということか。もし出会ってしまったらベルはその場から逃がした方がいいのか?」

「私はもう大丈夫よ。だって、私は()()()()()()()()()()だもの」


 そう言い、ベルはふふふと意地の悪い笑顔を浮かべた。レクトルにはその言葉の意味が分からず首を傾げる。


「俺が守れということか?」

「違うわよ」

ご主人様(マスター)の魔力を力の源としているということですよ」


 意味が分かっていないレクトルに対し、ハクナが助け舟を出す。


「あぁ、そういうことか。魔王核を失い、代わりに俺から魔力を得ているから瘴気と共に生きてはいないということか」

「えぇ、そういうことね。でも、サクラとあの天使の子については、もしかしたら注意した方がいいかもしれないわね」

「ん?」

「え? セピ……ア?」

「そう……だな。そうなるのか」


 蚊帳の外状態だったサクラとセピアがいきなり名を出されたことで反応する。特に完全に話についていけていなかったセピアの混乱が激しかった。


 サクラの中にはサクラとその内に眠るフェニアを救うため、ベルの魔王核が取り込まれている。それだけでなく、魔神の柱であるフェニックスの魔核もあった。力自体はベルと同じくレクトルの魔力供給を受けて抑え込んではいるが、瘴気を生み出す魔核を体内に取り込んでいることに変わりはない。


 セピアに関しては堕天の発端となった【瘴気転換】のスキルがある。外部より瘴気を得る力。勇者の力がどういった基準で発揮されるものかはわからないが、確かに油断できるものではなかった。


「わかった。まぁ、そういうことなら今回は大丈夫だろ。流石に1日でいきなり勇者なんてものが連れてこられるとは思えないし、一応こちらにも誓約がある。こっちが大人しくしてる間は向こうも手だししてこないはずだ。まぁ、警戒するに越したことはないから気は緩められないが、それは仕方ない」

「それじゃあ、特に何もしないの?」

「そうだな。一応、道中もあるしベルとセピアには【存在偽装】は発動してもらうが、下手な手は打たない。それが変に誤解を生んでも面倒だしな」

「それが賢明かもしれないですね」

「あと、ギルドマスターとのやり取りはできれば俺に任せてくれ」

「いいわよ。あなたは私たちの主だし、当然ね」

「そうですね。異論はないです」

「うん。私も師匠の言うこと聞くよ?」

「はいなの」


 その後も万が一に備え、色々と打ち合わせをし、レア達に畑の進捗状態や料理のことについて相談を受けたり、サクラたちと引き続き特訓をしたりしている間に日が暮れていき……(もちろん、創作世界(ラスティア)ではなく、アーステリアでの、になる)

 

「そろそろ風呂入って寝るか」

「今日はどうするんですか?」

「何がだ?」

ご主人様(マスター)が先に入られるのかどうかです」

「あぁ、前と一緒だ。先に入ってくれ。俺が先に入ると安心してゆっくり入れないからな」

「つれないわね」

「わ、私は師匠と一緒でも、は、恥ずかしくないよ?」

「俺が恥ずかしいんだよ。勘弁してくれ」

「あ、あの……セピアも……いいの?」

「ん?」


 まさかセピアまで一緒に入りたいなんて言い出すのかと身構えるレクトルだったが、それは別の観点からくるものだった。


「セピア、この服を脱いだらスキルの効果が切れちゃうの……。天使族には羽があるから……その……」

「あぁ、抜けた羽が風呂に残るかもしれないことを気にしているのか?」

「はいなの」

「別にそれくらい気にしないからいいぞ。それはそれで、桜の花びらが落ちたように風情があるかもしれないしな」

「私の花びら?」


 自分のことかとサクラが首を傾げる。それを手を振ってレクトルが軽く否定する。


「あぁ、サクラの事じゃなくて、俺が元いた世界の、桜の木の事だ。話しただろ? サクラの名前の由来となったピンク色の綺麗な花を咲かせる木だ。落ちた花びらが川とかに浮かび、流れるのも綺麗なもんなんだ。天使の羽なんて、滅多に見れるものじゃないんだろ? それを楽しむのも異世界ならではだな」

「私も師匠の世界の桜の木、見てみたい!」

「そうだな。いつかサクラと一緒に見るのもいいかもな。これがサクラの名前の由来の木だぞってな」

「うん!」

「ま、そういうことだから、ゆっくり入ってくるといい。あんなところにずっといたんだ。まともに風呂なんかも入れなかったんだろ?」

「ありがとうなの」

「気にするな。ほら、行った行った」

「んっ」


 レクトルはセピアの頭をグシャグシャと撫でると背中をたたき、あと押しした。


「じゃ、お先に失礼するわね」

「本当にいいんですか? 人数も多いですし、長いかもしれないですよ?」

「あーまぁ、いいさ。その分、後でゆっくり入るからな」


 風呂へ向かう女性陣を見て、確かに多いなと改めて思うレクトル。まだこの世界に来てから4日しか経っていないのに、既に8人だ。単純計算で1日2人が仲間になっていることになる。


(流石に何がしたいのかわからなくなってきたな。やっぱり被害に遭う少女を直接目にするとだめだ。今回の件が終わったらこの創作世界(ラスティア)で平和に過ごそう)


 そう、心に決めソファに寝転がるレクトル。だが、運命は彼を逃すつもりはないらしく、再び世界の命運をかけたトラブルに巻き込まれていくことを彼はまだ知らない。


次回3/10更新予定

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