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056 契約と対策

祝、1万PV突破!

地道に更新続けますので、これからもよろしくお願いします。


「もうお腹いっぱい。動けないよー」


 サクラがこれ以上入らないと机に突っ伏し「はふぅ」と息を吐く。机にあった何十人前あるんだと言いたくなる量だった料理の数々は目に見えて減っていき、今残ってるのはたった数皿だけとなっていた。


「あら、やっと降参? 随分と頑張ったわね」

「そうですね。今から晩御飯が食べられるのか心配なくらいです」


 早々に根を上げソファで寛いでいたベルとハクナが、残すのはもったいないと食べ続けていたサクラを心配そうに見つめている。


 自分たちが3品くらい食べていたところでお腹いっぱいになり、サクラにも途中で切り上げていいと声をかけていたが、頑なに食べ続けていたのでお腹が破裂しないかと気が気でなかったのだ。


 それはレクトルも同様で、呆れたようにため息をつく。


「まったく……無理するなって言っただろう。今日は当分、大人しくしてろよ」

「うんー」


 突っ伏したまま返事をするサクラ。といっても、あれだけあった料理のほとんどをサクラが食べたというわけではない。小さい身体に対して少し多いといった程度だった。レクトルも様々な料理をまるで味を確かめるように無理のない程度にちまちまと、ちょっとずつ食べており料理の消化に貢献してはいない。


「でも、すごくおいしかったの」

「そうだな。レアとリアには感謝しないとな」

「そんな……。でも、ちゃんとご主人様の故郷の味を再現できていたようなので安心しました」

「頑張ったもんね、お姉ちゃん!」

「リアもね」

「うん!」


 歓迎会の主役的な立ち位置にいたセピアに至っては1品しか食べていない。最初にグラタンを食べ、その味が気に入ったのか顔を輝かせるとそればかり食べ続けていた。そして、一皿食べ終わるともうお腹いっぱいになったのか、その後は大人しくみんなの表情や料理の感想を興味深げに見たり、聞いたりしているだけだった。


 では、誰が残り少なくなるほどに料理を消化していったのか。レクトルは机の端で立ったままお皿を持ち、幸せそうに料理を頬張っている戦乙女(ヴァルキュリヤ)へと視線を移す。


「んー! おいしいです~~~♪」


 とても食べた量があのお腹の中に収まっているとは思えないくらい止まることなく食べ続けているのはゲイラだった。既に机の上に並んでいた料理の8割近い量を消化していた。


(まさに胃の中ブラックホールだな。まさか、今後もこの量を用意しないといけないとかならないよな?)


 そのあまりにもな食べっぷりにこの先が思いやられるレクトル。最初は戦乙女(ヴァルキュリヤ)はみなそうなのかと思い、なんて燃費の悪い守護者なんだと驚愕していたが、もう一人のヒヨルは人並みの量しか食べていなかった。単純にゲイラがおかしいだけらしいと認識すると、何か対策が立てられないか考えだすレクトル。


(そもそも、戦乙女(あれ)の面倒は俺がみないといけないのか?)


 最悪、銅像での待機状態にしてやろうかと思い始め、現状の主であるセピアに相談するかと視線を転じたところで何か違和感を感じ首を傾げる。セピアを纏う雰囲気がどこか希薄に薄れ、漂うような、奇妙な力の揺れを感じていた。


(なんだ? この感じどこかで……)


 どこかで感じたことがあるようなデジャヴにおそわれるが、それがどこだか思い出せない。もどかしい思いに頭を捻らせていると、サクラを心配していたハクナがレクトルの目の前を横切った。


「サクラもあっちで休みませんか?」

「んー、動けないー」


 サクラの背中をさするハクナの姿を見て、レクトルの頭の中に出会った時の光景が浮かぶ。


「そうか!」

「ど、どうしたの?」

「い、いきなり、どうしたんですか?」

「師匠?」


 あることに気付き、レクトルが勢いよく立ち上がると、それにびっくりしたベルやハクナ、サクラが一体何事だと一斉にレクトルへと向き直る。レア達も同様に目を見開き、主であるレクトルを見ていた。その中、平然としていたのはなおも食べるのをやめていないゲイラだけだった。


「わ、悪い」


 ばつが悪くなったレクトルはそそくさとイスに座りなおす。


「別に構わないけど、さっきの感じだと何かわかったの?」

「いや、そういえばまだ問題は全部解決してなかったことを思い出しただけだ」

「問題?」

「セピアのことだ」

「……!」


 自分のことだとは思っていなかったセピアがその言葉にビクッと身体を震わせる。だが、それはセピアも感じていることだった。戦乙女(ヴァルキュリヤ)が起動状態にあるからか、セピアが保有していた神力が目に見えて減っていたのだ。それは瘴気を基にした負の疑似神力が【極光天(オーロラベール)】によって通常の正の神力へと置き換えられた分を含めても今日1日すら持ちそうにないものだった。


 それでも、この楽しい雰囲気の中、自分が消えそうだから約束通り助けてとは言えなかった。自分には眩しいくらい笑いの溢れる場所。ただでさえ、奇跡が起きれば助かるかもと言われていたクルスを助けてもらったのだ。それが、自分が思っていた結果と少し違っていたとしても文句は言えない。どうやら別のものになったわけではなく、正しく力を取り戻していただけだったからだ。


 その上、自分まで、この楽しいひと時を奪ってまで助けてもらおうとは思えなかった。例え、その結果自分が消えることになったとしても。クルスも助かった。神界やアシュリア様のことは気がかりではあるが、自分が生き延び、また悪い事が起きる方が怖かった。だったら消えたほうがいい。自分が消えても、悲しむ者なんてきっといない……


 それだけの覚悟を以て、セピアはこの場にいた。だが、続く言葉に思考が停止する。


「それじゃあ、この子ともキスするの?」

「え……キ、キス?」


 ベルが当たり前のように言い放つ。その瞬間ザワッと部屋の中の空気に緊張が走る。その言葉に反応したのは、レクトルへと思いを寄せるサクラだけでなく、奴隷であるレアたちも含め、戦乙女(ヴァルキュリヤ)を除いたこの部屋にいるほとんどのメンバーだった。からかい程度にしか思っていないベルが雰囲気が変わった部屋を見渡し、少し意地悪な笑みを浮かべ、レクトルへ向けて再度確認するように問いかける。


「……違うの?」

「ふっ。甘いな、ベル。俺があれから何も調べてないと思ったか? キスが必要なのはあくまで“親愛の契約”を行うのに必要な儀式らしいじゃないか」

「そうね」

「何も魔力を共有する契約は“親愛の契約”だけじゃない。というより、どちらかというともう一つの方が一般的みたいじゃないか」

「あぁ、そういうこと。“従属の契約”ね。“親愛の契約”の方が繋がりが確実よ。それじゃあ駄目なの?」

「そもそも、“親愛の契約”は簡単に成立するものじゃないらしいぞ。長い時を共に過ごし、信頼関係を築くことが大切だと書いてあったしな」

「でも、問題なく成立したじゃない。しかも、3人も」

「……………………それはお前たちがおかしいだけだ」

「あなたも受け入れてるでしょうに……まぁ、いいわ。それで、契約石は持ってるの?」

「契約石?」

「呆れた。調べたんじゃなかったの?」


 なんだそれは? と言いたげな主に対し、あきれ顔で頬杖をつくベル。レクトルは契約の事に関してはその種類や効果について調べていたが、必要になるものまでは調べていなかった。なぜなら、レクトルが今まで行った契約や誓約は全て身体を触れさせた状態で魔力をやり取りする程度で、物を必要としたものがなかったからだ。


「簡単に手に入るものなのか? あまり時間もないんだけどな」

「どうかしらね。街にいけば売ってるでしょうけど」

「契約石でしたら、ここに」

「え?」


 腰に下げた袋をあさり、契約石を取り出しレクトルへと差し出したのは戦乙女(ヴァルキュリヤ)の1人、ヒヨルだった。


「いいのか?」

「はい。我が主の主となられるとのことなので、これくらいは当然です。元々、現地での配下調達用に魔物を従える為いくつか所持していたものですので問題ありません。あれの謝罪も兼ねて差し上げます」


 チラッとヒヨルが視線で示した先にいたのはゲイラだ。恐らく食事量のことを言っているのだろうとすぐに理解する。


「そ、そうか。なら、ありがたく使わせてもらう」


 それにしても現地での配下調達用って何だ!? と内心思いながらも物騒な発言は聞かなかったことにし、レクトルは契約石を受け取る。その石は鉱石というよりは結晶体に近しいものだった。磨く前の宝石のようなものだ。ベルと相対したギルドマスターが使用した魔鉱石にも似た面影がある。


 それもそのはずで、そもそも契約石とは魔鉱石を契約に適した形に調律、加工したものだった。ありとあらゆる力を内包させることが出来る魔鉱石の指向性を使役に特化させたものだ。故に、魔鉱石を用いても“従属の契約”自体は可能だが、その難易度はグッと高くなる。


 レクトルは契約方法についても、【知識書庫(アーカイブ)】で調べるとセピアを呼ぶ。


「ちょっとこっちに来てもらえるか?」

「う、うん」


 セピアはレクトルの元へ向かって移動はするが、その足取りは重く、不安に包まれていた。


「どうした?」

「あ、あの……お兄ちゃんの力ってどんななの?」

「ん? 俺の力か?」

「うん」


 チラッとセピアはサクラの方へと視線を移す。そしてレクトルへと向き直ると、その不安を口にした。


「お姉ちゃんが……えと、サクラお姉ちゃんがお兄ちゃんの力があれば大丈夫って言ってたの。でも、その契約は魔力を共有するだけなの。それじゃあ、すぐ、なくなっちゃう……の……」

「あぁ、そういうことか」


 女性が思いの外多かったからか、サクラの呼び方を少し変えたセピアは、大丈夫の根拠が契約による魔力供給だと聞いて不安になっていた。それはレクトルの固有スキルを知らないこともあるが、自身が今感じている神力の消費の勢いを人の魔力に換算するとどの程度のものになるか想像もできなかったからだ。天使が必要としているのが、魔力ではなく神力であることを知らないんじゃないかとさえ思えた。


 人族にとって自信のある魔力量だとしても、それを神力に置き換えると儚いものでしかない。それは魔力を神力に変換するときの効率が1/10000であることに起因する。例えSランクの冒険者であっても、たった1すら補うことができない可能性が高かった。それなのに、セピア自身の神力は現在進行形でピッ、ピッ、ピッと目に見えて減っている。既に5桁あった神力は4桁へ突入しそうな勢いだった。


 いくら魔力を共有しようが賄えるものではない。むしろ、目の前のクルスを助けてくれた恩人を魔力枯渇で苦しめるだけにならないか。そんな不安に押しつぶされそうになり、セピアの周囲を薄っすらと黒い靄が漂い始める。


 だが、それに気づいているのかいないのか、当のレクトルはセピアの頭をグシャグシャと撫でるとにこやかに笑う。


「心配はいらないぞ。言っただろう? 神力不足に関しては俺の力で解決できると」

「お兄ちゃん?」

「俺の固有スキルはな【無限湧魔(ノーリミット)】と言うんだが……、端的に言うと魔力回復力を極限まで高めるスキルなんだ」

「魔力回復力を……高めるスキル?」

「あぁ。魔力を消費してもすぐに回復する。魔力量に至っては能力値(ステータス)上すでにカンストしてるみたいだしな」

「……え?」

「ここにいるベルとハクナ、サクラと契約してるからな。常の消費量が半端ないんだ。それに……」


 レクトルはセピアの耳へと顔を寄せると、内緒話をするかのように小声で付け加える。


「ハクナとベルの正体はもう気づいてるかもしれないが、ハクナは神子だ。んで、ベルは元魔王だ。心の世界でサクラから少し話があったと思うが、その時復活した魔王がベルなんだ」

「え……?」


 セピアは言われたことを理解し、驚き、バッとレクトルの方へ振り返るとそのままハクナ、ベルへと視線を移すと、再びその視線はレクトルへ戻る。


 レクトルは小声で続ける。小声なのは事情を知らないレア達へ聞こえないようにするためだ。セピアに関しては既にベルがギルドマスターとの邂逅時に魔王であることを明かした場面に一緒にいたし、神界に住まう天使である関係上、出会った時のやり取りからもハクナの正体もほぼバレている可能性が高かった。


 なので、レクトルは下手に隠し通そうとするよりも、事情を話し、安心材料とした方がいいという判断から説明することにした。


「ベルには憑代となったサクラを助ける為に魔王核を差し出してもらった。その対価として俺はベルの安全と身の保証をする誓約を交わしている。つまり、ハクナの神力の消費と、魔王の魔王核による魔力生成の代行を常に行っている形だ。それでも俺には何の影響もない。実質無限に魔力があると思ってもらってもいいくらいだ。あ、あと、ベルとハクナの事は内緒な。リアたちには驚かせたらあれだし、話してないからな」

「……………………はいなの」


 突飛もない話にもはや許容値をオーバーしたのか、セピアはただ頷くだけで呆然としていた。その話で不安なんて消え去ったのか、漂いかけていた靄も霧散していく。


「それじゃあ、始めるか?」

「……待て」

「ん?」


 セピアも安心したようだし、契約を行うかとレクトルが準備し始めたところで否の声がかかった。時間がないのに一体誰がとレクトルが声がした方向へと向き直ると、そこにいたのは……


「クルス……」

「どうした、何か問題があるのか?」

「あぁ、そうだな。大ありだ」


 一体何が問題なんだと訝しむようにクルスの事を見つめるレクトル。最初は嫌がらせか何かかと思っていたが、その声は真剣みを帯びており冗談ではなさそうだと判断すると先を促す。


「何が問題なんだ?」

「お前だって感じたんじゃねぇのか? 確かにこいつは以前よりも前向きになりつつある。それは認めよう。だが、それだけだ。心というものはそう簡単に変わるものじゃねぇ。そうだろう?」

「固有スキルの暴走のことか?」

「……!」


 その言葉に、セピアが自身の身体を抱き寄せ、震える。その様子を見て不服そうな雰囲気を纏うクルス。


「ちっ……そうだ。今でさえあれだけの被害が出た。お前のふざけた魔力なんて保有してみろ。何が起きるかわかったもんじゃねぇ」

「まぁ、そうだな。確かに、物事には順序があるか」

「あぁ? 順序も何も――」

「そう逸るな。セピアの固有スキルに関して何も考えていなかったわけじゃない。随分と気にしてるみたいだったからな。また、スキルが暴走するかもしれないから一緒にいられないとか言われると後でトラブルになるのは目に見えてるからな」

「考えだと?」

「お兄ちゃん?」

「まぁ、見てな」


 レクトルは手を前に翳すと目を瞑り集中する。しばらくすると手の上で光が集束し、一瞬煌くとヒラリと白い布のようなものが現れた。それを手でキャッチすると、セピアへと差し出す。それに最初に反応したのは、布を差し出されたセピアではなく、それが何かに気付いたハクナだった。


ご主人様(マスター)、それってもしかして……!」

「ん?」

「ぶふっ」


 レクトルが何食わぬ顔でハクナに向き直ると、その後ろで同じくそれが何か気付いたベルが吹き出した。ハクナの反応を楽しんでるようだった。


 セピアがその布を受け取り、目の前で広げる。それは純白のワンピースだった。どこかサクラの【恋煩い巫女の御忍び服】に似てはいるが、腰辺りからパニエでも仕込まれているのかフワリと広がっていた。アクセントに使われている色は黄色だ。リボンやスリットなど随所にちりばめられている。


 レクトルが持つもうひとつの固有スキル【我が内眠る創造の拠点(ラスティア・ラヘル)】によって生み出されたそれをハクナが羨ましそうに見つめていた。自分が一番最初の契約者なはずなのに、サクラ、ベルに続き3人目。服が作れるからというだけで仲間外れ……納得ができなかった。


 その視線に気づいたセピアが恐る恐る問いかける。


「あ、あの……ハクナお姉ちゃんも欲しいの?」

「え?」

「あほか」

「はう!?」


 その言葉に戸惑いながらもどこか嬉しそうな表情をしたハクナの頭をレクトルが小突く。ハクナが笑みを浮かべた理由は服よりもお姉ちゃん呼びに対してだったのだが、状況からレクトルは服を取り上げるつもりなのかと勘違いしていた。


「酷いです! 流石に私でもセピアからとったりしませんよ! お姉ちゃん呼びを新鮮に感じてただけです!」

「紛らわしいんだよ」

「あんまりです!」


 なおもブーブーと喚くハクナに確かに勘違いした俺が悪いかとレクトルが妥協する。


「わかったわかった。明日ハクナの分も創ってやるから」

「ほ、ホントですか!? 約束ですよ! 絶対ですからね!」

「やっぱり欲しかったんじゃないか」

「う……それはそれ、これはこれ、です」

「その名言、こっちにもあるのか……」


 レクトルが呆れ顔でハクナを見つめていると、しびれを切らしたのか、放置されたのが気にくわなかったのか、どこか怒り口調でクルスが声を荒げる。


「おい! 結局それはなんなんだ。今更服のプレゼントをしたって何が変わるわけでもねぇだろ」

「ん? あぁ、いや悪い。話が逸れてたな。これはただの服じゃないんだ」

「何?」


 そういやまだ解析もできていなかったと、レクトルはセピアが持つ純白のワンピースに対して【魔力解析(アナライズ)】を実行する。


 ○【元堕天使の拘束着】

 ・Rank:S 

 ・付与スキル:【物理保護】【封印規制】

 ・保持スキル:【清浄】【修復】【調整】【存在偽装】【成長】

 ・装備条件:〔女性〕〔種族:天使〕〔光神の従者〕

 ・備考:光神に身を捧げながらも幸せを願う少女が、他者へ不幸をふりまかないように力を抑制する為に創られたワンピース。着ている者を偽り、清き姿を保つ力を持つ。思いの強さに同調し、持ち主とともに成長する。


「……………………」


 毎度この説明文は何なんだと解析結果に目を通し疑問に思うレクトル。だが、すぐに気にしても仕方がないと解析結果を閉じる。


 いくつかサクラやベルの時に比べスキルの数が減ってはいたが、目的自体は達成することができそうだった。


「このワンピースを装備すると、スキルの1つを任意で封じることができる。これで、セピアの固有スキル、特に悪意をばら撒く可能性が高い【心層投影(リライトフル)】を無効化することができるはずだ」

「え?」

「何!?」

「それだけじゃないぞ。ベルの服と同じ【存在偽装】のスキルもあるからな。普通に外を出歩く時にはその羽や頭の輪っかを他人から見えなくすることも可能だ」


 実際どこまで通用するのかは分からないが、レクトルはその偽装レベルがベルのを見る限りかなりのものなのではと思っていた。


「スキルの無効化ができる……の? ずっと私を苦しめてた……このスキルを……?」


 そう呟くセピアの瞳には涙が溢れていた。長い間ずっと苦しめられてきたのだ。それから解放されるかもしれない。その言葉はレクトルが思っているよりもずっと重く、セピアに響くものだった。


「……ほら、物は試しだ。着替えてこい」

「う、うん。ありがとうなの、お兄ちゃん」

「ではこちらへ」

「はいなの」


 セピアはレアに連れられ、別の部屋へと移動していった。それを見送ったクルスがレクトルに向き直る。


「……冗談じゃあ、ねぇんだな?」

「当り前だろ。そんな人の心を弄ぶような冗談をつくわけがない」

「なら……【心層投影(リライトフル)】だけでなく、【生存本能(コナトゥス)】に関しても無効化できるってのか?」

「それは……できるだろうな。だが、それはしない」

「何故だ? 生き残る為に、災いを振りまくかもしれないぞ?」

「決まってるだろ? 例えどんな災いを振りまこうが、それが生き残ることを目的としたものなら俺は咎める気はない。実際、お前が西の森に瘴気を蔓延させて、瘴気を取り込み疑似的にでも神力を生成しなければ今のセピアはないかもしれないんだ。確かに、それがなければ多くの人が助かったかもしれない。怪我をしないで済んだかもしれない。だが、俺はその行為が無駄だとは思いたくはない」

「……そうか」


 ぬいぐるみの姿ではその思いまでは読み取れないが、レクトルにはどこか笑っているように感じた。


「それに、ある程度はお前がどうにかするんだろ? 期待してるぞ。何かあっても、生きている限り何とかしてやる」

「はっ、でかい口叩きやがる……だがまぁ、今となってはそれすら嘘じゃねぇとわかるのが癪だ」

「はは、ここまで通じ合ったなら、俺たちももう友達だな」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇ……。それに、俺はあいつのスキルに【瘴気転換】を与え、瘴気を取り込みさせはしたが、あの森自体には何もしてねぇよ。あの森が瘴気に満ちていたのは、俺たちがあの森に来る前からだ。確かにそれを利用して日に日に濃くさせていったが、切っ掛けは俺たちじゃねぇぞ」

「何?」


 レクトルがクルスのその言葉が気にかかり、詳細を聞こうとした瞬間、部屋の扉が開き、着替えを終えたセピアがワンピースのお披露目をした。


「うん、似合ってるぞ」

「かわいい!」

「あ、ありがとうなの。お兄ちゃん、サクラお姉ちゃん」


 純白に輝くそのワンピースは、お世辞でもなく確かにセピアに似合っていた。お礼と共に笑みを浮かべるその姿は、ワンピースについたスキルの効果で頭の輪っかや純白の羽が見えない状態であってもなお、天使にしか見えないほど眩しい笑顔だった。


書いてたら、いつもなぜか想定より長くなる。

なのに、ストーリーは一向に進まない……何故?

次回3/3更新予定です。

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