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054 謂れ無き冤罪

今回より第三章開始です。


 アルトフェリア王国の首都アルストロメリア。その中央にはこの国を治めている国王、アルトハイデン・クラエル・アルトフェリアが住まう王城が聳えていた。


 要塞としても活躍できそうなほど高く聳える城壁はこの街を囲む壁よりも高く、悠然とただ侵入者を拒んでいた。いくつも塔が並び、見張り台からも顔をのぞかせている兵士がいる。


 そして現在、正門から王城へと続く石畳の通路には景観をよくする為に植えられた植物だけでなく武器を構えた多くの兵士が並び、その視線は1点へと注がれていた。


 そこにいたのは1人の少年と3人の少女達だった。桃色の髪をポニーテールに束ねた少女サクラは自身や自身の主に向けて武器を構える兵士たちを威嚇するように、主にもらった武器である【星桜刀】を構え周囲をガルルルと威嚇していた。


 それを必死に彼女のワンピースを掴み飛び出さないように制止している銀髪の少年がひょんなことから彼女達の主となったレクトルだ。少々疲れた表情で呆然と天を仰ぎ立ちすくしていた。


 その隣では赤色の髪をツインテールにまとめた少女が必死に笑いを堪えていた。その様子に気付いたレクトルが声をかける。


「おい、ベル」

「ちょ、今は待ちなさいよ。大丈夫、もう少しで収まるからっ」

「いや」


 ベルと呼ばれた赤髪の少女は主の意見を制止すると、なおもお腹を押さえプルプルと震え続けていた。こんな姿でも元は東の地を支配していた魔王だった。しかし、安住を手にいれるためにレクトルと契約を交わし、東の地の支配権もレクトルへと譲り渡している。


 それを見た周囲の兵士たちはその震えを恐怖からの脅えと受け取り、確かに若い少年少女をこれだけの武器を持った兵士で取り囲めば恐怖を感じるだろうと罪悪感にかられる。だが、それも彼らが仕出かした事の重大さを考えれば当然だと気を引き締め直す。


 少年の後ろには少しウェーブがかった水色の髪を揺らした少女ハクナが事態の成り行きを見守っていた。置かれている状況に対して彼女が落ち着いているのは自身が持つ力故だ。少女の見た目をしてはいるが、これでも水を司る神エイリアナの子であり、主であるレクトルから異常なほどの魔力供給を受けているため、今この場にいる兵士程度であれば瞬殺できる力を保有していた。


 それを実行しないのはひとえに主であるレクトルの方針に従っているからだ。不条理を嫌ってはいるが、向けられた悪意に対してすら人殺しでは返さない。これは優しさというよりも、ただ人を殺してしまったことによる罪悪感や責任を感じたくないという思いからくるものだった。


 ただ、それは実際に危害を加えられればわからない。殺されて当然と思えるほどのことをされれば彼とて黙ってはいないだろう。故にそうならないようにとレクトルは行動しようとしていたが、得てして世の中とはうまくいかないものだ。異世界よりこの世界へとやってきたばかりの彼にとってはむしろ思い通りにならないことの方が多いだろう。


 すると王城の正面、バルコニーのように張り出した場所から一人の男が顔を覗かせた。豪勢なマントや衣装に身を包み、頭には立派な王冠が添えられている。威厳を感じる皺が刻まれた白髪の男性は取り囲まれた少年少女の傍ら、兵士たちに守られるように佇む黒髪の少女を見て安堵の吐息をこぼす。


(どうやら何事もなく無事のようだな)


 そこにいた黒髪の少女は彼の娘だった。そしてこの男性こそがこの国、アルトフェリア王国を治める国王、アルトハイデン・クラエル・アルトフェリアその人だった。


 国王は娘の無事を確認すると、今度はその視線を事件を起こした少年少女へと向ける。どこぞの組織に誘拐されたと思っていたところ、見つかった知らせを受けて飛んできてみれば犯人扱いされているのは年端もいかぬ少年少女たち。


 その姿を訝しむように見つめるが、何故娘を誘拐したのか、そして何故今この場に娘を連れて姿を現したのか、全く見当がつかなかった。


(まぁ、今は考えても仕方がないか。後の事は部下に任せればじきに報告があがるだろう。今は早く娘と話がしたい)


 姿勢を正すと国王は高らかに告げる。


「我が娘を誘拐した愚か者どもよ、何か弁明することはあるか?」


 それを聞いた少年、レクトルは何故こうなったと兵士による包囲の傍らで何やら必死に自分を守ろうとしている兵士に訴えている黒髪の少女へと視線を移すと、「はぁ」とため息を吐き、この事態に陥った経緯へと思いを馳せるのだった――



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 時はレクトルが西の森にてありとあらゆる異常を取り除く星の魔術【極光天(オーロラベール)】を発動し、ベルやセピアの友達クルスなどを助けた所まで遡る。


 上空にはレクトルが発動した固有スキル【夜の帳(ナイトレイド)】が空を覆い、その真下からはユラユラと七色に輝くオーロラが広がっていた。


 当初の目的であったベルも元気になり、クルスも意識を取り戻した今解除しても問題はなかったが、心奪われるこの景色を何もすぐ消すこともないかとそのままの状態が続いていた。


 レクトルがベルとセピアに胸がなくなっただの、クルスがクルスじゃなくなっただのと責められていた頃、その場へとものすごい速度で駆けてくる来る1人の存在があった。


 問題が解決し完全に油断していたレクトルがそれに気づいた時には時既に遅く、彼が気配を感じた後ろへと振り返ると、森の茂みから突如何かが飛び出してきた。その存在はくるくると身体をひねり華麗に着地を決めると油断なくレクトルへ向けて武器であろう虹色に輝く光を内包した透明の剣を突き付けた姿勢で制止した。


 少し身体が青みがかった白い毛に覆われもっさりとしていたが、レクトルはその姿にどこか見覚えがあった。そして放たれる一言を聞き、それが誰かを思い出す。


「君は……」

「あぁ、ギルドマスターか……」


 レクトルの記憶にある姿と少し異なり身体の一部が毛に覆われているのは、彼の種族特有の力によるものだ。


 レクトルがこの森へと来る元凶ともなった特殊依頼。その内容は西の森の異常を引き起こしたとされる悪魔の少女の対処、及び森の正常化を行うというものだった。ギルドマスターである彼はこの依頼の依頼主に当たる。


 だが、実際にいたのは悪魔の少女などでは決してなく、むしろ真逆の存在とも言える天使だった。そのことに文句を言おうとレクトルが口を開きかけた瞬間、


「なっ!?」


 ギルドマスターが驚きの声をあげた。


 その視線はレクトルの隣にいる存在を捉えていた。少年を見付けたことで落ち着きを取り戻していたギルドマスターが焦るようにどこからか小さな鉱石を取り出すと、それを軽く放り投げる。続けて手を翳し、放り投げた石に向けて言霊を紡ぐ。


「彼の者の力を暴け、【鑑定(アプレイズ)】!」


 それは魔術やスキルの力を封じ込めることが出来る魔鉱石だった。純度が高く、そして大きいほど階級(クラス)希少(レア)度が高い力を封じ込めることが出来る。それには魔力と起動に設定したキーとなる言霊さえあれば誰でも使うことが出来るメリットがある一方、使い切りで通常使用するよりも大きな魔力を消費するというデメリットもあった。


 ベルを指し示した状態で起動キーとなる言霊が唱えられると魔鉱石は砕け、粒子となり封じ込められた力が発動する。


「ただの悪魔ではない、魔王だと……!? バカな、何故、こんなところに……!!」


 ギルドマスターは表示された項目のある部分に気付くと驚愕に目を見開き、溢れる魔力を暴走させた。


「え? ちょ、待っ――!」

「君は今すぐそこから離れたまえ! いくら私といえども、魔王相手となれば時間を稼ぐ程度しかできそうにないのでね!」


 ギルドマスターは手に持つ世創道具(アーティファクト)千変万化(アシュト・ルミエ)】を弓の形状に変化させると、ベルへとその狙いを定める。


 今の体勢が悪かったのだろう。ベルの胸の件で責められている状態だったため、ギルドマスターにはレクトルが魔王に襲われているように見えていた。


 それも仕方がないのかもしれない。ベルの見た目は【魔王の矜持】の覚醒発動時から【存在擬装】が解除され、角や尾、腰に生えた蝙蝠のような小さな羽も再度の偽装をかけていなかった為隠されずにそのままだったのだ。


 だが、ここには事態をさらにややこしくする人物がいた。


「あら、あなたごときの攻撃が私に通じるとでも?」


 まるでこの状況を楽しむかのようにベルがレクトルから手を離すと、背の翼を広げスキル【魔王の矜持】を発動させた。


 その瞬間、この森を覆いつくすほどの膨大な力の奔流がこの場を支配した。


「なっ!?」

「え?」

「お、おい、ベル……?」


 その圧倒的な魔力の圧力にギルドマスターが顔面蒼白になり絶望の声をあげると同時、ベルが自分の手を見つめ、素っ頓狂な可愛らしい声をあげた。レクトルはベルのいきなりの所業に困惑中だ。


「………………」


 するとベルは何を思ったのか、無言で様々なスキルや魔術を立て続けに発動していく。膨大な闇の力を凝縮した黒剣が無数に生み出されてはベルの周囲を付き従うように旋回し、周囲の木々を切り裂き、黒い稲妻が迸る球体が生み出されては隅に転がっていた巨大な石の塊を跡形も残らず蒸発させていく。


 その後も一通り力を発動させ、満足したのかニギニギと手を開いたり閉じたりすると、確信したかのように呟く。


「力が戻ってるわね……。それも全盛期に近く、力の使用による反動もないなんて……」

「何っ?」


 それを聞いたレクトルはベルに対して【魔力解析(アナライズ)】を実行した。その後ろではサクラがベルに対し「ベルベル強い!」と目をキラキラと輝かせていた。「あら、ありがと。でも、こんなのどうってことないわよ」と簡単に言葉を返すベルはどこか誇らしげに失われた胸を張っていた。


 特にベルは抵抗もしていなかった為、解析はあっさりと完了する。


 ○名前:ベルフェゴール

 ○種族:悪魔(魔王:覚醒種) ♀

 ○称号:“怠惰”、“魔王”、“レクトルの従者”

 ○Rank:S+

 ○ステータス:

  ・体力:56351/56351

  ・魔力:29851+/31853

  ・筋力:2512

  ・理力:2849

  ・守力:3361

  ・護力:3637

  ・速力:2108

 ○スキル

  ・固有スキル

   【怠惰(アケーディア)

  ・契約スキル

   【魔王の矜持】【大罪の責務】

  ・付与スキル

   【物理保護】【魔力保護】

  ・スキル

   【魔術適正:火】【鎌術】【飛剣術】【無詠唱】【魔力感知】【物体浮遊】【威圧】【鷹の目】【魔眼:硬化】【黒剣】【睡眠欲】



「……マジだな。というか相変わらずとんでもない能力値(ステータス)だな。考えられるのはやっぱり【極光天(オーロラベール)】の効果か?」


 レクトルはその理由にすぐに思い至る。というよりそれしか考えられる理由が浮かばなかった。ベルが先代魔王と交わしたらしい報酬すら無効化する脅威の修復回帰魔術。不完全復活を果たしたベルを元に戻すだけの力まであっても不思議ではなかった。


「でも、魔王核は戻ってないわね」

「そうなのか?」

「えぇ、力だけね。だからあなたとの繋がりがなくなると消えるのに変わりはないわ」

「それは問題ないが、どこを正常と魔術が認識しているのかいまいちわからないな。今度調べてみるか?」


 そのやりとりを呆然と見守っていたのはギルドマスターだ。魔王に襲われていると思っていた少年が、突如魔王が暴れ出したと思えば、仲睦まじく話し出す。事態が呑み込めず、かといって安易に踏み込める相手でもなく手が出せずにいた。


 話しかける機会をただ待ち続けていた。そしてどうやらこちらに対し危害を加えるつもりがなさそう……というより存在を忘れられていそうな状況に死すら覚悟した後でもあり、状況に耐えられず会話に割り込んだ。


「君は、君たちは一体何者なんだね? この森に棲んでいた魔王を従えたのかい? まさか、それがランクUである君の力なのかね!?」

「……一体なんの話をしているんだ? ベルはこの森とは何も関係ないぞ。ギルドマスター、あなただってベルとは一度会ってるだろ」

「何? 私が……!?」

「ベル」

「もう、しょうがないわね」


 そんなはずはないと困惑するギルドマスターにわからせるため、ベルに力の解除を頼むレクトル。ベルは呼ばれた名前だけでその意図を察し、レクトルより送られたワンピース【堕落魔王の変装着】に備わったスキル【存在擬装】を発動させると同時にスキル【魔王の矜持】も解除する。


 するとベルの頭やお尻、背中に生えていた角や尾、羽が消え去り、それと同時に周囲を支配していた恐怖を感じるほどの威圧感も消え去った。


 そこに残るのは見た目普通の人族の少女にしか見えないベルの姿だった。


「君は、依頼の時にいた……あの場に、魔王がいたというのかね……?」

「そうなるな。まぁ、今ほどじゃなかったが……取り敢えず、あなたの依頼にあった“悪魔の少女”は彼女じゃあない」

「どういうことか説明してもらえるのかね?」

「それに関しては俺の方からも色々と言いたいことがあるが……今日は疲れたので休みたいな。明日じゃダメか?」

「そうはいかない。事態の説明をしてもらわなければ、こちらも収集が付かないのでね」


 「それに、逃げられても困る」と小声で付け加えるギルドマスター。そのまま天を仰げば、満点の星空にオーロラが揺らめき、神秘的な光景が目に入ってくる。時間的にはまだ昼を過ぎた程度のはずだが、その面影はどこにもないほど完璧な夜が眼前に広がっている。


「ちなみに、あの空の状態にも心当たりはあるのかね?」

「まぁ……な」


 レクトルはさっさと解除しておけばよかったと後悔しつつも、もう遅いと諦め答える。


「なら、なおさら逃がすわけにはいかないね」

「逃げはしないさ。色々あったから休みたいだけだ。別に明日でもいいだろう?」

「なら、誓約を交わせばいいんじゃないですか?」

「ハクナ?」

「ほう……確かにそれなら……っ!? 天使!?」

「……!」


 言い合うレクトル達に妥協案を提示したのは成り行きを見守っていたハクナだった。そしてそれどころではなく今になってそちらへと視線を転じたギルドマスターはそこにいた天使セピアを見付け、何度目かの驚愕に目を見開く。


 その言葉を受けた天使本人であるセピアはビクッと身体を震わせると、トコトコとレクトルの後ろに隠れ身を縮める。


「大丈夫だよ」


 不安に揺れるセピアの背中をサクラがそっと撫でていた。お姉ちゃんと呼ばれたこともあり、姉気分なのかもしれない。


「それに……桃色の髪の少女……まさか」


 ギルドマスターはランクA+の冒険者である“誘惑”のレイルを倒したという報告に挙がっていた桃色の髪の少女の事を思い出す。


 エリスティアからは何故か少女についての情報はあまり得られなかったが、街の住人から入手することは出来ていた。見た限りの外見はその報告書に記載されていた内容と完全に一致している。ただの偶然か、それとも本当にあんな少女が? と天使に続き現れた少女をじっと見つめていた。


「サクラが何か?」

「いや……誓約の件、私は構わない。ただし、条件を付けさせてもらうがね」

「へぇ……それは一体どんな?」

「何、大したことではない。仮にも魔王と親し気に話す少年と話をしようというのだ。まず、私たち、いやそれだけじゃない、この国に危害を加えないこと。今回起きた事態について嘘偽りなく話すこと、君達全員がその場に参加することだ」

「まぁ、当然だな。なら、こっちからも条件をつけさせてもらうぞ」

「あ、あぁ、構わない」


 レクトルの言葉に、ギルドマスターは拳を握り、なんとか言葉を返す。どんな要求をされるのか分かったものではなかったからだ。だが、レクトルは大したことはないと軽く告げる。


「そう身構えなくていい。基本的にはあなたが出した条件と変わらない。俺たちに危害を加えるようなことはしないこと、嘘偽りなく対応すること、後は……そうだな、会話の内容は不要に口外せず、理不尽な要求や対応をしないこと、だ」

「最後のはどういう意味になるのかね?」

「決まってるだろ? 話し合いが終われば用はないと兵士に囲まれたり、魔王と一緒では認められないとギルドの登録から削除されたり、俺たちの秘密を何でもかんでも聞いてきて、それを誰彼構わず言いふらされたりしたら、今後穏やかに暮らせなくなるだろう?」

「まだ、ギルドには身を置いてくれるつもりなのかい?」

「当り前だろう? そもそも今の状況だってあなたの依頼があったからだ。森は正常化したのに、報酬だってまだもらっていない。空のあれは俺のスキルだから解除すれば元通りだ」

「あれがスキルだって……!?」


 ギルドマスターは再び天を仰ぎ、それが目の前の少年が保有するスキルでしかないということに改めて驚愕する。


 レクトルがスキルと称したのは正確には夜の闇【夜の帳(ナイトレイド)】だけだったが、ギルドマスターはオーロラ含めてスキルなのだと受け取った。


 現在ギルドマスターが把握しているのは、あのオーロラの光が降り注いでから突如森に溢れていた魔物が浄化され、怪我を負っていた冒険者の傷がたちまち回復したことだ。それは腕を失っていたり、もう助からないと思えるほどの重症を負っていた者すら含まれる。


 それだけの範囲に、これだけの効果。それは、かつて魔王を討伐した勇者と共にいた聖女すら上回る治癒と浄化の力だった。


「でも、詳細は話せない。それだって、冒険者なら当然だろ? そんな自分の力をなんでも公開し、弱点をさらけ出すようなバカはいないはずだ」

「……そうだね、わかった。話せるだけで構わない。だが、何でもかんでも黙秘では困る」

「あぁ、そうだな。でも、俺たちだって何もかもを把握してるわけじゃない。あなた達が悪魔の少女と呼んだ少女の正体と事の発端くらいだ。聞き取りはするが、そっちでも調べるくらいはしてくれよ? 本当に森が正常化したのかの確認も必要だろうしな」

「そうだね。そうさせてもらうよ」

「じゃあ、誓約だ」

「あぁ」


 レクトルとギルドマスター ロイエンは先ほどの条件を述べ、セカイの意思へと誓いを立てると手のひらを合わせて魔力を通し、誓約を交わす。


「「契約締結(コントラクト)」」


 レクトルとギルドマスターの足元に魔法陣が浮かびそこから伸びた光が手首に集まり紋様が刻まれると、一瞬輝き薄れて消える。


「これは……」

「何か問題があったのか?」

「なに、セカイの意思が直接介入するのは珍しいのでね」

「直接?」

「足元に魔方陣が展開されたでしょ? あれの種類によってセカイの意思が反射的に認証し交わされた誓約か、しっかりと中身を吟味されたものかがだいたいわかるのよ」

「へー」


 レクトルが一体何のことだと問いかけると、背後からベルが顔を出しその答えをくれる。


「で、では、私はまだやることがあるのでね。明日、昼頃にギルドへ来てくれるかね?」

「あぁ、わかった」


 誓約を交わしたとはいえ、相手は魔王だ。その力の一端を垣間見ているギルドマスターはそれだけ伝えると、まだ魔王であるベルに恐怖を感じているのかやるべきことはやったと逃げるように立ち去って行った。


「俺たちも帰るか」

「そうね」

「はい」

「お腹すいたー」

「はは、あの本を渡したしな。きっとおいしいご飯をレア達が作ってくれてるさ」

「楽しみ!」

「あぁ」


 レクトルはにこやかなに笑うサクラの頭を撫でながら反対の手でパチンと指を鳴らし、【夜の帳(ナイトレイド)】、そして発動をずっと継続していた【極光天(オーロラベール)】を解除した。特に指を鳴らす必要はないのだが、ただ漫画などの知識が豊富なレクトルはそういうものというノリで行っただけだ。


 するとクイクイっとローブを引っ張る感覚にレクトルが振り返ると、そこには不安げな表情でレクトルを見つめるセピアがいた。


「どうしたんだ?」

「あ、あの、その……」


 紡がれる言葉は判然としないが、急かすこともない。何も言わずその言葉を待つかとレクトルが屈んだ瞬間、


「声が小さいんだよっ!」


 背後からクルスがセピアの頭を引っ叩いた。その勢いでレクトルは頭突きを喰らう形となり後ろに倒れそうになるが、何とか堪える。


「あう、ご、ごめんなさっ」

「あ、あぁ、大丈夫だ」


 おでこをさすりながらもなんとか平静を装い返事を返す。


(危ない危ない。また出会ったばかりの少女とキスするところだった)


 ギリギリ回避できたことに安堵し立ち上がると、意を決したセピアが言葉を紡ぐ。


「あ、あの!」

「ん?」

「どこに、いくの?」

「あぁ、そうか。こことは違う世界にある俺たちの家だよ。セピアにもそこに住んでもらうことになる」

「違う世界? いいの?」

「あぁ」

「綺麗なところだよ!」


 サクラが手を広げてその素晴らしさを伝えようとあれがね、それでねとセピアがこちらに助けを求めてチラチラと視線を向けるほどに詰め寄っていた。


「サクラも、ほどほどにな」

「うー」

「でも、いいところなのは確かだ。来てくれるか?」

「で、でも、私がいったら迷惑かけちゃうの……」

「大丈夫だっていっただろ? そんなこと言ってるとまたクルスに引っ叩かれるぞ?」

「う……」

「ふん、全くだ。一度信用すると決めたなら最後まで貫き通せ」


 クルスがふんぞり返りながらセピアを睨みつける。


「う、うん、わかったの」

「それじゃあ、行くぞ?」


 変わるんだったという意思を込めて力強く返事をするセピア。


 レクトルはセピアだけでなく、クルスとヒヨル、ゲイラを念のためにゲストとして登録すると、創作世界(ラスティア)へと転移を実行するのだった。


次回2/17更新予定です。

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