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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第二章 災いを呼ぶ少女編
61/262

053.5 幕間:???

前回の話の後半に少し本文追記しました。よければ……


また、お気づきの方もいるかもしれませんが、人称と視点の取り方を変えようと思います。

キャラが増えてきて全体の状況を書きたくなったのが理由です。

1~2章も時間が取れた時にまとめて修正予定ですが、時期は未定です。あしからず


 深く閉ざされた山の頂近くに聳える石垣の塔。古く、脆そうに見える外観とは裏腹にその塔は特殊な魔術道具(マジックアイテム)によって王城すら上回る強度を誇っていた。


 その中枢階にある転移の間に輝く光と共に突如2人の姿が現れた。そのうちの1人である男が燃えるような短い赤髪を掻きむしりながら叫ぶ。


「かーっ! これじゃあ消化不良極まりないぜ。くそっ、ミュラルのやつでも弄ってくるか……」

「そんなくだらない事より先にやることがあるでしょう?」

「あーそうだな。わぁってるって。そう急かすなよ。ったく」


 隣に並ぶエルフの少女リエルナの言葉に赤髪の男ランゲールは手をヒラヒラと振りながら転移の間の扉をくぐる。するとそこで一人の青年とぶつかりそうになり危なげなくかわす。


「おおっと」

「おや、ランゲール殿じゃないですか。早いお戻りですね」


 そこにいたのは白衣に身を包んだ20代そこらの青年だった。メガネをかけ、腰辺りまで伸びた銀色の髪を三つ編みに束ねている。これは彼が憧れている女性を真似てのものだった。


「シェリガーか。ちょうどいい」

「なんです? あなたが僕に用とは珍しい」

「ほらよ」

「わわっ。もう、あなたはいつも乱暴なんで……って、これはっ!」


 ランゲールが投げ渡したのは先程までいたアルトフェリア王国の首都アルストロメリアの西にある森で手に入れたものだった。


 その闇色の結晶体をシェリガーは受け取るや否やあちこちから眺め、時にはスキルを使用して解析していた。


「間違いなく疑似魔王核の元となる災招宝珠(ミセリアオーブ)じゃないですか! い、一体どこでこれを!?」

「例の堕天計画だ」

「へ? あの突発的案件のですか?」


 シェリガーが驚くのも無理はない。彼が所属しているこの組織では、常に複数の計画が同時進行されていた。その中でも、堕天計画とは約1週間程前に急遽計画の一部に組み込まれたものだったからだ。


 忙しい中、偶然見つけられた好条件の対象。あれこれと準備にかかれる余裕はないが、放置するにはもったいない。取り敢えず手元にあるものだけでできる簡易的な案だけを提案し、そのまま実行された。


 他の計画は何年も前から立てられ実行されている中、これほどのものが完成するのがほぼその場しのぎな対応を行った案件の実績だと言われては、研究者の立場にある彼からは納得できないものがあった。


「まさか……こんな短期間で堕天が成ったのですか!?」

「いや……その辺はわからん。それどころか今は……」

「……? そういえば、その(くだん)の天使はどうしたのです?」

「その辺は我が話そう」

「これはリエルナ殿。ではこんな場所では何ですし移動しましょうか」


 ひとつ下の階へと移動し、そのフロアにある一室へと入っていく。そこは広い場所にいくつも机が並べられたどこか大衆食堂のような場所だった。


 ランゲールとリエルナがそのうちの一つのテーブルへと移動し席へと座ると、シェリガーは部屋の脇にある魔法道具(マジックアイテム)から飲み物を取り出し、ランゲールとリエルナに差し出す。


「どうぞ」

「ありがとう」


 礼を言うリエルナに対し、ランゲールは受け取るや否や一気にそれを呷る。その様子を若干あきれるように眺めた後、シェリガーは隣にいるリエルナに事のあらましを聞いていた。


「では、どうやったのかは知りませんが、件の天使は完全に堕天することなくその少年たちに妨害されてしまったのですね」

「だろうな。ったく、リエルナに止められなきゃ今頃ぶっ殺してたのによ」

「でも、災招宝珠(ミセリアオーブ)が深度7まで浸透するほど進行していたものを天使自体は無事のまま切り離す手立てがあるとは……その少年少女たちには少々興味がありますね」

「ちょっかい出すのは今は難しそうだけどな」

「そうね」

「セカイの意思に監視された少年……ですか。そちらも興味がありますが、確かに今は手を出せませんね。でも、今後も行動を共にするかはわかりませんし、いつかチャンスは来るでしょう」

「だったら早くこれを改良しろ」


 ランゲールが取り出したのは薄い銀色のプレートだ。中には魔法陣のようなものが緻密に刻まれており、その中央には小さな魔石が埋め込まれていた。これはシェリガーが製作した魔術道具(マジックアイテム)のひとつで、Sランクの【鑑定妨害】が組み込まれている。


 彼らが所属する組織のメンバーのほとんどが、その内包するランクは異なれど所持しているものだ。組織内の地位が高くなるにつれ組み込まれている【鑑定妨害】のランクも高いものになる。現在この場にいる3人は、そのうち1人は臨時的な立ち位置にあれど幹部に当たる地位にいた。


「【見えざる者(ハイドラーカー)】ですね。確かに核である魔石にヒビが入ってますね……これも本当にその少年が?」

「あぁ。ものすごい勢いで突き破られていったな」

「全10階層のうち、8階層まで破られてますね。リエルナ殿の早期撤退は賢明な判断だったかもしれません。ちなみに、リエルナ殿の見解を聞いても?」

「……最初は勇者のような存在かと疑いましたが、どうやら違うようです。セカイとの関わりは持つようですが、会ってはいない可能性が高そうですね」

「どうしてそう思うのですか?」

「この世界に渡る際に付与される“転移者”、もしくは“転生者”の称号がありませんでしたから」


 リエルナはそれだけ答えると、まぁ似たような称号はありましたが、と心の中でだけ付け加える。全てを口にする気はないようだ。彼女には彼女の矜持があり、この組織に協力しているのもある理由によるものだ。正式なメンバーではない。


 この世界では“勇者”の称号は異世界から招き寄せた者の中で、特に優秀な者に与えられる。そしてこちらの世界へと渡る際には必ずセカイの意思と邂逅を果たし、力を授かるのが一般的だった。事例は多くないが、それはその身そのまま転移する場合でも、一から産まれなおす場合でも変わらない。


 だが、ここでシェリガーにはひとつの疑問が浮かんだ。元々それらの称号からセカイの意思に監視されていると判断したと思っていたからだ。


「では、何からセカイの意思の監視があると?」

「“セカイに選ばれし者”という称号がありました。あなたなら何か心当たりはありますか?」

「いや……ないですね。聞いたこともありません。なるほど、確かにそれは警戒に値しますね。……今のこの状況下で、関わっていい相手じゃなさそうです」

「セカイの意思に選ばれただぁ? そんなすごいやつには見えなかったがなぁ」


 いつの間にか2杯目を入れに行っていたランゲールが再び席に戻るなり首を傾げながら呟く。彼はこのフロアの飲み物を気に入っており、頻繁に利用していた。といっても、飲むのはアルコールが多分に含まれた酒類が中心だった。無料ということもあり、遠慮なく何杯も飲んでいる。


「どんな少年だったんですか?」

「ガキだよ、ガキ。しょんべんくせぇ、生意気な小僧だった。技術も経験も未熟。あぁ、そういや魔力だけはいっちょ前だったな」

「魔力……ですか?」

「あぁ、ありゃカイゼンの旦那を超える魔力保有量だな」

「それは……すごいですね。あの“魔泉”の異名を持つカイゼン殿を超えるとは。そういえば、リエルナ殿は彼を鑑定したのですよね。どの程度なのかは?」


 シェリガーは視線をリエルナへと移す。称号などを調べた彼女ならもしかしたら能力値(ステータス)もと思ったからだ。だが、その予想は覆される。


「我の鑑定では能力値(ステータス)まで見れないのでそこまでは……。でも、確かにこの身に感じる魔力圧は相当なものでしたよ」

「そうですか……なら、最近この世界の総魔力量が低下していますよね。もしかして、彼自身の魔力をあてにして……なんてことは」

「がはは、面白い事を言うな。世界の不足する魔力をたった一人が補うとかどんなバケモンだよ」


 頭大丈夫かと言いたげな顔でランゲールはシェリガーを見つめる。よりによってあなたに頭を心配されるとはと、半ば心外な面持ちで苦笑いを返すシェリガー。だが、彼の中ではその仮定を捨てきれずにいた。


「でもそれしか取り柄がなかったのなら、何か可能性はありませんか? 何も魔力そのものでなくてもいいんです。見た目まだ普通の人族の少年だったんですよね? その歳でカイゼン殿と超える魔力量というのはどう考えても異常です。その原因がセカイの意思にとって重要だったとは考えられませんか……?」

「なるほどな……一理ある……のか? 難しいことはようわからん」

「そうですね。ここで議論していても仕方がないでしょう」


 ランゲールは頭が痛くなる話にお手上げだと言わんばかりに両手を挙げて首を振る。それを合図に、話すべきことは話したとリエルナも話を打ち切った。この手の話は長くなると彼の事を知る故の判断だった。


「仕方ないですね、わかりました。取り合えず、【見えざる者(ハイドラーカー)】の改修には努めますが、僕はこれでも忙しいので時間はかかると思いますよ」

「わぁってる。すぐによくなるとは思ってねぇよ。現状のままじゃ問題がありそうだということが伝わればそれでいい」

「それに、今はこれもありますからね」


 シェリガーが少し惚けた表情で見つめるそれは、先ほどランゲールより受け取った闇色の結晶体、災招宝珠(ミセリアオーブ)だった。それを使ってこれから検証する内容を思い浮かべ、知らずと笑みが零れる。


「じゃ、じゃあ用は済ませたし、俺はもう行くからな」

「そ、そうね」


 その表情に危険を感じたのか、ランゲールとリエルナは足早に立ち去ろうと立ち上がる。


「そうですか、残念です。あ、これ、ありがとうございます。必ず有効活用させてもらいますね」

「あぁ、そうしてくれ。じゃあな」

「失礼します」


 2人と別れた後、シェリガーは自身の研究部屋へと戻っていた。その道中もこれからの事を考え不気味な笑みを浮かべていたことに本人も気づいていない。


 到着した研究室の前に立つと触れる事なく自動で扉がスライドし、部屋の主を迎え入れた。彼の研究室は彼自身が製作した様々な魔術道具(マジックアイテム)に溢れており、これもその一つだった。


 部屋の中には何かの薬品が詰まった瓶や、何の用途に使うのか見た目からはまるで判断できない小物、様々な分野にわたる書物に魔物の一部組織と多岐にわたるものが棚に所狭しと並べられていた。


 それらには目もくれず、シェリガーは奥にある一室を目指し移動する。重厚に閉ざされた扉のロックを解除し中へ入るとそこにいる者へと声をかける。


「問題はありませんか?」

「はい、何も問題ありません」


 言われたことだけに対して簡単に言葉を返すのは彼が生み出した成果のひとつ、自動人形(オートマタ)だ。太古に存在したとされる魔導人形(マギアドール)には及ばないにしても、予めインプットされた命令のみを行う彼女たちは彼の研究に多いに役立っていた。


「うんうん」


 その返答に満足すると、さらに奥へと進んでいく。そこには数多の拘束系魔術道具(マジックアイテム)に拘束された1人の少年の姿があった。彼はここに約1週間前に運び込まれた貴重な実験体だ。件の堕天計画と同時期、偶然発見されたそれはちょうど無理な実験を繰り返して実験体を失ったタイミングで、渡りに船と手続きし運び込まれた。


「やぁ、元気にしてたかな?」

「……………………」


 シェリガーがその実験体へと声をかけるが、言葉は返ってこない。虚ろな目でこちらをただ睨みつけるだけだ。瀕死に近い重症を負ってはいたが、今はシェリガーの処置によりなんとかその一命を取り留めた。だが、それは彼にとって幸運と呼べるのかはわからない。


「やれやれ。せっかく救ってあげたというのに感謝が足りないですね。まぁ、今日は気分がいいから許しますよ。見てください。これ、なんだと思います?」

「……?」


 シェリガーが少年へと見えるように前に差し出したのは、先ほどランゲールから受け取ったばかりの災招宝珠(ミセリアオーブ)だった。


「これはね、あなたが見つかった森にいた天使より生成された災招宝珠(ミセリアオーブ)なのですよ。完全な堕天とは成りませんでしたが、深度は十分なものができました」

「……!」


 その言葉を聞いた瞬間、拘束された少年が激しく暴れ出した。まだ意識もはっきりと回復していないはずだった。それでも、言葉にならない呻き声のようなものを叫びながら足掻いていた。


「これは……? もしかして、彼女とは知り合いだったのですか? 思いを寄せていたり? だとしたら、神族と天使族とはいけない恋に燃え上がりそうですね」


 そう、シェリガーがこの少年を実験体にと欲しがったのは何を隠そう彼の種族が希少なものだったからだ。神族。神界に住まう数少ない、天地すら操る力を持つ種族。この世界にすら滅多に姿を現さない者が、自分の手の届くところに、しかも重症を負った状態で運び込まれた。それを、それほどの研究対象を彼が逃すはずがなかった。天使族をその場しのぎの計画にしたのも、この少年をすでに手に入れていたことが大きかった。


 自身の手掛ける計画に大幅な修正を加えてでも彼自身を取り込み、ここ1週間ほぼ休みなく研究を続けていた。そして迷い込んださらなる吉報。計画の要となる災招宝珠(ミセリアオーブ)の入手。彼の欲望の枷は外れ、過去数年の中でも最高潮に近いほど歓喜していた。


「なら、これも運命ですね。今あなたと天使はひとつとなり、新たな生命へと生まれ変わるのですから!」


 ふふふ、はははははと彼の研究室からは1日中不気味な笑い声が響き渡っていた。


◇◇◇◇◇


 シェリガーの笑い声が届かないほどの上階の窓際、他に誰もいないその場所にランゲールやシェリガーと別れたエルフの少女、リエルナの姿があった。


「はぁ、疲れた。組織に入る為とはいえ、やっぱりこのキャラは失敗だったかなぁ」


 その声は先ほどまでの凛とした雰囲気は消え、見た目相応の少女のものになっていた。窓際に頬杖を突き外を眺めるその姿には見惚れるものがあり、世の中の男子が見れば声をかけられることは必死だったかもしれない。


 だが、彼女自身はそんなものには興味がなく、その思いはたった一人へと向けられていた。


(ねぇ、お姉ちゃん……今どこにいるの? 私、頑張ってるよ? 早く会いたい……な)


 でも、物思いにふけっていたのはたったの数分程度で、すぐさまこんなんじゃ駄目だとブンブンと首を振り、吹き抜ける風にサイドにまとめられた長い白髪を靡かせながらその場を後にした。


 ただ、靡く髪を通り過ぎた風の中には少しばかりの水滴が混じっていた――


次回、2/10更新予定。

次回更新までのどこかで2章のキャラ紹介をはさんでいよいよ第3章に突入します。

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