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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第二章 災いを呼ぶ少女編
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053.5 幕間:セピアの軌跡1

本編で先送りになった、セピアの過去の話です。

ちょっと長くなりそうだったので分割します。


 俺とサクラは第二心格(コナトゥスⅡ)に導かれ、まるでタイムマシンでの移動をしているかのように移り変わる景色を越えた先、神殿のような場所に立っていた。


「ここは……神界……なのか?」

「すごい、島が浮いてる……」


 複雑な彫刻が掘られた柱が幾重に並ぶ石畳、その両脇にある岩からは滝が流れ、足元には豊かな草原が広がっていた。アーステリアと異なり、ここは力に満ちた自然豊かな世界のようだ。


 上を見上げれば島がいくつも浮いており、その上にも木が生え自然が広がっているようだった。その他にも結晶体のようなものがいくつも浮遊し、島の周辺を旋回している。


 天高くそびえる塔、眼下に広がる街のような場所には見たこともない煌びやかな建物が並び、その雲一つない空のはるか先には虹の様にかかる魔法陣のようなものまである。まさしく、ファンタジーゲームが現実になった世界だ。もう失ったはずの冒険心が擽られる。


 すると翼をはためかせて一人の少女がやってきた。パタパタと背中ではためく翼に少し違和感を感じたが、すぐにその理由に思い至る。


 天使セピアとの戦闘時は翼は広げるだけで羽ばたかず、普通に浮き上がっていたような気がする。よく見ると、トコトコとこちらに向かって走ってくる姿には見覚えがあった……というより、そのセピア本人だった。


 だが、目の前を通り過ぎても俺たちにはまるで気付いた様子がない。おそらく、記憶の世界なので俺とサクラはこの世界に干渉することが出来ないということだろう。


「なるほどな。直接目で見て、真実を確かめろと言うことか」

「うさぎさん可愛い!」

「あぁ、そういえば何か抱きかかえていたな」


 走るセピアの勢いに揺られ、長い耳がユラユラと揺れていた。サクラもああいう女の子らしい可愛いものが好きなら今度何か買いに出掛けるかと、この依頼が終わった後の事を考える。今までサクラが欲しがったものといえば必要な衣類や、俺の力になりたいからか武器など趣向品がなかった。ちょうどいい機会かもしれない。


 でも、今はまだそんなに金銭に余裕があるとは言えないので早いとこ安定した生活ができるように対策を立てないとな。気付いたらかなり創作世界(ラスティア)に住まう人数も増えた。食料や水は畑や魔術でどうにかなるにしても、お金はあるに越したことはない。


 そんな関係ないことを考えながら走り去るセピアの後ろ姿を見送っているとサクラが呟く。


「行っちゃったよ?」

「あ! これって、後を追いかけたほうがいいのか?」


 そう思った瞬間、周囲の景色がザアッと地面に落ちた木の葉が舞う様に移り変わっていった。どうやらシーンは自動で切り替わっていくらしい。


 次に目に入ったのはさっきの神殿と似た場所だった。恐らくセピアが向かった先、奥にある祭壇なのだろう。そこにはセピアともう一人、20代前半に見える快活な雰囲気を持った女性がいた。長い金髪をポニーテールに束ね、クリーム色の豪華なドレスに身を包んでいる。その手には立派な杖を携えていた。


「おっ、来たねセピア」

「は、はいなの……アシュリア様」

「相変わらず固いなぁ。もっと楽にしていいって言ってるでしょ? なんか私の方が場違いな感じになっちゃうじゃん」

「で、でも、アシュリア様は光神様なの。無礼になるの」

「他に誰もいない場で、本人がいいって言ってるのに?」

「…………」

「もう……まぁ、無理強いはよくないよね」


 驚いた。目の前にいるのが光神……つまり光の神ということか。もっと女神のような神秘と威厳に満ちた女性をイメージしていたが……目の前にいる光神様と呼ばれた女性はどこか女子高生のような雰囲気さえ感じる。


 だが、普通じゃないのは俺でもわかる。彼女のその身は神力に満ちていたからだ。それは全快したハクナとは比較にならない規模だった。


「そ、それで今日は……」

「あぁそうそう。私、ちょっと外せない用事が出来ちゃってね。今日の“光霊泉の儀”をお願いしたいんだけど……いいかな」

「……え? セ、セピアが!?」

「セピアなら【聖域】、使えるでしょ?」

「むむむ、無理なの! あ、あれは大事な儀式なの! もし、失敗したら……!」

「大丈夫、大丈夫! セピアなら任せられるから!」

「で、でも……!」


 親指を立てて成功を保証する光神に対し、セピアはかなり不安気な表情をしている。


 どうやらセピアは神界でも気弱な性格なのは変わらないらしい。光神はなかなか受け持ってもらえないことにどうしたものかと頭を悩ませていた。


「何が心配?」

「セピアはまだアシュリア様みたいにうまく出来ないの。そ、それにあそこの近くには要石(クラネリア)もあるの……もし、また力が暴走したら……」

「うーん、大丈夫だと思うけどなぁ。セピアは相変わらず心配性だね」

「うぅ……」

「ライゼの頼みだし、断れないからなぁ……わかった! じゃあ、クルスに手伝ってもらってもいいから。それならいい?」

「クルスに……?」

「そう、クルスに」

「……?」


 セピアは手に抱き抱えていたクルスを目線の前まで持ち上げ眺めると、そのまま首をコテンと傾ける。その顔にはどうやって? と困惑しているのかポカンとしていた。


 だがクルスと呼ばれたウサギのぬいぐるみにはやる気があるのか、腕をぐっと折り曲げ請け負うようなしぐさをした。


「なんだあれ? 神界の生き物なのか?」

「かわいい……」


 サクラは動くぬいぐるみに目を輝かせていた。どうしよう……流石に生きたぬいぐるみが売っているとは思えない。まさか、標準でこの世界ではぬいぐるみは動くものなのだろうか?


 俺がどうでもいいことを考えていると、目の前を光神が飛び去って行った。


「それじゃあ、お願いねー」

「え?」


 セピアがその声にクルスから視線を光神へと戻した時には、すでに光神は飛び去って行った後だった。


「え?」


 バッとセピアが慌ててテラスのような場所へ駆け込むが、光神は空の彼方だ。もう声も届かないだろう。


「そ、そんな……」


 セピアはその驚愕の事実に、その場にペタンとへたり込んだ。途方に暮れ、ただずっと光神が飛び去った方向を眺めているとぬいぐるみのクルスがその肩をポンポンと叩き、光神が飛び去った方向とは逆の方向を指し示す。


「え?」


 その方向へセピアが視線を向けるが、そこには誰もいない。だが、クルスはセピアの手を取りそちらの方へと引っ張ろうとしている。


「も、もしかして、儀式をやろうとしてるの?」


 さっきの話の流れからか、セピアがクルスへおずおずと問いかける。それにクルスは自分の胸をどんと叩き、自分に任せろと言わんばかりに胸を張った。


「で、でも……」


 だが、セピアは相変わらず動こうとしない。それを見かねたのか、クルスはやれやれと言わんばかりに首を振るとセピアを置いたまま出口の方へと1人で歩き出してしまった。


「ま、待って!」


 流石にそれは看過できなかったのか、トコトコと歩いていくクルスの後をセピアが追いかけていった。


「流石ファンタジーな世界だ。ぬいぐるみに意思があるとは……」

「妖精さんだよ?」

「妖精? あのぬいぐるみが?」

「うん。フェニアがそうだって」

「そうなのか。変わった妖精がいるんだな」


 妖精と言われ一番に思いつくのは小さな羽の生えた女の子だ。この世界の妖精が全てぬいぐるみなのか、そういう種なのかは不明だが、それでもファンタジーに変わりはない。


 サクラと妖精について話していると、また場面が移り変わった。


 先程の儀式の場所へと向かう道中だろう。緩やかな丘の合間を縫って存在する道を歩く暗い表情のセピアの前を、ピコピコと長い耳を揺らしながらクルスが先導していた。


「う~、アシュリア様はバカなの。セピアにはまだ無理なのに……」


 とぼとぼと歩くセピアには元気がまるでない。さっき本人の前では無礼になると言っていたのにまさかの悪口まで言うほどだ。余程嫌なのか、空を飛ぶことはせずゆっくりとクルスの後ろを歩いていた。


 はたから見ると、ウサギのぬいぐるみの後ろを歩く少女の姿は御伽の国を彷彿とさせ、どこか和やかな気持ちにさせるほどだった。旗でも持っていれば遠足にでも出かけるのかと思ってしまいそうだ。


「ちなみに、“光霊泉の儀”っていうのは何かわかるか?」

「わかんない。フェニアも知らないって」

「そうか。まぁ、神界特有の儀式なんだろうな。悪魔であるフェニアが知らなくても当然か」


 サクラとたわいない話をしながらセピアの後を追っていると、どこからか石が飛んできた。


「痛いの!」


 それがセピアへと当たった瞬間、誰がこんなことをと視線を向けると、道の斜め前、少し丘になった場所に1人の少年が立っていた。


「やーい、泣き虫セピア! こんなところで何してるんだよ?」

「うっ、オルゼ……」

「はっ、なんだやるか?」

「…………」


 挑発されるセピアだが、それに歯向かう気がないのかそれを無視して先へ進もうとする。だが、それが気にくわないのか、オルゼと呼ばれた少年がさっきよりも大きな石を手に取った。


「あいつ!」

「危ない!」


 それを見て俺とサクラが悲鳴を上げる。だが、記憶の世界だからかその声はセピアへは届かない。きっと魔術を発動させても無駄だろう。これはすでに起きた、過去の光景なのだから。


「無視すんな!」

「きゃあ!」


 大きな石がセピアへと投げられたその瞬間、それは起きた。


 周囲に生えていた草花が突如として巨大化、蔓が伸びてセピアを引っ張り、花が石を受け止めその身を守ったのだ。


「なんだそれ!」

「な、何これ?」


 その起きた事態に、少年だけでなくセピアまでが混乱している。両者にとってこれは不測の事態なのだろう。おそらく、セピアが持つ固有スキル【生存本能(コナトゥス)】か【心層投影(リライトフル)】、そのどちらかが発動した結果だと思われる。


 蠢く花の蔓はセピアが無事だったからといって元に戻ることはなく、今度はその狙いを少年へと定め襲い掛かった。


「なっ!」

「ダメなの!」


 セピアの悲痛の叫びも空しく蔓が少年へと届こうかという時、少年の身体が突如として燃え上がった。その背にはハクナが発動させようとしていた技に似た、神紋が浮き出ている。


 その炎に触れたところから蔓は燃え上がり、それはセピアの元に向かってどんどんと広がっていく。


「はっ! 泣き虫セピアのくせに生意気なんだよ! そっちがその気ならこっちだって容赦しないからな!」

「や、やだ! 燃えちゃうの!」


 だが、炎がセピアの元へと到達する前に、巨大化していた花は霧散し消えていく。しかし、落ち着く間もなく今度はその代わりと言わんばかりに地面が陥没し、その分の土や岩を使ったのか土砂でできた龍がセピアを守るように渦巻いた。


「おもしれぇ! どっちが強ぇか勝負だ!」

「やだ、やだ、もうやめてなの!」


 泣き叫ぶセピアを無視して、少年はさらに身に纏う炎の勢いを強めると土砂でできた龍に襲い掛かる。驚いたことに、少年は武器を使わず素手で挑んでいた。だが、土砂の龍を拳で殴っても負傷することなく、見事に打ち砕いている。


 口先だけではない。自分の力に、余程自信があるのだろう。だが、セピアを守る龍は土砂で構成されている。いくらその身を打ち砕かれようがすぐさま再生し、その本数を増やしていく。


「くそっ! 龍がなんだ! こんなの全然屁でもねぇんだよ!」


 ドカァッと勢いよく振り抜かれた拳が2つの龍の頭部を打ち砕いた。


「だから、いつまでもウジウジしてんじゃねぇ! こっちまでつまんなくなるだろうが!」


 頭を抱えて蹲り、泣き言を呟くセピアに向かって吠える。


「こいつ……やり方はあれだが、もしかしてセピアの弱気を治そうと……スキルのことなんてなんてことないということを示そうとしているのか?」

「天使の事好きなのかな?」

「いや、それは流石に……」


 なんで女の子というのはこうなんでも恋愛に繋げたがるかなと思った時、そこで事態は急変する。


「おい! そこで何してる! ここをどこだと思ってるんだ!」

「やばっ!」

「あぁ!」


 どっしりとした体躯に神聖な雰囲気を纏う鎧に身を包んだ大柄な男が警告を発する。神界の警察みたいなものだろうか。その騎士の出現に慌てる少年、事態の変化についていけず困惑するセピア。


 騎士の男が事態を収めようと前へと進み出た瞬間、ドドドドッとさらに追加で地面から龍が出現、その勢いのまま今度は騎士へと襲い掛かった。

 

「何をっ!」

「やだぁ、止まってなの!」

「クソっ」


 元は自分が引き起こした事態だからか、炎の少年が騎士と龍の間に割り込み術を行使する。


「我が身を糧に、祈りを捧ぐ。天に轟け、極天の煌き。【理想経典(アルカディアス)】!」


 祝詞に従い生成された光の障壁が土砂の龍による怒涛の突撃を受け止める。


「これは……まさか、あの少女は光神様の従者か?」

「あう……」

「力が暴走している。危険だ……この力は、あまりにも危険過ぎる」

「ま、待ってくれ!」


 事態を把握した騎士が不穏な言葉を放つ。その言葉に、今度はセピアを庇うように立ちふさがる少年。


「そこをどきなさい。これは未来を見据えた、天教騎士の判断です。あなたに逆らう権利はない」

「こ、光神様に無断で従者を殺すつもりなのか!?」

「あの方も事態を説明すれば納得されるでしょう。それに、碌に力の制御もできない彼女を放置した責任もあります」

「そ、そんな……い、いや待ってくれ。おかしいだろ! まだ何も悪いことなんて起きてないじゃないか!」

「まだ……ですね。起きてからでは遅いのですよ。私には神界の秩序を守るという義務がありますので。邪魔建てするのであれば、例え炎神様の子であるとはいえ容赦しませんよ?」

「ぐっ」


 その言葉に少年が歯噛みする。神界の事情はよく分からないが、神の従者やその子よりも権力が上の組織があるということか。相手の言葉に正当性があるのか、少年は反論できないようだ。


 それにしても今度は炎神の子か。ハクナと比べて随分と幼い。小学校中学年くらいじゃないか? ハクナには【不老不死】の特性があったが、彼も同じように持ってるのだろうか? いまいち神族の成長過程がよくわからない。


 事態はセピアを殺すような話になっているが、現実世界でセピアが生きている時点で実現しないはずだ。その未来を知っていなければ、俺も少年のように慌て、下手をすると発狂していたかもしれない。少女が殺される場面など、二度と見たくなんてない。


 サクラもそれがわかっているのか、さっきから俺の手を握る力が強くなるが口には出さず成り行きを見守っている。


 すると天教騎士の男が炎神の子である少年を押しのけ、剣を抜き放つ。その剣を眼前に構え、祈りを捧げるかのように目をつぶる。


「我、天教騎士第七席モルセルウィーが名の下に、執行権限“天魔裁断”を発動する――」


 そのまま天へと掲げると剣が光輝き、神紋に似た、巨大な剣が生成される。俺が持つ【起源刃:霊煌】が生成する刃にどこか近い、だが、放たれる力は少し異質だ。


 神聖な雰囲気を発しながらも、その力にはどこか濁りを感じる。


「駄目だ。やめろ。やめてくれ……」

「天の裁きをここに」


 少年の震える悲痛の声も空しく、騎士の身長の2倍はあろうかというサイズに膨れ上がった剣が振り下ろされた。


「いやぁ!」

「やめろぉおおおお!」

「なっ!」


 その裁きを止めようと少年が大地を思いっきり蹴りつけた瞬間、大地にヒビが入り、姿勢を崩した騎士の剣はセピアの横を通り抜けた。だが、その一撃を受けた大地はその力を受けきることができずに崩落、セピアたちはその先、奥深くへと身を沈めていった――


次回、1/13更新予定です

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