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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第二章 災いを呼ぶ少女編
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052 外での攻防

年末年始スペシャル3日連続更新! そして次回2章完結!

1章に比べ文字数大分多くなりましたが、無事に終えられそうでよかった……

え? 今年中完結じゃなかったのかって? はい無理でした。


あ、始まりはベル視点です。前の話の外での話です。


 契約を交わした主と同じ従者サクラの姿が天使の中へと消えるのを見送ってから、幾重の攻防が続いている。


 不完全な覚醒状態、そして相手の精神の中に主である少年達がいる為に本気を出すこともできず、ただ無駄に力を消費するばかりで嫌になる。


 リスクがあるのはわかってたのに。なんとか悟られまいと強がってみたけど、本来の構成から崩れたスキル、しかも魔王の座から降りた私には【魔王の矜持】の覚醒状態を維持するのはかなり無茶が過ぎたようだった。


 少しでも気を緩めれば魔力の制御が崩れ、身体が中から崩れそうになる。さっきからズキズキと頭痛が響くのが収まらない。頭を押さえ、なんとか意識を保つのに必死だ。


「……っ。私らしくないわね……こんなの」


 誰かの為に自分を犠牲にする。そこまでして力になりたいと思うほど彼に入れ込んでいたことに内心驚きを隠せなかった。


 この前までは“怠惰の魔王”と呼ばれた存在が、昔の私を知っている者が今の私を見ても信じられないかもしれない。


 それでも、この気持ちは確かに偽ることない私のものだ。出会いは唐突だったけれど、これほど楽しく過ごせた時間は過去になかった。


 彼が望むなら、その思いに応えたい。なら、私のやることなんて決まっている。こんな過去の過ちの代償になんて負けたくない。


「ベルフェゴール!」

「大丈夫よ。それより、まだ終わってないわよ」

「はい。ここからが正念場ですね」


 空中に佇む天使は心の中に来訪者を受け入れてもその活動を停止することなく、消えることのない敵意をむき出しに戦闘を繰り広げている。なおも周囲の瘴気を吸収し、次なる天術の行使へと行動を開始していた。


 まるで操り人形と化していた動きも徐々に滑らかになり、その姿、力は魔王のそれに近づいているようにすら感じる。


 どういうこと? いくら瘴気を吸収し力としているとはいっても、明らかに堕天の進行が早すぎる……


 これじゃあ、ちょっとしたお礼程度じゃ割に合わない。後でとびっきりのを請求してあげるから覚悟しなさいよと内心で自分の主となった少年へと告げると、自分も【魔王の矜持:覚醒】の負荷に耐えられているうちに行動を起こすために魔術を起動させる。


「絶望を望む者、希望を拒む者、夜より黒き影より出でよ。暗き深淵の底、汝が忌むべき煌きを虚無の彼方へ誘え。全てを糧とし、全てを喰らえ。蹂躙せよ!」


 詠唱が紡がれるにしたがって背後に特大の魔法陣が層を重ね生成されていく。


 流石に覚醒状態ではS級魔術の【無詠唱】行使は無理があった。痛みに耐えながらでは必ずどこかにほころびが生じる。なんとか邪魔されずに詠唱はできたけど……


 まずはあの天使を地に引きずり落とし、拘束する。多少、ダメージは入るでしょうけど、流石に精神世界までは大丈夫なはず。


「まぁ、ちょっとくらいは自分で何とかしなさいよ!」


 少しのリスクは主の少年へ棚上げし、目標を定め発動の最後の言葉を紡ぐ。


「【淵暴喰(アビスネギア)】!」


 背後の魔法陣から6体の紫色の闇属性魔力で構成された蛇がその牙を煌かせ、うねり食らいつこうと天使へと迫る。


 天使は無差別に放っていた【煌裁零華(リルレ・フェリア)】を蛇へと集中させるが、それをものともせずに突き進んでいく。


「全てを喰らう奈落の蛇はそんな攻撃じゃびくともしないわ。今は魔力だけはいくらでもあるのよ! あまり舐めないことね!」


 手に持つ愛用の大鎌【堕落鎌(レイジネス)】を振るう。その軌跡に沿って、魔力で構築された斬撃が形成される。【鎌術】のLv.7奥義、【飛蒼】が【淵暴喰(アビスネギア)】の合間を縫って進み、天使の障壁に深々と傷を刻む。


 できた障壁の隙間に群がるように【淵暴喰(アビスネギア)】が襲い掛かった瞬間、天使がスキルを発動させた。


『【聖域】展開』

「なっ!」

「……! あなたは下がってください!」


 そのスキルが発動した瞬間、私は水の神子に突き飛ばされるように天使から離される。


 勢いが弱まり、姿勢を正した眼前には天使を中心に菱形の形状をした柱がいくつも円状に広がり、陣を形成していた。各柱から光の紋様が煌き、繋がり、球状の結界を構築している。


「これが……聖域!? 冗談じゃないわ!」


 そこに広がっていたのは聖なる領域とはとても呼べないものだった。暗い闇色に染まった、むしろ悪意に満ちた空間に近い。


「でも、本来の効果はきちんと発動しているみたいね。【淵暴喰(アビスネギア)】を含め、魔術が無効化されているもの」


 聖域とは本来、(よこしま)を退け、儀式を行うための場を整えるためのものだ。それは不浄を払い、また、神に連ならない力を抑制する。つまり、神力以外の力を無力化するのだ。


 あともう少しのところで届きそうだったのに。こんなことなら、解析したらしい時に他にどんなスキルを持っていたのか、ちゃんと聞いとけばよかったとはがみする。


 今となっては遅い後悔。神力ならばまだあの空間内でも行動できる。だから、代わりに水神子が相手をするのが効率がいいのは確かだ。


 それでも、やはり普通の【聖域】と違うのか、どこか調子が悪そうだ。天使と水神子の攻防を眺め、そう観察する。魔術がうまく使えないからか、その戦いは近接戦が主軸となっているが私がそこに入る余地はなさそうだった。


 なら、私にできることを考えるべきだ。あの【聖域】には流石に今の私じゃ入れない。この覚醒状態を維持するだけでも大変なのに、あんな不安定な空間じゃとてももたない。


 中が無理なら、外からしかない。いくら【聖域】が魔術を無効化するといっても、あくまで極端にその力を弱めるだけ。魔力を過剰に込めれば……


 その時、ふと下方からの視線を感じて下に目を向ける。


「何? ……っ!」


 その視線の正体に気付いた瞬間、パキャァアアアアン!と氷と、そして魔術の鎖が砕ける音が響く。そこには翼を広げ、武器を構え、一目散にこちらへと飛び上がる戦乙女(ヴァルキュリヤ)の姿があった。


「嘘でしょ!? よりによって、このタイミングでなんて!」

「ベルフェゴール!」

「こっちの心配はいらないわ! あんたは天使をしっかりと抑えてなさい!」


 それに気づいた水神子も声を荒げる。けど、今の状況を切り抜けるには分担するしかない。


「ずっと、私たちの戦いを観察し、学習してたのね! さっきまでと動きが段違いじゃない! これだから天の傀儡人形は嫌なのよ……!」


 牽制に放った【闇球弾(ヤボル)】をギリギリでかわし、最短距離でこちらへと向かってくる戦乙女(ヴァルキュリヤ)へと悪態をつく。

 

 リセットされていた戦闘能力も、この短い間で情報を収集し学習したのか随分と本来のものに近づいている。恐らく自身のスキルで改良しているのだろう。傷もまた修復されていた。


「もう遅れはとりません!」

「いきますよ~」


 圧倒的成長速度で会話能力すら取り戻した戦乙女(ヴァルキュリヤ)の攻撃が迫る。


「舐めないで!」

「くっ!」

「こっちです~」


 力に任せに剣の戦乙女(ヴァルキュリヤ)の攻撃を弾くが、その背後からとぼけた声と共に槍の戦乙女(ヴァルキュリヤ)の攻撃が続く。


「この……鬱陶しいわね! 【悪雷穿(マルエトニトス)】!」

「やぁん!」


 それを黒き雷で穿つ。すると、今度はその死角から剣の戦乙女(ヴァルキュリヤ)の突きが迫っていた。


「うっ……しつこいのよ! 【狼影駆(ウルブラニス)】!」

「そちらこそ!」


 なんとか大鎌【堕落鎌(レイジネス)】で剣を受けると、距離をとる為に押しのけ追撃に魔術も放つが、連携を途切れさせるために2人に放ったはずが剣の戦乙女(ヴァルキュリヤ)の斬撃によりその全てが斬り飛ばされる。


「なっ!」

「そ~れっ!」


 またもや途切れることなく続く連携により今度は槍が投擲された。


「くっ」

「隙ありです!」

「きゃあ!」


 なんとか【堕落鎌(レイジネス)】の持ち手でそれを弾き凌いだと思った瞬間、いつの間にか真横に迫っていた剣の戦乙女(ヴァルキュリヤ)による一撃を受ける。


 ギリギリ障壁の展開が間に合いダメージ自体は減少させられたものの、その勢いを受けきることができずそのまま地面へと叩きつけられた。


「やってくれたわね……」


 試しに【怠惰(アケーディア)】を放ってみたが、流石に神界の人形だからか効果は確認できなかった。生物ではないからかもしれない。ついた土埃を払い、空を見上げる。


 【魔王の矜持】の中に含まれるスキル、【混沌の祝福】の効果により傷を癒す間もなく追撃の兆しが天に輝く。それは天術発動の光だった。


「ちょっとは休ませなさいよ!」


 降り注ぐ光の矢の嵐をかわし、一部は【闇球弾(ヤボル)】をぶつけ相殺させていく。


「もう壊さないとかどうでもいいわ。私には関係ないもの。覚悟なさい! 【赤熱波(フォルメト)】!」


 ドゴォオオッと私の地面を中心に盛大に爆発が巻き起こる。【魔王の矜持】にある【魔術適正:闇】ほど適正値は高くなくても、B級程度までなら火属性にも適正がある。


 周囲の地面を粉砕し、それによって生まれた残骸を【物体浮遊】によって浮かせ、戦乙女(ヴァルキュリヤ)に向けて一気に解き放った。


「無駄です!」

「いくわよ~」


 戦乙女(ヴァルキュリヤ)達はその残骸を高速の剣撃、もしくは天術によって悉くを粉砕していく。その最後の大岩を切り裂こうと剣を振りかぶった瞬間、その大岩から飛び出し隙だらけのお腹へと盛大に大鎌を打ち付ける。


「お返しよ!」

「うっ!」


 流石に両断はしない。柄の部分で思い切り叩きつけた。その陰から槍の戦乙女(ヴァルキュリヤ)が飛び出してくる。けど、その振るう槍には先ほどまでの勢いがない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを大鎌で弾く。


「あれ~?」

「あらあらどうしたの? そんなんじゃ私には届かないわよ?」

「どうし……て?」

「あなた達はもう眠ってなさい」


 【物体浮遊】で飛ばした残骸を今度は地上へと落とす。その残骸に巻き込まれ、戦乙女(ヴァルキュリヤ)達も地上へと叩きつけられた。


「何故……だ。力が……思考が……」

「相手が悪かったわね。こう見えても私は“怠惰の魔王”なのよ。あなた達自身に力が働かなくても、身に宿るスキルは別よ? 所詮は仮初の力。スキルが怠け、仕事をしなければあなた達は何もできない」

「そ……んな……」

「いいからもう眠りなさい」

「く……!」


 動かなくなった戦乙女(ヴァルキュリヤ)を見て「ふう」とため息を吐く。随分と派手にやられた。そう思って傷を確認するが、攻撃のインパクトに比べ展開した障壁があったとはいえ随分とダメージが小さい。


 せっかく主である少年からもらった服も随分と汚れてしまったと思ってから気づく。


「そうだったわね。この服にはサクラと同じ、保護の力があったのよね。それにこの汚れも……」


 着ている服【堕落魔王の変装着】へと魔力を通すと、今までの汚れが嘘のようにきれいになる。それに満足すると上を見上げる。


「早く戻ってきなさいよ……」


 その呟きの後、覚醒状態が解け、意識が薄れていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 聖域の中、天使というよりは本当に悪魔、いや魔王に近い少女を見据える。


 気になることはたくさんある。なんで、神界に住まう天使がこんなところにいるのか。そんな姿になるまで瘴気を取り込んでいるのか。あの戦乙女(ヴァルキュリヤ)は、要石(クラネリア)は、考えだしたらキリがない。


「でも、今は戦います。きっとご主人様(マスター)が答えをくれると思いますから。あなたに思うところはあります。だけど、今は私を助けてくれたご主人様(マスター)の為に、あなたを助けます」

『……………………』


 さっきからこの天使は会話をしてこない。それまでは生意気なくらい流暢に会話していたのに。今となっては攻撃の時だけ。


 この聖域も普通じゃない。邪を払い、神力以外の力を抑制するはずの結界が汚染されている。あの天使と同じ、これも瘴気の影響なのか。


 身体に負荷がかかる。でも、動けないようなものじゃない。それに、魔力よりも神力の方が扱えるのは変わらない。なら、ここは悪魔であるベルフェゴールより私が相手をすべき場所だ。


「【蒼天剣(レギンレイヴ)】」


 魔力ではなく、()()を消費して魔術を行使する。相手も両手に光輝く白と黒の短剣を握りしめている。先程から何度も続く剣撃の応酬。獲物が術式によって作られたものの為、武器を破壊してもこうして何度でも元に戻る。


「それでも、ご主人様(マスター)が戻るまではあなたを止めます」


 【三相転移(フェイスシフト)】を発動し、液体、気体と流れるように相を移し、実体とを切り替えて縦横無尽に斬りかかる。


 防御を無視できる分、こちらが有利なはずなのに天使は驚異的な反応を発揮し、捌き、受け流し、時には反撃を仕掛けてくる。


 やっぱり、私のなまじ剣術じゃ通用しない。でも、時間稼ぎだけなら……!


 そう思った瞬間、下に感じる力が膨れ上がる。それは動きを封じていたはずの戦乙女(ヴァルキュリヤ)のものだった。


「ベルフェゴール!」

「こっちの心配はいらないわ! あんたは天使をしっかりと抑えてなさい!」

「…………!」


 無茶してるくせに。


 あの【魔王の矜持】の覚醒とやらを発動させてから、力の波が大きく揺らいでいる。複合魔術で競り合っていた時も、不安定極まりなかった。


 それでも、戦いから身を引かない。怠惰の魔王を名乗っていながら、他人の為に戦う。それほど、彼女もご主人様(マスター)に感謝しているんだろう。


 負けてられない。私は居場所なんてものじゃない。命を助けてもらったんだ。【不老不死】も、力の元となる神力がなければその効果を発揮しない。それに、一度は断られても、ご主人様(マスター)が私にとって希望なのに変わりはない。


 なら、私も少しでも恩返しができるように、力を貸してもらえるように全力で応えるだけ。


「【神之御業(オプスデイ)】」


 背に紋様陣が展開される。一度はご主人様(マスター)に止めれたけど、今度は天使を殺すためじゃない。ご主人様(マスター)も中にいるのにそんなことはできない。


 ただの足止め。邪魔な結界を砕き、暴れる気すらなくなるほどの圧倒的な力をもって――


「【反鏡氷楼(ミラネクラリア)】」


 その瞬間、結界を構築していた柱が瞬時に凍結し、ひび割れ、結界ごと砕け散った。周囲を吹雪が覆い、辺り一帯を極低温の嵐が支配した――


次回、1/1更新予定です。

今年も残りわずか。皆様、よいお年を。

もしくはすでに、あけましておめでとうの人も?

何にせよ、来年もよろしくお願いします!

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