049 第二心格
すみません。
バタバタしており、こっそりと更新1日ずらしました。
……なのに少し短め。最近忙しくてと言い訳してみる。
切り株の上に胡坐をかいて座り、頬杖を突きながら不機嫌にこちらを見つめる第二心格の天使。
現れた存在を前にサクラが思わず俺の前に出ようとしたところを問題ないと制する。先の事もあってか、どうにもサクラは攻撃的なきらいがある。本来の目的を覚えているのか心配になってくるほどだ。
俺の事を思って動いてくれるのは嬉しいが、もうちょっと落ち着きを持って行動してほしい。いつか取り返しのつかないことになりそうだ。
取り敢えずサクラを落ち着かせると、何かしてくる様子もない天使へと向き直る。
「今回はいきなり襲い掛かってこないんだな」
「ふん。ここをどこだと思ってるんだ。その力……外部から供給されてるわけではなく、お前本来のものか。信じられないが……どうやらお前の言い分が正しくて、間違っていたのは俺の方らしい」
相変わらず、その可愛らしい姿には似合わない太々しい態度で答えてくる。
天使セピアの精神の中にいるからか、俺の魔力量を正確に感じ取っているらしい。そのおかげで、俺が彼女の事を助けると言っていた言葉が嘘ではないと、完全に信じてもらえたわけじゃないが一考する価値があると、どうやら認めてもらえたようだ。
「それで本来の天使セピアはどこにいるんだ?」
「その前に話を聞かせろ」
「問題ないが……なんの話だ?」
「そもそもお前は俺がどういう存在か知っているのか?」
「正確に把握してるわけじゃないが……彼女が持つ固有スキル【生存本能】に関わってるんじゃないかと思っている」
「へぇ……てことは【鑑定】持ちか。まぁ、間違っちゃねぇな。半分正解といったところか」
「半分?」
「元の天使は消えちゃったの?」
俺と天使の会話からどうやら危険はなさそうだと判断したのか、サクラがおずおずと問いかけていた。どうやら俺が助けると言っていた天使の事がサクラも気になっていたらしい。
目的を忘れていなかったようで何よりだ。会話に割り込まれても、特に気にするでもなく律儀に天使はサクラの問いに答える。
「消えちゃいねぇさ。奥の、それはもう深いところに閉じこもってるだけだ」
「出てこないの?」
「どうだろうな。俺としても出てきてほしいところだが、こいつの捻くれ具合は筋金入りだ。救世主が現れたなんて言ったって、信じて出てくるわけがねぇ」
言葉の端から感じ取れる雰囲気では、どうやらこの第二心格の天使は俺たちに協力してくれるつもりらしい。
だが、肝心の天使セピアは心の奥底に閉じこもって出てこないと……。そろそろ天使本人と目の前の第二心格、そして今表で暴れているであろう第三心格との区別が面倒になってきたな。半分でも正解なら、これからは目の前の天使は仮で第二心格と呼ぶことにするか。
話の流れから予想すると目の前の第二心格が強制的に精神をのっとったわけではなく、本来の彼女が自らの意思で明け渡したということなのだろうか。もしくは無意識にか?
心の中に入れたはいいが、天使に会えなければ話にならない。だが、無理やりに事を進めても意味がない。今回の事態はおそらく彼女の心の弱さが原因である可能性が高いからだ。
そんな中、強引に彼女の心の中に押し入り、無理やり引っ張り出したところで解決できないだろう。むしろ悪化する可能性の方が高い。
それにもし今回はなんとかなったとしても、また同じことが起きることだってある。
ならやることは明確だ。問題が起きた時の対処はだいたい決まっている。それは壊れた機械だろうが、人の精神的な話だろうが同じことだ。起きた問題に対してその場限りの対応をするのではなく、何故その問題が発生したのか、その根本的原因の究明とそれに対する対策だ。
まずは情報収集からだな。今回はちょうどいい相手もいることだし聞くが早いだろう。
「そもそもなんで彼女は閉じこもっているんだ?」
「普段から後ろ向きな性格をしているが、今回ばかりは不幸が重なった……とは言えるかもな。まぁ、こいつ自身もどうかとは思うぜ?」
「何があったのか話してもらえないか?」
「そうだな……事態が好転する可能性があるなら、お前にかけるのもありか?」
第二心格は俺の事をじっと見つめ、まるで品定めするかのように胡坐をかき、顎に手を当て考え込んでいる。
もう少し足を立てるとパンツが見えてしまいそうだななんて余計なことを考えていると、第二心格は「よし」と何か結論が出たのか立ち上がる。
「話すのはいいが、その前にこれだけは聞かせろ。お前はなんの為にこいつを助けるんだ? おまえ自身に、一体何のメリットがある? それがわからなければ、こいつをお前に預けることはできねぇな」
予想外の質問に俺は少し返答に困ってしまう。
この第二心格はこんな性格をしているが、やはり彼女を生かそうとしているスキルの原点故か天使本人のことを嫌っているようでいて大切に思っているらしい。
それにしても何故助けるか……か。難しい質問だ。ただ助けたいからだなんて答えで納得してくれるとも思えない。ことは信頼に関わる話だ。真面目に答えないといけないだろう。
俺自身、ここまで理不尽な目にあっている子供を助けたいと思うのは間違いなく過去の事件が発端になっている。だが、今その事件について一から説明なんてしてられない。
それに、あの事件についてはできれば深入りしてほしくない。変に興味を持たれて根掘り葉掘り聞かれたりしたら、俺はこの件から降りてしまうかもしれない。
かといって嘘はだめだ。なら、ある程度は覚悟するしかないか。まぁ、何もかもを話す必要もないだろう。
「メリットなんてないさ。しいて言うなら、彼女の笑顔なんていうのはどうだ?」
「ふざけてんのか?」
「まさか……そんなつもりはない。そうだな、昔、助けられなかった少女がいたんだ。俺の事を慕っていて、俺の為に色々と面倒を見てくれていた、無邪気に笑う笑顔が可愛らしい子だった」
「……師匠?」
俺の言葉の端から不安を感じ取ったのか、サクラが気遣う様に俺の顔を覗き込んできた。俺はその顔を見て心配をかけてしまったと後悔しながら、その頭を撫でながら「大丈夫だ」と言葉を返すと天使へと向き直る。
「だが、俺はその子に何も返してやれないまま、その子は亡くなってしまった。いや、俺のせいで彼女は死んでしまったと言ってもいい。だから、助けられる力があるなら、助けたい。これは言わばあの子への罪滅ぼしだ」
「そうか。だが、その子とこいつは別人だ。こいつを助けたからってその子が生き返るわけじゃねぇ」
「もちろん、そんなことはわかってる。だから、これは俺の自己満足でしかないんだろう。でも、ほっとけるわけがないじゃないか」
「なるほどな。嘘は言ってねぇ……か。物好きもいたもんだ。まぁいい、ついてこい」
第二心格は切り株から飛び降りると、スカートが翻るのも気にせずに奥へと歩いていく。俺はなんとか追及なく認められたらしいことに安堵し、ほっと息を吐く。
俺はいまだ心配そうにしているサクラの背をポンと叩くと、そのまま第二心格の後を追いかけるように同じ方向へと歩き出した。
「これは……」
「きれい……」
5分ほど歩いた先、森の木々が開けたところで足元に漂っていた淀みが薄くなり湖が見えた。どこか創作世界の泉を彷彿とさせるそこからは、水面からフヨフヨと光の粒子が漂っていた。
それは色とりどりの粒子が蛍のように無数に存在しているが、どこか青い、悲しい色が多い。
「これはこいつの記憶、感情の欠片だ。勝手に触れるなよ? 何が起きても俺は保証しねぇからな」
それだけ伝えると、第二心格はそのまま湖へと足を踏み入れていく。
「お、おい」
「浮いてる?」
だが、俺の心配をよそに、第二心格は湖へと沈むことなく水面の上で歩を進めていく。広がる波紋の中、キョロキョロと辺りに浮かんでいる光の粒子を眺め、「これだな」と呟くと、その一つに手を翳し引き寄せる。
フヨフヨと蛍が漂う様に近づく光の粒子が手に触れた瞬間、それをグシャッと握りつぶした。
「は?」
「え?」
あまりにもな行為に、記憶や感情の欠片と呼んでいたものにそんなことをして大丈夫なのかという心配をよそに第二心格は不敵に笑う。
「何が起きても、目を背けるなよ? これから見せるのは通常、常人には見たり、知ったりすることができねぇものだ。そこにはこの世界が持つ問題も含まれる。仮にもこいつは天使だ。普段、天使がどこに住んでいるか知っているか?」
「神界……か?」
俺はハクナの様子からそう答える。逆にそれしか思いつく場所もない。
「あぁそうだ。そういえば神族の少女と一緒だったな。ってことはもしかしたら事情は知っているのか? それで他人に気を回せるくらい平静を保っていられるってんなら、お前は中々に大物だな」
「何の話だ?」
「今にわかるさ」
会話をしている間も、第二心格に握りつぶされた光の粒子から溢れた輝きが周囲を満たしていく。
第二心格の不穏な言葉に少し早まったかと制止の言葉を投げようとした瞬間、一層強い輝きが放たれた。
「きゃあ」
「うおっ」
「さぁ、お前はこいつの過去と、この世界の真実を知ってなお、同じ言葉が言えるのかな?」
どこかあざ笑うような声とともに、俺とサクラは天使セピアの精神からさらに、過去の記憶の中へと深く潜り込んでいくこととなった。
それは精神の中に入ることよりも危険で、俺たち潜る側にとっても、潜られる天使セピアにとってもリスクがあることとは知らずに。
まるで世界の終わりへと導かれるように、移り変わっていく景色をただ呆然と見つめていた。
次回12/23更新予定です。
土曜更新から日曜更新に変更です。




