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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第二章 災いを呼ぶ少女編
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045 助ける為に


「なぁ、無駄な争いはやめないか?」

「無駄だと?」

「だって、そうだろう? さっきも言ったが、俺には敵対の意思はない。むしろ君たちの事を助けたいと思っているくらいだ」

「またか。いい加減聞き飽きたぞ。毎度毎度、お前らはそうやって甘い言葉で誘い、誑かす。そんなものにこの俺が惑わされると思ってるのか? 俺は生きる意思だ。本能だ。こいつのように、甘くねぇんだよ……!」

「…………っ!」


 再度天使の周囲を瘴気が舞うと同時、怨念が籠ったような威圧が放たれた。その口ぶりから恐らくこれまでの間に何かがあったのだろう。その眼は冷たく冷え切っており、俺の言葉も、思いも、その一切を信じないといった強い意志が感じられた。戦乙女(ヴァルキュリア)も戦闘態勢に入り、再び場に緊張が満ちる。


「すまん、駄目だった」

「もう! 何やってるのよ」

「取り敢えず、この状況じゃ何もできない。あの銅像……じゃもうないな。緑髪の戦乙女(ヴァルキュリア)の相手を任せる。ハクナは青い方だ。いらないことはするなよ? 事情は後で聞くからな」

「わ、わかりました」

「私は?」

「サクラは俺と来い。あの天使の少女セピアをなんとか説得する」

「うん」


 役割分担を決め、俺たちも各々武器を構え戦闘に備える。俺は【起源刃:霊煌】に魔力を込め、刃を生み出す。といっても俺には剣の心得なんてものはない。


 魔術ばかりに気を取られていたからか、森で少し使用したくらいではスキルも取得できていなかった。これではちょっとした脅しにもならないだろう。


「ふん、結局はそうやって力にものを言わせる。お前たちはいつも変わらねぇな」


 瘴気が天使の少女を覆っていく。それが染み込むように消えていくと、それに伴い少女から感じる威圧感が増していく。


「これはそっちが話を聞かないからだろう? 殺したりはしない。話ができるように、その頭に上った血を冷やしてやるだけだ」


 某魔法少女じゃないが、こちらの話に耳を傾けてくれないなら力づくでもその状況をつくりだすしかない。契約による制約はあるかもしれないが、助けられる力があるのにそれすら行使できず、もし討伐でもされたらきっと後悔する。


 彼女の為といいつつ、これは俺のわがままだ。相手が助けを求めているかどうかに関わらず、自分が納得できないから行動を起こす。いつもと変わらない、自分が納得、満足できる道へ進む。これが元の世界から続く俺の行動指針だ。


 まず戦乙女(ヴァルキュリア)が先に動き、こちらに槍を突き出し、また、剣を振り下ろしてきた。その槍をベルが鎌で弾き、そのまま宙へと蹴り上げる。


「任せたわよ!」

「あぁ」


 それだけ交わすと、ベルは宙へと浮き上がり戦乙女(ヴァルキュリア)の後を追う。ハクナも同様に【蒼天剣(レギン・レイヴ)】を生成し剣を受け止めると、俺たちから戦乙女(ヴァルキュリア)を離れさせるために弾き飛ばす。


「逃がしたら駄目ですから」

「わかってる。でも、危害は加えさせないからな」

「……はい」


 取り敢えず、それだけは約束させるとハクナは水蒸気となって消えて行った。その後すぐに戦乙女(ヴァルキュリア)の近くで姿を現すと応戦を開始する。それに少々驚きつつも天使へと向き直る。


「守護者がいなければ勝てるとでも思ったか? 神の一族もいねぇ、先程からどこか魔の雰囲気を漂わせる少女もいねぇ、ただの人族2人で一体何ができる?」

「君達を救うことが出来る」

「戯言を……!」


 天使の両翼に瘴気を元に作られた疑似神力が集まり、荒ぶる憎悪を発し蠢く。


「冗談じゃないんだけどな……! サクラ、俺の後ろに!」

「う、うん!」


 天使は翼を広げ大きく飛び上がると、広げた両翼から、再度白と黒の羽の弾丸が降りそそぐ。出会いがしらに天使が放ってきたものと同じものだ。即座に看破し、対抗魔術を発動する。


「【縮退星(コラプサー)】!」


 【省略詠唱】によって発動したブラックホールが俺の目前で飛来するその全てを呑み込んでいく。相変わらず遠距離攻撃に対しては抜群の対応力を誇る星の魔術だ。随分と使い勝手がいい。


「なんだその魔術は……!」

「へぇ、天使が知らない魔術とは光栄だな」

「ちぃっ!」


 遠距離戦では分が悪いと判断したのか、今度はその両手に光る短剣を生み出すと翼をはためかせこちらに突進してきた。


「私が!」

「あ、こらっ!」


 それを受け、近接戦ならとサクラが前に出て迫りくる天使の踊るような短剣による乱舞を、特訓の成果か脅威の反応を発揮し悉く打ち払っていく。


「クソっ!」

「やぁっ!」


 【剣術】や【反応強化】、【心眼】のスキルの補助もあるだろうが、それは親バカな気持ちを抜きにしても見惚れてしまうほどにすさまじかった。


 先程と異なりサクラも落ち着いて対応できているのか、その剣撃の応酬には焦りを感じることなくしっかりと前線を任せられる安心感があった。


 逆にそこには一切の隙が見付けられず、俺は【起源刃:霊煌】を片手に持ちながらも、まるで大縄跳びに入るタイミングがつかめない子供の様に身体をフラフラと揺らし足踏みしていた。


 思いのほか激しいその輪に入る技術がないというのもある。だが、サクラは俺と共闘したいのか、気を使ってか時々俺が攻撃できるように隙を作ろうと動いていた。それでも、俺が足を踏み出せない一番の要因はやはり剣という武器そのものが要因だろう。


 魔力でできた刃とはいえ、斬り付ければ相手を傷つけ血を流させる。その光景を思い浮かべるとどうしても一歩を踏み出すことができなかった。しかも相手は幼い少女の身体だ。身体じゃなくてもその翼でもと思うも、斬れたその姿を思い浮かべると顔を顰め頭を振る。


 あれだけ偉そうに言葉を並べつつも、俺には結局その覚悟がなかったのだ。サクラやベルの時にうまくいってしまったのもあるかもしれない。次もうまくいくと、どこか甘く考えていた節もある。容赦ない現実に頭を抱える。


 だが、それでも押し通したい思いはある。今は頼れる仲間もいる。


「【保管庫(ストレージ)】」


 俺は宝の持ち腐れ状態な【起源刃:霊煌】を時空魔術にある空間収納魔術【保管庫(ストレージ)】内へと仕舞うと、手を翳し天使へと狙いを定める。


 何も傷つけることにこだわることはない。今回の目的はまず話を聞ける状態に持っていく事だ。なら、手段は他にいくらでもある。


 それに、俺にはやはりこっちの方が合っている。元々【起源刃:霊煌】を出していたのも、ベルに悪魔の少女と対峙するまでは魔術を禁止されたからだ。今となってはその制限はないし、別に絶対守らないといけないものでもない。


「種子よここに、芽吹け! 【緑球弾(シボル)】!」


 魔力を込め、【魔術制御】の中でも特に魔術効果を高めた緑属性魔術の初級(Fランク)魔術を放つ。それは狙い違わず天使へと飛来するが、天使はそれにチラッと一瞥しただけで何でもないように短剣で一閃する。


 だが、その瞬間【緑球弾(シボル)】が弾け、中から大量の蔓が天使に向かって襲い掛かった。


「なっ!」


 通常の基本4属性とは異なり、緑や雷といった上級属性は付加効果があるものが多い。今回放った【緑球弾(シボル)】には拘束の追加効果があった。


 とはいえ、【緑球弾(シボル)】は通常の初級魔術だ。魔術を使える天使がその効果を知らないということはないだろう。


 実際、通常の【緑球弾(シボル)】であれば、先の一閃で問題なく対処できたはずだ。だが、俺が放ったのは魔力をふんだんに使い【魔術制御】にしこたまつぎ込んだ特殊なものだ。


 それは斬られてなお効果を失うことはなく、まるで逆襲するかの如く蔓を伸ばし天使を拘束しようと次々とその数を増やしていった。


 瞬く間に緑に溢れかえった視界に驚きつつも天使は手や足、羽に巻き付く蔓を鬱陶しそうに払い、切り裂き、吹き飛ばす。


 魔術強度に魔力を割いていたとしても、流石に疑似神力を纏った天使の攻撃に耐える事は敵わないようで無残に散っていく。だが、俺にはそれだけの隙が確保できれば十分だった。


 天使の背に回り込んだ俺は手を突き出し、一瞬躊躇うも、意を決して魔術を放つ。


「【白雷掌(ボルトステア)】!」

「がぁあ!」


 バチィっという電気が弾ける音と共に天使の苦痛の悲鳴が上がる。少しやりすぎたかと心配になるが、【魔術制御】にて威力を絞り、魔術効果に強めに割り振ったのが功を奏したのか命に別状はなさそうだった。


 天使セピアは狙い通り、雷属性魔術【白雷掌(ボルトステア)】の付与効果“麻痺”を受け行動不能に陥り地面に倒れ伏す。


「死んじゃったの……?」

「いやいやサクラ、俺が殺すわけないだろ? 気絶もしてない。魔術の効果で麻痺してるだけだ」


 これでやっと話に持っていける。俺がそう思って安堵した時だ。ドクンと、命の鼓動が響く音が聞こえた。その音に、感じる気配に覚えがあり後ろを振り返る。


 廃れた協会内にいるのは少し離れたところで戦うハクナとベルだけだ。だが、その先、入口の扉よりさらに奥にその気配はあった。しかもそれは1つではない。


「なんだ……? 何が起きてる?」

「師匠……」


 サクラも異変を察知したのか、俺のローブを掴み不安げにその先を見つめる。


 てっきりあの魔物を生み出していたのは天使だと思っていた。何しろ、称号欄には“天の使徒”の記載があったからだ。その時は気にしていなかったが、今となっては天使の使徒と解釈できる。だが、天使には何かをした素振りは見受けられなかった。それに身を守る為なら離れたところに生み出す理由がわからない。


 そう、感じる気配は入り口奥すぐというわけではない。随分と離れているのだ。それでも感知できるのはその発する力の大きさゆえだろう。感じる鼓動は早まり、今にも異常な魔獣となって生まれ落ちそうだった。


 ハクナやベルにとっては大した魔獣ではなかった。だが、それは神族や元魔王であるが故だ。通常の人が出会った場合、エリスの反応を見てもわかるようにただでは済まないだろう。下手をすれば簡単に命を落とす。


 特に知り合いがいるわけでもないが、放っておくことも難しい。この森にはまださきほどのエリスがいるかもしれない。実はあの魔獣は天使と関係がなく、逆に天使がここの瘴気を吸収していたおかげで異常発生が抑えられていたとしたら……? 嫌な想像が頭の中を埋め尽くす。もしそうだった場合、その引き金を引いたのは俺ということになる。


 取り合えず、天使の件を早く済ませようと決断し向き直り……


「…………なっ!」


 俺は硬直した。


 天使が麻痺が解けたわけでもないようなのに、立ち上がっていたのだ。いや、より正確には宙に浮いていた。最初に今の心格? に入れ替わった時と同じように。だが、目は据わっており心ここにあらずといった感じだ。


 そして次の瞬間、今までのと比較にならない規模の、類を見ない膨大な瘴気が集まり、そしてその全てが瘴気を基にした疑似神力へと変換されていく。


「今度はなんだ!?」

ご主人様(マスター)!」

「マズいわよ!」

「師匠!」


 ハクナとベル、サクラが叫んだ瞬間、教会の天井が吹き飛ぶほどに天使を中心に疑似神力が弾け、立ち上り、天空に巨大な魔方陣を描き出す。


「特級天術……」


 天空に展開された魔方陣を見てハクナがつぶやく。


「知っているのか!?」

「あれを今から防ぐのでは間に合わないです! 創作世界(ラスティア)に避難はできますか!?」

「それは……」


 興味本位に依頼を引き受け、ギルマスのキャンセル依頼も退け勝手に手を出し、危なくなったから逃げる? これだけの事態を引き起こしながら放棄することは、日本人として社会で責任感を教えられた俺には到底できなかった。


 俺は覚悟を決める。


「お前たちだけでも戻ってろ」

「やだ! ずっと師匠と一緒!」

「サクラ……」


 離れたくないと俺に必死にしがみ付くサクラ。安全の為には帰ってほしかったが、そう言ってくれることに嬉しさを感じてしまう。


「何か対抗手段があるんですか?」

「そうだな」

「なら付き合います」

「えぇ。従者が主を見捨てるわけないわよ?」

「まったく……物好きどもめ」


 そういいつつも俺の顔は笑っていた。なら、俺のやることは一つだ。大切なものを失わないように、やりたいことを実現するために、途中で放棄しないために。


「夜の帳を降ろせ……」


 俺はベルとの契約で生まれた固有スキルを発動させた――


次回11/24更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] あとはオツム弱い系主人公ね
2021/09/18 09:22 退会済み
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