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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第二章 災いを呼ぶ少女編
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044 堕ちた天使


「天使……?」

「バカ! 下がりなさい!」

「うおっ!?」


 ベルに激しく突き飛ばされ、尻餅をつく。そのいきなりの所業に文句を言おうとした瞬間、目の前を漆黒の羽の刃が通り過ぎベルの腕を切り裂いた。


「……っ! ベル!」

「これくらい問題ないわ! まだ終わりじゃないわよ!」

「あ、あぁ!」


 ベルの叱咤に慌てて立ち上がると、ベルの腕を漆黒の渦が逆巻き、時を戻すように怪我が治っていく。そういえば回復する(すべ)があると言っていたな。取り敢えず大事にはならなさそうなのを見て安堵すると、先の攻撃を繰り出してきた天使へと視線を向ける。


「次から次へといい加減にしろよ。こいつが何をしたってんだ。お前たちはいつもそうだ。こっちの事など一切考えず、くだらない都合ばかりを押し付ける……!」


 顔を俯けている為、影になりその素顔はうかがえない。それでも、まるで誰かが乗り移ったかのごとく、さっきまでの雰囲気からガラリと変わったのが伝わってくる。握り込む拳をプルプルと震わせ、怒りをあらわにしているその姿からは畏怖すら感じられるほどだ。


 突如豹変した天使の少女は、なお攻撃の手を緩める気はないらしく純白の簡素なワンピースを(ひるがえ)しながら手を広げるとそこに黒い煙が逆巻き出す。周囲の瘴気を両手に集めているようだ。それは徐々に拡大し、漆黒の逆巻く球体となる。その膨大なエネルギーの集まりからは魔力を超える異質さが感じられた。


 ……それはどこか神力にも似た、でも異なる別の何か


 一対の両翼を羽ばたかせることなく宙に浮かぶ天使は、俺たちの事を忌々し気に見つめるとその手を天へと掲げる。


「俺たちに敵意を向ける、その全てに天罰を! くたばれ! 【天術:光剣(エクセルア)】!」

「敵意!? いや、ちょっと待っ――」


 俺の言葉はその後を紡ぐ間もなく、数えるのも嫌になる程の白と黒の光の剣雨が降り注ぐ。だが、その剣雨が俺たちに届くことはなく、その(ことごと)くが目の前で弾かれていった。


「ベル……!」

「早くそこのバカを何とかなさい!」

「バカ……?」


 ベルが初の合成獣(キメラ)戦で見せた光速の鎌撃で天使の攻撃を凌いでいた。ベルは意識を前に向けたまま、顔でそれを促す。礼を言う間もなく、ベルが顔で示す先を見るとそこにいたのは天使の少女……ではなくハクナだった。


「あの像……もしかしてこの天使が……!? あなたが……あの惨劇を引き起こしたんですか!?」 


 ハクナから膨大な力の奔流が溢れだす。それと同時、俺の魔力が大量にハクナへと流れていく感覚に襲われる。その明確な事実に俺は違和感を覚える。なぜなら、森での戦闘でハクナ達が使用していた魔術程度ではほとんど魔力の消費を感じることはなかったからだ。


 今となってはサクラの魔核制御やベル、ハクナの存在維持に俺自身の【神術】使用と大量の魔力を常に消費している関係で、俺はもはや底が知れない膨大な魔力量を有していた。その状態でさえ明確に、はっきりと、かなりの魔力消費を確認できた。それはつまり、ハクナが今行おうとしている術の規模が異常であることを示していた。


「ハクナ!? 一体何をする気だ!?」

「【神之御業(オプスデイ)】――」


 ハクナがその言葉を唱えた瞬間、その背後にどこかハクナとの契約時に現れた神紋の紋様に似た魔法陣が浮かび上がる。そこから感じる途轍もない()()の気配に、これから何が起きるのかを想像してしまい思わず声を荒げる。


「ハクナ! 今すぐそれをやめろ!!」

「う……! ご主人様(マスター)!?」


 俺の契約を介した強制命令が受諾され、ハクナの背後に浮かび上がっていた魔法陣が砕け散る。その反動でもあったのか、ハクナは少し身じろぎするがひとまず発動を阻止できたその結果に満足する。


 神力を対価に発動する全力の攻撃。そう、天使に対し敵意を向けていたのは他でもない、ハクナだった。


「な、何するんですか!?」

「それはこっちのセリフだ! もしかして天使を殺すつもりだったのか!?」

「だって! あの天使は私の……神界の敵です!」


 ハクナはビシッと人差し指を天使へと突きつける。


「神界の敵……? 何を……」


 ハクナの言葉が気にかかり、ハクナに敵意を向けられたからとはいえ、いきなり襲い掛かってきた天使の少女に対し【魔力解析(アナライズ)】を実行する。


○名前:セピア・トーメント(第二心格) 天使族(半堕天) 10歳 ♀

○称号:“光神の従者”、“滅びを招く者”、“多重心格”

○Rank:―

○ステータス:

 ・体力:8732/8732

 ・神力:-38652/25369

 ・筋力:1821

 ・理力:2421

 ・守力:872

 ・護力:2802

 ・速力:1204

〇スキル

 ・固有スキル

  【生存本能(コナトゥス)】【心層投影(リライトフル)

 ・契約スキル

  【光神の加護(無効)】

 ・付与スキル

  【聖域】【天の羽衣】【天剣】【開闢】

 ・スキル

  【魔術適正:光】【魔術適正:聖】【双剣術】【天術】【瞬天】【光翼】【瘴気転換】【無詠唱】【使役権限】【継続回復(中)】【魔力感知】【気配察知】【天童】


「またこう……なんで出会うのはこんな強いやつばっかなんだよ……最初はもっとお手軽なものからだろ? 普通は。能力値(ステータス)が1000を超えてたらもうSランクに近いんじゃなかったのか?」


 逆に1000に届いていない奴の方が出会った数が少ないんじゃないかとさえ思えるくらいだ。解析の結果得られた能力値(ステータス)はハクナ並み……いや、一部においては神族であるハクナを越えてすらいた。それに、この種族や称号、スキルはどうみても神界とやらに関りがありそうだった。


 何しろ称号が一番ヤバい。“光神の従者”や“滅びを招く者”といった不穏なものが多い。どうみても神に連なる者だ。ギルドの情報は当てにならないと思ってはいたが、まさか悪魔ですらなく神界関係者なんて想定外にもほどがある。


 それにハクナのこの反応……あの天使が闇の神ベーゼアルとやらの部下ということはないよな? 能力値上は光の神の従者みたいだし大丈夫か? 気になるのは与えられている加護が無効となっていることだ。でも、これが裏切りによるものなのか、ベーゼアルの封印に力を使い果たしているからなのかはわからない。


 気になることはさっさと消化しておくか。


「神界の敵とはどういうことだ? 会ったことがあるのか?」

「彼女は恐らく光神の従者です」


 それは解析した結果からも合っている。問題は敵と認識する理由だ。もしかして、光の神も闇の神と結託しているのか? 少しこの案件に首を突っ込んだ事を後悔する。


 ハクナが少し自信なさげなのはきっと性格が豹変しているからだろう。第二心格というのもよくわからない。人格ではないのか。神だから? でもそれなら何故神ではなく心なのか。まぁ、今はどうでもいいか。


「水の神と光の神は仲が悪いのか?」

「違います! そんな話じゃないんです!」

「じゃあ、なんなんだよ」

「あ、こら待ちなさい!」

「……?」


 ベルが天使の相手をしている間に、ハクナに天使に対して敵意を向けた理由を確認しているとベルの慌てた声が聞こえる。


「……!」


 その声に視線を天使たちの方へ向けると、天使に向かい駆け出すサクラの姿が目に入る。


(しまった……! 色々起きすぎてサクラの事を意識から外してしまっていた!)


 どうやら俺をいきなり攻撃されたことに怒っていたらしい。解析した能力値では保護スキルがあるとはいえ、サクラが無事な保証はない。どうするか考える間もなく、切れ味を強化された【星桜刀】が天使の少女へと迫る。


「きゃあっ!」

「サクラ!」


 しかし、その一撃が彼女へと届くことはなかった。教会の入り口、その両側に佇んでいた戦乙女の像が突如として動き出し、サクラの前に立ちはだかったのだ。


 サクラを弾き飛ばした槍と剣を戻し構えの姿勢をとると、各々の武装を構え天使の少女を守るように俺たちと天使の間に立つ。


「そんな……! なんで要石(クラネリア)の守護者があなたを守るんですか!?」


 その行動を見てまたもやハクナが叫ぶ。どうやらあの戦乙女の銅像にも心当たりがあるようだ。正確にはもう銅像ではなくなっている。


 サクラの攻撃を弾いた瞬間、色味を帯び、凛とした気配を放ち薄緑の髪を靡かせる剣と盾の戦乙女と、どこかほんわかとした雰囲気で青の髪をゆるふわに弾ませる槍持つ戦乙女に変貌していた。


 その武具や佇まいからはかなりの実力が滲み出ていた。恐るべきは切れ味を上げた状態のサクラの【星桜刀】を弾き返したことだろう。恐らく、その秘密は戦乙女の武器を纏っている黒い靄のようなものだと思われる。瘴気とも神力とも異なる不気味な力。


 俺はサクラの元へ駆け寄りつつ、少しでも情報を得るために戦乙女たちを解析する。

 

○名前:ヒヨル

○種族:エインヘルヤル(戦乙女(ヴァルキュリヤ)) ♀

○称号:“神界の守護者”

○Rank:―

○ステータス:

 ・体力:6948/6948

 ・神力:-3852/1357

 ・筋力:923

 ・理力:571

 ・守力:612

 ・護力:558

 ・速力:833

○スキル

 【天術】【剣術】【思考認知】【修繕】【光速学習】【連携】【改良】


○名前:ゲイラ

○種族:エインヘルヤル(戦乙女(ヴァルキュリヤ)) ♀

○称号:“神界の守護者”

○Rank:―

○ステータス:

 ・体力:7025/7025

 ・神力:-3852/1258

 ・筋力:839

 ・理力:625

 ・守力:474

 ・護力:508

 ・速力:714

○スキル

 【天術】【槍術】【思考認知】【修繕】【光速学習】【連携】【改良】


 スキルからも分かる通り、緑髪がヒヨル、青髪がゲイラだ。能力値(ステータス)自体は似通っており、明確に違うのは使用する武器とそのスキルくらいか。


 それに、今気づいたが先の天使もこの戦乙女たちも魔力値がマイナスに振り切れている。以前聞いた話では魔力が枯渇すると意識が朦朧とし、最悪気を失うらしい。決してマイナス方面にいくことはないはずだ。それに平然と活動しているのも気にかかる。


 もし魔力がなくなっても平然と動け、かつ力も使えるならそもそも魔力値に意味なんてなくなってしまう。あの武器に纏う不気味な力とこれも関係があるのか……?


「サクラ、大丈夫か?」

「師匠……」

「無茶するなって言っただろ」

「あうっ……ごめんなさい」


 俺はサクラの手をとり助け起こすとその額にデコピンをかます。おでこを押さえ、俯きつつも上目遣いでこちらに視線を向けるサクラ。反省はしているようなので、頭をポンポンと軽くたたき天使へと向き直る。


「どうするの?」

「そうだな」


 一旦攻撃の手が止んだらしくベルが聞いてくる。状況は尚も変わらず、対峙したままだ。戦乙女(ヴァルキュリヤ)はこちらが攻撃しない限りは今は手を出す気はないらしく、少し落ち着きを取り戻せていた。


 今思えば、相手が悪魔から天使に変わりはしたが当初の行動から大きく話は変わらない。相手の状況を知り、可能なら手を貸す。明らかな悪逆非道な感じだったら相手をするか逃げるかだ。


「信じてもらえないかもしれないが、そちらに悪意がないなら敵対の意思はない」

「ああ!? それだけの力を持って武器を構え、どの口でそれをほざくんだ!? それに、そこの水色の髪のやつはやる気満々みてぇだぜ?」

「ハクナ?」

「だ、だって! あの2体の戦乙女(ヴァルキュリヤ)は神界を維持していた要石(かなめいし)――クラネリアを守っていた守護者なんです! その石が壊され、神界の崩壊が始まり、ベーゼアルが反逆を……なのに、今はあの天使を守ってるんです! そんなのおかしいです!」

「神界だと……お前、神の一族か!?」


 ハクナがまくしたてる、その言葉を受けて今度は天使の方が猛烈な敵意をハクナへと放つ。もはや話の内容についていけない。恐らく出会った頃に俺が一蹴した闇の神関連の話なのだろう。詳しく聞いておけばついていけたのかもしれないが、そうなれば巻き込まれるのは必至だ。


 逃げたい気持ちを必死に堪え、なんとか踏みとどまり状況を整理する。


「随分と神力に溢れているな……これだから神族は。こっちが生きる為にどれだけの対価を払ったと思ってるんだ」

「そういえば、神力を感じない……失っているのに消えていないのか?」

「違うわね。あの感じ、神力の代わりに瘴気を取り込んでいるのよ」

「瘴気を……? そんなことができるのか?」

「普通はできないわよ」

「そうか」


 神界で何があったのかは知らないが、どうやら状況はハクナに近いのかもしれない。地上に降り、神力が尽き消えそうなところをハクナは俺の魔力で命を繋いだ。


 だが、この天使……名はセピアだったか、には魔力を与える存在がいなかった。その代わりに瘴気を吸収し力とした。元から持っていたのか、吸収したことで習得したのかはわからないが、【瘴気転換】のスキルがあるのはそのためだろう。


 魔力がマイナスを示しているのも瘴気を元にした力のせいなのかもしれない。どう考えても負のエネルギーだ。それだけの影響があっても不思議じゃない。瘴気を元に神力を生成しようとした結果、あの不気味な力が生まれたのか。


 羽が一部黒く染まり、頭の輪っかがくすんでいるのも同じ原因と推測できる。


 つまり、生きる為にこの森を瘴気で満たしていたのだ。その影響で魔物も狂暴化し、それがさらに人を襲う。するとさらに瘴気が蔓延し、その瘴気が魔物を生み出しその数を増やす。


 ある意味永久機関にも思える負のサイクルだ。弱肉強食といえば仕方がないかもしれないが、これは対応が難しいところだ。生きる為の行いを、俺は悪とは言い切れない。


 人間だって肉を食べる為に動物を殺し、糧としているのだ。当然だろう。


 だが、放置もできない。それに、ハクナと同じなら俺にはそれを解決できる手段があるのだから。


次回11/18更新予定です。

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