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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第二章 災いを呼ぶ少女編
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041 サクラと特訓

ちょっと長めです


 目が覚めると少し見慣れつつある天井が目に入る。この異世界に転移してきてからもう4日目だが、相変わらず元の世界に戻っているということはなさそうだ。それに、寝ている間に来たわけでもないのでもし戻れるとしても寝ている間に、ということはないだろう。


 それにもう元の世界に対して未練はない。あるとすれば、ゲームや漫画といった娯楽がもう楽しめないということくらいか。


「いい加減、この世界で死ぬまで生きていくということを受け入れないとな」


 中途半端な未練なんて持っていてもいいことなんてない。変に持っていて、万が一戻ったりしたら後悔しそうだ。この世界ではサクラやベル、ハクナといった仲間にも巡り合えた。レア達もいる。今の状態で戻れば彼女たちを放り出すことになってしまう。それは本意ではない。だから、余計なことは考えない方がいいだろう。


 窓の外を見ればまだ空は暗いが、感覚的にはもう朝になってるはずだ。今日は魔術の練習をしてなんとか【省略詠唱】のスキルを所得してから西の森にある教会に悪魔の少女とやらの様子を調べに行く予定だ。


 静かなので、まだ他のみんなは寝ているかもしれない。起こさないようできるだけ静かにベッドから降りようとして、服が何かに引っかかっているのか引っ張られているのに気づく。


 外そうと振り返れば、サクラが俺の服を握りながらスースーと寝息を立てていた。


「サクラ……」


 昨日とは違い裸ではないのが救いだが、前回と異なり服が消えて寒いということはなかったはずだ。


 今度こそベルが何か吹き込んだかと思いつつサクラの手から服を外そうと手を伸ばすとサクラがギュッと服を胸に引き寄せる。


「ママ……」

「………………」


 普段は元気にしていたが、まだやっぱり心の中では寂しいのかもしれない。いや、そもそも母親の事は覚えていないようだった。無意識なのだろう。その眼には薄っすらと涙が溢れている。


 俺はそっとその涙を拭きとると、サクラの頭を撫でながら隣に座る。


 しばらくそのまま撫で続けていると、サクラが目を覚ました。


「レクトル……?」

「あぁ、おはよう。サクラ」

「え? う、うん、おはよう……」


 俺はサクラが目を覚ました後も撫で続けていた。状況が呑み込めないのか、サクラはアワアワと困惑している。拾ってきた小動物のようだ。


「あ、あの、えと」

「そうだ、俺はこれから魔術の練習でもしようと思うんだが、サクラも一緒にやるか?」

「え?」


 サクラの困惑する様子を堪能した俺はサクラがもう恥ずかしさで限界といった感じでこちらを見たところで撫でるのをやめ、何事もなかったかのようにサクラに提案する。


「……や、やる」


 サクラは寝起きもあってか最初は何を言われているのかわからず呆けていたが、しばらくして言葉の意味を理解したのか了承の返事が返ってきた。


「なら、降りようか」

「うん!」


 俺はローブを羽織るとサクラと一緒に部屋を出る。昨日みたくベルやハクナに遭遇することもなく1階に降りるとレアがすでに起きて朝の準備をしていた。


「早いな。おはよう」

「い、いえ。おはようございます。ご主人様もお早いですね。すみません、まだ朝食の準備ができていないのですが……」

「あぁ、いや俺とサクラはちょっと外で魔術の練習をしてくるから、ゆっくり準備してくれたらいいぞ」

「そうなんですか? わかりました。ベル様たちはどうされますか?」

「起きてきたら俺たちは外にいるってことを伝えてもらえるか?」

「わかりました。いってらっしゃいませ」


 そのまま外に向かう途中で食糧庫からリアが出てきた。どうやらレアに材料をとってくるように頼まれていたみたいだ。


「ごしゅじんさま、おはようございます」

「あぁ、おはよう」

「おはよー」


 俺はチラッとリアが持っている材料に目を向ける。スープか何かかと目星をつける。そう言えば野菜関係や肉類は準備していたが、肝心の主食、パンや米を忘れていた。依頼の件が片付いたら探してみるのもいいかもしれない。


「朝ごはん、楽しみにしてるぞ」

「は、はい。お姉ちゃんと頑張って作ります!」

「あぁ」


 リアは意気込むと、ペコっとお辞儀をしてレアと共にキッチンへと向かう。それを見送ると、星屑の館を出て外に向かう。


「さて、どこで練習するかな」


 よく漫画とかでは家の裏とかで練習している風景があるが、この屋敷の裏は断崖絶壁で海が広がっている。それに魔術を使うので、できれば屋敷に被害が出ないように離れた位置で行いたい。


「あっち広いよ?」

「そうだな。向こうまで歩くか」

「うん!」


 俺たちが来た場所は以前星の魔術である【極光天(オーロラベール)】の試射をした屋敷までの道の前に広がる草原だ。


 ちょっと行ったところにおあつらえ向きといった感じで少し大きな岩が転がっていた。


「あれを的にしてみるか」

「魔術の練習って何をするの?」

「そうだな。取り合えずの目的は【省略詠唱】のスキルを手に入れる事なんだが、ただ単純に魔術を連射するだけなのはつまらないからな。昨日ちょっと自分のスキルや魔術について【知識書庫(アーカイブ)】で調べてたんだが、その中に【魔術制御】というのがあったんだ」

「魔術制御?」


 サクラが少し首を傾げながら俺の言葉を復唱する。


「あぁ、サクラを助ける時とかも俺は初級の魔術をただ放つだけじゃなく、大きくしたり、数を増やしたりしていただろ?」

「うん。弱い魔術のはずなのにすごい威力だったってフェニアが言ってたよ」


 そうか、悪魔との戦いの時はサクラは眠っていたから直接は見ていないのか。でもフェニアから話は聞いて事情は知っているようだ。


「あれ、無意識にやっていたんだが、魔術制御というひとつの技法みたいなんだ。魔術によっては数や威力だけじゃなく、いろんなことに改良を加えることができるらしい。それをスキルとして習得していたんだ。制御できる内容には威力、弾数、速度、軌道、効果範囲、持続時間、速射性、魔術強度、魔術効果、魔力隠蔽の全10種類がある」

「いっぱい!」

「そうだな。魔術によってできるものとできないものがあるみたいだが、これはかなり応用性が高い。しかも、デメリットとなるのが魔力消費量の増加や制御の複雑化などで、込める魔力次第では上級魔術の威力にまで引き上げることも可能らしい」


 なんという俺向きのスキルなのか。これに【省略詠唱】が加われば、魔術が効かないような敵に出くわさない限りは大抵何とかなりそうだ。【省略詠唱】が適用されるのは一度でも詠唱し発動させた魔術に限るようなので、問題なく取得できれば一通り魔術の試し打ちをしようと思っている。


 今の状態では捕らぬ狸の皮算用でしかないので、なんとか目的を達成できるように努力する。


「でも、流石に暗いな。明かり……光属性の魔術でいけるか」


 俺は【知識書庫(アーカイブ)】で少し魔術を検索し、該当のものを見付けると詠唱する。


「光源よここに、照らせ【光球弾(ラボル)】」

「わぁ、明るくなった!」


 俺はいくつか【光球弾(ラボル)】を生成すると周囲にばら撒き光源を確保する。すると、この一帯だけ照明に照らされた夜の野球のグラウンドのように明るくなる。


「私はどうすればいいの?」

「サクラもせっかく【魔術適正:火】があるんだ。ついてくるっていうなら、ちょっとでも戦えるようにしないとな。ただ、問題なのは今日行くのが森なのであんま火属性の魔術は使えないってところか……」

「私、レクトルの力になれないの?」


 サクラが俺の言葉にしょんぼりと気を落とす。こればっかりは相性というものがあるので仕方がないとしか言いようがない。


 なら本格的に【星桜刀】があるんだし剣術でも教えたほうがいいかもしれないが、俺は魔術以上に剣術なんてどう教えたらいいかわからない。素振りでもするか?


 ……いや、ちょっと危ないかもしれないが、どうせなら少し実戦的なことをしてみるか。


「なら、お互いの練習になるようにちょっとしたゲームをやるか」

「ゲーム?」

「あぁ。サクラ、ちょっとその岩の前に立ってくれるか?」

「うん」


 サクラが歩き、ちょうど俺と岩の間の位置に移動する。


「この状態で俺が魔術でサクラの後ろにある岩に向けて攻撃する。サクラはそれを【星桜刀】で斬り落とすんだ」

「【星桜刀】で? ……わかった。やってみる」


 サクラはその手に桜の花びらを散らせ【星桜刀】を出現させ、構える。


 サクラに対して魔術を向けるのは気が引けるが、【魔術制御】を調整し威力を落とすつもりだ。それにサクラには【恋煩い巫女の御忍び服】がある。付与スキルである【物理保護】と【魔力保護】はかなり強力みたいなので、万が一サクラに当たるようなことがあっても大丈夫だろう。


 まずは小手調べだ。


「砂粒よここに、渇きを【砂球弾(シャボル)】」


 俺の詠唱を受け、砂が舞い、土団子に変貌していく。【火球弾(メボル)】などと同じ、地属性の初級魔術だ。【火球弾(メボル)】や【水球弾(レボル)】では実体がないので、一旦は土の弾でやることにした。


 それを弧を描くようにサクラを避け、その後ろにある岩に当たるような軌道で射出する。最初なので速度は出していない。


 ゆっくりとした軌道で放たれた【砂球弾(シャボル)】目掛けてサクラが【星桜刀】を横薙ぎに振るう。あの切れ味だ。てっきり真っ二つになると思ったが、俺の予想は外れ土団子の下側半分が砕け散った。


「当たった!」


 サクラは当たったことに喜んでいたが、俺としては少し納得がいかない。俺も刀の扱いができるわけじゃないが、今後サクラがこの武器を主体に戦っていくならできる範囲で指導した方がいいだろう。そう思って素人なりのアドバイスをすることにする。


「サクラ、刀を振るう時に振る軌道に対して刃が斜めになってるぞ。だから真っ二つに切れずに下半分を砕いたんだ」

「斜め?」

「あぁ。正確に切るなら、刀を振る軌道に刃の向きを合わせるんだ。ただ当てる事だけじゃなくて、振るときの軌道、刃の向き、速度、色々考えながらやるんだぞ。適当に振るだけじゃサクラの力にならないからな」

「…………!」


 サクラが目を見開き、俺の言葉に驚いた顔をしている。ちょっと言い過ぎたか? でも、戦いの場に立つということは命が関わってくるということだ。中途半端な気持ちだとサクラが危険にさらされる。可能な限り守ろうとは思うが、世の中絶対はない。その確率はできる限り下げたい。そのためにはサクラ自身、強くなってもらわないと。


「わかった。難しいけど、やってみる。師匠」

「し、師匠!?」

「うん。レクトルは私の師匠だよ。応えられるように頑張る」

「お、おう」


 いきなりの師匠呼びに驚くが、何やらやる気にはなってくれたらしい。なら、俺もその思いに応えるだけだ。


「しっかり的を見て、刀の刃を直角に当てるんだぞ。同じ振り方じゃなくて、時には振り下ろし、振り上げ、横薙ぎなんかいろんなパターンでできるようにな。突きなんかもいいな」

「う、うん。わかった!」


 今度は少し速度を上げて放つ。サクラはさっきとの速さの違いについていけず空ぶってしまう。


「ああっ!」


 サクラが自分の横を通り過ぎた【砂球弾(シャボル)】を目で追って後ろを向く。視線を外し、前に向き直ったその瞬間、今度は先ほどとは反対側を【砂球弾(シャボル)】が通過する軌道を描いて飛んでくる。


「わわっ」


 慌てて再度【星桜刀】を振るうが当たらない。


「ま、待って!」

「敵は待ってと言われても待ってくれないぞー」

「むー」

「常に周りに注意を向けないと予想外の奇襲を受けるかもしれないからな」


 俺は自分ができもしないことを無茶を承知でサクラに伝えていく。別に全部できる必要はない。俺が知る知識で何かがサクラにハマり、力になれば御の字と言ったところだ。


 そう思いながら、俺はサクラの後ろにある岩に向けて魔術を放ち続けた。時には数を増やし、速度を変え、軌道も弄った。


「見るだけじゃなく、魔術そのものの魔力を捉えるんだ。そうしたら魔術の不規則な動きも捉えられるかもしれない。視覚だけじゃなく、いろんな感覚を使って対象を捉えるんだ。うまくいけばスキルが取得できるかもしれない」


 結果から言うと、俺の考えは甘かったかもしれない。


 時には岩に俺の魔術が届いたり、サクラ自身に当たることもあったが、次第にその数は減り、魔術は綺麗に真っ二つに切れるようになっていった。


「さ、流石に成長が早すぎないか!?」

「うまくなってる?」

「あぁ、本当にその刀はサクラに合ってたんだな」

「えへへ」


 俺の言葉に嬉しそうにサクラが笑う。サクラが【星桜刀】のような刀を持つことについて最初はみんな否定的だったからな。取り上げようとしたくらいだ。でも、ちょっとした練習でここまで上達するとは思わなかった。正直、普通に俺より強いんじゃないかとさえ思う。


 途中、俺の視覚以外の感覚を使えの言葉を受けてか目を閉じて対応し出した時には驚いた。まさしく心眼だ。目では見えないものをきちんと捉えている。


 ふと、気になってサクラの能力値を確認してみる。


○名前:サクラ・カグヤ 人族 14歳 ♀

○称号:“悪魔の憑代”、“緋焔の巫女”、“レクトルの従者”

○Rank:-

○ステータス:

 ・体力:885/885

 ・魔力:85+/85

 ・筋力:31

 ・理力:20

 ・守力:331

 ・護力:850

 ・速力:24

〇スキル

 ・固有スキル

  【一騎当千(オーバークオリティ)】【過剰解釈(ストレッチアウト)

 ・契約スキル

  【緋焔(ヒエン)

 ・付与スキル

  【物理保護】【魔力保護】【魔力浸透】【反応強化】

 ・スキル

  【魔術適正:火】【魔力感知】【剣術】【心眼】【精神耐性】【火属性吸収】【存在認識】


 おおう。本当に【心眼】のスキルを取得している。それに【魔力感知】もある。道理で目を瞑っていても切れるわけだ。それにあの対応の速さは【星桜刀】により付与されている【反応強化】のおかげもあるかもしれない。


 ちなみに、サクラが持つ固有スキル【一騎当千(オーバークオリティ)】は“敵対する陣営が味方する陣営よりも多ければ多いほど自身を強化する”というものだ。多対一に特化したスキルといえる。


 このスキルの効果がどの程度の上昇値なのかは気になるところだが、それを調べるにはサクラを大量の敵と戦わせないとならない。流石に試す気にはなれないので、どれだけ強くなるのかはわかっていない。


 注意しないといけないのは、強化されるだけでなく、味方の陣営の方が多い場合は弱体化が入ることだ。固有スキルは2つとないスキルの為、効果は使用者が知らずの内に把握している。文面には特に記載がなかったが、サクラが言うからには間違いない。


 そして2つ目の【過剰解釈(ストレッチアウト)】は条件緩和のスキルだ。例えば、使用するのに複数必要な条件がある場合、その内のいくつかを満たしていれば使用することができる。また、条件には満たなくてもそれに近い条件を達成していれば満たしたものとみなす。


 地味なように見えてその実、かなり強力なスキルだと思っている。昨日もサクラに【宅配の指輪】を渡していたが、通常なら持ち出しには登録していない魔術道具(マジックアイテム)の為、創作世界(ラスティア)以外では使えない。


 サクラは創作世界(ラスティア)に入る資格があるという事実から創作世界(ラスティア)にいると過剰解釈させることで創作世界(ラスティア)外での使用を可能にした。


 使用条件や装備条件を緩和できる。つまりこのスキルがあれば、万が一サクラが恋しなくなっても【恋煩い巫女の御忍び服】を着ることができるということだ。ちょっと安心したのは言うまでもない。


 でも、このままじゃなんか負けた気がするな。サクラばかりが成長して主である俺が成長できていなかったら主としての面目が立たない。なんとしても悪魔の少女と戦う前に【省略詠唱】だけでも手に入れたい。


「それじゃあ、ちょっとレベルを上げるか」

「え?」

「水塊よここに、潤せ【水球弾(レボル)】、火球よここに、燃やせ【火球弾(メボル)】」


 俺の周りに水と火の球体がいくつも現れる。


「今度は実体がない弾丸だ。どうやったら対処できるかよく考えるんだ」

「えとっ、えとっ……」


 サクラが考えているうちに【水球弾(レボル)】をひとつ放つ。


「わわっ」


 唐突に放たれた【水球弾(レボル)】に対してサクラがさっきまでの澄み渡っていた剣技が嘘のように慌てた扱いで【星桜刀】を振り下ろす。


「わきゃ」


 目の前で弾けた【水球弾(レボル)】の水しぶきを顔面で受けるサクラ。流石に大人げなかったかもしれない。そう思いつつも、さっきまで真剣に取り組んでいたのに、わたわたする様は何だか可愛く、無性にいじめたくなってしまう。


「ふふっ、どうした? 臨機応変に対応できないと、戦場で命を落とすぞ」

「うー、師匠のいじわる」

「それっ、文句を言ってる暇があったら対応策を考える」

「え?」


 サクラが一瞬何かに気を取られた瞬間、俺が放った【火球弾(メボル)】はサクラの横を通過し後ろにある岩に直撃する。


「どうした?」

「ううん。もう一回お願い」


 サクラは再び【星桜刀】を構えると詠唱を開始する。


「我欲するは気高き灼炎、集え【紅招来(エラメール)】」

「魔術?」


 サクラの詠唱後、魔術が発動し手に握っている【星桜刀】が赤いエネルギーに包まれる。確か【紅招来(エラメール)】は火属性を武器などに付与する魔術だったはずだ。そして【星桜刀】の刀身はヒヒイロカネでできており、火属性の付与に対して最大限の効果を発揮する。


 考えたな。さっきの様子からすると、もしかしてフェニアの入れ知恵か?


 試しに、【水球弾(レボル)】と【火球弾(メボル)】をサクラの左右から回り込むように放つ。


 するとサクラは2つの魔術を線で結んだ軌道で刀を振り抜く。見事に【水球弾(レボル)】はその熱を受けて一瞬で蒸発し、【火球弾(メボル)】はその灼熱の刀身に吸収されてしまった。


「すごいな」

「これなら大丈夫」

「まだまだ」


 その後も俺は弾数をさらに増やしたり、【魔力制御】と【並列制御】を併用し魔力隠蔽をかけて魔力感知の網を潜り抜けるものや速度を上げたもの、魔術強度を上げて一撃では壊せないもの、サクラが【星桜刀】を振りだしてから起動を変えるもの、別の属性といろんなことを試しながらサクラと特訓を続けた。


 1時間くらいするとサクラが疲れを申し出てきたので切り上げることにする。つい意地になってしまった。これからA級の依頼をこなしに行こうとしているのに、体力を使い切ってどうするんだって話だ。


「疲れた」

「後でハクナに癒してもらわないとな」


 でも、その成果は十分にあった。途中、【火炎槍(メアニス)】などの少しランクが上の魔術を織り交ぜたからか、ついに【省略詠唱】を取得することができたのだ。


 これで戦闘中に長ったらしい詠唱をしなくて済む。【保管庫(ストレージ)】からの取出/収納もだいぶ楽になる。せっかく使えて便利な魔術なのに、不便極まりなかったからな。


「サクラ、付き合ってくれてありがとな」

「ううん。私も、ありがとう。師匠」

「ははっ」


 結局、サクラの師匠呼びは変わらなかった。レクトルでいいんだぞって言っても、そう呼ぶのは俺に追いつき、隣に並べるようになってからだという。俺としてはもう十分に俺より強いと思うんだが、本人はそう思っていないらしい。


 せっかく俺の事を名前で呼ぶ数少ない仲間だったのになんか寂しいのは内緒だ。本当の名前ではないのに、もうこの名前にも思い入れができているのかもしれない。


「そういえばサクラのその長い髪、戦闘中邪魔じゃないか?」

「え?」

「激しく動いたりすると目に被ったりして視界を遮ったりするかもしれないしな」


 俺の言葉にサクラが自分の髪を庇う様に後ろに隠す。


「き、切らないよ? 師匠が綺麗だって言ってくれたのに、どうして?」

「あぁ、いや、別に切ろうってわけじゃない。くくったりしないのかってことだ」

「え?」


 サクラは特訓の間ずっと長い髪をなびかせていた。それはそれで可憐だったが、それが命取りになることもある。


 刀を持った剣士なら、やっぱりポニーテールだろうか。


「ほら、リボンなんかで後ろで一つに結ってポニーテールとかいいと思うんだけどな」

「ポニーテール……似合う?」

「あぁ、似合うと思うぞ?」

「リボン……創ってくれるの?」

「え?」


 サクラが期待に満ちた目でこちらを見ている。創るってあれか? 創作世界(ラスティア)のスキルでってことか?


 そういえば、恋煩いのワンピ―スを創ってからは俺が創ったものじゃないと身に着けなくなったんだよな。どうしたもんかな。リボンの為にスキルを使うのか。


 まぁ、1日経っているから今日はまだ3回できる。それにサクラは持ち出し枠が現状3つだからあと一つ持ち出せる。できるかわからないが、【過剰解釈(ストレッチアウト)】による持出枠の誤魔化しも可能かもしれない。


 俺の装備も創ろうと思っていたが、流石にサクラのこの目は断れそうにないな。言い出したのは俺だし、今日の頑張りと付き合ってくれたお礼ということで創ってあげるか。


「わかったよ。特訓に付き合ってくれたお礼と、頑張ったことへの褒美だ。でも、今回だけだからな」

「うん! わかった!」

「全く……でも、リボンか」


 ただのリボンを創るのだけでは勿体ない。何か効果を持たせたいと思うのは仕方がないだろう。


「リボンと言ったらやっぱりあれしかないか。できるかどうかはわからないが、別に失敗しても今回ばかりは問題ないしな」


 俺はスキルを発動させる。願うのは“あらゆる異常を防ぐサクラに似合ったリボン”だ。


 いつも通り、創作リストに追加されたものを魔力を注ぐことでその創作時間を短縮させていく。


 そして100%になった瞬間、俺の前に光が集束し赤い布切れのようなものが現れるとヒラヒラと落下してきた。両端には金色の刺繍が施されている。それを手で受け止めると【魔力解析(アナライズ)】を実行する。


○【緋桜のリボン】

・Rank:EX

・付与スキル:【全状態異常無効】

・保持スキル:【知覚拡張】

・装備条件:専用装備 (サクラ・カグヤ)

・備考:覚悟を決めた少女をあらゆる異常から隔離する守護がかけられた専用装備。装備者の知覚範囲を広げる効果を持つ。


 おおう。まさか本当にできるとは。スキルが過去の創作装備に比べて少ないのにランクがEXということはやっぱり【全状態異常無効】というのは破格の能力なんだろう。しかも知覚強化のオマケつきだ。またサクラ専用装備になってしまったが、別にサクラ以外につける予定もないので問題ない。


 これって創るときの気持ちでなるんだろうか? 服の時もそれに近い装備制限がかかったしな。逆に誰の為と思っていなかった【宅配の指輪】なんかには制限がつかなかった。今度余裕があるときに色々試してみるのもいいかもしれない。


「できたの?」

「あぁ、見た目はただの布切れっぽく見えるが、能力はすごいぞ!」

「師匠に着けてほしいな」

「え?」


 サクラは後ろを向いて、髪を掬い背中に回す。


「え?」


 俺はリボンを手にしたまま困惑する。正直、どうやったらいいか全然わからなかったからだ。単純に後ろでまとめたらいいと思っていたが、髪を触るのにもドキドキするしどうやって髪をまとめながらリボンをセットしたらいいのかわからない。


「遅い!」


 俺がなんとかポニーテールにセットしようと四苦八苦していると、後ろからベルがやってきた。


「ベルか、脅かすなよ」

「ベルベル」

「何やってるのよ。奴隷の2人が朝食を作って待ってるわよ」

「あぁ、そういえばそうだな。思っていたより結構時間がかかってしまった」


 俺は手元のリボンに目を落とし、そしてベルを見る。ベルの髪は頭の両側でツインテールに束ねられている。


「ふむ」


 俺はベルの髪をみてやり方を探ってみるがやっぱりわからない。


「何よ」

「なぁ、ベル。サクラの髪をこのリボンでポニーテールにできるか?」


 もうできそうにないので、サクラには悪いがベルに丸投げする。


「あぁ、そういうこと。貸しなさい」

「ベルベルはできるの?」

「まぁね。主に任せてたらせっかくの綺麗な髪がクシャクシャになっちゃうわよ」


 本当にその通りなので言い返すことができない。するとベルはどこからかクシを取り出すとサクラの髪を梳いていく。


「ちょっと、砂とかが酷いわよ。一旦きれいにできない?」

「わかった」


 さっきまでの特訓のせいだろう。髪を梳いたり、ごみをとったり、そこまで頭が回らなかった。元魔王でも流石に女性ということか。男性の俺には元より無理な話だったんだ。


 ボォッとサクラが火の粉を散らし、服に備わった【清浄】を発動させることで砂などのごみを払う。その後、ベルがクシで髪を整えると髪をかき上げクシで整えながらまとめていく。かなり手際がいい。


 あっという間にリボンをそのままリボン結びで括ると「はい、終わり」とサクラの背をポンと軽く叩く。


「ありがとう、ベルベル!」

「どういたしまして。さ、戻るわよ」

「あぁ」

「うん!」


 俺たちは照明代わりに飛ばしていた魔術を解除すると星屑の館に足を向ける。


「相変わらずサクラには甘々ね」

「うるさい」


 あのリボンがスキルによって創られたものだとわかったのだろう。ベルのからかいを受けながらも、俺は自分の装備はどんなものにしようかなと考えながら帰途についた。


次回、10/27更新予定です

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