039 創作世界の夜明け
俺たちはギルドで依頼の受理と説明を受けた後、サクラ達と合流の約束をした広場に向かって移動していた。
「でも、まさかいきなりランクAの依頼を受ける事になるとは思わなかったな」
「それはこっちのセリフよ。どうするつもりなの?」
俺の言葉にベルから呆れを感じさせる言葉が返ってくる。
「まぁ、今日は一旦創作世界に戻るつもりだ。今の俺たちの力がどの程度なのか把握して、明日教会に下見だな。それで悪魔の少女とやらの見極めをして何とかなりそうな感じだったら対応するが、無理そうなら素直に依頼は辞退するさ」
危険を冒してまで無理に対応する必要はない。ギルドの説明をルーミエさんから受けた話では、依頼の結果報告には基本3通り存在するらしい。
定められた条件を期限内に達成した場合の完了報告、受けはしたが実力不足などでその依頼を達成できる見込みがない場合などに他の冒険者へと対応を委ねる辞退報告、そして護衛対象を殺された、運搬物を盗まれた、壊されたといった再度別の冒険者が受けることができない状態に陥った際の失敗報告だ。
失敗報告を繰り返すようであれば冒険者資格の剥奪や罰則などがあるらしいが、辞退に関しては期間ギリギリなどでなければそこまで大きい減点にはならないらしい。
というより、むしろ今回に限っては無理とわかればすぐに辞退をする様に逆に勧められている。おそらく、登録したばかりだったから心配されているのだろう。
一番驚いたのは、登録時からランクが高ランクなことだ。よくある異世界ものでは普通、最底辺のFランクからスタートする。だが、この世界では“セカイの意思”によって決められたランクを重視しているらしく、情報版に記載されていたランクがそのまま冒険者のランクとなっている。
必然、俺の冒険者ランクはUとなった。規格外のランクは言葉が意味する通り、通常の最高ランクSを上回った位置にあるらしく、ランクAである今回の特殊依頼も問題なく受諾されてしまった。
これにはルーミエさんも驚いていた。心配してくれているのか、やたら色々と注意事項を説明された。
最後には「ギルマスが何を考えているのかわかりませんが、後できつく言っておきます」なんて呟いていた。あのギルマスに対してただの受付嬢が文句を言って大丈夫なのか心配になる。なんせ“企てる者”なんて称号を持ってるくらいだ。裏でネチネチ厭味ったらしい事をされるかもしれない。
自分の状況を忘れ、他人の心配をしながら歩いていると約束していた合流地点である広場に到着する。辺りをざっと見渡す。憩いの広場と言った感じで拵えられたイスなどに座っている人が散見される。中央には池のようなものがあるが、噴水はなさそうだ。
「サクラたちはまだいないみたいだな」
「そうね。こっちから迎えに行く?」
「ん? でも、こんな広い街じゃすれ違いになるかもしれないだろ。ここで待ってた方ががいいんじゃないか?」
もしくはまた【魔力解析】で街に対して探知を実行するかだな。ただ、リアルタイムに情報が反映されないので、都度実行しないと結局行き違いになる可能性もあるので動かない方がいいような気がする。
そう思っていたが、どうやらベルの考えは違ったようだ。
「何言ってるのよ。契約してるんだから居場所くらいわかるでしょ?」
「契約?」
ベルに言われてハクナやサクラ、ここにいるベルとは契約をしていることを思い出す。ただ、俺としては契約自体はしたことはわかっているが、それの意味するところがよくわかっていない。
わかっているのは俺の魔力の一部を供給していることと、ちょっとした命令権のようなものがあるということだけだ。
「“ここにこい”とか命令したら瞬間移動でもして現れるのか?」
「そんなわけないでしょ。命令権でもできないことはできないわよ。それに命令は直接聞かせないと駄目よ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「私達が結んでいる“親愛の契約”には相手の居場所を把握する効果があるはずよ」
「“親愛の契約”……?」
なんだその契約は。知らず知らずの間に結ばれていた契約はそんな名前だったのか?
確かに契約方法がキスな時点でお察しだが、まさかそんな名前の契約が結ばれているとは思わなかった。出会ったばかりの男と結ぶような契約なのか? この世界の女性がもつ貞操観念が不安になる。
それにしても、契約相手の居場所の把握か。戦力もそうだが、契約の内容や効果についても一度調べておいた方がよさそうだな。このままじゃ、知らないうちにいろんな契約にがんじがらめにされていそうだ。
いざという時に知っているのと知らないのでは対応に差が出てしまう。万が一ということもある。いい加減、後回しにしている自分の力に向き合うべきか。
流石に契約した本人に聞くのはなんか怖いので、後でこっそり【知識書庫】で調べようと思う。
取り敢えず、今はサクラたちとの合流が優先だな。調べ物は創作世界に帰ってからだ。
「それってどうやったらできるんだ?」
「相手とのつながりを通して情報を呼び込むのよ。危険なんかも察知できるようになるから、大切に思ってるなら無意識にでもできるくらいになった方がいいわよ」
「そんなことができるのか。確かに、万が一が起きる前にできるようにはなりたいな。その前に、察知した際に助けられる力がなければ意味がない気がするが、それもおいおいか」
ベルに言われた通りにサクラとのつながりを手繰るように探していると、突如後ろから衝撃を感じ抱き着かれる。
「うおっ」
「あら」
いきなりの事だったのでバランスを崩すが、なんとか踏みとどまる。誰だと振り返ってみると、そこには笑顔のサクラと後ろからついてくるハクナがいた。
「サクラか。ちょうど探そうと思ってたところだった」
「レクトル、会いたかった」
「さっき別れたばっかだろう」
そう思いながらサクラの頭に手を乗せて撫でる。その身体が少し震えているように感じてハクナを見る。
「何かあったのか?」
「え? な、何もなかったですよ?」
どこかぎこちない返事を訝しみながらも、取り合えず揃ったので創作世界に戻ることにする。
「そうか? なら、ここじゃ人目があれだからどこか人がいないところに移動して一旦創作世界に戻るぞ」
「ギルドマスターに呼ばれたのは大丈夫だったんですか?」
「あぁ、そのことでも話がある。そういえば、食材や回復薬は無事買えたのか?」
「うん。お肉いっぱいとお薬も買ったよ!」
「そうか。ありがとな」
「うん!」
サクラは笑う。不安そうな感じだったが大丈夫そうだ。俺と離れていたのが原因かもしれないが、あまり依存してしまうのも問題なので考えどころだな。
例の依頼についてもサクラを連れて行くかどうか迷うところだ。サクラのことを思うと危険みたいなので創作世界でレア達と待っていて欲しいところだが、絶対についていくと言う姿が目に浮かぶ。
まぁ、それも明日の下見次第だ。広場の脇に生えている木の密集エリアの影に隠れると、周りから見られていないことを確認して創作世界へと転移する。
転移した場所はいつもの泉の前だ。辺りは暗く、未だに夜が明けることはないらしい。この世界自体はかなりチート染みた能力を内包しているが、こればかりはいい加減どうにかしたいところだ。
星屑の館へと歩を進めようとした時、屋敷の方からレアとリアがやってきた。
「お、おかえりなさいませ」
「ごしゅじんさま、おかえりなさい」
「あぁ、ただいま」
「ただいまー」
レアとリアの出迎えに俺とサクラが挨拶を返す。でもこっちに戻ってきたばっかりなのによく分かったな。それにレアの様子が何かおかしい。
「何かあったのか?」
「そ、それが……」
レアが何か言いにくそうにしている。もしかして、俺がいない間に魔物でも出たのか? 特に怪我などはしていないようだが……。今までこの世界に誰かを待たせたことはなかった。俺のスキルの中の世界だからと安心していたが、俺がいない間にこの世界がどうなるのかは知らない。
レアはそれなりに能力値が高かったが、そんな場所に置き去りにしてしまったのかと焦っているとレアが空を指さしながらゆっくりと口を開く。
「あの、よ、夜が明けました……」
「は……?」
俺はレアが言った事の意味が呑み込めず呆けてしまう。夜が明けた? それに一体何の問題が……
そこまで考えて気づく。レアがいたのはこの創作世界だ。今までこの世界で夜が明けたのを俺は見たことがない。それが明けたという。
「どうやったんだ?」
「その、ご主人様が出かけられてすぐに明るくなりました」
「うん、みんな行った瞬間朝になったよ!」
俺の質問にレアとリアが答える。
てっきり何か条件を満たすことをしたのかと思えば、どうやら俺がこの世界から転移した瞬間に夜が明けたらしい。そして戻ってきたことで再び夜になったと。それでレア達は俺達が帰ってきたんじゃないかと迎えに来たそうだ。
サクラやベル、ハクナがこのスキルに影響を与えるとは考えにくい。なら、俺の存在が夜明けの鍵になっているということか? それはつまり、俺自身はこの世界の夜明け、明るい景色を見ることができないということになる。
なんでだ……? 俺だってこの創作世界の明るい景色を見てみたい。
「俺がいると夜になるのか? 意味がわからない」
「ちょっと一回元の世界に戻ってみなさいよ」
「ん? 何か忘れものか?」
「違うわよ。私たちも確認するためにあなただけでよ」
「……………………」
ベルが身もふたもなく言う。つまり、本当に俺の存在がきっかけになっているか確認したいということか。なんか仲間外れにされている気がして気が進まない。
「私も一緒にいくよ?」
「ありがとう。大丈夫だ。すぐ戻ってくるしな」
サクラが気を使ってくれたのか同行を申し出てくれるが、すぐに戻るので待っていてもらうことにする。どうせならサクラにも夜じゃないこの世界を少しでも見てもらいたいしな。
「じゃあ、数分で戻るからな」
俺は再度元の世界に向けて転移を実行する。先ほど転移した木の影に再度くることになる。特に気にせず転移したが、辺りはまだ明るく人通りが多い。誰も見るものはいなかったが、今後は注意した方がよさそうだ。
1分くらい経ってから人目をうかがいながら再度創作世界へと転移する。
「あ、暗くなりましたね」
「本当ね」
戻ってきた瞬間、ハクナとベルがそんなことを言う。
「その様子だと、やっぱり俺がこの世界の夜明けの鍵になってるんだな」
しかも、太陽のようにいる間明るくなるのではなくその逆。俺がいる間だけ夜になるというよくわからない仕様だ。
「あなた、太陽にでも嫌われてるんじゃない?」
「なんだそれは。俺は何もしてないぞ」
「レクトルは私にとっての太陽だよ」
「サクラ……」
なんかサクラが俺を励ますためか恥ずかしいことを言ってくれる。俺が何とも言えない顔をしていると、サクラ自身も言ってから恥ずかしくなったのか下を向いて両手の人差し指をツンツンとぶつけて恥ずかしがっている。
「男なら素直に受け取りなさいな」
ベルに突っ込まれる。そう言われてもな。
「でも、これならなんとかなりそうです」
「何がだ?」
「畑ですよ、ご主人様。日当たりもよく、屋敷からそんなに離れていない場所にいいところがありましたので」
「あぁ、そんな話を行くときにしていたな」
完全に忘れていた。でも、確かに俺がいない間は陽の光が昇るなら畑に関しては問題ないんだろう。
問題があるとすれば俺が朝早くに創作世界から出かけ、夕方くらいに戻ってこないと通常の陽の当たるサイクルから外れてしまうことだ。植物の成長にどれだけ影響が出るのかは知らないが、この世界に引きこもりができなくなってしまう。
やはり、それ以外にも俺がこの世界にいる間でも陽の光を浴びせることができる手立ては必要だろう。スキルの力か、星の魔術か、また今度考えておくとしよう。思いついている案も試しておきたい。
「お疲れだと思いますので、一旦屋敷にお戻りになりませんか?」
「そうだな」
「ごはんー」
サクラはお腹が減ったのか、屋敷に向かって走り出す。
そういえば食材や調味料を買ってもらったんだったなと思い出し、宅配の指輪で送られてきたものを確認する。
リストにて一覧で表示すると、様々な肉類や調味料が入っているようだった。
「塩と胡椒に唐辛子か。やっぱり砂糖とかは貴重なのか?」
味噌や醤油はなくても砂糖くらいはあると思っていた。
「そ、そうですね」
「でも、売ってたよ?」
「サ、サクラ」
サクラの言葉にハクナが少し慌てている。
「なら、もしかしてお金が足りなかったのか?」
「ううん。ハクナっちがその3つがあればいいって」
「つまり、抜けていただけか」
「うぅ」
まぁ、急ぎでもないし、また今度買えばいい。調味料を中から取り出してレアに渡す。
「ありがとうございます。これで料理の幅が広がります」
「あぁ、楽しみにしている」
「はい!」
肉類は今出しても傷むだけなのでそのままにして、他のを探す。
「ん? 回復薬が入っていないが、買ったんじゃなかったのか?」
「あ、それは私が持ってます」
俺の言葉にハクナが答える。
「宅配の指輪じゃ送れなかったのか?」
特に制限に引っかかるものなんてなかったと思うんだが。
「いえ、買ったときに商品を受け取る前にサクラが飛び出していったので……」
「うっ」
その言葉に今度はサクラが呻き声をあげる。なるほどな。全く。
「それでどこにしまったんだ?」
「最初はどうしようかと思ってたんですけど、【保管庫】にしまいました」
「例の時が止まる収納魔術か」
「はい。ご主人様の魔力供給があったので、ほぼ容量は気にする必要がないですから」
俺も畑から食材を回収する際に使用している。俺には魔術適正がないため【神術】経由の発動になる。それはハクナも同じだが、俺の場合は【省略詠唱】のスキルがないので、取出や収納を行うたびに長ったらしい詠唱をしないといけない為あまり活用していない。
【省略詠唱】のスキルだけはなるべく早く手に入れたいところだな。
星屑の館に着くと食糧庫に今度は買ってきた肉類の食材を移していく。
この食糧庫にはいくつか木箱があり、その中に食材を入れると時間が停止するので傷むことがない。ただ制約はあるらしく、異世界物ではお馴染み生きているものは入れることができず、またこの食糧庫から持ち出すことができなかった。
これは風呂にあるシャンプーなども同様で、持ち出して外で売るようなことはできないみたいだった。毎回補充されるようだったので、金もうけに使えるかと思っていたがそう甘くはないらしい。
レア達のメイド服もそうだが、こういう消耗品がどこから作られているのか気になるところだ。
木箱の数もそう多くはないが、4人が1ヶ月は過ごせる量を保管することが可能だ。後は畑が軌道にのり、ある程度動物や魔物を狩れるようになれればこの世界でも安心して暮らしていけるだろう。
そのためには俺が外に出ないといけないようなので、何かしら外での目的かこの創作世界での陽の光対策を考えたほうがよさそうだ。
「それでは夕食の準備に取り掛かりますね」
「あぁ、よろしく頼む」
レアとリアは必要な食材を食糧庫にあるカートに乗せ、キッチンのある部屋へと向かう。
「それじゃあ、居間に集まってもらえるか。明日の予定について話したいことがある」
「何かあったんですか?」
「例のギルドマスターに呼び出された件だが、ある依頼を受けることにしたんだ」
みんなが椅子に座ったのを確認した後、俺は冒険者ギルドでの一幕について話す。
「悪魔の少女……ですか」
「悪い子なの?」
「わからない。まぁ、この街の人たちからしたら被害を受けているのでよくは思わないだろうな。なので、対応自体は相手の理由や状況次第で決めようと思っている。ギルドマスターが言うように人が傷つくことを意に介さない冷酷な悪魔だったら擁護はしないが、サクラみたいに誰かに何かされていたり、操られていたりするならどうにかしてあげたいところだな」
「会ってもいない相手によくそこまで言えるわね」
「まぁ、相手が子供と言われるとなんだかほっとけないだけだ」
現実の世界にいたらロリコンと言われそうな発言だな、と自分でも思う。大人の理不尽に振り回された子供をさんざん見てきたことが影響しているのかもしれない。まぁ、俺の過去なんてどうでもいい。今はその悪魔の少女をどうするかだ。
「その場所ってどこなんですか?」
「西の森にある教会らしい」
「それって……未来への可能性……?」
「……? なんのことだ?」
サクラの言葉の意味が分からず尋ねるが、サクラもハクナの方を見るだけで答えが返ってこない。
「なんでもないですよ。私はその少女を助けることには賛成です」
ハクナが意外な発言をする。てっきり神子なので悪魔に対しては否定的かと思っていた。まぁ、魔王であるベルと一緒にいる時点で心配はいらないか。
「いいんじゃない? まぁ、私はとやかく言える立場ではないのだけれど」
「私もいいよー。いい子だったら私も助けたい」
「なら、明日は西の森にいって様子を見ようと思う。サクラにはできれば待っていて欲しいんだが……」
「私も一緒に行く!」
「だよなー。わかったが、危ないと思ったら引き下がるから危ないことはしないでくれよ?」
「うん!」
取り敢えず、方向性は決まった。勝手に依頼を引き受けてしまったが、このメンバーには反対する者はいなさそうだ。まぁ、詳しい話を俺も聞いていないのでただ実感がないだけかもしれない。
ものすごい形相でいきなり襲ってきたらどうしよう、と今更になって言いしれない不安がよぎる。
「一応、相手はこの街のギルドマスターが危険視する悪魔だ。一度俺たちに何ができるのか、整理しようと思う」
「そういえば、この世界に転生したばっかりなのよね」
「そうだ。まだ3日目で、自分に何ができるのかも全然わかっていない」
「よくそんなので私に立ち向かおうとしたわね」
「あの時ははったりで乗り切るのに必死だったからな。俺を攻撃し続けなかったことを後悔しているのか?」
「まさか。今の状態は気に入ってるの。あの時の私の判断には拍手を送りたいところよ」
思いのほか気に入ってくれているようで安心した。いきなり裏切られたりしたらたまったもんじゃないからな。
「でもそうね。ま、その辺は任せるわ。契約の主であるあなたなら、ここにいる全員の能力値もスキルも全部見れるでしょ」
まさかの丸投げか。まぁ、全員にいちいち聞いていては時間がかかってしまうか。一旦このメンバーで何ができるかを洗い出して、何か足りないものがあるなら明日創作に頼ることにしよう。
ある程度話がまとまったところでレア達が料理を持ってきた。
昨日と異なり調味料や肉がふんだんに使われた料理はかなりうまかった。レアの故郷の料理らしく日本でも見たことないものだったが、これだけおいしいものが食べられるならこの異世界も悪くないと思えた。
次回10/13更新予定です




