036 特殊依頼
俺たちはルーミエさんの案内でアルストロメリアの冒険者ギルトマスターの元に連れてかれていた。
事の発端は俺の【情報版】に記載されたランクUの文字。通常はFを最底辺とし、そこからE、D、C、B、A、A+と上がっていきSを最高峰とする8段階しかないらしい。
道すがらランクについてルーミエさんに少し聞いてみたが、ランクと順位はある程度関係性があり、ランクによって全体の順位のどの辺りにいるかがわかるとのこと。以下がその範囲だ。
冠位:1~10位
S:約11~50位
A+:約51~101位
A:約101~500位
B:約501~1000位
C:約1001~5000位
D:約5001~10000位
E:約10001~100000位
F:約100000位未満
Aだけ何故か+の区分が設けられており、10位以上は別枠扱い。Sランクに至っている人についても、全てをギルドが把握しているわけではなく、現状把握できているのは26名にしか満たないとのこと。また、上記の範囲もあくまで目安でしかなく、51位の人が50位になったからといって元50位がランクSからランクA+に落ちるといったことはないそうだ。
順位自体もランクと同じく強さだけによって決まっているわけではなく、セカイの意思による価値、貢献度が多分に含まれているので、戦闘力がまるでない学者などが高ランクに位置していたりすることもあるそうだ。
ということは、俺はセカイの意思にとって最も価値があると思われているということになる。もしくは貢献度か。何かしたというならサクラを魔王の生贄から救ったり、魔王復活の儀式を不完全化、その後も魔王自体を野に放つような事態を防いだと言えるかもしれない。
だが、俺がこの世界に来た時には既に順位の欄に表示されていた数字は“1”だった。つまり、その後の行為は関係がないということになる。その時にあったもので特殊なものと言ったら、異世界人ということと固有スキル【無限湧魔】くらいだろう。まぁ、こればかりは今考えても仕方がないか。
ちなみに、このランクに割り振られるのは一度セカイの意思と【情報版】を得るための儀式をすることが条件になるとのこと。それ以外の儀式でも登録されることはあるそうだが、サクラの能力値にあるランク欄に“-”が表記されているだけなのはそのことが関係しているということだ。
お金を渡す時も不便だったから、サクラには近いうちに儀式をしてもらおうと思う。
また、11位以下の順位は上から順に割り振られているが、冠位の称号を与えられる上位10人については必ずしも誰かがその座にいるわけではないとのこと。冠位の称号を与えられた者にはセカイの意思より直接任を課せられるらしい。ちょっと気になったので、今現在判明している冠位の称号を持っている人について聞いてみた。あまり他人事では無さそうだからな。
「今判明している冠位の方ですか?」
「はい。そんなすごい称号を授かっている方というのがどういった方達なのか気になりまして」
「そうですね……今判明しているのは第二位、“閃帝”の称号を持つ現リスペード帝国皇帝シャルディア様、エルフの民を束ねる“深緑の巫女”、その当代である第七位“緑主”ルティアルン様。そして最後にドワーフ族を中心とした鍛冶師によって構成されたコレギア《無限の大地》所属の国宝級鍛冶師、第八位“壊臣”デミラス様の3名ですね」
「皇帝にエルフの巫女、そして国宝級鍛冶師……ですか」
内心でおいおいマジかよと思わず突っ込みを入れる。
そこには全く肩を並べられる気がしない名がズラリと並んでいた。その答えに【情報版】に刻まれた1の数字が恨めしく思ってくる。このメンバーと同列扱いにはしてほしくないな。何かの間違いであることをただただ祈るのみだ。
しかし、それだけのメンツが名を連ねている者がいる中、そこに存在しないはずのランクU、規格外ともなればギルドマスターとやらに呼び出しがかかってしまうのも否応なしといったところだろう。
そうこうしているうちにギルドマスターがいるという部屋の前に辿り着く。
「ギルドマスター、先程連絡した方々を連れてきました」
「あぁ、入りなさい」
扉をコンコンと打ち鳴らし、ルーミエさんが中へと呼びかけるとそれに了承の返答が返ってくる。
「失礼します」
ルーミエさんが扉を開け、中に入ると奥にある椅子に腰かけたギルドマスターの姿が見えた。見た目はかなり歳をとったお爺さんといった感じだが油断ならない気配が確かにある。
長い銀色がかった白髪を後ろに束ね、ちょっと可愛らしいリボンで結んでいる。彼の部屋は執務室といった感じで、周囲にある本棚には様々な本が収納されており、机の上には大量の書類が散乱していた。
「ほ? 君がそうかね? 思っていたよりも随分と若いね」
「え?」
「人族ではないのか? まぁいい。ルーミエ君、ここまで案内ありがとう。君は業務へと戻りたまえ」
「はい、失礼しました」
何かをボソッと呟いた後、ギルドマスターはここまで案内してくれたルーミエさんを下がらせた。残っているのは俺とベル、そしてギルドマスターだけだ。
「ほっほっほ。いきなり呼び出して済まないね。そういえば、連れが3人いると聞いていたのだが……」
ギルドマスターはチラッとベルの方へ視線を向けた後、少し首を傾けながら問いかけてきた。
「そうですね。後2人いたのですが、少し時間がかかりそうだったので先に買い出しに出てもらいました」
「そうか。それは申し訳ないことをしたね。時間をとらせてすまない」
なんだろう。ハクナかサクラに用があったのか? それにしても、特に焦ったり困ったりする様子は何もない。ルーミエさんから連絡を受けてからのこの対応の速さ、俺たちが来ることを予め知っていたような、そんな感じさえする。
「私はこのアルストロメリア支部のギルドマスターをしているロイエンという。実は君達のその実力を見込んで折り入ってぜひお願いしたい依頼があってね。ここまでご足労いただいたんだよ」
「依頼……ですか」
その言葉に俺は警戒心を跳ね上げた。だってそうだろう。一体何の実力を見込んでいるのか知らないが、俺がこの世界に来て何かしたのなんて先の魔王の一件くらいしかない。あの件について知っているというのなら、一体何を依頼されるかわかったもんじゃないからだ。
いや、知っているなら隣にいる元魔王に対して普通に接しているはずがないか。この世界では魔王とはかなり恐れられている存在らしい。ベルからはそれほど恐怖は感じないが、それはベルが特殊なだけで世間一般的な認識は大きく異なる。
もしかして、ランクUという規格外のランクから実力云々の話をしているのか? ……いや、そうじゃない。さっきの連絡の時、ルーミエさんは“すごいランクの方”という表現しかしていなかった。ランクUとは一言も言ってなかったじゃないか!
すごいランク。それだけの言葉で実力もクソもないだろう。
つまり、何かしらの方法で俺やベルに力があると見抜いているということだ。だが、ベルは別にしても俺は魔力以外は理力と速力が伸び始めてはいるがまだまだ全然大したことないはずだ。何を依頼する気か知らないが、わざわざギルドマスターが直々に依頼するほどの理由があるとは思えない。
「ベル?」
「私にもわからないわね」
俺では判断がつけられなかった為隣にいるベルに問いかけてみたが、彼女も同じく検討がつかないようだった。
後考えられることはなんだ? 初めて冒険者に登録する者が適任の依頼とか? いや、それもあの連絡からは判断できないだろう。他にルーミエさんは何を伝えていた? ギルドマスターが俺たちを呼ぶ理由になった会話……
先程の状況を思い出し、気付く。あの時、ルーミエさんが相手からの質問に答えるように話していた言葉――“お連れの方ですか?”、そして“女性が3人ほどいるみたい”だ。
つまり女性を連れていることが重要ということか。さっきも3人と人数を確認していたじゃないか。呼ばれた理由が自分ではなく、サクラやベル、ハクナ達である可能性に思い至り、俺はさらに警戒度をはね上げることとなった。それにギルドマスターが反応する。
「いやはは、あまりそう警戒しないでくれたまえ。君達の噂はかねがね聞いているよ?」
「……噂?」
「あぁ、そうだね。街で幅を利かせていた荒くれ集団をまとめて壊滅させたとか、A級に分類される竜種を倒したとか君達を語る武勇伝には事欠かないだろう?」
「……………………は?」
なんの話だ? 荒くれ集団っていうのはこの街に来る途中であった盗賊達の事か? でも、あれは街の門を守っていた衛兵の話では街の外で迷惑行為をしていただけで、中ではなかったはずだ。
それに、竜種なんて倒したどころか見たことすらない。ベルと顔を見合わすが、お互い首を傾げるのみだ。
……もしかして人違いをしているのか?
そんなこととはつゆとも知らないギルドマスターは話を続けている。
「先日も西の森から出てきた魔物の集団を退治してくれたそうだね。実は今回の依頼もそのことに関わっているんだよ。最近、西の森に住む魔物が活性化し、荒れてきているのは知っているかね?」
「……はい。冒険者も何人かやられているみたいですね」
個人的に勘違いっぽいので警戒度が少し下がったが、取り敢えず話は合わせておく。西の森については武器屋のガルニスさんから忠告を受けていたので知っている為、嘘ではない。
「そうなんだよ。情けない話なんだけどね、先日もウチのBランク冒険者がやられたばかりでね。慣れた場所のはずがいつもと違う敵の強さに油断したみたいなんだけど、こうも被害が続くと放っておくことはできなくてね」
「いつ頃から活性化し始めたんですか?」
「うーん、10日くらい前頃からだったかな。最初は森の中に住んでいるはずの魔獣が外にちらほらと出てくる程度だったんだ。それが次第に奥に住まうはずの魔獣が、ついには見たこともないような魔獣の目撃証言まで出てくる始末だよ。流石にこれ以上は放置できない」
それはまたなんとも。でも、俺がどうこうする問題でもない。そんな危険なことに首を突っ込む気は毛頭ないしな。人違いだということを伝えてさっさとここを離れよう。
そう思って俺が声を発しようとした時、先にギルドマスターが真剣な面持ちで口を開いた。
「それでここからが本題なんだけど……、君達にはぜひこの事態の解決に動いてもらいたいんだ」
「いや、俺たちは――」
「実はこの事態を引き起こしている犯人について、検討が付いたんだ」
「犯人?」
断りを入れようと思ったが、ちょっと気になったので思わず聞き返してしまった。原因を探れというわけではなかったのか。
「あぁ。私だって何もしてなかったわけじゃない。斥候を送り原因究明に動いていたんだけどね? つい先日、森の中にある古びた教会で見つけたのさ。どす黒い瘴煙をその身に纏う悪魔の少女をね」
「悪魔の少女……?」
「あぁ。その途中で凶悪な魔物に襲われ、命からがら逃げかえったそうでしっかりとは見れなかったみたいだけど、その背中には黒い羽根が生えていたらしい。冷たい目が合った時は、生きた心地がしなかったそうだよ」
ここにきてまた悪魔ときたか。相変わらずこの世界にきてから悪魔とのからみが多い。ベルも思うところがあるようで何か考え込んでいる。
「解決に動くというのはその悪魔の少女をどうするのですか?」
「おや? 興味が出てきたかい? やはり女性と聞くとほっとけないのかな? いやはや少女では駄目かと思っていたが、お連れの子を見る限り随分と嗜好の幅が広いらしい」
「……なんの事ですか?」
「いやなに、こちらの話だ。気にしないでくれたまえ」
この爺、一体誰と勘違いしているか知らんが失礼すぎやしないか!? まるで俺が女なら見境なく追っかけるようなクズ男みたいじゃないか。よく見ると、横でベルが必死に笑いを堪えてるんだよな。
確かに今の俺のパーティはハーレムもの並みに女性が多い、というより俺以外女性しかいないが別に狙ってしたわけじゃなく全て成り行きだ。放っておけなかったために一緒にいるに過ぎない。
女たらし的な扱いを受けるのは納得がいかない。
そんなことを考えながら俺がげんなりしていると、ギルドマスターは少し真面目に取り繕い、椅子の背もたれにもたれ掛かかっていた身体を起こすと、机に両肘を立てて寄りかかり両手で口元を隠す。その姿勢はまるでどこぞの指令のようだ。
「悪魔の少女をどうするか、ということだったね。それはもちろん、この世からお別れしてもらうつもりだよ?」
「…………!」
「随分と厳しいのね」
「これだけ被害を出した元凶だ。当然だよ。そうでなければ、被害を受けた者たちが納得できない」
あっさりと、かもそれが当然であるかのように言い放つギルドマスター。少女というからにはまだ若い子供のはずだ。それでも、悪魔であれば容赦しないということだろうか。
異世界には未成年に対する保護法なんてないらしい。
「あぁ、なんなら君が解決し、生じる被害の全責任を負えるというのであれば、その少女については奴隷にでもなんでもしてくれて構わないよ? 我々としては最終的に西の森が正常化すればそれでいいのだからね」
「………………」
こいつ、本当にギルドマスターなのか? こんなやつがトップとは世も末だな。人の命を、人生を何だと思ってやがる。下手をしたら元の世界のクソ上司より酷い。これだけ胸糞悪くなったのは久しぶりだな。
その悪魔の少女とやらには会ったことがないが、思わずかばってやりたくなってくるほどだ。どんな被害が出ているのかはしらないが、ベルに出会った俺としてはまずは事情を調べてからだろう。本当に人をただ快楽の為に殺すようなやつなら流石にあれだが、会ってみないことにはわからない。
俺が助ける義理はないが、このギルドマスターに任せるのは何か気が進まない。
「わかった。その依頼、俺が引き受けよう」
「そうか、受けてくれるか! それはよかった! これが依頼の詳細だよ。特殊依頼扱いとさせてもらうから、また受付でルーミエ君にでも処理してもらうといい。もちろん、報酬は弾ませてもらう」
そう言ってギルドマスターが差し出してきたのは透明のカードのようなものだった。これが何かよくわからないが、あとでルーミエさんにでも聞けば教えてくれるだろう。恐らく依頼票のようなものだと思われる。
俺はそのカードを受け取ると懐にしまう。
「いやはや、今このギルドは人手不足でね。受けてもらえてよかったよ。ぜひいい成果を期待しているよ?」
「そうだな。だから、それまであんたはいらないことをしないことだ」
「ははは! 随分と威勢がいいね。部屋に来た時とは大違いだ。女性をみな大切に思う君には嫌われてしまったかな? だが必要な犠牲というものもある。まぁ、君も随分と若いようだが、調子に乗って足元をすくわれないように注意したまえ」
「ふん。いくぞベル」
「え、えぇ。あなたも怒ることあるのね。ちょっとびっくりしたわ」
自分でもびっくりだが、どうも俺は命を粗末にすることが許せないらしい。特に子供が理不尽な目に合っているのが気にくわない。
ギルドといえば守る存在じゃないのか。その上に立つ者の言葉とは思えない。俺はここのギルドマスター……ロイエンと言ったか、を内心で敵と定め、部屋を出る前にこっそりと【魔力解析】による鑑定を実施した。今後どういう状況で相対するかわからないからな。
○名前:ロイエン・クル・シクル 氷狼族 58歳 ♂
○称号:“ギルドマスター”、“氷原の英雄”、“企てる者”、“ウェポンマスター”
○Rank:S(44)
○ステータス:
・体力:1406/1406
・魔力:1193/1193
・筋力:956
・理力:653
・守力:878
・護力:714
・速力:1053
○スキル
・固有スキル
【免許皆伝】
・契約スキル
【空間掌握:領域】
・付与スキル
【状態異常耐性】
・スキル
【剣術】【槍術】【弓術】【斧術】【短剣術】【大剣術】【鎌術】【双剣術】【棒術】【盾術】【杖術】【細剣術】【暗器術】【魔術適正:水】【身体能力強化】【魔力感知】【気配察知】
……その場のノリでかなり反抗的な態度をとってしまったが、流石にギルドのマスターを受け持つだけはある。悪魔と比較するとそこまで大差ないように感じるが、50人くらいしかいないランクS、それに武術系スキルのオンパレード。
これは恐らく固有スキルによるものだろう。なにせ、この【免許皆伝】、武器を手にして少し扱うだけでマスタークラスの実力を得られるというかなりチート染みた能力をしている。
力任せな俺にはこういう技術系の能力を有している相手には恐らく不利だろう。何もできず終わりそうだ。懸念していた鑑定系のスキルは持っていないようだが、今は我慢するしかない。
どこかのたらしと勘違いした挙句、胸糞悪いことを聞かされたお返しはまた今度に取っておくことにする。
とっとと受付で処理を済ませてサクラたちと合流しよう。あっちも心配だしな。
西の森にある教会とのことだが、今日は一旦創作世界に戻って明日出直そう。少なくとも少女とはいえかなり実力はあるみたいだからな。
今の自分に何ができるのか、今一度見直すべきだろう。
「はぁ、ここまで面倒な依頼、受けるつもりはなかったんだけどな」
「そうなの? 後半は随分と乗り気に感じたけど。悪魔の少女とやらを相手にする当てはあるの?」
「……それはもちろん、当てにしてるぜ!」
「……呆れた。私これでも怠惰の魔王なのだけど?」
ジトっと睨んでくるベルの視線を無視して前を向く。
なんでこうなったのか。今回は自分で首を絞めた気がしないでもないが、やはりこの世界ではトラブルの神に愛されてるような気がしてならない。まぁ、なんとかなるさ!
次回9/22更新予定です




