034 ギルド
俺が【起源刃:霊煌】に魔力を注ぐのをやめると刃が消える。そのままカウンターに置くと少し真剣な眼差しで店主を見つめる。
「すみません、この短剣を売ってもらう事ってできますか?」
店主はその短剣を受け取りつつ、顎に手を当て悩ましげな表情を見せた。
「そうだな、これは元々売り物じゃあないんだが、それは装備できるやつがいなかったからだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、装備条件にかなり高い魔力値を要求されるみたいでな。それがこの店にくる客程度じゃあ話にならないくらいだったもんで、店の看板扱いにしてたんだが……」
そこまで言葉を続けると店主のドワーフは俺の方をじっと見つめながら考え込んでいるようだ。
「ふむ、あれだけの魔力刃を生成したんだ。譲ってやらんこともない」
「本当ですか!?」
「ただし! だ……条件がある」
「条件……ですか?」
「あぁ。この短剣なんだが、昔知り合いに鑑定してもらった限りじゃどうやら元々一対の双剣だったらしい」
それはおそらく装備の説明欄に記載されていた“番の片割れ”という表記からだろう。そういう結論に行きつくのはなんとなく想像できる。俺ももう一本似たものがあるのかと思ったからだ。
「ともなれば2本揃ったところを見てみたいと思うのが武器屋、というよりドワーフの性ってやつでな。その片割れを見付けてきてほしいんだ」
「その片割れを見付けてくれば売っていただけるということですか? わかりました」
すぐ手に入れられないのは残念だが、売り物じゃないなら仕方ないか。それに今思えば大してお金も持っていない。ランクB以上の武器なんて買う余裕はないだろう。
そう思って今回は諦めることにする。その片割れを見つけるまでには必要な費用も集まってるだろう。そのまま引き下がろうと思っていると店主が待ったをかけた。
「いや、その条件をのんでくれるなら今ただで持って行ってもらって構わない」
「え? いいんですか? その短剣って結構ランクが高いと思うのですが……」
「へぇ、わかるのか。そうだな普通ならBランク、さっきの兄ちゃんの魔力ならSランクの武器と同等と言っても過言ではないだろうさ」
「なら」
「番の武器っていうのはな。互いに引き合う特性を持ってるもんだ。ずっと引き離されたこいつは、どこか寂しげな感じをいつも漂わせてやがる。そんな感情を毎度背にぶつけられたんじゃあ仕事もはかどらねぇ。だから一緒に旅に連れ出し、どうか片割れに引き合わせてやってくれ。それにその方が見つけるのにも効率がいいしな」
それはどこか己の無力さを押し殺した言葉だった。もしかしたら店主自身も過去に探したことがあったのかもしれない。
聞いたところ、ドワーフ族は武器やモノに宿る心の声をわずかにだが聞くことができるらしい。俺が魔力刃を生成した時に短剣自体が歓喜に打ち震えていたとか。
“ただ”ほど怖いものはないというが、そういうことなら請け負うことに問題はないだろう。解析した結果でも特に呪われた武器というわけでもなさそうだしな。
「わかりました。そういうことでしたら、いつになるかわかりませんが必ず片割れを見付けてここに持ってきます」
「あぁ。俺はガルニスってんだ。兄ちゃんは?」
「レクトルです」
「冒険者なのか?」
「まだですが、これからギルドで登録しようと思ってます」
「そうか。レクトル、お前さんならいいとこまでいけそうだな。そいつのこと、よろしく頼む」
「はい。ご期待に沿えるよう頑張ります」
短剣を受け取り、懐に仕舞う。すると店主が思い出したようにこちらに再度向き直る。
「あぁ、そうだ。最近西の森付近で魔物が活性化してるらしい。冒険者も何人かやられてる。十分に気を付けな」
「わかりました。ご忠告ありがとうございます」
俺たちは握手を交わした後、再度の再会を約束して店を後にした。次に来る時には、この短剣の片割れと一緒に来たいもんだな。
「次はどこにいくの?」
ベルが少し退屈気味に聞いてきた。どうやら武器屋にはあまり興味がなかったらしい。
「そうだな。後は道具屋と冒険者ギルドだな」
冒険者ギルドがあるのは例のジアムさんとの会話で確認済みだ。やはり、異世界に来たなら行ってみたい場所の上位だろう。
「道具って何を買うつもりなの? ポーション類の回復薬なら不要だと思うのだけど」
「何故だ? あって困るものでもないだろ?」
「だって魔術とあなたの魔力があれば実質不要でしょ? このメンバーだと全員自力での回復手段はあるじゃない」
全員が? ハクナは水系統と神術経由で大抵の回復魔術が使用できるのはわかる。俺もそれと同じ枠でだとして、ベルは火属性系統だけじゃなかったか? それはサクラも同じはずだ。
前に聞いた話だと火属性には回復魔術がなかったはずだ。
「ベルとサクラはどういう回復手段があるんだ?」
「これでも元魔王なのよ? スキルはちょっとおかしくなっているようだけど、支障はないわ」
「そうなのか? まぁ、その辺は後でおいおい確認するとしてサクラはどうなんだ?」
「あの子には不死鳥がついてるじゃない」
「フェニアっていうとあの悪魔の?」
ベルに言われ、俺はサクラを見る。確かにサクラの中に宿る悪魔フェニックスは不死身の象徴とされる不死鳥だ。回復の力に関してはスペシャリストなのかもしれない。
でも、サクラの身体の中に封印に近い形で閉じ込められた状態で力が使えるのか?
「なぁ、サクラ」
「なぁに?」
「フェニアは今の状態で力を使えるのか?」
「フェニア? ううん。基本的には私の中で眠ってるよ?」
おい、ベル。話が違うぞ? いや、疑うにはまだ早い。確認は正確に、だな。
「サクラがケガをしたときに治したりとかは……」
「あ、それならできるよ。外に向けて力は使えないけど、私の中でならできるみたい。私が捕まってた時も、病気とかになったときはフェニアが治してくれてたんだよ?」
「そういうことか」
「うん。それにフェニアのスキルも魔核を取り込んで馴染ませれば使えるようになるんだって」
「へ?」
それは初耳だ。いや、フェニックスが持つ【不老不死】のスキルをものにするというのはそういうことになるのか。
「今もね、【緋焔】っていうスキルが使えるんだよ? 使ったことないから、どんなのかは知らないけど」
「そうだったのか。でも、元々“魔神の柱”の悪魔であるフェニアが持ってたスキルだ。使うときは気を付けてくれ」
「うん」
でも、そういうことならポーションの類いは本当にいらないのか? いや、道中何があるかわからないんだ。
よく漫画とかでもあるじゃないか。人助けなどで力を隠すのに道具だけを渡すときとかが。【神術】は明らかに普通じゃない力だろう。下手なことはしない方がいい。
それにあって困ることはないが、なくて買っておいた方が良かったと後悔もしたくないしな。
「いや、やっぱ買っておこう。力を使いたくない、もしかしたら使えない状況があるかもしれないしな」
「あぁ、そうね。人族は色々と不便ね。でもそれならギルドが先の方がいいかしら」
「なんでだ?」
「ギルドには冒険者登録にいくんでしょ? なら、もちろん依頼も受けるわよね?」
「そうだな」
この世界での冒険者というのがよくラノベとかにあるものと同じなのかわからない。そういうのを見極める為にも、一旦簡単な依頼を受けようと思っていた。
「なら、依頼の内容によって必要になるものも出てくるでしょ」
「あぁ、なるほど。確かにそうだ。二度手間は避けたいしな」
で、目的地が決まったのはいいが、例にならって場所がわからない。
「ギルドに先に行くのはいいとして、街の地図が欲しいな。冒険者ギルドとかで手に入りそうだが、その場所がわからないんだよな」
また適当にぶらつくのもいいが、あまり遅くなると依頼を受ける時間がなくなるかもしれない。
こういう時、ゲームとかだったらマップがあるもんなんだけどな。今さらだが、ゲームの主人公たちはどうやって初めてきた街のことを知ってたんだか。
……いや、待てよ? いけるか?
「やるだけやってみるか」
俺は1つのことを思いつき、試しにと神経を集中させる。
(そうだな、見る対象を個体ではなく全体に、範囲を広げるように、個々の詳細はいらない。とにかく、薄く、広くを念頭に)
「【魔力解析】」
俺から一瞬魔力の波のようなものが放たれたような感じがした。それを受けてか、隣を歩いていたハクナたちがピクッと反応を示した。
「ご主人様、今何かしました?」
「なんかピクッてなっちゃった」
「あなたねぇ、魔力を飛ばすにしてももうちょっと隠蔽しなさいよ。今のじゃサクラみたいに魔術に素養がある誰もが気付ける程拙いわよ」
ハクナ、サクラ、ベルがそれぞれ俺に苦言を呈してきた。
「あ、いや悪い。街のことを知りたかっただけで、別に隠そうとしてなかったからな。というより隠すやり方も知らない」
「あれだけ派手に街中で魔力を飛ばしたら変な勘繰りをされるわよ?」
「そうか、なら誤解を招く前に目的地に移動するか」
色々と忠告されたが、元々の狙いは達成することができた。街に対して【魔力解析】を使用することで、街の全容を知ることが出来たのだ。
ものや人、魔物など、個々にしか効果がないと思い込んでいたが、流石Sランク。かなり汎用性の高いスキルらしい。
俺の頭の中にこの街の全体図を思い浮かべ、冒険者ギルドの場所を確認するとそこに向かって歩き出す。
一度解析すれば、その時の情報はすぐイメージできた。人口や種族の割合、各店の位置などを調べることもできる。
ただ、時間経過には対応していないようで、人の動きや数日後に最新の情報が知りたいなら都度解析を実行する必要性がありそうだ。
店については評判度なるものまで出て来て逆にビックリした。このスキルは思っていた以上に有用かもしれない。
「いきなり迷いなく進みだしたけど、もしかしてさっきので場所がわかったのかしら?」
「あぁ、今ならどこにでも案内できるぞ? ……今はこの街限定だけどな」
「ふぅん」
「それってどんな感じなんですか?」
ベルはあまり興味無さげだったが、そこにハクナが食いついた。
「どんなって言われてもな」
ネットの地図みたいだ、なんて言ってもおそらく通じないだろう。別なものに例えるにしても、俺がこの世界のものを知らなさすぎるのでそれも難しい。
「ちょっと手を出してもらってもいいですか?」
「……?」
俺はハクナが何をしたいのかわからなかったが、取り敢えず望まれるままに手を差し出す。
するとハクナが自分の手をそこに重ねるように添え、目を瞑る。
「契約を通してご主人様が見たイメージを共有出来るんです。見たものを私にも見れるようにイメージしてもらえますか?」
「イメージ……ね」
少し照れ臭くなりつつも先程の街の全体図を思い浮かべ、それをハクナへと送ることをイメージする。俺はなんとなく携帯でのデータ送信を思い浮かべていた。
するとそれはうまくいったようで、ハクナが驚き目を見開く。
「これ、すごいですね。ここまで、鮮明で細かいのはこの世界にはないですよ?」
「そうなのか?」
「私もみたいー」
俺達のやり取りをみてか今度はサクラが興味を示したので、ハクナの時と同じ要領でデータ――街の全体図を送る。
「わぁ、お家も人もいっぱい!」
「サクラ、一応念のためにこの地図のことは他の人達には内緒な?」
「わかった!」
サクラは俺に恩を感じてるからか、こうやってお願いしたことに対しては快く引き受けてくれる。特に約束を破られたこともないので大丈夫だろう。
ハクナの様子じゃ、新たな問題の種になりそうだしな。トラブルの目は早めに潰しておくに限る。
既にやらかしてしまった街への解析など、どうしようもないものは仕方ない。その後どうするかが大事だからな。
そうこうしているうちにこの街の冒険者ギルドに辿り着いた。
外観は木造建築の2階建てだ。幾分付近に建っている家よりも頑丈に造られているように感じる。冒険者というからには荒い性格の者が多いことに対しての処置かもしれない。
中からはガヤガヤと慌ただしい声が聞こえてくる。
「入らないの?」
「いや、ちょっと緊張してただけだ」
「たかが冒険者ギルドでしょ? 変なの」
俺はベルに仕方ないじゃないかと思いつつもムッとするに止め、胃を決してギルドの戸を開ける。
中に入った途端、30人くらいいる冒険者の視線が一気に俺達に向かって注がれた。
……俺、何かやらかしたか?
次回9/8更新予定です




