033 街の探索
俺たちはメインストリートを歩きながら街を探索していた。
道を歩く人は普通の人族が多いように見えるが、所々に獣の耳がはえた獣人族がいた。割合的には8対2といったところか。もしかしたら他の種族もいるのかもしれないが、パッと見た感じでは俺にはわからなかった。
街の雰囲気はやっぱり中世の感じが強い。異世界ものでは総じて文明レベルが低いのが多いのは、やっぱり魔術があるため技術の進歩が遅いからなんだろうか?
俺たちは目的の場所はあるが、それがどこにあるのか、どんな店なのかすら知らないのでいきなり壁にぶち当たっていた。
取り敢えず、街自体の雰囲気を楽しむのも一興かと辺りを見回しながら、目的の店を探しつつ散歩することにする。
「おっきいお家!」
するとサクラが遠くに見える城を指さしてはしゃいでいた。サクラにとってはずっと洞窟に閉じ込められていたので、何もかもが新鮮に映るのだろう。街に入った時から落ち着かないのかありとあらゆるものに興味を示し、今になってもその好奇心が収まることはなかった。
この世界に限ってはそれは俺も同じなのだが、いかんせん漫画やアニメ、ゲーム、映画などファンタジー系の作品は多く見たりやったりしていたため、実物は初めてだが新鮮さはそこまで感じなかった。
「あぁ、本当だな。日本の城とはまた違う感じだな。やっぱり瓦とかはないか」
遠く、街の中央に聳え立つ王城は白い煉瓦作りの建物で、丸い塔がいくつも立て並ぶ荘厳な趣のある建物だ。
それだけならまだ普通の城だが、それがファンタジー感を出しているのは間違いなくその城の周囲を覆う光の結界だろう。
レヌアの街にあった加護障壁に似ているが、あそことは色が異なっていた。レヌアの村はピンク色をしていたが、この街の障壁は淡い青色をしている。ときおり表面を波紋のように伝っていく青い陰影が幻想さを醸し出している。聞いてみると、外敵感知や欠損検知といった魔術的な作用があるらしい。
「行ってみたいのか?」
城のほうをじっと見つめているので、まさかと思って確認する。サクラの願いは極力叶えてやりたいが、流石に城に入りたいなんて言われたらどうしようもない。できれば王やら貴族やら面倒くさそうなものとの邂逅は遠慮したい。そう思って身構えていたが、思っていたものとサクラの気持ちは違っていた。
「ううん。なんか変な感じがしただけ。帰るとこはレクトルのお家がいい」
「そうなのか?」
本当にいいのかと思いつつ、その言葉に内心ホッとする。
「何気に“星屑の館”ではなく、“あなたの家”っていうところがポイント高いわよね?」
「何の話だ」
ベルの話を適当に流しつつ、視界を正面に戻すとハクナが「あ!」と声をあげる。
「あれ、服屋じゃないですか?」
「あら、可愛い服が多そうね」
「ならこの店にするか? 俺はここで待っているから、この金貨で好きな服を買ってきてくれ。あ、レアとリアの服も忘れずに頼む」
「レクトルも一緒」
「あ、おい」
店頭に並んでいたのはどれも可愛らしい服ばかりだったので、どう見ても女性用の店だろうと入るのをためらっていたのだが、強引にサクラに引っ張られる形で店の中に足を踏み入れてしまう。
何気に抵抗することができなかったことに驚いた。今は大人の姿ではなかったにしても、記憶ではサクラと能力値上の筋力値は大して変わらなかったはずだ。この数日で差が開いたのだろうか? 俺は14歳の少女にすら力で負けたことに内心ショックを受けていた。
そんなことをつゆほども知らないサクラは俺を引っ張りどんどんと奥へ進んでいく。
金に関しては盗賊の捕縛報酬で大金貨3枚と金貨5枚、それに大銀貨8枚を手に入れていた。俺的日本円換算では約35万8千円だ。まぁ、情報元があのジアムさんだったので今となっては合ってるのかわからないが、街の商品をざっと見た感じではそう誤差はなさそうだった。
ほぼ手持ち金がなかった状態だったので、襲ってきてくれた盗賊には感謝しかない。
女性陣は楽しそうに服を選びだしたが、案の定、店の中には女性用の服ばかりで男性用のものは見当たらなかった。どうにも居心地が悪く店を出ようとするとベルにつかまった。
「どう? 似合うかしら」
「あー、いいんじゃないか?」
「何か素っ気無くないかしら?」
ベルが身体に当てて見せてきたのは簡素な感じのワンピースだった。今着ている黒いゴスロリチックなものに比べ、その色は薄い水色をしておりいつもより明るい印象を与える。
俺はファッションに疎いので、似合っているかと言われても正直困る。可愛いとは思うが、それは別にこの服じゃなくても本人の素質として思っているので服が合ってるかどうかまではわからないのだ。
まぁ、流石にハデハデなのや、露出が明らかに多いようなものを試着しだしたら一緒に歩くのも躊躇われるので断固として阻止するかもしれないが。
「仕方ないだろう? 俺にファッションセンスは皆無なんだ。正直聞かれても困るし、周りから変だと言われても責任とれないぞ」
「周りなんてどうでもいいのよ。私が聞いてるのはあなたなんだから。率直な意見を言ってくれればいいわ」
「そう言われてもな。まぁ、いつも暗い色の服を着ているから、ちょっと明るく見えるかもな」
「そう?」
それだけ答え、ベルはまた別の服を選びに服の棚へと戻って行った。
「なんなんだよ……」
俺がせっかく答えたのにこの素っ気無さ。人の事は言えないが、なら聞くなと言いたい。女性の服選びが長いのは異世界でも一緒のようで、早く終わらないかなと思っていると今度はサクラがこっちに服をもって来た。またかと思っていると、サクラの行動は俺の予想に反するものだった。
「これならレクトルに似合う?」
「あぁ、似合……俺?」
「うん」
思わず適当に流そうとしてしまっていたが、まさか俺の服を選んでいるとは思っていなかった。サクラが持っているのは暗い生地に煌く小さな流れ星が描かれたTシャツだった。
「サクラ、気持ちは嬉しいがこの店は女性用の服を売っているところなんだ」
「そうなの? レクトルに似合うと思ったのに……」
どこかシュンと気持ちを落として俯くサクラに何か悪いことをした気分になる。もう一度サクラが持っている服に目を向けると、まだ確かに男が着ていても問題ないかなと思えるデザインだったがサイズが合わないように思えた。
それで諦めてくれたほうがいいかとサクラから服を受け取り身体にあてがってみる。そこで気づく。
「そうか、今の俺なら十分着られるんだな」
どうやらまだ元の身体のイメージが抜け切れていないようだ。こちらの世界に来てから3日くらいしか経っていないので仕方がないだろう。
「やっぱり似合ってる」
「そうか? なら、買ってみるか」
「うん!」
嬉しそうにサクラがほほ笑む。大して高くないし、この笑顔の代金と思えば逆に安く感じるくらいだ。外に着ていくには少し恥ずかしいので、パジャマとしてでも使うか。
服を脇に抱えていると、俺たちの様子を眺めていたハクナとベルが驚き、私たちもと俺と自分の手に持つ商品を見比べながら服を選びだした。
その状態に俺は「はぁ」と呆れの籠ったため息を吐く。
「そういえば、サクラは自分の服はもう選んだのか?」
「私にはレクトルがくれた服があるからいい」
「あー」
直接店まで来たら気が変わるかもと思っていたが、どうやらサクラの強情さは一筋縄ではいかないようだ。
「その服を気に入ってくれたのは嬉しいんだが、ずっと同じ服っていうのも味気ないだろう? ほら、なんか周りに他の服も買えないのかと思われたりするかもしれないしさ。あれなんか可愛いんじゃないか?」
「別に気にしないよ? 私はこの服がいい」
「そっか。まぁ、サクラがそれでいいって言うならいいか。そっちの方が安全ではあるしな」
「うん!」
ちょっと負けた気もするが、こんな見た目でもSランクの装備だ。何があるかわからないので無理に変える必要もないだろう。
「それなら私もこの服があるからいらないわ」
「え? でもベルは相当強いんだから気にしなくていいと思うんだが」
「何気にこの服気に入ってるのよ。元の服より可愛いもの。だから別の服はいらないわ」
「まぁ、本人がそれでいいなら別にいいんだが」
「わ、私も、いらないです!」
「いや、ハクナは創ってないだろ。買えよ」
まるで日本人のノリとも取れる感じでハクナがのっかってくる。思わずその流れに突っ込んでしまった。
「だ、だって! ここで私だけ買ったら私には創ってくれないですよね?」
確かにそうかもしれない。何のために買ったんだって話になるからな。だが……
「買わなかったからって創るとは言ってないぞ」
「なんか私にだけ当たり強くないですか!?」
「そんなことはない」
結局ハクナも自分の服は買わずに店を出た。レアとリアの服はこの店の服では可愛いものが多く、買っても奴隷の身分にある彼女たちは遠慮して着てくれないかもしれないとのことだったので、別の店で探すことになった。
取り合えずサクラが選んでくれた服だけ会計を済ました。まさか女性用の店で買ったのが男性である俺の服だけになるとは……どうしてこうなった。
何とも遣る瀬無い気持ちになりながら街の探索を再開する。次に見つけた店で使用人が着ても問題なさそうな服を数点見繕ってもらい、レアとリアの分を購入する。
そういえばサイズが分からないなと思っていたのだが、ある程度の値段以上のものになるとサイズの自動調整機能があるらしい。
サクラの服にも合った【調整】のスキルが付与されているのだとか。一般的なスキルで、付与自体は簡単にできるためかなり普及しているらしい。
その店でも女性陣は自分の服を買うことはなかった。この調子だと、服は全て俺のスキル任せにでもするつもりなのだろうか? 先が思いやられる。
買った服を【宅配の指輪】で創作世界に送って店を出る。
「おっ? 向かいにあるのは武器屋か?」
「そうじゃない? 何か欲しいものでもあるの?」
「いや、だってこのメンバーって誰も武器を持ってないじゃないか。サクラは一応【星桜刀】があるが何もないっていうのは不安じゃないのか?」
「だって必要ないもの」
「そうですね。魔術か神術が基本ですから」
「杖とかもいらないのか?」
「あんなのを使用するのは魔力の制御力が弱い人族とかだけよ」
「そういうもんなのか」
確かに道具もなしに普通に魔術を使っているからな。この世界では杖がないと魔術が使えないということはないんだろう。魔術の制御を助ける効果はあるが、ベルやハクナくらいの実力者になるとその恩恵は大したことないらしい。
もちろん、サクラの刀のようにランクがS級までくると様々なスキルが付与されたものが多く、魔術の補助とは別の役割でメリットが出てくる。
「まぁ、見るだけ見ていいか? この世界の武器がどんなものがあるのかも気になるしな」
「いいんじゃない? というより、このメンバーで拒否する者はいないと思うわよ」
「そうだとしても確認はしとかないとな。それに配下だからとかで別に遠慮はいらないぞ」
「律儀ねぇ。しいて言うならやらしいお店とかは行かないでほしいわね」
「言われなくてもいかねぇよ……」
武器屋の扉を開けると、中には武器だけでなく鎧や盾といった防具が雑多に店に並んでいた。それらを見ていると奥からこちらに気付いた店主が声をかけてきた。
「いらっしゃい! 何をお探しで?」
「あ、いえ、ちょっとどんなものがあるのか気になって……」
「なんでぇ、冷やかしかい」
それで興味をなくしたのか、店主は奥へと引っ込んでいった。しまった。正直に答えすぎたか。
「気にしなくて大丈夫ですよ? ドワーフとはああいう性格の者が多いですから」
「ドワーフ?」
ハクナの言葉にもう一度店主の方を見る。ドワーフといったら寸胴で小さく筋肉モリモリで茶色い髭もじゃのイメージがあったが、一致しているのは後半部分くらいだろう。
背は俺よりも高く、体系も一般男性より少しムキムキといった程度だ。焼けた肌に髭を生やしてはいるが、立派と言えるほどでもない。まぁ、作品によってはこういうドワーフもいるかもなというのが俺の印象だった。
正直、元の世界にいたとしても気にならないくらいだ。獣人と違って獣耳や尻尾といったわかりやすい特徴はなさそうだった。
やっぱりエルフなんかもいるんだろうか。また今度聞いてみるか。今は装備関連を見るのに集中しよう。流石に冷やかしと思われたままなのも嫌なので、短剣とかでいいのがあったら買ってみるかな。
そうやって俺は店の中を見回し、どういった武器があるのか価格や性能などをたまに【魔力解析】を使いつつ確認していく。
この店だけではあまり意味がないかもしれないが、この街でのレベルというのがある程度予測できそうだと思ったからだ。
「この辺りだとあっても精々C級くらいなんだな」
「まぁ、B級以上となると上級者ですからね。そんなに数がいないですから」
「そうなのか?」
「そうね。精々1000人くらいじゃないかしら」
「多いのか少ないのかいまいちわからないな」
でもそれなら納得だ。上級者ともなれば、街の入り口付近の店よりも中央寄りの大きな店に行くのだろう。それなら誰も買わないものを置いておく必要はないからな。ここでは初級~中級者を対象としているということだろう。
別に初級の者がB級以上の武器を使うなということではないだろうが、実力に合ってない武器を持っていたりすると狙われることもあるらしい。何事も身の丈に合ったものが一番ということだろう。
サクラは完全な初心者で既に最上級のものを持っていることになるが、専用武器なのでサクラしか装備できず、万が一奪われても手元にも戻せる【転移回帰】のスキルもあったので問題ないだろう。狙われること自体に危険が伴うことはあるかもしれないが、そこは注意するしかない。
何かいいものはないかと店内を見回っていると、さっきの店主がいるカウンターの奥に飾ってある短剣に目がいった。
透き通った白銀に輝く刃にはアサシンナイフに見えるような穴の切り込みがあり、刃も複雑な形状をしている。撫でて切るにしても、刺すにしてもまるで毒でもあるかのようなトゲトゲしさがあった。
「おっ? なんだ? この短剣に興味を持ったのか?」
俺の視線を目敏く捉えた店主が話しかけてきた。そのまま飾ってある短剣を取り外し俺の前に持ってくる。
「これに目をつけるとは兄ちゃんなかなかやるな。その見た目、魔術師か?」
「一応そうですね。なので近づかれた時に何か身を守れるものがあればいいなと思いまして」
「なら、ちょっとこの短剣に魔力を流し込んでみろ」
「いいのですか?」
「あぁ、刃は横に向けろよ? 間違っても切っ先を人に向けるな」
「はぁ」
俺はカウンターに置かれた短剣を拾い上げる。握り心地もいい感じで軽い。店主に言われた通りに刃を横に向けて魔力を流し込む。流石に全力で流して壊れでもしたら目も当てられないので、控えめに魔力を込める。
すると透明の刃が光リ輝き、俺の身長くらいはあろう大きな魔力の刃を形成する。その光景に驚いたが、なかなかに格好いいデザインで俺自身結構気に入っていた。
「いいな」
「なんと、こりゃ驚いた。兄ちゃん若いのにかなりの魔力だな。まさかここまで大きな魔力刃を作れるとは」
「魔力刃?」
俺はその言葉が気になり、手に持っている短剣を解析する。
○【起源刃:霊煌】
・Rank:B~S(込める魔力値によって変動)
・保持スキル:【魔力刃】【霊体特攻】【聖属性付与】【原点回帰】
・装備条件:〔魔力5000以上〕
・備考:実体を持たぬ不可視の刃。それは斬れないものすら断ち切る希望の光。過去の憂いを断ち切る為の番の片割れ。所有者の魔力に応じて刃が変化するその姿はまさしく英雄にこそ相応しい。
サクラの【星桜刀】に比べると見劣りするが、かなりいい感じじゃないか? そういえば、この世界ではゲームでよくある武器に攻撃力といったステータスはないんだな。俺達にはあるのに不思議な感じがする。
英雄なんてごめんだし霊体の魔物なんて個人的にはあまり会いたくないが、見た目がすごく中二心を擽るのでかなりほしい。かなりレアっぽいが買える値段なのだろうか?
いや、そもそもカウンターの奥に飾ってあった短剣だ。下手をすると宣伝用の家宝とかで売り物ですらないかもしれない。
何とか手に入れるいい方法があるといいんだが……
次回9/1更新予定です。




