031 サクラの武器
レアたちの過去に驚きつつも、箸を進める。料理自体はかなりうまかった。調味料を使っていないとは思えないほど、濃厚な味がしたのだ。間違いなく、この世界に来てから食べたもので一番うまい。
碌なものを食べていないだろと言われたらそれまでだが、何の前準備もなく、材料もありものだけでこれなら大したものだろう。
「驚いたな。あの野菜だけで作ったとは思えない」
「お気に召しましたか?」
「あぁ」
「おいしい!」
「えぇ、ほんと。見た目だけでなく味も誰かさんとは大違いね」
「うー」
みんなそれぞれの反応だが、好評なのは変わらなさそうだ。ハクナにいたってはベルにからかわれつつも、同じ条件でこれだけ質の違うものを出されたからか大分堪えている。
「ふぅ。気に入って貰えてよかったです。調味料が何も無かったのには驚きましたが、なんとかなりました」
「流石だな。調味料についてはなんとか揃えよう。あるとないとでは大違いだからな」
「お願いします」
「おかわり!」
「は、はい。今すぐお持ちします」
サクラが早速平らげ、おかわりを所望していた。その言葉にレアが食べようとしていた手を止めて立ち上がる。
「悪いな」
「いえ、私達の身分ではご一緒させていただいてるだけでもありがたいですからこれくらいは。それに、あんなにおいしそうに食べていただけるのは作る側としても嬉しいですから」
「そうだな」
その言葉通り、サクラは本当においしそうに食べていた。まだ慣れていないのか周りにとびちり、行儀がいいとはお世辞にも言えないが、そこはかとない暖かい気持ちにしてくれる何かがあった。娘を見守る父親の気持ちに近いのかもしれない……子供ができたことはないが。
全員が食べ終わると、改めて自己紹介をした。奴隷にした時に俺は自己紹介したが、他のみんなを紹介していなかったことに気付いたからだ。
レアは呼びあう名前からサクラの名前を把握していたが、他の二人は俺とサクラで呼び方が違うこともありわからなかったとのこと。
「ではみなさんはレクトル様の従者になるのですか?」
「まぁ、そのようなものね。だから別に私たちにはかしこまる必要はないわよ?」
「そうですね。後か先かの話ですし」
「いっしょー」
「いえ、奴隷と契約で結ばれた従者ではまた違いますから」
「気にしなくてもいいと思うけどな」
それに、サクラの状態がよくわからない。ベルの話では奴隷は主が死んでもその身分自体からは解放されないということだった。でもサクラは今奴隷の状態にない。
出会った時から首輪などしていなかった。でも、犯罪奴隷として捕まった時に名前を奪われているらしい。あの商人が身分からの解放をするとも思えないが……何か別の契約でもしていたのだろうか?
正直、いろんな契約を交わしすぎて誰とどんな契約を結んでるのかすらまともに主である俺が把握してないのだ。レア達のことについても主が気にしていないのに、奴隷側だけ気負いしても意味がないと思うんだがな。
「そうはいきません。ただでさえ、ここまでよくしていただいているので線引きはしっかりしていただかないと」
「固いなぁ。まぁ、無理強いはしないから好きにするといい」
「はい」
レアとの話が一段落すると、リアがタタタとこっちにかけてきた。
「ごしゅじんさま」
「どうした?」
「お姉ちゃんを助けてくれて本当にありがとう」
「リア……」
ペコリとお辞儀をして礼をするリアを、レアが感慨深く見守っていた。
「それはリアが諦めずに人を探して、俺達に助けを求めたからだ。あの状況で助けを呼びにいくというのも、いつ死ぬかわからない姉のもとを離れるのは怖かっただろう。助けを求める相手によっては逆にひどい目にあわされる可能性もあった。それでも、俺達に声をかけたその勇気がお姉ちゃんを救ったんだ。よく頑張ったな」
「うん……」
頭をなでながら褒めると、リアは涙を流しながら照れたように俯く。
「今度はその頑張りで俺たちが不在の間、この屋敷の留守を守ってくれたらいい」
「わかった。頑張る」
「あぁ、頼んだぞ」
「うん!」
リアは元気よく頷いた。俺はその間、それっぽいことをいいながらも必死にピクピクと動く可愛らしい耳を触りたい誘惑と戦っていた。
物語によっては耳や尻尾を触られることを嫌う獣人族というのは多かったからな。どのタイプかわからないのに、下手な行動には出られない。これから生活を共にするのに嫌われたくはないからな。
もうちょっと仲良くなってから、触ってもいいか聞いてみようと心に決める。
「そういえばご主人様、畑というのはどこにあるのですか?」
リアとの会話で同じくやる気を出したらしいレアが尋ねてきた。
「畑か。実はまだないんだよな。近くにいい場所がないか探すところから始めないといけない」
「そうなんですか? それなら、留守の間私たちでその場所を探していても大丈夫ですか?」
「それは構わないが、俺もこの世界のことをきちんと把握してる訳じゃないからな。あまり遠くや危ないところにはいかないように注意してくれよ」
「わかりました」
「あと、そういうことならこれを渡しておこう」
俺はレアに直径15センチ程の白い球体を手渡す。レアはそれを受け取りマジマジと観察している。
「これは何ですか?」
「【宇迦之御魂】という魔術道具だ。畑などに使用すると、食物を育てやすくする効果があるらしい」
「そんな魔術道具があるんですね。戦闘以外に使用するものは珍しいですね」
「だが、魔力を消費するらしいのでそこは気を付けてくれ」
「わかりました。私は今あまり魔力が残っていないので、今日は場所探しだけになりそうです」
「そうなのか?」
そういえば、さっきまでは死にかけていたんだったな。魔力を使って生きながらえていたのか? それなら俺の魔力を分け与えようかとも考えたが、流石にキスはな。今は命に関わるわけじゃないからいいだろう。
「わかった。それじゃあよろしく頼む」
「はい」
「頑張る」
「あぁ」
取り合えずこれで食糧事情はどうにかなりそうだ。後はいろんな植物の種や球根なんかを集めて種類を増やし、調味料が揃えられればなんとか自給自足ができるようになるだろう。肉も食べたいから流石にそれは買いに行くか狩れるようにならないといけないが。
「ねぇ、レクトル」
俺が食糧事情についていろいろ考えていると、サクラが話しかけてきた。こういう時は大体おねだりをする感じだと感覚で分かるようになってきた。
「サクラも何かやりたくなったのか?」
「うん。レクトルと一緒に戦えるように武器が欲しい」
「ぶ、武器!?」
その突拍子もない要望に驚き思わず聞き返してしまう。さっきまでのやり取りから繋がりが見えなかったからだ。
「サクラは別に戦わなくても大丈夫だぞ?」
「守られるだけはやだ。レクトルと一緒に出掛けたいから戦えるようになりたい」
「といってもなぁ。連れて行くだけじゃダメか?」
「レクトルが私の事守ってくれるから、私もレクトルの事守りたい」
フンスと意気込むサクラ。やる気の波がこちらにも伝ぱしたらしい。どうしたものかと考える。
サクラの能力値は確かその境遇故か、かなり防御よりに偏っていたはずだ。それに魔術系の能力値のほうが物理系よりも上回っていたので後衛よりだろう。
それなら俺と一緒に後衛になるのだからいざという時はどうにでもなるかと思いつつゲームのように隊列を考えふと気づく。
……あれ? 今のこのパーティって前衛がいないのか?
ハクナは明らかに魔術寄りだ。【蒼天剣】を使っての近接戦もしていたが、あれも魔術だし、主となる戦い方じゃあないだろう。
ベルも直接的にはほとんど戦闘を見ていないが、【無詠唱】のスキルを持つくらいの魔術師だ。能力値も完全にそっちよりだった。しかもサクラと同じ火属性の魔術適性と属性が被ってすらいる。
気付けば誰一人として武器すら持っていない。おかしい。普通こういう冒険ものだとパーティに入る仲間は綺麗に武器種や役割、属性が明確に分かれているものなんだがな。現実は甘くないってことか。
もしくは俺が何も考えず適当に仲間にし過ぎなのか?
「……やっぱり駄目?」
俺が長い間考え事をしていたからか、サクラが涙目で訴えてくる。
「へ? あ、いや、そんなことはないぞ! このパーティは前衛がいないなぁなんて関係ないこと考えていただけだ。サクラの望みを俺が無視するわけないだろう?」
「本当!? ありがとう!」
サクラが笑顔で抱き着いてくる。この笑顔を守るためなら他の事なんてどうとでもできるだろう。
「でも、サクラに何が合ってるかわからないからな。服と一緒でそこはスキルに任せるか。今のところ外れはないしな」
俺は今日の創作回数がもう残り1回しか残っていないということすら忘れて“サクラに合った武器”の創作を開始する。
そのまま魔力を込めて創作時間を短縮していく。するとベルが俺の様子から創作に入っているのを察したようで話しかけてきた。
「よかったの?」
「え? 何が?」
「3回目なんでしょ?」
「あ」
その指摘で俺はようやく気付く。だがもう後の祭りだ。
「呆れた。サクラに甘すぎでしょ」
「いや、あの顔でのお願いを拒否できるわけがないだろ」
「否定はしないけど、取り返しのつかないことにならないように注意しなさいよ」
「あぁ。まぁ、今回は性能のいい杖が出るくらいだろ。何か問題が起きたらその時考えるさ」
「またサクラの……」
ハクナの羨ましそうにしている目は放置し、魔力をながし続ける。そうこうしてる間にパーセンテージが100%に到達すると、机の上に光が集束し武器の姿を形作っていく。
結果として、俺は後悔することとなる。さっきまで前衛がいないことについて考えていたからか、もしくはそれを聞いたサクラの意思を汲み取ったのか、はたまたサクラが持つ固有スキル【一騎当千】の影響か……
光が集束した後に残ったのは一振りの刀だった。鞘はなく、少し桜色に輝く刀身、持ち手には赤い紐が巻かれていた。
むき出しの刀身故、手を出して受け取ることもできず、まさか刀が出てくるとは思っていなかった俺は思わず硬直する。
そのまま放置していると、回転しながら落下しスッとほとんど音を立てずに刃長の全てがテーブルに見えなくなるほど沈み込むように刺さっていった。
その瞬間、この空間を静寂が支配した。それを見ていた周囲がシンとまるで空間が凍りついたかのごとく静まりかえったのだ。
最初に動いたのはサクラだった。状況から俺がサクラの為に作った武器だと認識したのだろう。おもむろに手を伸ばして刀の持ち手部分を握る。
「まっ」
俺が制止の声を上げようとした瞬間、刀が光を帯び、桜色の粒子になった瞬間フワッと桜の花びらを残して消え去った。
「え?」
「失敗……か?」
その光景を見て驚くサクラには悪いが、俺は少し安心していた。流石に刀のような危ない武器をサクラに持たせる気はなかったからだ。
しかも、自重とちょっとした重力加速だけで軽々と机を貫通する鋭さ。試しに振り回すだけでも大惨事になりそうだった。
だが、その希望的観測はサクラの言葉に見事に打ち砕かれる。
「すごい。私の魔力の中に入っちゃった」
「魔力の、中?」
「うん」
サクラが答えると、再びフワッと花びらと共にサクラの手元にさっきの刀が姿を現す。
「マジか……。なぁ、サクラ。ちょっとその刀を見せてもらってもいいか?」
「……とらない?」
「あ、あぁ。どんな性能なのか確認するだけだ」
「うん」
予防線を張られてしまったが、サクラから刀を受け取ると【魔力解析】を使用しその能力を確認する。
○【星桜刀】
・Rank:EX
・固有スキル:【理論剛体】
・付与スキル:【魔力浸透】【反応強化】
・保持スキル:【障壁透過】【演出屋】【転移回帰】【切味調整】【認識阻害】【心の絆】
・装備条件:専用装備 (サクラ・カグヤ)
・備考:思い合う2人の心が重なり生まれた奇跡の名刀。欠けることがない不変の刀身を持つ。ヒヒイロカネでできた刀身は火属性の付与に対して最大限の効果を発揮する。魔力に浸透させることで体内に保管することが可能。遠くからの引き寄せもできる専用装備。
「これは……」
「固有スキル持ち!?」
表示された内容に驚いていると、それを覗き込んでいたハクナが声をあげる。
「珍しいのか?」
「珍しいなんてものじゃないですよ! 固有スキルは2つと同じものがないんです。個人や魔物ならまだしも、道具に付与されたなんて話聞いたことがないです」
「そうね。そもそもランクがEXという時点で異常だわ」
ハクナとベルが驚きの声をあげる。そういえばそうだったな。何気に自分のスキルや魔術にもEXという表示が散見されてたから忘れていた。
こんな国宝にでもなりそうなものをサクラに持たせて大丈夫か?
サクラのことを思うと申し訳ないが取り上げたくなるな。だが、よりにもよって専用装備に引き寄せ、魔力の中の収納機能付きときたもんだ。
「ちなみにサクラ、今引き寄せってできるか?」
「やってみる」
服の【清浄】を初めて発動させたときのように目を瞑って唸るサクラ。
暫くすると、俺の手元にあった【星桜刀】が桜の花びらを残して消えた。
「できた!」
サクラのほうを見ると、その手にはちゃんと【星桜刀】があった。
「盗られることは無さそうだが、切れ味が異常だ。使うときは注意してくれよ」
「うん!」
にこやかにサクラが笑う。諦めるしかないか。大事にならないことを祈ろう。
次回8/18更新予定です




