030 メイド服と二人の過去
「とりあえず戻るか」
「そうね、それにしても随分と大所帯になったわね」
「そうだな。まぁ、彼女たちについては創作世界に残ってもらうつもりだけどな」
「まぁ、それがいいでしょうね」
そうして俺たちは一度鉱山から出た後、彼女たちを創作世界へと連れて行った。
「こ、ここは……? それに、今のは転移魔術……ですか?」
「きれー」
いつもの泉の前に転移すると、レアとリアが呟く。相変わらずこの世界を初めて見た者はみんな同じような反応をするな。面白い。
「ここは俺たちの拠点だ。レアとリアにはここでメイドのようなことをしてもらおうと思っている。主な仕事としては炊事と洗濯だ。特に炊事だ。死活問題のため、こればかりはなんとか改善を求めたい。あとは畑なんかで食物を育てて自給自足をやっていけたらいいなと思っている。それ以外は自由にしてもらって構わない」
「あの、ひとついいですか?」
矢継ぎ早に説明すると、レアが主に意見するのが憚れるのか恐る恐る手を上げる。
「どうした?」
「こ、ここが暗いのは魔術か何かで暗くしてあるのですか? さっきまでは明るかったのにお星様まで見えるのですが」
「わからん」
「え?」
俺は正直に答える。むしろその答えを知りたいのは俺の方なのだから仕方がない。
「詳しいことは省くが、ここは俺のスキルの中の世界なんだが何故かずっと夜なんだ。まだそんなに日が経っていないが、夜が明けたところを俺は見たことがないな。その理由もわからない」
「スキルの、世界?……あの、それだと畑で作物を育てるのは難しいと、その、思うのですが……」
「あぁ、なるほど、そういうことか。確かに。それはおいおい何とかしよう。とりあえず屋敷に案内する」
「はい、分かりました。ほら、リアいきますよ」
「うん」
リアは緊張しているのか今は姉のレアにべったりだ。それでも周りの景色が気になるのか辺りをキョロキョロと見まわしていた。
ずっと夜なことに対してはもう少し調べてどうにもならなさそうだったら最終手段を使おうと思っている。
星の魔術には疑似太陽を作り出すものがあった。それをある程度距離を離して空に浮かべておけばいい感じに陽が差し込むんじゃないかと思っている。その間魔力を常に消費し続けることになるが今更だろう。発動した魔術を維持するのにも大分慣れてきた。
俺たちは星屑の館に向かって歩き出した。その途中、サクラが話しかけてくる。
「ねぇねぇ、レクトル!」
「なんだ?」
「さっきのまたやってほしい!」
「さっきの?」
俺はサクラが言ってるものが何を指しているのかわからず頭をひねっていると、サクラが大きく手を広げるように身振り手振りで気持ちを伝えてきた。
「ふわっとなってプカプカするやつ!」
「あぁ、【重力支配】のことか。何をするんだ?」
「ふわふわするの楽しかったからまたやりたい!」
「あはは、そうかそうか。ここじゃ危険だからまた今度だな」
「約束だよ!」
「あぁ、約束だ」
俺は仮にもEX級の魔術を遊びのために要望してくるサクラに思わず笑ってしまう。いままで苦労したサクラのためなら要望に応えてやりたいが、創作世界では【疑似拠点】による効果減衰がされないため威力が途方もないことになる。
重力支配という名目通り、先ほどのように重力を0にするだけでなく軽減やある方向に指向性を持たせることもできる。応用すれば空を飛んだり、木々を押しつぶすこともできるだろう。まだその扱いにも慣れていないので、本来の威力を発揮するここでは使用が憚られたのだ。
流石に人一人を簡単に圧砕できるような力を慣れていない今サクラに向けることができなかったので、別の機会まで我慢してもらう。
そんなやり取りをしていると屋敷に辿り着く。中に入ると、まずはよく使うことになるであろう台所にレア達を案内する。
「ここがキッチンだ。ある程度の器具は揃っているみたいだから自由に使ってくれて構わない。何か必要なものがあったらこれから行く街で買ってくるから言ってくれ」
「かしこまりました」
「そんな固くならなくていいぞ。気楽にしてくれていい。身分が高いわけでもないからな」
「ですが、もう私のご主人様となられるので」
「なんか、こう、むず痒いんだよな」
元の世界じゃこんなことはなかったしな。メイド喫茶とも違う。あれは萌え要素が強く、本職からしたらふざけているのかと言われそうな対応だからな。
こう、かしこまれるのには慣れていない。自分はそんな人間じゃないという思いが強いからか罪悪感すら生まれそうだ。
奴隷にとるべき対応というのも正直わからない。正直、虐げたりするのは性に合わないので普通に接するつもりだが……
「いいじゃない。まずは好きなようにやってもらいなさいよ」
「それもそうか」
「はい。直してほしいところがあれば改善していきます」
「ははは、まぁ、おいしいご飯が食べられるなら俺はそれでいいんだけどな」
「お任せください!」
「楽しみだ」
胸を叩き力強くレアが請け負う。これだけ自信があるなら期待できるだろう。ハクナの二の舞にならないことを祈るばかりだ。
「こっちが居間だ。ここで食事をとることになると思う」
「広いですね」
「そうだな。6人ぐらい余裕で座れる」
「え? みなさん、4人ですよね? あ、他にも住まわれてる方がいらっしゃるのですか?」
「いや、いないが?」
「え? あ! あの、私たちは床でも別の部屋でも構いませんよ?」
「へ? 床はないだろう。作ってもらった本人に床で食べさすとかどんな仕打ちだ」
「その、私たちは奴隷ですので……」
あぁ、ベルが言ってたのはこういうことか。認識の違い。主と奴隷が一緒の卓を囲むことはないと。
そういう話も元の世界の物語ではあったが俺には無理だな。後ろめたさが半端ない。恨みがあるわけでもないのに何でそんなことをしないといけないんだ。
「いいよ、食事は大勢で食べたほうがおいしいっていうしな。みんなで一緒に食べよう」
「ですが……」
「諦めなさい。こういう人よ。ここで断るほうが彼を怒らせることになるわよ」
「わ、わかりました」
ベルは俺がよくわかってる。一番付き合いが短いはずなのになんでだろうな。
レアもさっきの俺の力を見たからか、怒らせるという言葉に過剰に反応して了承した。逆にこれはベルのせいで変なイメージが付いたらどうしてくれる。
ベルはたまに冗談混じりで冗談じゃ済まないことをしてくるからな。まぁ、今はいい。
「ここが使用人用の部屋だ。好きに使ってくれて構わない。ここでも何か必要なものがあったら言ってくれ」
「立派な部屋……ベッドまで。本当にいいんですか?」
「あぁ。実際部屋なんてあり余ってるしな」
「ありがとうございます」
「ふかふか!」
「こ、こら、リア!」
レアがお辞儀をして感謝していると、その後ろでリアが布団に飛び込んでいった。余程うれしかったのだろう。前の家ではどんな待遇だったのか。秘密裏に採掘をさせるくらいだからまともな主ではなかったのかもしれない。
「別に構わないさ。さっきも言ったが、料理事情が改善されるなら大抵の事には目をつぶるぞ。ものを壊されたりするのはできるだけ避けてほしいけどな」
「すみません」
レアが本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
「子供は元気が一番だからな。気にするな。申し訳ないが、外は暗いがそろそろ昼なんで休憩がてら何か頼んでもいいか? 食材はあの部屋にある」
「わかりました! 初仕事ですね」
「その前にお風呂入ってきなさいな」
ベルが彼女たちの姿を見て風呂を勧めていた。確かに鉱山から出てきてそのままだった。特にレアは土砂に埋もれていたので泥だらけだ。
「そうだな。気が利かなくて悪い。そこの奥にあるから身体を洗ってくるといい」
「え? で、ですが、水とタオルを貸していただければ私たちはそれで」
「いや、便利なものやちゃんとしたものがあるのに、わざわざ不便なことをする必要はないさ。俺たちは居間にいるからゆっくりしてくれて構わない」
「は、はい。その、ありがとうございます」
「ちょっといい?」
「サクラ?」
サクラが俺たちの間に割り込み、レアの手を握る。
「あ、あの、汚いですよ?」
「大丈夫。ちょっと待って。んんんっ」
サクラがレアの手を握りながら目を瞑って唸っている。レアが困った表情をして俺を見てくるが、俺もサクラが何をしたいのかわからないのでそんな目を向けられても困る。
しばらくすると突如ボォッと火の粉がレアから散る。
「きゃあ!」
「できた!」
それに驚きレアが声を上げるが、サクラは満足げに笑顔を浮かべていた。
「なるほど、早速【清浄】の力を使ったんだな?」
「うん! これできれいになったよ!」
「え、あ、ほんと……サクラ様、ありがとうございます」
「どういたしまして!」
そう言ってサクラはリアの方へ向かって行き、同様に綺麗にした後戻ってきた。
「やり方わかってきた!」
「そうか、頑張ったな。ありがとうな」
「うん! 先に戻ってるね」
それだけ伝えるとサクラはリビングに走っていった。俺も戻るとしよう。
「サクラが綺麗にしてくれたが、別に風呂には入ってくれて構わないからな」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、俺たちは居間に戻っているから準備できたら来てくれ」
「はい」
それから俺たちもサクラの後を追って居間に向かう。レアはいまだにベッドで飛び跳ねているリアのほうへ向かって部屋に入っていった。
部屋の中から「いい加減にしなさい」とリアを叱る声が聞こえる。その後「でも、すごいふかふかだよ!」「あら、ほんと。王宮のみたいね」といった声が聞こえてくる。仲はいいようだ。
その後は居間へと戻り、今後の予定を話そうと椅子に座る。するとベルが意味深な笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「それにしても流石ね。あなたには驚かされてばかりだわ」
「? 【重力支配】のことか?」
「違うわよ。まぁ、あれにも驚きはしたけど、彼女たちの事よ」
「あぁ、2人も奴隷にしたことを言っているのか? 仕方ないだろう。姉妹で助けたのに1人だけしか雇わないなんて言えないしな」
「いえ、そうじゃなくて。え? もしかして気付いてないの?」
「何の事だ?」
ベルが目を丸くして驚いている。さっきから何が言いたいのかわからない。言いたいことがあるならはっきり言ってほしいんだが。
「ふぅん。偶然? あなた、鑑定系のスキル持ってるんでしょ?」
「あぁ、サクラを助けるときにな。それがどうかしたのか?」
「彼女たちには使わなかったの?」
「そういえば……使ってないな」
「信じられないわね。普通仲間にするなら素性くらい確認するでしょう」
確かに、ベルの言うとおりだ。罠じゃないのかとか疑っておきながら、彼女たちのことを全く調べていなかった。というより、まず【魔力解析】を使うということに気が回りすらしなかった。
敵に対しては何されるかわからないという恐怖からか、割りと使っていたが仲間にしようとしていた彼女たちにはプライバシー的な気持ちが働いたのかもしれない。
「何かあったのか? 料理ができるということにテンションが上がって他は特に何も気にしていなかった」
「呆れた。自分で確かめなさいな」
「といってもな」
俺は振り返り、居間から彼女たちのいる使用人の部屋の方角をうかがう。
そんなことを言われると気になるが、さっき彼女たちには風呂を勧めたばかりだ。このタイミングで戻りなんかしたら覗くのが目的と思われかねない。何しろ奴隷なのだ。さっきの感じだと受け入れられでもしたらたまらない。
なんとなく気が引けて確認にも行けず、ベルも教える気がない様で俺はずっとそわそわしていた。
その後も何気ない会話が続いていたが、俺はさっきのベルの話が気になって仕方がなく、再度ベルに話しかけていた。
「なぁ、いい加減教えてくれてもいいんじゃないか?」
「しつこいわねぇ。そういう男は嫌われるわよ」
「でもなぁ。ベルが気になる言い方するのが原因じゃないか」
「知ってると思っていただけよ」
そんなことを言い合っていると居間の扉が開く。そこから台車を押したレアとリアが入ってきた。時間的にどうやら風呂には入らずそのまま昼食を作っていたようだ。
「おお来たか。待って……いた……ぞ?」
言葉が尻窄みしていく。それは彼女たちの服がさっきと変わっていたからだ。
「あら、その服はどうしたの? 前の主のもの?」
「あ、いえ、私たちの部屋のクローゼットに入っていたものです。使用人用の制服かと思って着替えました。サイズもちょうどでしたし……もしかして違いましたか!?」
「え、いや、問題はないんだが……メイド服なんてあったんだな」
そう、彼女たちが着ているのは紛れもないメイド服だった。しかも、本職が着るようなものではなく、メイド喫茶の店員が着るような丈が短く、フリルが付いたかわいらしいものだった。
別に問題はない。むしろグッジョブと言いたいくらいだが、その出所が気になった。
レアは使用人の部屋のクローゼットに入っていたと言っていたが、俺たちが昨日屋敷の中で服を探した時はどこにも服は見当たらなかったのだ。もちろん、彼女たち使用人の部屋も探している。
「サイズもあってるってことは、もしかしたら使用人として雇った場合に自動で準備されるのか?」
「何よそれ。この屋敷に入ったら勝手に採寸でもされるのかしら? プライバシーなんてあったもんじゃないわね」
「いや、別に俺がやってるわけじゃないんだからその言い方はないだろう」
「あ、あの、着替えてきたほうがいいですか?」
「へ? あ、いや、別にそのままでいい」
俺たちが言い合っているからか、レアが心配げに聞いてきた。メイド服とはいえ、元のボロ服よりはいいだろうと了承する。
「ああいうのが好みなの?」
「あーもう、そうじゃなくてだな。元の服よりはマシだろうってだけだ。もういいだろ。せっかく作ってくれたのに料理が冷めてしまうだろうが」
「それもそうね」
ベルが変に絡んでくるせいで話が進まない。強制的に断ち切って服の話題を終わらせる。
するとレアが台車から料理を取り出し、机に並べていく。俺が主だからか、まず俺の前に料理が置かれる。
材料は野菜しかなかったからかメニューはスープと野菜の炒め物だ。だが、ハクナの時とは違いそこから立ち上る香りには食欲をそそられる。
「ありがとう」
「いえ、その……お口に合うといいのですが……」
「十分うまそうだ」
「そうね。誰かさんのとは大違いよね」
「もう! 謝ったじゃないですか。まだからかうんですか!?」
「食事の時に大声だすなよ。自業自得だろう」
「うぅ、ご主人様まで……」
「……」
サクラはヨダレが垂れそうな感じで料理を眺めていた。
ハクナとベルのやり取りに呆れながらも、俺はそういえばレア達のことを調べようとしてたんだったと思い出して彼女たちに対して【魔力解析】を使用する。
「…………!」
「あ、あの、私の顔に何かついていますか?」
「あ、いや、なんでもない」
「レア達も席について一緒に食事にしようか」
「はい」
「うん」
そう言って彼女たちも席に座る。
「では、いただくか」
「うん! おいしそう!」
「それじゃあ、いただきます」
「「「いただきます!」」」
異世界でもこの挨拶は共通のようだ。何か別の言葉に翻訳されているのかは知らないが、俺が認識できるのは日本語だ。
今は彼女たちに見えた不穏な称号を含む色々なものは無視して食事にすることにする。確認しようものなら面倒なことになるのは目に見えていたからだ。
そう思いつつも見間違いかもしれないと再度彼女たちの方へ視線を向ける。しかし、その結果が示すのは無情にも先ほどと変わらなかった。
○名前:レア・ファレル・シルミア 獣人族(妖狐) 18歳 ♀
○称号:“シルミア王国第一王女”、“亡国の姫”
○Rank:B(over 1000)
○ステータス:
・体力:883/883
・魔力:25/1083
・筋力:489
・理力:577
・守力:311
・護力:422
・速力:653
○スキル
・固有スキル
【完全獣化】
・契約スキル
―
・付与スキル
―
・スキル
【魔術適正:火】【魔術適正:風】【夜目】【風読み】【変化】【省略詠唱】
○名前:リア・ファレル・シルミア 獣人族(妖狐) 10歳 ♀
○称号:“シルミア王国第二王女”、“亡国の姫”
○Rank:D(over 10000)
○ステータス:
・体力:456/456
・魔力:172/229
・筋力:392
・理力:125
・守力:281
・護力:87
・速力:383
○スキル
・固有スキル
【幸運変動】
・契約スキル
―
・付与スキル
―
・スキル
【魔術適正:地】【夜目】【索敵】
「はぁ……どうしたらいいんだ? これ」
俺は誰にも聞こえないようにボソリと呟いた。農村の娘ではなかったのか? 嘘をつかれたのかとも思うが、あそこでどこどこの姫ですと言われても、結局放置はできないので状況は変わらなかったかもしれないと諦めるのだった。
次回更新は8/11予定です




