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003 少女との出会い


「Rank:EX! なんか知らんがすごそうだな! なるほど、無限大の魔力っていうより魔力の回復量や速度を異常にまで高めるって感じなのか」


 これはこれでありかもしれない。ゲームとかだと現状の最大MP以上を消費する魔法は使えなさそうだが、それ以下なら使ってもすぐ回復する感じだろう。


 補充速度がEXってのがどれくらいなのかはいまいちわからないが、最高峰なのは間違いないはずだ。もはやMPの概念なんてないくらいだと当初のイメージ通りMP∞に近いんだけどな。


「ただ……魔術適性がないし、これもあんまり意味がないんだろうな」


 恨みを込めるように【魔術適正:無】のところを指で弾くと次のように表示された。


『無属性魔術一覧』

 ・【言語変換(トランスレーション)】 Rank:F 見聞きした言語を自分の言語に置き換える。または自分の言語を別の言語に置き換える。 


「……適性なしじゃなくて無属性って意味だったのか。なるほど、さっきのタブレットの文字が読めるようになったのはこれが理由か。しかしこれだけってのは……いや、言葉や文字がこの見知らぬ土地でも通じそうなのは助かるんだが、なんかこう……せめてよくあるファイアーボールみたいな初級魔法……ここだと魔術なのか、くらい使えてもよかったんじゃないか?」


 誰ともなしに愚痴ってしまう。今あるスキルでできそうな仕事といったら通訳くらいだ。


「元の世界だったらこの翻訳魔術も役立ちそうなんだが、こっちの世界では言語が複数あるのかも分からないからな。適性を増やすことが出来るのかも疑問だ。まだ無属性で攻撃とかに使える魔術を習得する可能性にかける方が現実的か……」


 適性欄もあの設問の選択肢にあったし、もしかしたらあの選択肢にあったスキルはこの世界にあるスキルの一覧に近かったのかもしれない。


 それなら、すぐに選択するんじゃなくてもっといろいろ見てからにすればよかったと後悔する。そうすればこの世界の事ももう少し事情がわかったかもしれないからだ。


 相変わらず後から後悔することばかりだ。


 ふと、この現実を受け入れつつある自分に気づく。


「ははっ。異世界転生や転移もののラノベや漫画に毒されすぎたか、意外と順応出来るもんなんだな。ま、まだ戦いに巻き込まれてはいないし、他にも棚上げ状態の確認事項があるんだが……」


 そう言いつつ、タブレットを覗き込むが無理と判断し立ち上がると、近くに流れている川の方へ歩いていきそのまま川を覗き込む。


「やっぱり……若いな。さっきからタブレットをいじっている時の自分の手を見て小さく若い感じだとは思っていたが、適性診断の時に入力した16歳の身体になってるのか」


 道理で違和感を感じるわけだ。視界も低いし、声も高い。しかも……自分の顔じゃない。髪なんて銀髪じゃないか。不良じゃあるまいしこれは勘弁してほしい。みな銀髪ばかりなら別に構わないが、浮いていないことを祈るばかりだ


 年齢が16歳という割には見た目は14歳くらいに見える。生意気な中学生みたいだ。顔は割といい方なのは救いか。イケメンというわけではないが、優しく賢そうな雰囲気もあって自分にもあっていると思ってしまう。


 服も初期魔法使いが着ているようなローブをまとっている。銀髪なのも相まって完全に中二病患者みたいで頭が痛い。この辺もやはりあのアンケートでの選択肢が影響しているのだろう。


「転生ものみたいに活用できる知識があるわけでもなく、転移もののように現代の手持ち品を売って路銀にするようなこともできないときた。魔物と戦う力もない。早くも詰んでないか……これ? そろそろメインヒロインでも登場して現状を打破してほしい気分だ」


 まぁ、コミュ力がない俺の前に現れてもまともに対応できる気がしないが……。せっかくのフラグもブチ折って失敗ルートに直進しそうだ。


「さて、と。これからどうするかな」


 特に現実世界に未練があるわけじゃない。両親も25の時に事故で亡くしているので、自分を心配するのは会社の同僚や上司、後輩くらいだろう。むしろ先行き不安な状態だったので区切りとしてはよかったくらいだ。


 ただ、今の状況がそれよりもいいかと言われると何とも言いがたい。何しろ今日の晩飯すらどうすればいいのかわからないのだ。寝るところもない。つまり、命の危機だ。


「やっぱりこういう時は近くの町や村を探すのが基本なんだろうな。遠くに何かドームに囲われたそれっぽいのが見えるし、今が何時なのかはわからないが暗くなる前には歩いて行ける距離だろう」


 しかし、無一文の見知らぬ男。言葉が通じたとしてもこの世界の常識など何もわからないのだ。受け入れてもらえるだろうか? いきなり曲者扱いされて殺されたりしたら? それでこの人生も終わりだ。


 もしかしたらそれで元の世界に戻れる可能性もあるかもしれないが、そんな危険な賭けには出たくない。


「自分の性格上、ネガティブなことばかり考えて結局誰にも声かけられずに怪しいやつ扱いされるのが目に見えてるんだよな。そもそも情報がなさすぎる。近くに見える村も赤いドームに囲われている以外は普通の田舎の村って感じだし、下手したら異世界なんかじゃなく眠らされてる間に何かされて地球のどこかに移動させられたっていう可能性も……ないか」


 異世界転生も有りか無しかでいえば無しなんだが、ただ衣装や場所が違うだけならまだしも身体が違う時点で現代の範囲に収めるのは無理だろう。


 ここに来る前の光の中に展開された魔法陣みたいなものも到底再現できるものじゃない。


 そこまでする意味もわからないし、そもそもの発端はタブレットを拾って自分で起動? したことなので、そのあとに誰かがどうにかしたとは思えない。


 認めるしかないのだろう。異世界に転移、姿が違うので転生? したことを。ひとまずは行動指針を決めなければ。仕事と同じだ。片づけるべき内容をリストアップし、優先順位をつけて順次対処しないと終わるものも終わらない。


 まずは食事と住む場所の確保だな。衣食住が生きていくうえでの基本なのだから。衣服はローブ1着だが一応あるので取りあえずは後回しだ。


「近くに森も見えるが、流石にそこで果物とか食べられるものを探すのは危険だよな。魔物が住まう定番の場所だ。そんな危険を冒すくらいならまだ村にいったほうがマシだ。田舎だったら心やさしい人が何か恵んでくれるかもしれない。そしてなんとか頑張って情報を集めよう」


 取りあえず予定を決めて意気込んで歩き出した時、あたりに冷たい風が吹き、一気に温度が下がるのを感じた。


「な、なんだ? まさか魔物か? ウソだろ!? 勘弁してくれよ!」


 思いむなしく目の前に冷気が収束していき次第に水になりその量と範囲を拡大していく。


「ぐっ、なんだよこれ。明らかに強敵っぽいじゃないか!」


 風と共に何か威圧感みたいなのを感じる。


 吹き荒れる冷気がすさまじく目を腕で覆って耐えていると唐突に風がやみ、その後瞬時に目の前で逆巻いていた水が凍りついた。


 そのまま凍ったわけではなく、中心から外側に結晶化したかのように氷柱がいくつも突き出ている形だ。


「なんなんだよ、本当に……」


 今すぐ逃げるべきか。そう迷っていると「ピキッ」と音がした。先ほどの氷が割れようとしているみたいだ。次々と変化する展開に正直ついていけない。


 そう思っている間にピキピキとひび割れが全体に波及していき、ついには「パキャアァアアン!」と甲高い音を上げて氷が粉々に砕け散った。


 その光景は思わず誰かが召喚獣のシヴァでも召喚したのかと思うほどだった。


 何もなく透き通った氷に見えていたその中から驚いた事に水色の髪の少女が現れた。白い布のレースをまとった所謂天使のような格好をしている。


 羽が生えていたり頭に輪っかが浮いているわけではないが、頭に浮かんだ第一印象がそうだったのだ。神々しさすら感じる。


 髪は背中まである長髪で、肩くらいまではストレートだがその先はウェーブがかかっている。身体は白よりの肌色で細い。しかも幾分透けているように感じる。残念だが服がではない、彼女自身がだ。


 こ、ここでヒロインの登場か? と内心で思っていると、美しいというよりも可愛らしいという言葉が似合う少女は目を開いた途端切羽詰まったような感じでかけより第一声を放った。


「や、やっと見つけました! あ、あの、わ、私たちを助けてください!」


 こちらにしがみついてきた状態でそう言い放ち深々と頭を下げる少女。その瞳には若干涙を浮かべていた。


「えっ?」


 困惑しそれ以上何も言葉を返せない。


 それが異世界で最初に出会った少女との初めての会話? となった。


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