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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第二章 災いを呼ぶ少女編
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026 料理の手

本日より第二章開始です


「ハクナ……これは話が違うんじゃないか?」

「そうですか? 確かにやるとはいいましたけど、できるとは一言もいってないと思いますけど」

「お前……マジか」


 ハクナが悪気など欠片もないように平然と言ってのける。水色のゆるふわな髪を背中まで伸ばしたこの少女はこれでも本物の神の子供らしく、水の神の血を引く神子であるそうだ。


 身体を維持するのに必要な神力が尽きて消えかけているところを、俺と魔力を与える契約を交わし救ったことをきっかけにそれ以来行動を共にしている。


「確かにこれはひどいわね」

「おいしくない……」


 ベルとサクラも同様に料理とは口を避けても言えないそれを口に運び苦言を呈している。


 ベルは赤く長い髪のツインテールを掬い、後ろに垂らしてスプーンを置く。どうやらもう食べる気がないようだ。


 12歳くらいに見える少女だが、こう見えて本来は東の地を支配していた元魔王だ。元々封印されていたところを商人による復活の儀により復活を果たしたが、俺がいろいろと邪魔をしたせいで不完全な復活となっている。


 本人は特に人を支配などする気はなく、静かに暮らしたいということだったのでサクラを助けることを条件に安全なここ、創作世界(ラスティア)に住まわせている。


 といっても、その復活の儀があったのは数時間前のことで対して時間は経っていない。


 同様に口に入れたスープをダラリと口元から垂らしてゲンナリとしている桃色の髪の少女が先の魔王復活の憑代となったサクラだ。憑代として10年もの間監禁されていたところをたまたま居合わせた俺たちが助けることとなった。


 名前も奴隷に落とされたことにより失っていたため、俺がその髪色からサクラという名前を与えた。魔王復活の憑代として死ぬところを助けたからかやたらと懐かれている。


「おい、流石にサクラにまで言われるのはヤバくないか? それはつまり、サクラがあそこで食べていた飯よりもマズいということだぞ?」

「うっ」

「サクラもせっかくあの監禁生活から脱したんだから、おいしいものを食べさせてあげたいじゃないか」

「ううっ」

「それなのにこれは流石に食材を無駄にしているとしか……」

「あー、もう、私が悪かったです。ごめんなさい! 料理なんてできませんでした!」


 ハクナが高らかに降伏を宣言する。できないなら最初に言っといてほしいものだ。私がやるのは炊事洗濯くらいですねなんて言われると問題なくできると思ってしまうのは当然だろう。


「でも、サクラはともかく、ベルフェゴール。あなたは料理ができるんですか?」

「私? なんで私が。これでも元魔王なのよ? 王が料理なんてするわけないじゃない」

「な、なら偉そうに言えないじゃないですか!」

「でもベル、魔王は押し付けられたんだろ? その前は……してるわけないか。なにせ“怠惰”だもんな」

「あら、よくわかってるじゃない」


 ニヤリとベルが笑みを浮かべる。それが当然だと言いたげだ。ベルは魔王の時の称号とスキル欄に“怠惰”が能力値(ステータス)表記に存在した。所謂七つの大罪に該当するのだろうが、あれからいろいろあってそのあたりの話は実は何も聞いていない。


 その称号に負けず劣らず、だらけることに力を注ぐ。なにせサクラを助けるための協力の対価が静かに暮らせる場所と命の保証、安全だったからな。


 それにしても、この状況では料理は俺が作るしかないのか? といっても俺だって元の世界では基本コンビニ弁当やレトルト系ばかりでまともに自炊なんかしたことないしな。


 この世界に転移してからそもそもこちらの料理にまともにふれてすらいない。


 せっかく食材がある程度集まったのに、まさかこれだけ人がいて料理できる手がないとは思わなかった。というか、ハクナのあの言葉を信用しすぎていたのが失敗だった。


「今日は仕方ないからこれで乗り切るとしても明日以降はどうにかしたいところだな」

ご主人様(マスター)は作れないんですか?」

「あんた……ご主人様(マスター)なんて呼んでいながらまさか自分の主に作らせる気なの? 実は大して敬ってないでしょ」

「そ、そんなことないですよ。ちゃんと生涯仕えることを契約していますから」

「ふーん?」


 一番最初に契約したハクナが後に仲間になったベルに主への忠誠を疑われるってのも変な話だな。


「私はこれでもいいよ?」


 俺たちが無益な言い合いを繰り広げていたからか、サクラが遠慮がちに言う。


「お、おい、誰も作れないから早くもサクラが諦めちゃったじゃないか。誰かいい案はないのか?」

「もう料理のできる奴隷でも雇いなさいよ」


 ベルの物言いにサクラがピクッと反応する。そういえば、サクラが名前を失っていたのは奴隷にされていたからだったか。


「奴隷か……俺としてはあまりいいイメージを受けないんだが。サクラのこともあるしな」

「まぁ、普通はそうでしょうね。でもあなた、奴隷だからってきつく当たったりはしないでしょう?」

「そりゃ変なことをされない限りは同じ人なんだろ? 奴隷だからって対応を変えるつもりはないが」

「それはそれで、相手側としても微妙なところでしょうけど、なら逆に奴隷としてはあなたに雇われたいでしょうね」

「どういうことだ?」


 奴隷なんて喜んでなるものではないはずだ。この世界の奴隷がどんなことをやらされているのかは知らないが、誰かに雇われたいと思う奴隷がいるのだろうか。


「基本奴隷に落とされたら人権なんてないのよ。お金がなくてなくなくの奴隷ならまだしも犯罪を犯した奴隷は最底辺よ。普通の奴隷なら生活を保障しないといけないけど、犯罪奴隷なら主に何をされても文句を言えないわ」

「それはキツイな……」

「ちなみに、普通の奴隷は隷属紋による居場所の把握とある程度の強制権だけだけど、犯罪奴隷は名を奪われ、ほぼ絶対順守の命令権が主に与えられるわよ」

「名を……それってサクラのことを考えると、冤罪もありそうだな。必ずしも犯罪奴隷だから悪い奴というわけでもないのか」

「そうね。基本半分くらいは冤罪なんじゃないかしら? 親族が犯した罪を一族全員でとらされることもあるわ。サクラに関しては本人ではなく親がやらかした可能性もあるわね」


 連帯責任というやつか。罪を犯したらお家ごと取り壊しなんてのはよくあることだしな。サクラの過去についてはおいおい調べてみるか。


「そういうことなら、助けることにも繋がるし俺としてはありだな。奴隷を雇うことに対する罪悪感も薄れる。でもサクラは大丈夫か? 嫌なら他の方法を模索するぞ?」

「えっ? でも、私……レクトルの配下……だよ?」

「……? あの契約の事か? 別にそういうもんじゃないだろ? あれはサクラを助けるために仕方なくしただけで、もっと友達とか家族とか対等な感じでいいと思うぞ」

「そういうわけにもいかないんです。私やベルフェゴール、サクラと交わしたようなご主人様(マスター)の魔力の一部を分け与える契約は基本主従の形で結ばれるんです」


 珍しくハクナが話に入ってきた。というより、このメンバーでは今までに比べて会話している気がする。主にベルの功績のような気がするが。内心驚きつつもハクナの言葉の意味するところが気になり先を促す。


「どういうことだ? 実際、3人とも俺自身が契約の内容を決めたわけじゃないんでどういう内容で結ばれてるのか知らないんだが」


 これもおかしな話だ。普通、主として契約するならこちらから条件や内容を提示するものだろう。俺としては相手側が決めた契約を知らない状態で魔力だけ与えてるようなものだ。


「へ? 何言ってるの? 継続した魔力譲渡の契約なんて割合契約に決まってるじゃない。あなたは自分の魔力の何割かを私たちに使用権を明け渡し、私たちはあなたに全てを捧げるのよ」

「は?」

「2回目だからと思って特に私は説明しなかったけど、もしかして知らなかったの?」


 ベルのいう意味が分からず俺は絶句していた。別に魔力の何割かの使用権を取られるのは問題ない。今となっては随分最大値が上昇したし、回復速度が【無限湧魔(ノーリミット)】のお陰で異常なほどあり魔力切れの心配がなかったからだ。


 実質彼女たちも無限に近い魔力を得ていることになるのだろうかと思いながらも、俺はもう一つの内容が気になり確認せずにはいられなかった。


「全てを捧げるとはどういうことだ?」

「文字通りの意味よ? 奴隷とは違うけど、私たちはあなたのものってことよ」

「は? そんなこと聞いてないぞ?」

「あんた、説明してなかったの?」


 ベルがハクナのほうを呆れた顔でみて問いただす。


「き、聞かれなかったですから」

「お前……」


 さっきから俺の中でハクナの評価が駄々下がりだ。ベルやサクラと一緒でなかったらまだ唯一のこの世界での知り合いだったので評価が高かったが、今となってはここでの生活にもどうにか目途が立ってきて余裕が生まれてきていた。


 ベルやサクラも加わり、俺の心細さも大分薄らいでいる。


 ハクナには戦闘では何度か助けられたが、他のことでは異世界人との対応も、知識も、地理も、料理も……いろいろなところで役に立たない。


 まだベルのほうが頼りになるくらいだ。仮にも神であるハクナが元魔王であるベルより頼りにならないというのは正直どうかと思う。


「あの時はもう消えそうでギリギリで大変だったんです。ごめんなさい」


 ハクナは流石に悪いと思ったのか、机に手を付けて頭を下げて謝ってきた。


「いや、まぁ。もう終わったことだから別にいいが……もしかしてベルやサクラにも強制権みたいなのがあるのか?」

「そうね。知ったら使いたくなったのかしら?」

「いや、むしろなくしてほしんだが……」

「え?」


 俺の言葉にサクラが驚いてこちらをみる。若干涙が目に浮かんできているように見える。それがハクナの時と似たような勘違いをされてると気づいて訂正する。


「別に契約を解除したいとかそういうわけじゃなくてだな……何気ない会話とか、そういうつもりで言ったことじゃない言葉を命令として受理されないかが心配なんだ」

「あぁ、そういうことね。それなら大丈夫よ。私たちに命令する時の強制権は手に魔紋を浮かべた状態で命令することよ」

「神紋の次は魔紋か……誓約の紋もあるし、俺の体がいつの間にか紋様だらけにされてそうだな。とりあえず変なことにならないならそれでいい」

「いいの? 試したりしなくて」

「別に強制しないといけないようなことを命令する気はないしな。あっても逃げろとか秘密にしろとかそんなんだろうさ。俺だからいいものの、逆にお前らは簡単に自分を他人に差し出しすぎだ」

「へぇ」


 ベルが何か関心するような目で俺を見ている。何か変なことを言っただろうか? サクラも何かキラキラした目でこちらを見てくるので俺は気恥ずかしくなって話題を変える。


「話が逸れたが、奴隷の話だったな。ならまずは次の街に行く必要があるのか?」

「そうですね。奴隷商があるとなるとそれなりの大きな街になると思います」

「前にハクナが言っていた街にいくか。そこならあるんだろう?」

「アルストロメリアですか? 確かあったと思います」

「なら決まりね。今日はもう寝ましょう。なんかここずっと暗いから眠くなってきたわ」

「そうだな。後は明日考えることにしよう」


 そう言って、残りの料理? をなんとか片付けて俺たちは屋敷の2階へと上がる。そういえばまだ部屋の割り振りなんかも決めてなかったな。


「ここと反対側の2階が小部屋になってる。好きな場所を使ってくれ」

「あなたは?」

「俺か? 昨日使った場所があるからな。そこを使おうと思う」

「なら私もそこを使わしてもらおうかしら」

「勘弁してくれ……」


 ベルがとんでもないこと言いだしたので俺は断固拒否する。


「別に契約を結んだからって俺に尽くさないといけないわけじゃない。夜は自分の部屋を決めてそこで休んでくれ」

「あら、残念。わかったわ。でも、サクラはまだ寂しくて一人じゃ眠れないそうよ?」

「「えっ?」」


 ベルの言葉に俺よりもサクラのほうが驚いていた。見事に俺と声がシンクロしてしまった。ただ成り行きを見守っていただけだったのに強引にベルが俺と同じ部屋で休ませようとしてきたからだ。


 でも、そのベルの言葉に俺は思わず悩んでしまう。言われてみれば確かに不安になるだろうと納得してしまったからだ。あんなところでずっと生活していたんだ。フェニックスが一緒だったとはいえ、今までずっと寂しい思いをしてきたことは間違いないだろう。


 その状態から解放されたからと言って、知らないところで一人寝かしたとして心が休まるのだろうか? 誰かの存在を感じたいと思っているのかもしれない。


「………………」

「え、と……その、あう」


 俺の沈黙をどうとったのかサクラが何か言おうとしたところでベルに頭を小突かれていた。


「ここは甘えるところよ。あなた、スキルのお陰でなんとかなっているようだけど、精神はかなりすり減っているわよ?」

「えっ?」


 ベルは自分のせいでこんな境遇になっているからか、サクラに対してやたらと親身に面倒を見ている気がする。これもハクナよりベルのほうが頼りになると思ってしまう要因だろう。


 そんなことを言われてしまえば、俺としてはなかなか断ることもできない。


「わかったよ……流石に一緒のベッドはマズいから、別のベッドだぞ。確か2つ置いてあったはずだ」

「えっ? いいの?」

「あぁ。男に二言はない。ゆっくり眠れるまでの話し相手くらいにはなるさ」


 そう言って俺は自分の部屋へと入っていった。サクラはベルのほうを見た後、ベルが手をヒラヒラと振ったので、ペコリとお辞儀をして俺の後から部屋に入ってきた。


 なんかベルにはいいように振り回されてる気がするな……


 その夜はサクラの過去やこれからしたいことなどがあるかなど、俺が知りたいこととサクラがやりたいことなどを聞きながら眠りについていった。


次回更新は7/14予定です。

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