025 帰還
第一章のエピローグみたいなものです。
無事一章書き終えられて安心しました。
次週からは隔週連載になります。
「ここは……素晴らしいわね」
「すごい、きれい……」
ベルとサクラが創作世界の光景をみて感嘆の声を上げる。俺からしてみればやっと戻ってこれたという感じだな。
「ここなら問題ないだろう? まだ確認したわけじゃないが、この世界の全てが俺のスキルみたいだから安全なはずだ。なにも一緒に住む必要はないぞ。この世界で気に入った場所を住みかにしてくれて構わない。星屑の館以外に屋敷があるのかどうかは知らないが」
「これが全部あなたのスキルですって? 相変わらず力はデタラメみたいね」
「わぁー」
サクラは空を眺めたり、泉に手を入れて掬いあげたりと、幻想的な光景を楽しんでいる。今まで閉じ込められていたんだ。サクラにとってはこの星空を含めて何もかもが新鮮なんだろう。
「ここには基本、俺と契約を交わした者か両者が許可した場合にしか入れない。知らない奴が入ってくることはないし、ゆっくりするには十分だろう?」
「そうね。むしろここまでの場所はなかなかないでしょうね。合格よ。気に入ったわ」
「それは良かった。あとはサクラの問題が解決すればさっきの誓約は達成だな」
「あなたの方は既に達成済みね。まぁ、安心して。ここまでしてもらったら無下にもできないし、魔核のこと以外でもその子の事に関わることなら協力は惜しまないわよ」
「それは助かるな。ベル程の者が守ってくれるなら安心できる」
実際のところ、この異世界がどういうところかまだわかっていないんだ。今経験しただけでも、1人の狂信者のせいで村一つが壊滅している。いや、もしかしたら裏で誰かが画策していた可能性もあるが、少なくとも簡単に人が死ぬ世界であることは確かだ。
ここまで知り合った相手ならもう家族同然だ。死ぬのを見過ごすことはできない。最初に言った通り、俺は縁故主義、身内びいきだからな。
「ねぇ、お風呂はあるのかしら? 流石にあの子、あのままじゃ可哀想よ?」
ベルが指差す先にいるサクラの格好は監禁されていた時のぼろ布を纏っているだけだった。
「そうだな。あるにはあるが……一番に入りたかったが仕方ないか。いいぞ洗ってあげてくれ……というのも見た目サクラより小さいベルに言うのは変な感じだな」
「歳は私の方が上だからいいのよ。でもそうね、そう言うことならあなたが先に入りなさいな」
「いいのか? なかなかの場所だったぞ?」
「えぇ、いいのよ。こっちにはいろいろ準備があるもの。あのままじゃ可哀想というだけで急ぐ必要があるわけじゃないわ。あなたが主なんだもの、節度は守るわよ」
ベルまでもが俺を主扱いか。いや、契約を交わすということはもしかしてそういうことなのか?
それにしても準備? あぁ、着替えとかか。そういえばいきなり住むことにはなったがここには彼女たちのものは何もないな。配慮が足りなかったか。
いや、それだけじゃない。もっと必要なものを忘れてるじゃないか。
「ベル、場所としてはここで問題ないな?」
「住処の事?」
「あぁ」
「さっきあなたの方は合格だから達成済みといったでしょ。予想以上よ? 何も問題ないわ」
「そうか。ならちょっと俺は戻っていいか」
「どこ行くの?」
サクラが俺の言葉にテトテトとこちらに駆けてくる。こけて倒れそうになるので慌てて受け止める。置いていかれると心配になったのだろうか?
まだ体調も万全じゃないみたいなので無理はしないでほしいんだが。
「あの村にはもう誰もいなくなったからな。ちょうどいいから畑から食料を調達しに行こうと思っただけだ。ここは住む分にはかなり設備なんかは整っているが、食料だけがまだ何もないんだ」
「あらそうなの? まぁ、確かに盗ってももう誰も住んでないし文句は言われないでしょうね。あ、あんた的には大丈夫なの?」
ベルが確認しているのはハクナだ。そういえば、一度苦言を呈されているんだったな。
「……本来の持ち主がもういないみたいですから、私は問題ないですよ。逆に使わなければ腐るだけですから」
「ふぅん。寛容なのね」
「同じ主を持つ者同士ですから変な気づかいはしなくていいですよ、ベルフェゴール」
「あらそう? じゃあ柄でもないしそうさせてもらうわね? 水ということはリュミエールの系列かしら。あなたも大変ね」
どうやらベルは神族についてある程度知識を持っているようだ。特に忌避感があるわけではないみたいなので安心した。流石に家の中がピリピリした雰囲気になるのは嫌だからな。
「そういうことなら手伝うわよ。その代わり、食事は私たちの分も用意されるのよね?」
「あぁ、そうだな。食材の問題が片付くなら構わないぞ。流石に目の前に料理があるのにお預けなんて鬼のようなことはしないさ」
「鬼なんて大したことないわよ。でもそれなら安心ね。配下を大切にする王は好きよ?」
元の世界の比喩表現が使えないな……いや、相手が魔王だからか? 鬼がしょぼいだけなのかベルがすごすぎるのかわからないな。
それにしても俺はいつから王になったのやら。劣化しているとはいえ、魔王の主になったからか? それは流石に勘弁願いたい。
「それじゃあ、収穫祭といこうか」
そのまま俺たちは再度レヌアの村へと戻り、畑になっている野菜などをひたすらに回収していった。
一応この村で育ったサクラもいるので、そこまで罪悪感は感じなかった。
時間はかかると思ったが、ベルが持つスキル【物体浮遊】の力が優秀でかなり楽に収穫をすることができた。
地面から次々と野菜が飛び出してくる光景はなかなかにシュールだったな。
収穫した野菜類は時空魔法の【保管庫】へと収納している。最初は【宅配の指輪】で創作世界へ送りつけようと思っていたのだが、ベルに「時空魔法を使ってなかった?」 と確認されたのだ。
どうやら【縮退星】を見ての反応だったみたいだが、確かにあれは闇と時空属性の複合魔術だった。
時空魔術にある【保管庫】なら魔力量次第でかなりの量をしかも時間を停止させた状態で保存できると言われ、迷わず実行した。ただ、取り出す度に律儀に詠唱が必要なのが辛い。せめて【省略詠唱】だけでも早期に手に入れたいところだ。
一通りの回収が終わって、俺たちは創作世界へと戻っていた。
「さっきより汚れてしまったな」
「あなたは先にお風呂に入ってきなさいな」
「そうさせてもらうか。なんか悪いな」
「いいのよ」
なんかまとめ役がベルになりつつあるな。立場的にはハクナが上で、しかも最初のメンバーなのにあまり主張しない。ご主人様と呼びつつも、その辺にはこだわりはないのだろうか。
もしかしたら、他人とあまり接触しないというのをこのメンバー内でも適用しているのだろうか? 相変わらずよくわからない奴だ。
俺はそのまま露天風呂へと向かう。サクラが付いて来ようとしてベルに止められ、顔を赤くしていた。なんかやたらと懐かれているが、行き先を聞いたのだろう。追いかけてくることはなかった。
俺は脱衣所で服を脱ぐと用意されていたタオルを1枚持って風呂場へと向かう。相変わらずいい景色だ。
まず身体を洗っていく。この創作世界は異世界と俺の元いた世界の両方から情報を持ってきているのか、シャンプーやリンスなんかも常備されていた。【知識書庫】で調べた限りでは異世界には石鹸はあってもここまでのものは存在しない。
「これが自動で補充されるものなら、これだけでもひと儲けできそうだな」
どうしてもまだ手元が心もとない為にそんなことを思ってしまう。
身体を洗い終わるとお待ちかねの露天風呂へと浸かる。
「あぁ~、やはり風呂は最高だな」
「そんなにいいの?」
「あぁ、この為に今日1日頑張ったようなも……は?」
俺は掌をヒラヒラしながら後ろから聞こえてきた声に対応していたが、すぐにその異常事態に気付き硬直する。
振り返ろうとするとさらに声が届く。
「あ、こら、あなたは特に汚いんだから先にちゃんと身体洗いなさい」
「う、うん」
その声にさらに俺の硬直した身体にピシッとヒビが入る。ベルだけのいたずらかと思っていればサクラまでいるようだ。
ベルだけならまだ小学生くらいの見た目なので子供扱いで対応できる。しかし、サクラは中高生位の見た目だ。流石に厳しい。
クソッ、声だけでの悪戯なのか、タオルは巻いてくれているのか、身体を洗っているなら裸なのかわからない!
ベルが言ってた準備ってもしかしてこれのことか? 完全にはめられた。確かに、俺が後から入る場合だとこの事態は起きなかったはずだ。
サクラはわかっているのかどうかすら怪しい。羞恥心はあるようだが、それが無意識からくるものなのか、知識として持っているのかわからない。何せフェニックスからの偏った知識しかないみたいだからな。
俺が対応を迷っていると、後ろから声をかけられる。
「ごめんなさい。ご主人様、止められなかったです」
「ハクナ、お前もか。……タオルか何か巻いているか?」
「私ですか? 服着てますよ?」
「そうなのか? よかっ……た……」
ハクナの言葉に安堵し振り返る。
確かにハクナは服を着ていた。最初にあった頃の布を巻いただけのような服だが着ているので問題ない。
だが、後ろで身体を洗っているサクラとベルは素っ裸だった。サクラの頭を泡だてて洗っているベル達の姿はなんとなく微笑ましさがあったが、凝視すれば犯罪なのは間違いないだろう。
「やっぱりご主人様はエッチですね」
「これは不可抗力だろう!?」
むしろお前たちの方がエッチだろうと俺は言いたい。異世界の人はみんな貞操観念が低いのか? キスのこともそうだが、積極的に過ぎる。
「これから一緒に暮らすのよ? これくらい慣れなさいな」
もう身体を洗い終わったのか、ベルとサクラがお湯に浸かりに来た。サクラは初めての風呂なのか、熱いお湯に驚いた後湯に浸かり幸せそうな顔をしている。
「まさか、毎日一緒に入るつもりか……?」
ベルの発言に驚愕を禁じえない。くつろぎの時間が気が休まらない時間に早変わりだ。
「ふぅん。てっきり女の子ばかり一緒に住まわせているみたいだからそういうことなのかと思っていたけど、違ったみたいね」
「当たり前だ。この世界の女性はみんなこうなのか?」
「その言い方、あなたもしかして転生、いや、その歳で今知ったみたいだから転移者かしら? 元の世界がどうだったのかは知らないけど、この世界じゃ結婚適齢期は14~18よ?」
「マジか……」
14歳で結婚? 早すぎるにも程があるだろう。元の世界じゃ成人すらしていないし、結婚の資格すら得られない。
「サクラも14歳よ? ロックオンされたみたいだから頑張ってね」
「………………」
サクラは顔を半分ほどお湯につけてブクブクと泡だてている。遊んでいるのかと思ったが、どうやら恥ずかしさを誤魔化しているようだ。ベルに気持ちを暴かれて内心穏やかじゃないのかもしれない。
「女の子に囲まれるのは嫌なの?」
「嫌というわけじゃないが、犯罪な気がしてならない」
「犯罪……? あぁ、もしかして実年齢が見た目と違うのかしら? 気にすることないわよ。私たちからしたら元の姿の年齢なんて関係ないし、この世界は一夫多妻が認められているから罪に問われることもないわよ? まぁ、他の男に妬まれることはあるかもしれないけど」
「変なフラグは立てないでくれ……」
俺に複数の女性を面倒見れる甲斐性があるわけないじゃないか。ルームシェアのような配下くらいならまだいいが、流石に嫁を複数迎えるなんて想像もできない。
……今は考えるのはよそう。我が家で変なトラブルが起きないよう心を強くもつしかない。
異世界での暮らしは始まったばかりだ。転移してきた時と比べて大分余裕もできた。
今後はどうするかな。衣食住でいくと、衣と食を充実させたいところだが、彼女たちのこともあるし、まずは費用集めと物資調達に近くの街へ向かうのが一番か。
そんなことを考えながらなんとか風呂を乗り切り、食事の場となって俺たちはさらなる問題を迎えることとなった。
「これより、緊急の会議を始めたいと思う」
平穏な暮らしにはまだまだ遠い。今はよりよい生活に向けて日々努力するのみだ。闇の神の討伐? 知らないね。きっとどこかの勇者様がなんとかしてくれるさ。
俺は俺の生きたいように生きるだけだ。
今後の更新日はもう一つの《緋焔の巫女編》が火曜更新の為、こちらは土曜更新予定です。
次回は6/30にサクラの幕間を更新予定。
余裕があればキャラ紹介も……




