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024 3人目の契約


「何も今そこまで悩む必要はないわよ」

「どういうことだ?」


 俺が頭を抱えて真剣に考えているとベルがあっけらかんと言い放つ。


「とり込められればって言ったでしょ? 同化が進行しているとはいえ、悪魔のスキルを取り込むなんて一朝一夕でできるものじゃないのよ。それこそ年月を要するわ」

「そうなのか?」


 まだ判断の余地があるなら、今はとにかく永らえる方法をとった方がいいだろう。でも、彼女と生きたいというサクラの思いとそれは合致しているのだろうか?


 フェニックスのスキルを取り込む。それはつまり彼女の中のフェニックスは消えることになるのではないだろうか。不死性を持つフェニックスを消し去ることができるのかは知らないが、助けたいサクラとしては気分がよくないはずだ。


 後でこんなはずじゃなかったということにならないように、俺は不安の種を一つずつ消していくことにした。


「サクラはそれでいいのか? 彼女と一緒に生きるというのは、フェニックスの魔核をサクラから取り出して元の姿を取り戻させたいということじゃないのか? もしくは、そう望むフェニックスの願いを叶えたいとか」

「ううん」


 サクラは首を振る。どういうことだろうか?

 

「フェニ……彼女は復活したくないみたい……だよ? これは私の我儘なんだ」

「そうなのか」

「うん。でも別に魔核を取り出さなくてもいいんだよ? お話できればそれでもいい」


 そういうことか。サクラが魔王復活の儀式や自分の境遇の事を知っていたのも、フェニックスからその辺の事情を聞いていたのだろう。


 彼女がいたから耐えられたというのも、一人寂しくあんなところに閉じ込められていたからではなく話し相手がいたからだ。もしかしたらフェニックスの力で癒されてもいたのかもしれない。


 だからこそ、自分が助かる代わりに自分を助けてくれたフェニックスが消えるのが認められないと。例え本人、いや今回は鳥か? いや、それはどっちでもいいか。本人が許しても自分が許せなかったんだろう。


「サクラは優しい子だな」

「えっ?」

「できるなら叶えてやりたいが……。ベル、フェニックスの意思を残してサクラを助けるようなことはできるのか?」

「さらっと難易度あげないでよ。まさか私に誓約を破らせるつもりじゃないでしょうね……」

「そんなつもりはないさ。そんなに難しくなるのか?」


 ベルの発言に現実味がない話なのかと焦る。目に見えてサクラの顔がしょんぼりしているからだ。


「そうね……そうなると段階を踏む必要があるでしょうね。私の魔王核だけでも足りないわ。私が思っていたのは魔核と魔王核を反応させ、この子の中に溶かしこむものよ。後に起こる拒絶の反応は私の魔王核で抑えられるけど、時間には限りがあるしなくすまでにはいたらないわ。取り除くわけじゃないんだもの。当然ね」


 ベルはサクラから俺の方に向き直ると難しい顔をする。


「リスクを受け入れるなら、方法がないこともないわね」

「どんな方法で、どんなリスクがあるんだ?」

「言ったでしょ? 段階を踏む必要があるって。ある程度の魔核を他にも取り込む必要があるわ。フェニックスの魔核を一度解体し、各要素に分けた後別の魔核を通して彼女に浸透させる。意思を残し、その他の要素を溶かし込めれば何とかなるでしょうね」

「リスクは?」

「それだけの魔核を取り込むのよ? しかもフェニックスの馴染んだ力と一緒にとはいえ、新しく取り込んだ魔核とは拒否反応を起こす可能性があるわ。それに暴走の危険もある。まぁ、そこはあなたがフォローするしかないでしょうね」


 身体にある魔核をどうにかするのにさらに魔核を取り込むとか大丈夫なのか? 誓約とやらを交わしたので嘘を言っているとは思えないが、危険すぎる気がしてならない。


 それに俺がフォローすると言っても正直何をすればいいのかわからない。


「それは暴走した時にサクラを止めろということか?」

「暴走させたら意味ないじゃない。する前に抑え込むのよ。要領は私やそこの女と一緒よ? バカみたいな魔力があるんでしょ? それくらい力づくで抑え込みなさいよ」

「そういう意味でのフォローか。確かに魔力を消費するものなら俺は適任だろうな」

「よかったわね。また、キス、できるわよ?」

「うぅ……」


 ベルが覗き込むようにサクラをみて伝えると、先ほどの事を思い出したのか赤くなって俺の後ろに隠れる。それを見てベルはケラケラと笑っている。


「随分と楽しそうだな」

「そうね。逆に今までが退屈過ぎたのよ。これくらいのお茶目は許してほしいわね。あぁ、それから魔核もちゃんと集めなさいよ? フェニックスの【不老不死】スキルを取り込もうと思うと7つはいるんじゃないかしら? しかも“魔神の柱”級のものが必要でしょうね」

「仮にも魔王であるベルがそれを促していいのか?」

「別にいいわよ。魔王といったって私は押しつけられただけだもの。私以外の悪魔がどうなろうが文句を言われる筋合いはないわね」


 魔王を押しつけられた? あまり魔王っぽくはないと思っていたが、元は違ったのか。


「道理でらしくないと思っていた。子供だしな」

「それはあなたのせいでしょ! 不完全じゃなかったら、もっと大人でボンキュッボンよ! オリエンスに魔王を押しつけられた時の報酬まで不完全になってたら流石に許さなかったかもしれないわね」

「そ、そうか」


 その言い回し、異世界にもあるんだな。それにしても子供なのは元からじゃなかったのか。子供化しているのは劣化種というのが該当するのかもしれない。


 話が脱線したな。


「ちなみにどれくらい持つんだ?」

「何がよ」

「サクラに施す処置の事だ。魔核が必要といってもすぐに見つかるものでもないだろ? 猶予がないときついと思うんだが」

「あぁ、そうね。最初は私の魔王核が核になるんだからかなり持つわよ。5年位かしら。そこから先は綱渡りね」

「なるほど。それだけあればいろいろ試せそうだな」


 何も危険な対応だけに固執する必要もない。今を乗り切れて、時間も余裕があるなら別の方法を探す、もしくは創ることもできるだろう。


「それでどうするの? 今は安定しているみたいだけど、どうなるかはわからないわよ?」

「サクラが問題ないならそれでいこう」

「うん、大丈夫だよ? お願いします」


 そう言ってサクラはベルに向かってお辞儀をする。一度即死級の攻撃をされかけた相手だというのに礼儀も正しいな。助けられそうでよかった。


 それにしても、ずっと閉じ込められていたんだとしたら、一体どこで覚えたんだろうか? もしかして……


「そのお辞儀とかもフェニックスに教わったのか?」

「そうだよ? あそこから出られなかった私の為に外の事いろいろと教えてもらったんだ」

「そうなのか」

「私もそこらへんの経緯は気になるからわかるけどさ、いい加減作業に入りたいんだけど?」

「すまない」


 ベルの言うとおりだ。今は無駄な話をしている場合ではなかったな。


「それじゃあ、頼む」

「えぇ」


 ベルが魔王核をサクラの前に掲げ、なにやらブツブツと詠唱を始める。邪魔にならないように距離を取ろうとしたら、ベルにクイクイっと手招きされる。


「何やってるのよ。あなたのフォローが必要だって言ったでしょ?」

「……? あぁ、あれか」


 何のことだと思い、すぐに思い出す。サクラの方をみると、顔を真っ赤にしている。


「さっきのじゃダメなのか?」

「あれはただのキスでしょ。契約でも交わしたの?」

「いや、俺は何もしてないがそれはベルやハクナの時も同じだったんだが?」

「へぇ、あの女も自分から……。まぁ、いいわ。それは相手側がやったからでしょ。でもその子はただの対抗意識でしただけでしょうから意味ないわよ」

「そうか……」


 観念するしかないか。


 そう思っているとベルが魔王核をサクラの中に沈みこませていく。……もう逃げ場はないようだ。


「ほら、さっさとしなさい」


 もうなるようになれだ。俺はサクラの前へ移動する。サクラは顔を真っ赤にしつつも、目をつぶってこちらに顔を向けてプルプルしていた。


 可愛い……。しかし今までは相手が俺を逃げられないようにした後、相手からだった。でも、今回は自由で、しかも自分の意思でだ。


 元の世界でも彼女などいなかった俺にはかなりハードルが高い。だが、サクラの目には涙が浮かび始めていた。あまり放置もできないだろう。意を決してサクラの唇に俺の唇を重ねる。


「こ、これでいいか?」

「はぁ? いいわけないでしょ? もう一回よ」


 まさかダメだしをされるとは思っていなかった。舌を入れろとでも言うのだろうか?


「何がダメなんだ?」

「あのねぇ、契約は交わしたの? まさか目的を忘れていないでしょうね」

「あ」


 キスのことばかりに気を取られてすっかり忘れていた。これは俺の落ち度だろう。なので文句も言えない。


「そういえば、どんな契約をかわせばいいんだ?」

「あなた……すごいのかそうじゃないのかどっちなのよ。力はあっても知識はないのかしら? もういいわ。その辺は私がやるからちょっとしゃがみなさい。ほらあなたも。時間がないんだから」


 ベルが俺とサクラをしゃがませる。こちらが悪いので抵抗することもできずシズシズと従う。するとベルは俺とサクラの頭をガシっと掴むと


「えい」

「ふぶっ」

「きゃあ」


 無造作に強引にキスの状態へと持っていった。あまりの事に口を開けた状態でサクラとぶつかる。慌てて離れようとするが、ベルの力が思いのほか強く離れられない。


 いや、普通に考えたら当然だ。俺の力は一桁しかないのだから、劣化しているとはいえ三桁の力をもつベルに敵う道理などない。


 無事に契約とやらが終わったのか、ベルが手を離す。


「ふふっ、もういいわよ」


 手を離してもそのままだったからか、ベルが笑いながら言うのを聞いて思い出したかのように離れる。糸を引いていたので慌てて口元を拭う。


 とてもサクラの顔を見れる気がしない。恥ずかしさで死にそうだ。


「満足した? 今できることはこれで終わりよ。後は経過観察だから次は私の番ね」

「何が!?」


 俺が驚きベルを見る。まさか、ベルともキスをしろとでもいうわけではないだろうな。


「何が? じゃないわよ! その子を助けるのにちゃんと協力したんだから、今度はあなたが私との約束のもう一つを叶える番でしょ!」

「あ、あぁそういう……」

「まったく、何と勘違いしたのか知らないけど臨機応変に動きなさいよね」


 ぐうの音も出ないな。完全に俺の早とちりだ。仕方ないだろう、想定を超えることばかりでもはや処理が追いついていないんだ。


 自分でもこれだけ落ち着いているのは意外だが、普段だったら当に逃げだしている。


 ……そういえば、変だな。鉱山に入ってからの状況、かなり冷静でいられた気がする。悪魔や魔王、普通ならあり得ない命の危機に巻き込まれていたのに。


 そんなことを考えているとベルが催促するようにまくし立ててくる。


「何をブツブツと考えているのよ。まさか、今はまだないとかいうんじゃないでしょうね? 確かに期間などは決めてなかったけどもしかしてそれが狙い!? それとも、その子が完全に助かるとわかってからじゃないとダメとか言い出すんじゃないでしょうね!?」

「え? あぁ、いや、すまない。ちょっと他のことで考え事をしていただけだ。ベルの静かに暮らせるところなら問題ない。俺たちが今住んでいるところに案内しようと思う」

「え、それってあなたと一緒に住めって事? もしかしてあの女とも一緒に?」

「うん? そういやさっきからずっとあの女呼ばわりだが、嫌い、というより仲が悪いのか?」


 まぁ、それでもあの広さなら問題はないと思うけどな。気にいる場所がどこかにはあるだろうさ。


「いや、流石に……あんたはいいの?」


 ベルがハクナに問いかける。なんだ? 仲が悪いというより何か形式的な感じを受ける。もしかして神と魔王が一緒にいていいのかということだろうか。そんなことを気にしているのか?

 

ご主人様(マスター)が問題ないなら私は何も言うことはないです。流れでその子……サクラも一緒に住むことになりそうですし」

「え? いいの?」

「ふぅん、なら、まぁいいか」


 勝手に話が進んでいるが、まぁそれも仕方がないだろう。他に預けられるところがあるわけじゃないしな。経過もみないといけないし、魔核もまだまだ集めないとならない。


「それで、あなたたちはどこに住んでいるの? 確かにこのあたりは静かだけど、安全と言えるようなところでもないような気がするのだけど」

「こことは別の世界さ」

「はぁ?」


 そして俺は【我が内眠る創造の拠点(ラスティア・ラヘル)】のスキルを起動させる。サクラもベルも俺と契約を交わしたので連れて行くことに問題はない。


 住む人が一気に増えたので、賑やかになりそうだ。


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