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023 誓約と救済


「それでかまわない」

「契約は絶対なのよ? なんか信用ならないわね」


 魔王が疑いの眼差しでこちらを見つめてくる。


「誓約の内容は君がこの少女を救うことに協力する代わりに、俺は君の存在を維持し、ゆっくりできる場所を提供することでいいんだろ?」

「ちょっとざっくりしすぎな気もするけどいいわよ。あれこれ考えるのも面倒だわ」

「ちなみに誓約ってどうすればいいんだ?」


 話の流れですることになったのはいいが、やり方がわからずハクナに尋ねる。


「セカイの意思に誓いを立てればいいんです」

「あなた、本当に大丈夫なんでしょうね? 私が先に誓いを立てるからそれに続きなさい。最後に掌を合わせてお互いの魔力を通すのよ」

「なるほど、強制力が働く保証付きの指きりみたいなものか」


 俺の例えをよくわかっていないのかベルフェゴールが首を傾げながらも手を差し出してきた。


 その掌に俺の掌を合わせる。相手の見た目は10代前半くらいの少女なので少々気恥かしい。こうしてみると、魔王とは思えないくらい可愛らしい姿をしている。


 けだるそうにしているのも愛嬌があっていい。戦うことにならなくてよかったとほとほと感じる。もしそうなっていたら戦い辛くてしょうがなかっただろうからだ。


「それじゃあいくわよ? 私、東の魔王ベルフェゴールはそこの桃色の髪の少女を助けることに協力することをセカイの意思に誓うわ」

「俺、レクトル・ステラマーレはその対価に東の魔王ベルフェゴールの命を保証し、安全にくつろげる場所を提供することをセカイの意思に誓おう」

「「契約締結(コントラクト)」」


 魔力を掌を通して交わすと、俺たちの足元に魔法陣が浮かびそこから伸びた光が手首に集まる。大分魔力の扱いにも慣れてきた。


 手首に光の紋様が現れたと思うと薄れて消える。


「失敗したのか?」

「いえ、問題なく契約は締結されたわ。普段から見えていたら邪魔でしょう? こうやって意識を向けて魔力を通せば見えるわよ」


 ベルフェゴールの手首には確かに先ほど消えた紋様が浮かんでいた。


「それでどうするの? 順序的にはあなたが私の魔王核の代わりを用意して、私がその子を助けたら私は平穏な暮らしを手に入れられるのかしら?」

「そうだな。まず聞きたいことがあるんだが、今の君には本来の魔王核と憑代となったハーゲンティの魔核の両方が存在するのか?」

「さっき名前を言ったんだからもう名前で呼びなさいよ。そうね、確かに私の中には2つの魔核があることになるけど、まさかこれを代わりにしろなんて言わないでしょうね? 魔神の柱みたいだけど、流石に魔王である私を維持するには到底足りないわよ?」

「名前か……ベルフェゴール……はなんか長いな。ベルでいいか。それで――」

「ベル!? ちょっといきなり気やす過ぎない!?」


 俺の付けた愛称が気に食わないのか話の途中に割り込んで抗議してきた。


「嫌ならやめるさ。それじゃあ、ベルフェゴール。その――」

「いや、まぁ、いいわ。その、ベルで。特別に許可してあげる」


 なら話の途中に割り込んでまで抗議するなよな。しかも2回も。


「それで?」

「あ、あぁ、もういいか。ええと、なんだっけ……そうだ、魔核では足りないと言っているのは生成される魔力と思っていいのか?」

「え? まぁ、そうね。魔王核が生成する魔力が全ての元になっているわね」

「なら、その足りない魔力は俺が受け持とう。そうすれば別に魔王核は必要ないだろう?」

「はぁ? 確かに魔力値は高いみたいだけど、そんなので私を維持し続けられるわけないでしょ? あなたの魔力が尽きれば私が死ぬことに変わりはないじゃない! 人族には寿命もあるし、一体魔王核がどれだけの魔力を生成できると思ってるのよ」


 流石に自分のこととなると怠惰な魔王様も必死だな。


「問題ない。それが俺の固有スキルだからな」

「どういうこと?」

「こういうことだ。水塊よここに、潤せ【水球弾(レボル)】」


 俺は特大の【水球弾(レボル)】を無数に生み出す。【神術】内の【神力変換】を経由しての発動になるので、その消費魔力は通常の1万倍に及ぶ。


 一気に俺の魔力は消費されるが、その上からたちまち回復していく。


「一気に魔力が減ったのに、もう回復してる……?」


 ベルが俺の魔力変動を感じて驚いている。


「これが俺の固有スキル【無限湧魔(ノーリミット)】の効果だ。魔力回復力を異常にするスキルとでも思ってくれていい。ほぼ無限の魔力に近い効果だ。これなら問題ないだろう?」

「えぇ、そうね。あなたと私の間にパスをつなぐのね? もしかして、あそこにいる女ともしているのかしら?」


 ベルが指差す先にはハクナの姿があった。女呼ばわりに少し不機嫌そうだ。


「ハクナのことか? まぁ、そうだな」

「そう。なら寿命も問題ないんでしょうね。ちょっと顔を下げてくれる?」

「? なんでだ?」

「必要だからよ」


 よくわからないまま姿勢を低くすると顔をガシッと掴まれ唇を奪われる。この世界の女性はキスをする時は逃げられないように顔をつかむのが恒例なのだろうか。もはや慣れつつある自分が恐ろしい。


「「あぁ!!」」


 その姿を見てハクナと少女が声を上げる。少女が身体を割り込ませ強引にベルを俺から引きはがす。


「あら、妬いちゃった?」

「あ、あ、あ、あ」


 少女はベルと俺を何度も交互に見ながら意を決したように枷がついた腕に俺の頭を通して引き寄せ、そのままキスをしてきた。


「あぁああ!」

「ふふふ、モテモテね」


 ハクナが再度叫び、ベルがからかうように笑う。


 少女は俺から口を離すと、顔を真っ赤にして俺の後ろに隠れる。ほぼ状況に流されての行動だったのだろう。今になって恥ずかしくなったのか、真っ赤な顔を俯かせて一言もしゃべらない。


 助けたことで嫌われてはいないと思っていたが、まさかここまで好かれているとは思わなかった。


「どうすればいいんだよ……。それで、いきなりキスしてきたからにはパスは無事つなげられたのか?」

「えぇ、問題ないわよ。さっきからかなりの量を吸ったりしてみてるけど、気にもならないくらい平気みたいね」

「そうか、これでやっと次の段階だな。魔王核を使ったらこの子を助けられるのか?」


 俺は少女の方をみる。少女は俺の方をみると、小声で何かボソボソと呟く。


「な、なまえ……」

「んっ?」

「わ、私も! 名前、付けて!」


 私もというのはさっきベルフェゴールにベルという愛称を付けたことに対してなのか。そういえば、この子の名前の欄には―線があるだけで何も表記がなかったな。


 生まれた時から名前も付けられずにあそこに閉じ込められていたのだろうか? もしそうなら、酷い話だ。親の顔が見てみたい。まぁ、それなら俺が付ける分には問題ないだろう。


「名前か……」


 そして俺は少女を見つめる。少女は見つめられて恥ずかしいのか俯いて「うぅ」と唸っている。特徴的なのはやっぱり桃色の髪だろう。


 桃……ピーチ……ピンク……桜……これが無難か。


「サクラ……なんてのはどうだ?」

「サクラ?」

「あぁ、俺の故郷に生えているピンク色の花を咲かせる木の名前だ。その綺麗な髪の色から取ったんだが……どうだ?」

「きれい……うん、サクラでいい。ううん、サクラがいい!」

「そうか、気に入ってもらえたようでよかった。」


 家名はどうなるのか。いままでずっと閉じ込められていたなら、外に出たときの気分は浦島太郎みたいな感じだろうか。でもそれだと完全に日本名だ。それなら……


「家名までいいならカグヤだな。サクラ・カグヤ。うん、語呂も悪くない」

「サクラ・カグヤ……あなたの名前は?」

「俺か? レクトルだ。レクトル・ステラマーレ」

「レクトル・ステラマーレ……。ねぇ、私の名前……サクラ・ステラマーレじゃだめ?」

「えっ?」

「あら、あなたはその人の妹でいいの?」

「え?」


 俺がサクラの問いに驚いていると、ベルがヒソヒソとサクラに何か話している。随分と仲良さそうにみえるが、本来だったら魔王とその憑代だ。


 先ほどまでの状況からは想像できない光景だろう。これは一重に魔王であるベルの性格ゆえか、サクラの肝の太さゆえか、微笑ましく思う。


 ベルの話を聞いてサクラが顔を赤く染めている。何を吹き込んでいるのか気になるところだが、まぁ、さっきの言葉からおおよその想像はつく。


「私、サクラ・カグヤがいい」

「そうか」


 サクラが腕を曲げてフンスと意気込む。手首にはめられた枷の鎖がジャラリと鳴る。もう何も言うまい。墓穴を掘るだけになりそうだからな。


 それにしても、枷が邪魔そうだな。どうにか外せないものか……そうだな、あれが使えるか?


「ちょっといいか?」

「……?」

「この枷、いらないよな?」

「うん、でも外れないよ?」


 俺はサクラの手首にはめられた枷に手を触れると、【宅配の指輪】の効果を発動させる。


 すると問題なく効果が発動し、サクラの手から枷が消える。創作世界(ラスティア)へと転送されたのだ。本来なら他人の物までは転送できないが、許可を貰ったので問題ないようだ。


「えっ?」


 唐突に消えた枷にサクラが驚いている。それに構わず今度は足についた枷を同様に【宅配の指輪】の効果で創作世界(ラスティア)へと送る。


「これで楽になっただろう」

「うん、ありがとう。……どうやったの?」

「ちょっとな。それは後で話そう。今はそれよりもサクラの事だ。ベル、頼めるか?」

「仕方ないわね」


 そう言ってベルは自分の胸の中へ手を入れる。ズズズと波打つように手が入りこんでいく。間近で見ると不思議な光景だ。血は出ていない。


「大丈夫なのか?」

「あら心配してくれるの? 問題ないわよ。ほら」


 そういってベルは身体から漆黒の球体を取り出す。サイズはなんとか掌に乗っかる程度だ。というより、ハーゲンティが咥えていた東の魔王たるベルが元々封印されていた宝玉に近い。


「それが魔王核か?」

「そうよ」

「それをどうするんだ?」

「その前に1つ言っておくけど、この処置をしてもあくまで延命だけで根本的な問題は解決しないわよ?」

「そうなのか?」


 やっぱりそんなに甘くはないのか。魔王の核まで使っても問題の先送りにしかならないとは。


「というよりあなた、その悪魔を受け入れているでしょ。それがそこまで魔核の浸透、同化が進んでしまってる原因ね」

「そういえば、一緒に生きられないかって聞いてきていたな」

「うん……最初は苦しかったけど、彼女のお陰で耐えられたんだよ?」


 どういうことだろう? 悪魔が憑代の少女を不憫に思い助けたのか?


「ちなみに、どんな悪魔なんだ?」

「フェニックスって言ってたよ?」

「フェニックスって、不死鳥か!? 悪魔どころか伝説の霊鳥なんじゃ……」

「何言っているのよ。フェニックスといったら私の元になったハーゲンティと同じ魔神の柱じゃない。しかもあいつより序列は上の37位よ」

「えっ?」


 フェニックスが魔神の柱? 復活アイテムになったり、灰から蘇るなどの不死性がどちらかと言えば神性を持ってるイメージだったが悪魔だったのか? 知らなかったな。


「でも、今回は都合がいいんじゃない? フェニックスのスキルを取り込めれば延命を永遠化できるわよ? 実質の問題解決ね」

「それってもしかしなくても【不老不死】か?」

「えぇ、やっぱりあなたも持っているのね」


 ここにきての【不老不死】か。ハクナじゃないが、俺がそれを相手に与える立場になるとは……。俺は特に問題なかったが、サクラがどうかはわからない。生きてほしいとは思うが、そうなった場合今だけの関係にはなれないだろう。


 さて、どうしたものか。ちょっとした人助けのつもりがよくもまぁここまで話が膨らむもんだ。


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