020 悪魔との衝突
悪魔は油断ない構えで剣を再度構える。
「【蒼天剣】クラスを【省略詠唱】で楽々使える実力があるというのに、さらに後衛が大規模の魔術詠唱……いえ、詠唱はとっくに終えて待機させているのですか。一体何をしようとしているんでしょうねぇ」
悪魔はこちらの目的や戦法がわからず頭をひねっているようだが、俺としては特に考えているわけではない。できることをしようとしているだけだ。
そもそもハクナが何ができて何ができないかを俺は知らないのだ。さっきまでは普通に初級魔術しか使わなかったものだから、ハクナ自身は戦闘自体あまり得意ではないのではと思っていた始末だ。
だが、蓋を開けてみると悪魔いわくS級魔術を【省略詠唱】で放てる実力があったという。それだけの力があるなら、俺の事を守るといったあの言葉も嘘ではなかったといえるだろう。
俺が待機させている魔術も、ハクナに言われて行ってはいるが実は不要だったのかもしれない。
まぁ、そんなことをいちいち敵に知らせる必要はない。不要な迷いや思考に囚われているなら、その分隙が生まれるので好都合というものだ。
「ハクナ」
「はい」
あまり長く話すと耳がいい悪魔には気づかれるかもしれない。それだけ言うと伝わったのかハクナが攻勢に出る。
その間に別の魔術の詠唱を始める。詠唱待機中でも別の魔術を詠唱することができそうだったからだ。ただ、流石に星の魔術は厳しいので普通に初級の魔術だ。すぐに詠唱は終わる。
「火球よここに、燃やせ【火球弾】!」
「なっ!」
ありったけの魔力を込めたからか、身長を超える大きさの火球が生み出される。そのサイズに驚きハクナを迎え撃とうとしていた悪魔は後ずさり、恐らくは闇の魔術を放って対抗してきた。本のページが大量にめくれあがっている。
「【悪雷穿】!」
悪魔が手をかざす先に黒い雷が迸る。直撃した【火球弾】は霧散するが、ハクナはその残滓をかわし、悪魔に斬りかかる。
「ははっ、後ろへの守りがお留守ですよぉ! 【黒窮砲】!」
ハクナの攻撃を無視し、悪魔は後ろにいる俺に向かって漆黒の砲撃をしかけてきた。俺は慌てて待機させていた魔術を発動させる。
「【縮退星】!」
俺の前方1m程で漆黒の砲撃がねじ斬られるように渦巻き飲み込まれていく。
【疑似拠点】の効果外に放たれたそれは規模がかなり制限される。本来のブラックホールに比べるとサイズは比較するまでもなく小さいが、今回に限ってはそれは十分な効果を発揮した。
「なっ、バカな!」
恐らく俺を狙うことで守りに戻るハクナを後ろから攻撃するつもりだったのだろうが、思惑が外れ無防備になった悪魔をハクナが切り裂く。
「はぁ!」
「しまっ! ぎゃあぁああ!」
盛大に血しぶきが舞う。いや、あれは血ではないな。
悪魔の傷口から溢れているのは普通の魔物と同じ瘴煙だった。しかしその色はどす黒く、もうもうと溢れている。
「なるほど、人に化ける為に抑え込んでいたのか」
「ぐぅ、まさかこの私に傷をつけるとはねぇ! ですが、この程度で終わる私ではないですよぉ!」
傷を負ってなお剣を握り戦いをやめようとしない。ハクナと盛大に剣撃を打ち鳴らす。間髪いれずの連撃の応酬にハクナが苦悶の声を上げる。
「くっ」
「ハハハ! どうしました? 勢いが落ちてきていますよぉ!」
接近戦は苦手なのだろう。だが、この場にはハクナしかまともに戦える者がいない。不甲斐ないが、今は自分にできることをするしかない。
深手を負ってなお迫る悪魔にどの程度の力があるのか分からず、俺はこの状況を打破する為にスキルの創作を視野に入れ始める。弱点など、この状況を打破できるきっかけが必要だと思ったのだ。
今を切り開く為だけではなく、できれば今後にも使えるものがいい。やはり異世界ものでは定番の鑑定スキルだろう。ただ、調べてみると俺のスキルではどうやら既存のものは作れないらしい。
元から目的のものがこの世界にある場合、どういったものとして生成されるかわからない。
創作した魔術適正が既存の中から選ばれず、複属性のものができたのもここら辺が関係しているみたいだった。
初めての創作世界外での創作になるが、なりふりは構っていられない。やつの能力値やスキルがわかれば事を優位に運べるはずだ。
願うは「相手を見抜く力」。
俺の手元が光り、消える。創作リストに追加されたのだ。そこからさらに魔力を供給し、一気に完成まで持っていく。
掌に光が再度生まれ、幾本の筋に分かれて俺の中に吸収されていく。
問題なく新たなスキルが生まれたようだ。
【魔力解析】
・Rank:S
・効果:対象を分析、その能力や効果を見抜く。込める魔力次第で隠された力すら暴きだす。魔力を込めるほど、解析範囲増加、妨害無効、認識阻害。
スキルは固有スキル欄に追加されていた。リストの中では持ち出しに登録されていない為か、()の中に表示されていたが、【疑似拠点】の効果があれば外でも使用することはできるので問題ない。
魔力を込めるほど解析できる内容が増え、相手の妨害を無効化し、しかも相手が解析されたことに気づく確率を低下させられるらしい。これは当たりといえるだろう。
今はとにかく全力で魔力をつぎ込み、敵の状態と弱点を暴くことに集中する。
「【魔力解析】」
スキルが悪魔を捉え、その正体を暴きだす。
○名前:ハーゲンティ
○種族:悪魔(大総裁) ♂
○称号:“魔神の柱 序列48位”
○Rank:A
○ステータス:
・体力:3504/5820
・魔力:863/1025
・筋力:125
・理力:1650
・守力:220
・護力:1362
・速力:184
○スキル
・固有スキル
【錬金】
・スキル
【魔術適正:闇】【剣術】【儀式召喚】【博識】
「なっ」
その内容に内心驚愕の声を上げる。能力値が俺とは比較にならないほど異常だったからだ。俺の十倍、下手をすると百倍を超える数値すらある。
悪魔は俺の魔術を恐れ迎撃していたが、魔力こそあれ理力がない俺の魔術では恐らく傷一つ付かなかったのではないだろうか。
そして一番驚くべきは称号“魔神の柱 序列48位”だ。こちらではどうなのか知らないが、どう考えても有名なソロモンの72柱だろう。確かこんな名前のやつもいたはずだ。
ということはこんな力の者があと71体もいるということか? いや、下手をするとそいつらを使役するものまでいるかもしれない。
ハクナは粘っているが、途端に勝てる気がしなくなってくる。これは弱点を見抜くどうのの話どころではないな。ハクナがただの悪魔を称する相手でこれだと、闇の神たるベーゼアルとは一体どれほどの力を持っているというのか。
そう言えば、と俺はハクナを見る。まだ悪魔と斬撃を交わしているが、その表情には余裕が見て取れる。剣の技術こそ劣っているようだが、能力値が勝っているのかもしれない。
では神の子たるハクナの能力値とは一体どの程度なのだろう。主にはなったが、実際そのあたりについては何も知らない。
この世界にきてから何もなく落ち着いて話す機会もそんなになかったからな。気を失ってそのまま寝てしまったのが辛い。
取りあえず打開策を練る為にも俺はハクナを解析する。
「【魔力解析】」
ハクナの解析結果が俺の脳裏に流れる。といっても俯瞰したように見ているように感じられるので、見逃すようなことはない。
○名前:ハクナミナ・エルト・リュミエール 神族 誕生14年 ♀
○称号:“水神子”、“レクトルの従者”、“神界の命運を託されし者”
○Rank:-
○ステータス:
・体力:12312/12561
・神力:17562+/18251
・筋力:685
・理力:3654
・守力:1231
・護力:3361
・速力:964
○スキル
・固有スキル
【三相転移】
・契約スキル
【神の祝福】【水神の恩寵】【神門】【不老不死】(【神格覚醒】)
・付与スキル
【偽装】
・スキル
【神術】【魔術適正:水】【魔力感知】【気配察知】【運命糸】【鑑定妨害】【省略詠唱】【水属性強化(超)】【火属性無効】【継続回復(超)】【沈黙無効】【状態異常抵抗】
ズラッとスキルが大量に並ぶ。能力値もハーゲンティに引けを取らない……というより全てにおいて上回っている。それでも攻め切れていないのは単に剣技の技術が問題なのだろう。
もしかしたらハーゲンティが持つ【剣術】の効果かもしれない。あれだけ魔術師よりの能力値で何故そんなスキルを持っているのかは知らないが、技術的強化が入っているのは間違いないだろう。
これなら確かになんとかなるかもしれない。相手の隙を作ればいいだけだ。先ほどのように魔術で牽制を仕掛ける。
「火球よここに、燃やせ【火球弾】!」
しかし、今度はでかいのを生み出すわけではない。ある程度の大きさに絞り、数を増やす。洞窟の中が無数の火球によって照らされる。
「ちぃ!」
なかなか攻めきれない上に俺の魔術だ。あれだけの能力値があるので、威力がないのはわかっているのかもしれない。だが、俺ほどの魔力を持った者が無意味に放つとは考えづらく、罠などを考え無視することはできないのだろう。
悪魔は再度ハクナから距離をとる。その手に持つ本からは黒い光が溢れている。
ハーゲンティが対応する前に俺はすかさず追撃の魔術を放つ。
「水塊よここに、潤せ【水球弾】!」
今度は水球を火球と同程度生み出し、敵……ではなく先ほど放った火球に向けて放つ。
ボゥン! とそれなりの魔力をつぎ込んだ火球と水球が接触し爆発、大量の水蒸気を発生させる。
「なっ!」
予想外の俺の行動にハーゲンティの動きが止まる。しかも水蒸気による視覚の妨害付きだ。
その水蒸気の中をハクナがまるで流れるように移動し、ハーゲンティの後ろに回る。そして手をかざし、魔術を放つ。
「【氷爆旋】!」
「がぁあ!」
魔術の直撃を受けたハーゲンティが盛大に壁に打ち付けられる。その背中は半ばまで抉れていた。
「やったか!? いや、これだとフラグか」
「まだです」
お約束は忘れないのか、ハーゲンティがフラフラと立ち上がる。
「イヒヒ、油断しました。えぇ、まだですよぉ。まだですとも!」
ハーゲンティが持っていた本が全て燃え上がり、その身体をボコボコと異質に変容させていく。見ていてとても気持ちが悪い。
変質が終わった後に現れた姿は翼の生えた牛のような姿だった。体表には血管が迸り、紫色の皮も相まって邪悪さを感じさせる。
その足元からはまるでエンジンを吹かしているかのように、瘴煙が噴き出ていた。
「第二形態とか、ここまでテンプレを重ねなくてもいいだろうに……」
そんなことを呟いた瞬間、ハーゲンティが後方へ瘴煙を爆発させるかのように噴き出した後、俺目掛けて高速での突進を繰り出してきた。
『ブモオォオオオオオ!!』
「待つのです! 憑代を殺したら意味が! 止まるのです!」
商人が慌てている。ハーゲンティの変身は思考を奪うのか言葉もまともに話せないようだ。それに、憑代とは一体どういうことだ?
「ご主人様!」
ハクナも慌てて戻ってくる。後ろに回ったせいで少し距離がある。割り込むまでは間に合わないだろう。どうやら、自分でどうにかするしかなさそうだ。




