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016 新たな創作と星屑の館


「ここは……」


 目が覚めると天井が見える。知らない天井だ。どうやら俺はベッドに寝かされているらしい。


「んんっ」


 隣から声が聞こえて来たため顔を向けると、ハクナが椅子に座ったまま上半身をベッドに預けて眠っていた。どうやら看病してくれていたようだ。


「そうか、昨日魔術の試射の後に気を失ったのか」


 状況は覚えている。ただ、何故気を失ったのかがわからない。星の魔術が思っていたよりも身体への負担が大きかったのだろうか? 個人的には虚脱感も特に感じなかったので、そこまで魔力は消費していないと思ったんだが……。


 身体自体は特に問題なさそうだ。窓の外へ目を向けるが暗く、今が何時なのかはわからない。ここが常に夜なのもあってすでに1日経ったのかも把握できないは辛いところだ。


「ハクナにも迷惑をかけたな」


 窓の外の景色からここはおそらく星屑の館の2階だろう。つまり、あの魔術の試射を行った場所から倒れた俺を抱えてここまで運んだことになる。


 それほど距離はなかったが、それでも見た目十代の女の子だ。神の子とはいえ大変な作業だったに違いない。


 当の本人はあどけない顔をして眠っている。労う気持ちでその頭を撫でているとハクナが目を覚ました。


「ふぇえ、……あ」

「……おはよう」


 頭に手を乗せたまま挨拶をする。ハクナはポケーと俺のことを見つめた後、気付いたかのように抱きついてきた。


ご主人様(マスター)! よ、よかったです。無事だっだんですね!」

「あぁ、大丈夫だ。心配かけたみたいだな」

「本当ですよぉ、グスッ、急に倒れるんでビックリしたんですからね」

「悪かった」


 取りあえず、ハクナが落ち着くまではそのままにしておいた。時折背中をポンポンと叩きながら宥める。これも彼女の主となった俺の役目だろう。役得だ。文句は言われないと思いたい。


 しばらくしてハクナも落ち着いたので、俺は起き上がり今後の予定を立てる為に情報を集める。


「そういえば、あれからどれくらい経ったかわかるか?」

「私も途中で寝ちゃったみたいなので正確にはわかりませんけど、翌日の朝くらいだと思います」

「そうか」


 ということは異世界で一夜を越したんだな。特に感慨もないが、やっぱり元の世界に戻るとか夢でしたってこともないみたいだ。別に元の世界に戻りたいわけでもないのでどうでもいいんだけどな。


「あぁ、それからありがとうな」

「……?」


 ハクナはいきなりお礼を言われて何のことかわからず首を傾げている。


「俺をここまで運んでくれたんだろう?」

「あぁ、大丈夫ですよ。私のご主人様(マスター)なんですから当然です。ただ、ちょっと力を使ったので、後で補充してもらえると助かりますけど」

「あぁ、それは構わない。今やるか?」

「いいんですか? 病み上がりなのに……」


 なるほど、確かに。ただ俺としては特にもう身体に対しては何も異常を感じていないので問題ない。ハクナには常に万全でいてもらわないと何かあった時に困るからな。


「気にするな。気を失った理由はわからないが、今は何ともない」

「じゃ、じゃあ、手いいですか?」


 そういって俺の手をとるハクナ。キスは必要なくなっても何か別の事が必要なのだろうか?


 ハクナはそのまま俺の手の甲を自分のおでこに当てると祈るように目を瞑る。俺からハクナへと魔力が流れているのがわかる。


「ありがとうございました」

「もういいのか?」

「はい」

「ふむ」


 10秒くらい当てただけで、特に虚脱感を感じることもなく終わってしまった。それを不思議に思い、ハクナに確認する。


「全回復までいいんだぞ?」

「えっ、ちゃんと全快しましたよ?」

「そうなのか? 前ほど消費は多くなかったのか、特に虚脱感を感じなかったんだが」

「あ、それは多分ご主人様(マスター)の最大魔力が私の吸収する魔力量を上回ったんだと思います」

「あぁ、そういえば5万とか意味わからない数値に上がってたんだったな。それで虚脱感を感じる量まで減る前に回復されるから感じなくなったのか」


 それだと、最初の契約の時も虚脱感を途中から感じなくなった後もハクナがキスを続けていたのは単にまだ全回復じゃなかったからなのか。


 まぁ、俺が叩いたのと同時に離れて、その時には全快していたみたいなのでどっちかはわからないけどな。


「今日はどうしますか?」

「結局食料問題は解決していないからな……あ、そういえば」


 俺はベッドの縁に座ると昨日の内に創作を開始した道具の状態を見る為、創作中リストを呼び出した。


 そこには次のように表示されていた。


○創作中のスキル

 なし

○創作中の道具

 ①異世界の知識:0%(完成まで1120/2592000)

 ②食料の生産:0%(完成まで1120/259200)


「いつの間に創ってたんですか?」

「昨日の魔術試射の前にちょっとな。それにしても相変わらず長いな。5年と半年か」

「知識と食料ですか。今足りないものですね」

「あぁ、せっかくの力だ。不足を補う為に使うのは当然だろう。問題は何が出るかだな」


 前回のように目的と合致しないようなものが出て来られても困る。その場合は条件を絞って再度トライだな。


 そう思いながら俺は魔力を注ぎ創作時間を短縮していく。


 そしてパーセンテージが100%になったと同時に俺の目の前に2つの道具が光り輝き現れる。


「【知識書庫(アーカイブ)】と【宇迦之御魂(ウカノミタマ)】か」

「なんかすごそうですね。かなりの魔力を感じます」


 【知識書庫(アーカイブ)】は分厚い本の形をしている。これまた厚い表紙に覆われ、惑星の絵を背景に魔法陣や過度な装飾が施されている。


 【宇迦之御魂(ウカノミタマ)】は確か日本の神様の名前だったはずだ。穀物とか食物の女神だったと思うので、そこから来たのだろう。大層な名前であることこの上ない。道具自体はパールのような白っぽい球体で、サイズは直径15cmくらいだ。


「【知識書庫(アーカイブ)】か、魔術書みたいな見た目だが大丈夫か?」

「でも、この本の表紙に書いてあるのはこの世界アーステリアですよ」

「やっぱりそうか。ということはアーステリアの知識を得られる本とみて間違いないのか? 5年を要するんだ。どれだけの知識があるのか気になるところだな」


 そう言ってアイテム名称欄から詳細を表示する。


○【知識書庫(アーカイブ)

 ・RankS アーステリアに関するありとあらゆる知識を封じ込めた書物。知識の提供と引き換えに所有者の魔力を喰らう。それは所持しているだけで発動し、魔力が枯渇した時には魔力を求め転移を繰り返し次の所有者を探す。所有者と認められている間は魔力で繋がっている為、遠隔で内容の閲覧、検索が可能。


ご主人様(マスター)向きの魔法道具(マジックアイテム)ですね。普通の人だったら所持することもできず、封印されるのが落ちだと思います」

「あぁ、俺にとっては当たりかもしれない。能力値(ステータス)をみても、多少魔力の10の位までが変動しているように見えるだけで実質、実害が何もないからな」


 【無限湧魔(ノーリミット)】サマサマだな。というより、この固有スキル前提で【我が内眠る創造の拠点(ラスティア・ラヘル)】や創作した道具が生み出されている感じがする。


 そうじゃなければ、使えるけど使えないものばかりだ。それでいくと最初のスキルで【無限湧魔(ノーリミット)】を選んだことは正解だったということだろう。やり直しもきかなかったし、変なものを選ばなくて本当によかった。


 そんなことを考えながらもう一つの【宇迦之御魂(ウカノミタマ)】を確認する。


○【宇迦之御魂(ウカノミタマ)

 ・RankA 指定した範囲の大地に魔力を対価に加護を与え、食物を育ちやすくさせる。範囲や効果を大きくするほど消費する魔力は大きくなる。


「流石にすぐ食料が手に入るようなものにはならなかったか。これはこれで便利だが」

「え、流石に食料を生み出すお皿なんてものがでてきても、食べて大丈夫なのか心配になりませんか?」

「……まぁ、それもそうか。元となるのは結局魔力だろうし、それでできたものを食べても腹が膨れるのか、栄養的に問題ないのかわからないからな。やっぱり工程を踏むことは大切か」

「そうですね」

「なら、まずは元となる野菜とかの種集めだな。畑がいっぱいあったし、少しくらい譲ってもらえないかお願いしてみるか」

「でも、誰もいませんでしたし……」


 そういえばそうだったな。昨日の魔術のことですっかり忘れていた。あの不気味な村か。1日経った後でも静かなままなのだろうか?


「仕方ない。状況が変わっているかもしれないし、また外に出てみるか。ここにいても結局今は食料問題が解決していないからな」

「そういえば昨日のお昼から食べてないんでした。気がつくとお腹減ってきますね……」

「やっぱりハクナって食いしん坊だよな」

「そんなことないですよ?」


 いや、絶対そうだろう。普通神様がここまで空腹を主張するか? というか、ハクナからの要望なんて魔力か食事くらいしか受けた記憶がない。


「まぁ、いいや。取りあえず、出るか」


 そう言って俺は立ち上がり部屋から出る。ドアを開けると廊下になっており、同じような扉が並ぶ。


「そういえば、ハクナは他の場所を確認したのか?」


 この屋敷自体の探索もまだ終えていなかったのでハクナに問いかける。


「休みの部屋が2階だとはすぐにわかったのでここくらいしか入ってないです」

「そうなのか。住む場所くらいやっぱり一度見て回らないとな」


 そういって俺は一通りの扉を開き、星屑の館の中を探索していった。


 2階は中央の吹き抜けから左右に分かれて配置してあり、それぞれに6つの部屋が3部屋ずつ廊下を挟んで向かい合って並んでいた。


 1階は最初に見つけた台所の他、応接室、リビングを除くと書斎や物置、使用人用らしき簡素な部屋、そしてなにより俺が驚いたのはトイレと風呂があることだった。


 しかもトイレは魔術を使用してはいるが、洋式のトイレに近く不自由なく使うことができた。ちょっと心配していたことだったので、外ではどうか知らないが創作世界(ラスティア)では日本にいた頃と同じようにできるというのは収穫だった。


 最悪はスキルでの創作も視野に入れないといけないところだった。


 そしてなにより驚いたのは風呂だ。通常の風呂ならまだしも、そこに備わっていたのは星空の夜景をバックに広い幻想的な森、そして崖の向こうから見える海を一望できる露天風呂だったのだ。


 そういえば、この世界に来た時にさざ波の音が聞こえると思ったが、まさか屋敷の裏側が崖になっていてその下に海があるとは思わなかった。今すぐ入りたい気持ちにかられたが、これから出かけるのにゆっくりもできないと思って我慢した。


 楽しみは食料の種集めや鉱山の探検が終わってからだ。


 流石は俺のスキルだ。俺のことをわかっている。というより、俺の知識からこの世界で実現できる形で再現されているのかもしれない。


 これならこの異世界生活も悪いものにはならなさそうで安心した。あとはおいしい食事がとれるようになれば文句はない。


 そう思いを馳せ、俺とハクナは再び創作世界(ラスティア)を後にした。


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