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015 魔術の試射


「上がっているのは魔力と速力だな。なんでだ?」

「あ……」


 俺の言葉に何か心当たりがあるのかハクナが声を上げる。


「どうした?」

「多分魔力については私のせいです」

「どういうことだ?」


 別に責めているわけではない。それは当然だ。むしろ強くなったのだから責める理由がない。


 ただ、その上がり幅というか成長のバランスというか、一部が突出しすぎているのが気になった。


 能力値にはレベルの概念がなさそうだったので強くなれるのか心配だったんだが、それについては杞憂だったようで安心した。流石にあの能力値では心もとなかったからな。


 問題はその成長方法だ。それが知りたくてハクナに問いかける。


ご主人様(マスター)の元の世界ではどうだったのかはわかりませんけど、この世界での能力値は各能力に沿った行動に伴い上昇するんです」

「……? いまいち要領を得ないな。つまりどういうことなんだ?」

「使った分だけ強く、鍛えた分だけそれに関連する能力値が高く上昇するんです。例えば魔力や理力を上げたければ魔術を唱え続け、筋力を鍛えたければ武器で敵を攻撃し続ければいいんです。もちろんそれだけじゃなくて、それに近い行動やまったく異なる方法もあります。逆に守力や護力を鍛えたければその攻撃を受け続ければ能力値が上がっていきます」

「それは……なかなかにキツイな。パワーレベリング的なのはできないのか……いや、なるほど。魔力に関してはあの契約か」

「はい」

 

 ハクナを救うために契約を交わした時、ハクナは俺から大量の魔力を吸収し続けた。後で聞いたら30分は吸収していたらしい。びっくりである。


 その過程で魔術を使うでもなくただ魔力の消費と回復を繰り返していた為、理力が上がることなく、ひたすら魔力だけが上昇し続けたのだろう。神力と魔力の変換効率が1/10000ということなので、相当量が消費されたのは間違いない。


 それを30分も続ければ、それは常人が生涯で消費する魔力量を軽く上回ることは想像に難くない。5万を超える結果にもうなづけるというものだ。


 では、それだと速力はどうなるのだろう? この世界にきてから特に走ったりした記憶はあまりないのだが……


「速力はなんで上昇したかわかるか?」

「多分、それはご主人様(マスター)が頭で色々考える人だからでしょうか? でも100を超えているとなると、先ほどのスキルでの事が影響したんじゃないかと思います」

「……具体的に頼む」

「え……っと、速力は単純な物理的速さを示すものだけじゃなくて、その枠組みはかなり広いんです。反射速度や思考速度、しいては魔力の伝達速度や処理速度までありとあらゆるものが含まれます。頭で大量の情報などを高速で処理していくだけでもわずかですけど上昇します」


 なるほど。確かにいろいろ考えてはいたが、それにしては元の数値からの上がり幅が大きく見える。


「スキルが該当するというのは何でだ?」

「さっきご主人様(マスター)は魔術適正を創作する時に当初2年かかるものを魔力で強引に数秒まで縮めましたよね? それが高速処理の判定を受けたんじゃないかと思います」

「それは……なんとも裏技チックな感じだな」

「それにもしかすると、速力も私との契約時に発揮したご主人様(マスター)の魔力回復速度が影響した可能性もあります。詳しくはどれがどれだけの影響を及ぼしたかはわからないですけど……」


 どちらもあきらかに普通の方法ではないだろう。あんまりそういうフェアじゃないのは好きじゃないが、今回のは別に誰かに迷惑をかけるわけではないし競争しているわけでもないので目を瞑るか。


 ……というより、流石に2年も待っていられるかという話だ。解決する方法があって、それが他に影響がなく自己完結するものなら迷わず俺は実行する。


「しかも、それが今は命にも関わるんだ。なりふりは構っていられないな。幸いにも創作に関しては1日3回まで出来るんだ。地道に能力値アップをしていこう。むしろ、他の能力値もどうやったら効率よく上げられるか模索したいところだ」


 特に俺としては速力での逃げる確率を上げるのもいいが、どうせなら即死しないように守力と護力を上げたいところだ。だが、痛い思いを自ら進んでするのは御免こうむりたい。


 取りあえず、忘れないうちに必要になりそうなもので創作を始めておく。今は3回の制限は逃さず使った方がいいだろう。まずは知識と食糧関係だな。それっぽいものになりそうなもので創作だけ始める。短縮は後でいい。今は回数の消化が優先だ。


 守力と護力を上げる方法としては何かいい方法がないものか……


「そういえば、守力や護力の能力値を上げるにはダメージを受けないとだめなのか?」

「そんなことはないですよ。盾で防いだり、魔術をぶつけて相殺したりといった防御行動を続けていても上昇します。でないと回避を得意とする人は逆に成長しないということになってしまいますから」

「なるほど、結構幅広い捉え方をされるんだな。それならまだなんとかなりそうか?」

「また何かするんですか?」


 ハクナが恐る恐る聞いてくる。なんでだ? 別におかしなことを言ったつもりはないんだが……少し異常な結果が続いているからだろうか。それも基本的には俺のせいじゃないと思うんだがな。


「取りあえず、外で魔術を試すか」

「そうですね」


 気分を切り替えて俺たちは星屑の館を後にする。流石にまだ森の中を探索する気にはなれなかったので、泉を中心に館とは逆の方へ向かって歩く。


「かなり広いですね。スキルの中の世界とは思えないです」

「そうだな。これはこの創作世界(ラスティア)のことを知るのも骨が折れそうだ」


 星屑の館までの道のりを抜けると広大な草原が広がっていた。先は見えず地平線が広がっている。さっきまでいた異世界アーステリアと比べてもどちらが大きいか簡単にはわからないくらいだ。


「取りあえず、広いところには出たし使ってみるか」


 俺はそう言いながらハクナの方を見る。


「どうしたんですか?」

「いや、魔術の詠唱っていうのは必ずしも必要なのか?」


 流石にここまで知り合ってしまうと恥ずかしさが出てくる。ハクナにとっては魔術に詠唱が必要なのは当然なのかもしれないが、俺にとってはどうしても中二病的な痛さを感じてしまうのだ。


 しかも今回使おうとしているのがランクの高い魔術だからか詠唱に必要な呪文(スペル)が長い事この上ない。さっきハクナが使った魔術より5小節は多いだろう。


「……? もちろん詠唱を短くすることもなくすこともできますよ?」

「本当か!?」


 これは俺にとって朗報だ。やっぱり存在するんだな。仮にも神であるハクナが律儀に詠唱していたものだから、ないものだとばかり思っていた。


「それでどうやったらできるんだ?」

「スキル【省略詠唱】か、【無詠唱】があれば……」

「スキルか……ちなみに取得条件は?」

「たくさん、早く、魔術詠唱をすること?」

「……だよな」


 スキルもこの世界では能力値と同じく、行った行動や判断の結果によって習得するものらしい。結局簡単に手に入るものではないということだ。こればかりは仕方がない。


「ゴホン、じゃあ、いくぞ?」

「はい」


 自分で使う初めての魔術だ。なんだか緊張するな。しかも立会人がいるというのがそれを助長する。


 魔術適正があれば、正確には魔術適正欄に記載されている魔術であれば、その呪文(スペル)や効果について把握することができる。


 逆に【神術】での魔術行使に修業がいるのは使用権限はあれどもリストに魔術が登録されていないからだ。理論上使えても、やり方がわからなければ使えない。


 どんな魔術があるかを学び、呪文(スペル)を知り、その効果を把握する。そこまでできて、初めて魔術を使うことができる。ある程度魔術書や他者からの指導などから知識を得る必要があるのだ。


 今回使う【極光天(オーロラベール)】は【魔術適正:星】のリスト内にある魔術の為、その点に関しては問題がない。俺は脳裏に浮かぶその呪文(スペル)を言葉にして紡ぐ。


「我が祈り捧げるは天司る明星の女神、(こいねが)うは常しえの奇跡。異常ある者を正しき姿に、(ことわり)を外れし者を正しき道へ。闇を照らし、光で満たせ。救い誘い、不浄を払え【極光天(オーロラベール)】」


 詠唱に従い、天に2重、3重に複雑かつ特大の魔法陣が展開されたと思うと、光り輝きそこを中心として七色に輝くオーロラのカーテンが夜空を覆い尽くした。


 オーロラの長さは数百m程の長さだった。流石に元の世界のように数千kmに及ぶことはないようだ。それでもこれだけの範囲を回復するとなると相当なものだろう。


 そして癒しの効果を持った光の雨がオーロラより降り注ぐ。七色に輝く光の粒子が降る様は元の世界でもなかなかに見ることができないほど感動的な景色だった。


「これは……壮観だな」

「……はい。この創作世界(ラスティア)に来た時も思いましたけど、ご主人様(マスター)の力は綺麗なものが多いですね」

「自分でもなんでこんなに星や天に関するものに縁があるのかよく……グッ」

「えっ?」


 光の粒子を身体に浴びた途端、唐突に身体全体に痛みが走り蹲ってしまう。


「がぁ、ぐ……これ、は……?」

ご主人様(マスター)!? どうしたんですか!?」


 何か身体に違和感を感じたと思ったら、身体に力が入らなくなり俺はそのまま倒れ込んでしまう。


ご主人様(マスター)!? ご主人様(マスター)!」


 ハクナが駆け寄り俺を支え叫ぶが、それに答えることもできず俺の意識はそこで途切れてしまった。


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