123 確率アップ、最後の創作
☆お知らせ☆
・本日開始一週間限定の確率アップキャンペーン最終日!
心残りのないように、願いの内容は慎重に!
(変化はなし……か)
レクトルの視線の先には依然と同じメッセージが流れていた。
微妙にテンションが高いその文章はレクトルにとってはソシャゲでよく見るような文面ではあるものの、ここでは死活問題になりかねないものだった。
最初から気がついていれば、あんなものに創作は使わなかったのにと思うものがいくつか頭に浮かぶ。後悔しても、使用した創作回数が戻ってくることはない。
(なら、今考えるべきは貴重な最後の1回を何に使用するかと、今後の確率とやらがどうなるのか……か)
メッセージを開き、詳細画面に移っても似たようなことが書いてあるのみで、確率に関する表記は見当たらなかった。
(こっちに関しては明日の創作でどうなるか試してみるしかないのか。ただ単にレア度が下がるだけなのか、望んだものと全く別のものが出来上がるのか、もしくはそれ以外の何か別の……いや、それよりも確率アップの最後の一回だ。どの程度下がるのかはわからないが、今まで出来ていたものの価値から考えると相当効果がある可能性が高い。ならいっそ、突拍子もないものを試すべきか。創作すら無理だと思えるような何か……そう言えば前にそんなことを考えたことがあったな。無理だと諦めた……あれはいつだったか……)
ブツブツと何か考え始めたレクトルにハクナは声をかけられないでいた。
最初はまた面倒事を避けるためにはぐらかされていると思っていたが、考え事をするその表情が思いのほか真剣みを帯びていたからだ。
従者たる身でそれを邪魔することは出来なかった。
「セピア……ちょっといいですか?」
「……?」
今日あった出来事について、セピアと相談しようとした時だった。
「思いだした! でも……いや、ものは試しだ。今後の参考にもなる。いい加減、この力についても見極めないとな。……よし!」
「ご主人様?」
「お兄ちゃん?」
勢いよく立ちあがったレクトルはハクナ達の驚きを余所に意気揚々と屋敷を出て行った。
ハクナとセピアはいきなりの主の行動に戸惑いつつも、顔を見合わせるとその後を追いかけた。
レクトルは屋敷の前、噴水の広場よりもさらに先に行った開けた場所にいた。
「どうしたんですか? ご主人様?」
「ん? あぁ、悪い。驚かせたか?」
「大丈夫なの」
「そうですね。何かあったのか気になっただけです」
レクトルが振り返り、申し訳なさそうにしているのを見てハクナは少し安堵していた。
エリスやシャオルーという部外者がいたので幾分誤魔化した説明ではあったが、今日レクトルたちが巻き込まれたことについて食事の際に話を聞いていたのだ。
そこには魔王……ベルとは異なり、本来の力を取り戻し、進化すら果たした魔幻獣との戦いも含まれていた。
街もかなりの被害を受けたとのことだった。ベルやサクラも襲われ傷を負った。幸い傷はもう癒え、ベル自身も進化を果たしそれに対抗した。
最後は勇者の仲間が魔王を倒したと言っていたが、ハクナにはそれがすぐに嘘だと分かった。
他にも隠していることはありそうだったが、詳細は後で説明するという言葉にエリスたちがいるからだろうと納得を示した。
とうのエリスは知らないことばかりだったのか、せっかくおいしい料理なのに味がしないじゃないとどこか虚空を見つめ、現実逃避していた。
だからこそ、襲撃してきた魔王に関することで何かあったのかと心配していた。
そんなことがあったにも関わらず気付けなかった、従者でありながら力になれなかったことに後悔もした。
だが、その理由に思い当たることがあるハクナは言い訳したかったが、神界が絡む理由故にあの場で話をすることはできなかった。
今もせっかくこの場にはレクトルと当事者であったハクナとセピアしかいないのに説明の場を先延ばしにされている。
でも、言い訳などは必要なかったのかもしれない。目の前にいるレクトルには大変な時に駆けつけなかった事を責めるような気は一切感じられなかったからだ。
それはサクラやレアたち奴隷組も同じだった。責めるとしたらベルくらいだろう。とはいっても、それも本気で責めているわけではなく、どこかからかいが目的にあるようにさえ感じられるものだ。
ひとまず問題があるわけではないとわかったハクナはレクトルの横に移動する。セピアもウサギのぬいぐるみ風の妖精クルスを抱え、とてとてとその後をついてくる。
「何かするんですか?」
「あぁ、ちょっと今日最後の創作をな」
「そういうことですか。でも、何で外なんですか?」
「いや、試しに創作してみようと思ってるものがかなり大きいものになるはずだからな。念のためだ」
そう言ってレクトルは一歩踏みだす。
「何を作るの?」
「……まぁ、それはできるかどうかわからないし、終わってからのお楽しみだ」
セピアの問いにそう答えたレクトルは手を前に掲げ、創作を開始する。
そしてすぐに創作中の一覧に追加された項目を見てレクトルは驚愕に目を見開いた。
(……! 追加されたということは可能なのか! それに願った通り追加素材はなし。でもこの創作時間……ほぼ百年じゃないか! 魔力による短縮がないなら非現実的にもほどがある……。このまま創作時間が終わってない状態でいくつまで創作中を保持できるのかも気になるが、それは今である必要はないし、さらに言えば短縮できる俺にとって意味がない。ここは素直に時間短縮だな)
そう結論づけると、レクトルは魔力を流し創作時間を強制的に進めていく。
(もう魔力は表示される値ですらカンストしてしまったからか、まるで負担を感じないな。消費もハクナやベル、セピアの存在維持にサクラの封印、聖樹とかなり増えているはずなのに)
そんなことを考えながら無意識に魔力供給を続けていると、すぐにそれは目的を終えレクトルの前に光となって収束する。
「おっ、来たか。あれ? でも、思っていたよりも光が小さいな」
レクトルの前に収束する光は拳くらいの大きさしかなかった。それに疑問を浮かべ、恐る恐る手を伸ばす。
そう思うのも当然だった。なにせ、レクトルが確率アップの最後に創作物として願ったのは移動手段だったからだ。
それもただの移動手段ではない。レヌアの村からアルストロメリアへ向かう道中にハクナから聞いた異世界ならではの飛空艇だった。
もう5日もすれば乗ることができるが、それは大規模な物で各国で行き先や行程、乗員から搬送物まで厳しく管理されたものだった。
よくあるRPGのように自由に乗りまわせるものではない。
レクトルは一度その場にいって地点登録さえしてしまえば【渡扉】の魔術で自由に好きな場所を行き来することができる。
だが、それは登録をすれば、の話だ。行きたい場所が出来た時に、今回みたいに数日待って飛空艇に乗り、そこからさらに数日~数週間かけて移動する。
しかも移動中は周りの目のことを考えると創作世界に戻るのも難しい。
一度くらいなら旅行気分でそれも楽しめるが、毎回それだとインドア派なレクトルこと海里星一には耐えられそうになかった。
そこで考えたのが今回の創作だった。願ったのは創作世界と出し入れ、行き来が自在で、仲間を乗せられる中規模な飛空艇。ハクナが願うような闇の神に対抗する力に求められるような追加の素材も必要としない。それが条件だった。
これなら異世界だけでなく、この創作世界をも探索するのに使用できるという思惑もあった。
それだけの規模のものだ。決して掌に収まるようなものであるはずがなかった。
レクトルの疑念を余所に、問題なく創作は完了し光が収まるとレクトルの手元にひとつの鍵が転がった。
とても今創作されたばかりとは思えないほど錆びついた金属の鍵。だが、先端にはレクトルが元いた世界とは文明の違いを感じられる筋が幾重にも走っている。
それはどこか魔術道具や魔装具の回路たる魔導路に似ていた。
「これがご主人様が創りたかったものですか?」
「古い鍵なの……」
レクトルの手を覗き込み、出来あがったものが何か分からず不思議な顔をするハクナとセピアに、レクトルも何故鍵しかないのか分からず苦笑いを返すしかなかった。
次回6/15更新予定




