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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第四章 エルフの国と精霊女王編
130/262

115 エルフの少女ユキ

気づいた人、いるかわかりませんが

なんと5/06更新時点でジャスト777,777文字です!

次回更新までの短い間ですが、なんとなく感慨深いです。

(そんなくだらないことのために文末必死に調整してました。分割になったのもそのため……)


「見て見てエリス! これ! この模様! この文献に載ってるのと、この葉に現れてるもの一緒じゃない?」


 トレール家にある大量の本棚が周囲を埋め尽くす一室。様々な本が収められた書庫に唯一ある古びた木の机に本を広げ、ユキは手招きで別の本を手に取っていたエリスを呼び招いた。


 エリスは少しテンション高めな友人の招きに応じて本の1ページをのぞきこむ。どこから持ってきたのかわからないが、確かにユキの手元にある葉っぱに浮き出た模様と本に描かれた絵の模様は同じもののように見えた。


「……確かに似てるわね。それにしても珍しい形の葉っぱね。何の植物なの?」

「聖樹よ」

「へぇ、聖樹……聖樹? ちょ! え? な、なんてもの持ってきてるのよ! バレたらどうなると思ってるの……!?」


 聖樹に関するありとあらゆるものは深緑の巫女率いるエルフの一族によって厳しく管理されている。貴重な魔道具や薬の素材に活用される為、乱獲されて聖樹が傷つけられるのを防ぐ観点からだった。


 他種族の者は聖樹の枝や葉を持ち帰るどころか、その姿さえ見ることは出来ない。王族など認可された一部の者だけが聖樹が生えるイルフェムラ大森林へと足を踏み入れることが許されるのだ。


 焦るエリスとは対照的に、エルフであるユキはそんなことにはまるで気にも留めずあっけらかんと言い放つ。


「はっ! あいつら何にもわかってないのよ! このままじゃ聖樹が危ないって言っても、外に助けを求めない。自分達で何とか出来ると信じてる。その結果が今だっていうのに、同じ過ちを繰り返してばかり。あいつらに任せてたら、聖樹が枯れるのも時間の問題よ!」


 ユキはエルフの中では珍しい先天性白皮症(アルビノ)というだけでなく、持って生まれた赤と青の虹彩異色症(ヘテロクロミア)という異質性から気味悪がられ、孤独に過ごしてきていた。


 ユキを生んだ両親でさえそれは同じだった。生まれたばかりの頃は確かに愛されていた。だが、周囲の目もあってか、何故普通に生まれてくれなかったのかと本人にはどうしようもない怒りをぶつけられる日々が続いた。


 愛情が冷め、放置されるようになるのに時間はかからなかった。衣服はボロボロになり、ご飯すら自分で調達するようになった。


 さらにユキは特異な見た目だけでなく、魔力にも恵まれていた。それ故に精霊や妖精にも愛されていた。彼女らの協力を得て、ようやく何とか生活することが出来ていた。


 周囲はそんな異質な存在でありながら、精霊たちに愛されるユキを妬み、虐げた。閉じ込められた森の中での生活。周りにいるのは同じエルフの者ばかり。ユキに味方する者はエルフ族の中にいなかった。もちろん、それにも理由があったが、そんなユキにはどうしようもできないことは関係がなかった。


 孤独の中、精霊や妖精と話すことだけがユキにとって唯一幸せを感じられる瞬間だった。


 なのに、そこまで追い詰めてなお、エルフたちはユキの存在を許さなかった。だからユキは逃げたのだ。精霊女王(ティターニア)の助けを得て、森の外へと。


 そこでエリスと出会い、今に至る。


「ユキ?」

「え? な、何!?」

「いえ、急にボーとしてるから……」

「あぁ、ちょっとエリスと会った時のことを思い出してて……」

「あー、ふふっ、あの時はホントびっくりしたわよ。庭に見知らぬ可憐な少女がボロボロの服を着て迷い込んでるんだもん」

「可憐って……」

「私は好きよ。ユキの穢れのない白い髪も、宝石みたいなその瞳も。お人形さんみたい」


 さらっとユキの髪を優しく触るエリス。


「もう! からかわないでよ!」

「いいじゃない。減るものでもないし」

「減るの! 主に私の精神が!」

「なにそれ、ふふっ」


 エリスはユキから身の上事情を聞いていた。その容姿のせいでどのような扱いを受けてきたのかも含めてだ。


 だからこそはっきりと告げる。自分はそんなことであなたを虐げたりはしないと。言葉では嫌がりつつも、内心喜んでいることがわかるほどに、ここ数日で2人の仲は進行していた。


「ぶー。そいえばエリスも最初はツンケンしてたのに、最近はデレデレだよね」

「そ! そんにゃことないわよ!」

「ぶふっ、か、かわい」

「なっ、も、もう知らない!」

「あーん、ごめんって」

「次はないからね。はいこれ」

「え?」


 ポンとユキの前に一冊の本を差し出すエリス。そこには“植物の病気とその対処法”というタイトルが記載されていた。


「その本の方がさっきの本よりも詳しく書かれてると思うわ」

「……! ありがとう! エリス大好き!」

「ちょっ! もう都合がいいんだから。ほら、ちゃっちゃとしないとお父様が帰ってくるから」

「はぁい」


 エリスはガシッと抱きつくユキをはがすと、作業を促す。


 エリスもユキ程ではなくとも、両親との関係は良好とはいえなかった。トレール家の三女として生まれたエリスは兄や姉たちと比べ、あらゆる能力で劣っていた。


 成長の見込みのないエリスに父親は早々に見切りをつけた。対応は日に日に冷たくなっていく。役に立たない固有スキルもあって、家での肩身はかなり狭かった。


 貴族のメンツのためか不出来なエリスを遠ざけ、今は離れで別れて暮らしている。そのおかげもあって、エリスはユキと一緒に暮らすことができていた。


 ユキに関しては他の家族には内緒にしていた。広い敷地もあり、エリスの元へ訪れようともしない家族に気づかれることはなかった。侍女の数人はユキの存在を知っていたが、エリスの事情や待遇を知っているが故に秘密にしてくれていた。


 本家にある書庫から出て離れの部屋へと戻ったユキとエリスは調べたことをまとめていた。


「やっぱりこの病気で間違いないかなぁ」

「サトカラトスの奇変? 聞いたことないわね。そもそも植物の病気なんて知らないけど……。でも今更だけど、聖樹でも病気にかかるのね」

「普段はそんなことないはずなんだけど……精霊女王(ティターニア)様も弱ってるから……」

精霊女王(ティターニア)……森と草原の守護者だっけ。聖樹に住んでるのよね」

「そうだよ。今は弱ってるんだけど、それがかんわいいの」

「かわいいって……」


 守護者となれば、エリスにとってはもはや神のような存在だ。お目にかかれるような存在ではなく、影でこの世界を支える3柱の偉大なる存在。世界の守護者。


 そのひとつの柱である精霊女王は大地、主に森や草原を支配し、聖樹より得られた魔力を世界に巡らせ安定化させる。


 そんな途方もない存在をまるで友達のように話す親友にエリスは不思議と笑みがこぼれた。


「それで? 助ける手立ては見つかった?」

「う~ん、むずかしい、かな。素材もさることながら、調合が私苦手なんだよね」

「エルフなのに?」

「うわ、それ偏見だよ」

「ごめんごめん。まぁ、それなら知り合いの調合師に頼んでもいいけど」

「ホント!? 持つべきものはやっぱりかわいい友だね!」

「調子良すぎ。かわいいは関係ないでしょ」

「おおありだよー。むしろ最重要項目?」

「なにそれ」

「あはは」


 他愛もない話を交えながらも、聖樹の不調についての調査は進んでいた。


 2人で狩りに出かけ、必要な素材を集めた。ユキは魔力の素養が高く、魔術に秀でていた。緑と風の2属性に適正がある。


 魔術師よりの固有スキルを持ちながら魔術適正を得ることができなかったエリスからすると複雑な気持ちではあったが、表に出すことはなかった。


 槍術を使いこなす前衛のエリスと、魔術を扱う後衛のユキ。戦闘面でもバランスがよく、息も合っていた。


 時には街に出かけ買い物に。素材で足りないものはギルドに依頼をかけて補ったりもした。


 ユキの容姿は良くも悪くも目立っていたため、基本的にはエリスが仲介役となり店員とやり取りする形となった。その際、ユキは深くフードを被って静かに身を潜めていた。


「やっと集まったね!」

「そうね。後は調合だけ?」

「そうだよ。これで治るかなぁ」

「ユキがこれだけ一生懸命頑張ったんだから大丈夫よ」

「なんかエリスがいると心強いなー。一緒に聖樹助けられればいいのに」

「無理よ。エルフの森には結界があるもの」

「うん。仕方ないよね」


 そんなユキを見て、エリスは努めて明るく叫んだ。


「もう……大丈夫だって! その分、丹精込めて調合するようお願いしておくから!」

「うん、お願いね!」

「じゃあ、いってくるわね」

「よろしく!」


 そうしてエリスは調合師の元へと向かうのだった。


次回5/11更新予定

エリスの過去話、続きます。

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