114 エリスの親友
本日短めです。
その代わり、次回は少し早目に更新します。
この世にいない。その言葉を聞いた瞬間、レクトルはしまったと自分の軽はずみな発言を後悔したが時既に遅かった。
言ってしまった言葉を取り消すことはできない。予想できなかったこととはいえ、レクトルは少しばかりの誠意を込めて謝罪した。
「無神経だったな。すまない」
「律儀ね。別にいいわよ。もう3年も前になるの。流石の私でもケジメはついてるから」
「そうか……」
そう言いながらも、エリスの表情は暗いままだった。レクトルはいたたまれない気持ちになり、話の先を促すことにした。
この空気の流れを少しでも変えるために、多少の労力……依頼の受注も許容する覚悟で、だ。
「詳しい話を聞いても大丈夫か?」
「そうね。ここまで来たら同じか。いいわよ。でも、さっきも言ったけど、あまり他の人には話さないでよ」
「わかってる。みんなもいいよな?」
「えぇ。ここに主の意向に背く者はいないわよ」
レクトルの確認にベルがそう断言した。
流石に大げさだろうとレクトルは仲間へ視線を移すが、みな一様に頷き同意を示した。
「師匠が言っちゃ駄目って言うなら言わないよ!」
「はい。私たちは従者ですからね」
「お兄ちゃんに従うの」
「……今回は助かるが、ほどほどにな?」
レクトル自身、何が? という感じではあったが、どうにもまだ自分が彼女たちの主であるという自覚が持てないレクトルは少しでも自己を大切にしてもらう為にそう伝える。
ハクナやサクラ、ベルを助け、天使を救い、魔王を倒した今でもレクトル……海里星一はまだ自分に自信が持てなかった。
そんな尊敬の眼差しを向けられる器ではないと心が否定する。たが、その思いを口にすることはない。
過大評価だと思いながらも、そう思ってくれること自体に悪い気はしなかったからだった。内心否定しながらも、自分に不都合が生まれるわけでないなら正すことはしない。
それをしないが故に厄介事がやってくる事もあるが、結局はレクトルが何を言おうが彼女たちの認識が変わるわけではないので同じだった。
ただ、ここにはレクトルの従者ではない者も含まれていた。空気を読まず、エリスの願いを否定する。
「そんなの内容によるよ! 聖樹が関わってるんだよ!? 精霊女王様やエルフの長老……それにあのいけ好かない巫女にも話をしないと!」
シャオルーだ。流石に聖樹のこととなると「はい、わかりました」というわけにはいかなかった。
今まさにその聖樹をレクトルに助けを請い、救ってもらおうとしていたのだ。
それが聖樹に危害を加えようとしている……正確には、実際に手を加えていた者がいるという話を聞いて気が気ではなかった。
まるでエリス自体がその諸悪の根源でもあるかのようにまくしたてる。そこには焦りが見えた。それに気付いたレクトルがシャオルーの頭を軽くたたく。
「あいた!」
「落ちつけ」
「で、でもっ……!」
「内容によるんだろ? なら、まずは話を聞けよ。追い出すぞ」
「うっ、わ、わかったよ……」
「あ、ありがとう」
「はぁ、面倒毎は避けたいんだが、仕方ない。話してくれるんだろ?」
「えぇ……そうね」
そこでエリスは姿勢を正し、目を瞑る。話す内容を整理しているのか、まだ覚悟が足りないのか、そのまま沈黙すると、5秒ほどで「ふぅ」と息を吐いた。
そして目を開けると、ゆっくりと事情を話し始めた。
「私にはね、昔……ユキと言う名の親友がいたの。珍しいオッドアイの美しい瞳を持った、私と同い年のエルフの女の子よ」
「なっ……!」
「な、何よ! そんなに驚かなくてもいいでしょ! 私にだって友達くらいいるわよ!」
「い、いや、そう……だな」
「失礼ね」
レクトルが驚いたのは友達どうのの話ではない。オッドアイのエルフの少女という言葉に対してだった。
ほんの数日前のことのため忘れもしない。セピアを助けた後に襲撃してきた赤髪の男ランゲールと共にいた赤と青のオッドアイを持つ白い髪のエルフの少女、リエルナ。
圧倒的な威圧感を誇る少女だった。エルフだから見た目はあまり当てにならないと思いつつも、レクトルには目の前のエリスと同い年と言われても違和感はない。
ただ……
(彼女は生きていた。それに名前も違う。ユキとリエルナ。名前だけならどちらかが偽名と言う可能性もあるが、3年も前に亡くなったという話が本当なら別人と考えるのが妥当か。アンデッド的なものではないと思うが……あとは親戚とかか?)
気になったレクトルは話の途中ではあったが、エリスへと問いかけた。
「そのユキというエルフの少女に姉や妹はいるのか?」
「え? 流石に身内のことまでは知らないわよ。エルフは安全のためにもそういうところは秘匿しているって聞いていたから聞かなかったし……どうして?」
「いや、ならいいんだ」
「……? まぁ、いいわ」
それは身内を人質にされるのを防ぐ観点からだった。森に引き籠った後でもエルフの危機的意識は変わらない。
エリスはレクトルの態度を訝しみながらも、話を続けた。
「ユキは度々エルフの森を抜けだしては私のところに遊びに来ていたの。私の実家……トレール家があるシフェンラ領はイルフェムラ大森林と隣接していたから。最初庭で彼女を見かけたときはびっくりしたけど、私たちはすぐに打ち解けた」
どこか懐かしむように、エリスはにこやかな笑顔をこぼした。そこからも、エリスとユキというエルフの少女の親密さがうかがえた。
「ユキは人間社会に興味があったみたいなの。来るたびに色んなことを聞かれ、せがまれたわ。きっと閉じこもった生活に辟易としていたのね。街に買い物に出かけたり、本を読んだり、一緒に狩りもした。私は足手まといだったかも知れないけど、家のことで不満を抱えていた私にとって、彼女とのひとときはいつも楽しかった。幸せだった。お互い、楽しいことも、辛いことも気兼ねなく話しあった。……そんな時よ」
エリスの顔に影が差す。それは話の流れを変えるには十分なものだった。
まるでここからが本番だと言わんばかりに、エリスの声は真剣なものに変わっていく。
「ある日ユキが言ったの。最近、聖樹の様子がおかしいって。かなり前から不調だったみたいなんだけど、その不調が目に見えて明らかに進行していたそうよ。ユキは優しい子だったから。その原因を調べるんだって張り切ってた。何か作為的なものを感じるからそこからあたってみるって探偵の真似ごとみたいに。張り切る親友を見て、私も出来る事は協力するって応援していたの。今思えば、あの時止めてればよかった。そしたらあんなことにならずに済んだかもしれないのに……」
「…………………………」
エリスは変えられない過去を悔み、涙を流す。すでに結末を聞いているが故に、あんなことが何を指すのかはレクトルにはすぐに理解できた。
レクトル自身も助けられなかった後悔に苛まれた過去を持つが故に、その苦しみは知っていた。それはこの異世界での話ではなく、元の世界だったが、人の命の重みは変わらない。
レクトルにはむしろこの世界の住人は自分の命を軽く見ていると思っていたほどだった。主に奴隷や契約の類がその代表だ。
ただ、その苦しみや痛みを知っていてもレクトルにはエリスへとかける言葉は見つからない。
例え何を言っても失われた命は蘇らないのだ。下手なことを言えば、余計に相手を傷つけるだけだ。
この世界にも死者蘇生の奇跡は存在しない。肉体が死に、魂が消失すれば二度と蘇ることはない。死霊術師による死霊術でも、魂無き生きた屍が闊歩するだけだ。
そんなものはただの死者への冒涜でしかない。
聖属性の禁呪ですら失われた魂を元に戻すことはできない。それはレクトルが持つ星の魔術、【極光天】でも同じことだった。
レクトルやハクナのように【不老不死】のスキルや何らかの処理が魂に施されていれば話は別だが、通常そんなことはありえない。
だからこそレクトルは仲間を守るために色々と手を尽くしているのだから。
次回5/07更新予定
エリスの過去の話となります。




