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異世界にとばされてなお、彼の者は我が道を貫く。《夜天の星王編》  作者: stella212
第四章 エルフの国と精霊女王編
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112 二人目の依頼者

前回長かった分、今回はちょっと短め。

例の如く、本編の最初は全く物語が進まない

でも、掛け合いをさせるのは楽しいよね


 レクトルは口を空けた状態でしばらく放心していた。


「あ、あのご主人様? どうされたのですか……?」


 創作世界(ラスティア)に着くや否や魂が抜けたように固まった主を心配し、レアが駆け寄った。


 その言葉に、レクトルはなんとか平常心を取り戻す。


「あ、あぁ、大丈夫だ」


 だが、その視線は未だに視界に映る一文に固定されたままだった。


 レクトルは見間違いか? と何度もその文面を読み直すが、その内容が変わることはない。


(こんなお知らせ機能のようなものあったか? いや、それよりも確率アップキャンペーン? 一週間限定? いつからだ? いや、今日が最終日ってことは……!)


 レクトルはバッと今度は残りの創作回数が記載されている個所へと視線を移す。そこには残り回数が1回と表示されていた。


(そうだった……。サクラの封印を強化するのに新しく創作を使ったんだった。もうひとつは“星夜の約束”か……)


 1日に3回使える創作も残っているのは1回だけ。その事実がレクトルの不安を掻き立てた。


(確率アップ……ということは、今までレア度が高いものばかりが創作されていたのは、そういうスキルというわけではなく、ただ単に確率が上がっていたからということなのか? なら、そのキャンペーンが終わったらどうなるんだ? そもそも元々の確率がなんなのかも知らないんじゃ――)


「師匠!」

「うおっ」


 またもや思考の波に捕らわれたレクトルを現実に引き戻したのはサクラだった。大丈夫だと言いつつも、難しい顔で何やらブツブツ言い始めたレクトルに本人以上に不安になっていた。


「元気ないの?」

「ほ、本当に大丈夫なのですか? も、もしかして魔王に何かされた後遺症などが……」

「え? あ、いや、違う違う! ちょっと自分の力について考え事をしていただけだ。悪い、心配掛けたな」

「い、いえ、すみません。出過ぎた真似をしました」

「いや、今のは完全に俺が悪かった。屋敷に行こうか」

「は、はい」

「うん!」


 レクトルは考えるのは後回しだと、気を取り直して星屑の館へと向かう。


 サクラとレア、リアも顔を見合すと心配しつつもその後を追いかけるようについていく。


「はぁ、やっと休めるな」


 そう口にしながらレクトルが星屑の館の扉を開けると、思いがけない人物がレクトルを出迎えた。


「あ、あんた! ちょっと! あんたの交友関係、一体どうなってるわけ!?」

「は?」


 金髪碧眼の少女エリスティアはレクトルの姿を視界に捉えるや否やまくしたてる様に詰め寄った。


 何故エリスがここにいるのか全く分からないレクトルは困惑の表情を浮かべる。


「なんで、ここに?」

「私が連れてきたのよ」

「ベル……」


 エリスから遅れてリビングからやってきたのは元怠惰の魔王たるベルフェゴールだった。


 紫に近い赤い髪を短くツインテールに纏めたベルは、イタズラ心を隠そうともせずにうっすらと笑みを浮かべている。


「ベルが? でも、どうして?」

「彼女、あなたに……というより、あなたのコレギアに依頼があるそうよ」

「え……」


 その言葉を聞いて、レクトルはあからさまに嫌な顔を浮かべた。


 先ほど王様経由で妖精から依頼を請け負ったばかりなのだ。まさかのベルからの依頼の紹介に余計なことをと文句の眼差しを向ける。


 だが、ベルはその眼差しをものともせずに簡単に依頼内容の説明をする。


「場所はエルフの森よ。あなたのような人たちなら一度は行ってみたい場所じゃない?」

「え? エルフの?」


 ベルがそう言った理由はレクトルが異世界人ということが起因している。過去、この世界を訪れた異世界人は一様にエルフという人種に会うことを望んでいたのだ。楽しみにしていた。


 それは猫耳などの獣人と比べても、その希少性からか圧倒的に多かった。獣人であれば、王都のような大きい街を歩けば普通に接することができる。


 だが、エルフは基本自身の森に隠れ住み、表舞台に上がってくることはほとんどなかった。その閉ざされた生活に嫌気がさした一部の者がちらほらと点在するだけだ。


 本当に耳が長いのか、若い姿を保ち寿命が長いのか、可愛い、もしくはかっこいい者が多いのか、彼ら彼女らの興味が尽きることはなかった。


 故にレクトルもそうではないかとベルは思っていた。だが、レクトルの反応はベルが思っていたものと違っていた。


「何かあった――」

「ど、どういうこと!? っていうか、あんた誰!?」


 その様子に自分がいない間に何かあったのかと主であるレクトルに問いかけようとした瞬間、その言葉を遮り妖精シャオルーがベルを指さし詰め寄った。


「何? マナーがなってないわね。人に名を訪ねるなら、まずは自らの名を名乗りなさい」

「うっ、わ、私はシャオルーよ! これでも聖樹に住まうりっぱな妖精なんだから!」


 言葉を遮られたことにあからさまに不機嫌になったベルは妖精を睨みつけながら言い返す。それに怯みながらも、シャオルーは言われた通りに名乗りを上げる。


 ちなみに、シャオルーが聖樹に住んでいた事を誇らしげに語ってはいるが、それは王都に住む子供が田舎の子供をバカにするような妖精の価値観で、特にそれ以上の意味はない。


「へぇ。もしかしてあの時の? そう、私はベルフェゴール・オルデュミア。こう見えても真なる魔王に覚醒した怠惰の悪魔なの」

「きゃぴ!?」


 にやりと新たないたずら心が芽生えたベルはちょっとした威圧を込めて不敵な笑いをシャオルーに向けた。


 ゾッという悪寒が全身を駆け巡ったシャオルーはすぐさまレクトルの後ろへと退避した。だが、わずかながらの抵抗まではなくさない。


「な、何よ! 私なんて食べてもおいしくないよ!」

「なんでお前はそう食われたがれるんだ」

「思ってないよ!?」

「あら、そうなの? 随分魔力が乗っておいしそうじゃない」

「ひっ!?」


 ベルは不敵な笑みを崩さず、ペロリと舌なめずりをする。完全にカモとして捉えられたとシャオルーの全身はガクガクと震えていた。


「ね、ねぇ、私を差し出したりしないよね? 大丈夫よね? 信じていいよね?」

「はぁ、ベルも冗談はほどほどにしてくれ」

「あら、つまらないわね」


 レクトルの言葉にベルは素直に身を引いた。威圧感が嘘のように消え去り、シャオルーはポカンと2人の様子を眺めていた。


「そういえば、オルデュミアなんて名字? があったんだな。知らなかった」

「名字なんて私たちにないわよ。“オルデュミア”は真なる魔王に覚醒した時に付与された一種の称号みたいなものよ」

「あぁ、そういやオリエンスにも“ペペルティア”なんてのが増えてたな。あれと同じか」

「違うわよ。あんなのと一緒にしないで」

「え? いや、でも」

「一緒にしないで」

「あ、あぁ」


 一体何が違うのかわからなかったレクトルだが、有無を言わさぬベルの言葉に取り敢えず肯定を返す。レクトルには特にこれ以上追及する理由もなかった。


「ちょっと! 私の依頼の話は!?」

「あぁ、まだいたのか」

「いたわよ!? 一体どういう神経してるわけ!?」


 どんどん話が逸れていく現状にいい加減痺れを切らしたのは、最初に発言したエリスだった。質問で問いかけたはずなのに、気づけば蚊帳の外。納得ができなかった。


 だが、その言葉を不快に感じた者がさらに事態をややこしくしていく。


「神経がおかしいのはあなたです。ご主人様に対し、失礼だと思わないのですか?」

「な、なによ!」

「レ、レア?」


 レアがレクトルとエリスの間に立ち、エリスを睨みつけた。いつものレアと違った行動に思わずレクトルが戸惑ってしまう。


 だが、レアにとって先ほどの言葉は看過できないものだった。例え相手が貴族であろうと関係ない。


 レアのレクトルに対する評価は自身や大切な妹、そして親友であるアシュリアまで救ってくれたことでうなぎのぼりだった。


 先ほども癒しの力の事でレアの我儘を聞いてもらったばかりだった。そんな尊敬すべき大切なご主人様を罵倒する言葉を聞き流すことなど到底できなかった。


 例えレクトルが全く気にしていなかったとしても、相手を見逃す理由にはならない。


 ベルほど威圧を放つものではないにしても、キッとエリスを睨みつける。


 その思いの籠った眼差しに、思わずエリスはたじろいでしまう。


 「あ~も~」と髪の毛が乱れるのも気にせずに頭を掻きむしると、レアとレクトルに対し頭を下げた。


「私が悪かったわ! ごめんなさい! 謝るから、お願いだから私の話を聞いてください!」

「あ、あぁ」


 あまりにもの気迫にレクトルは思わず了承の返事をしてしまう。


 だが、すぐに我に返ったレクトルはすぐさま言葉を繋げる。


「だが、話を聞くのはまた今度な」

「な、どうしてよ? まだ謝罪足りないの!?」

「違う、そうじゃない」

「なら、どうして?」


 レクトルとしてはこれ以上の面倒事を今日聞くのは堪らないというのが本音だった。だが、それをそのまま告げてもエリスは納得しないだろうと思考を巡らせ、一つの答えを思いつく。


 だがそれは別に言い訳でもなく、真実だった。


「確かにコレギアを立ち上げようとはしてるが、手続きの途中なんだ。まだ詳細の説明も受けてない段階で依頼の請負はできない」

「そうなの?」

「そういえば、そうですね。本来なら今日説明にお伺いする予定でしたが、色々とありましたし」

「そ、そうよね。魔王の襲撃があったばかりで依頼も何もないわよね。わかったわ」


 元々エリスも今すぐ依頼に取り掛かってほしいというわけではなかった。どちらかというとベルの所業を目撃してしまったが為に、何か言わないとと昔から考えていたことを急遽依頼という形でお願いしようと思いついただけだった。


 ただ、魔王という規格外の存在を仲間にしているレクトルに期待していたというのもあった。


 はやる気持ちが迷惑をかけているようでは意味がない。


 エリスは素直に退散することにした。


「また来るわ」


 それだけ告げると、エリスは星屑の館から出て行った。パタンという扉が閉まる音が響く。


「……………………まぁ、いいか」


 どこか暗い顔をして出て行ったエリスに、悪いことをしたかと少し罪悪感を感じるレクトルだったが、すぐに気を取り直す。


「レア、色々あった後で申し訳ないが、なんか飯頼めるか?」

「は、はい! 任せてください!」

「がんばる」

「あぁ、頼む」


 レクトルの頼みを受け、意気揚々とレアとリアはキッチンの間へと向かっていった。


「お腹減った」

「そうだな。すぐにレアたちが作ってくれるから、居間でゆっくり待ってような」

「うん!」


 レクトルがサクラを伴って居間に移動しようとした時、ベルが待ったをかけた。


「ちょっと」

「うん? どうした?」

「いいの?」

「何が?」


 ベルの言いたいことがわからず、レクトルは首を傾げた。その態度に「はぁ、なんで私が」と不機嫌になりながらも、ベルは館の玄関を指さす。


「彼女、野宿でもするつもりなのかしら」

「……………………」


 そこまで言われ、レクトルはようやく理解した。ここはレクトルの固有スキル【我が内眠る創造の拠点(ラスティア・ラヘル)】の中の世界だ。


 レクトル本人や契約を交わした従者、もしくは許可した者でなければ元の世界と行き来することはできない。


 ここに来る時はベルが許可を出し連れてきていた。その為、元の世界に戻るのにも誰かの許可や同行が必要だった。


 じっとレクトルはエリスが出て行った館の扉を見つめる。


「ま、大丈夫だろ。この辺に、というよりこの世界に魔物なんていないだろうし、何かあれば戻ってくるさ」


 そう言って踵を返そうとした瞬間―-


「あ、あれ? 開かない!? ちょっと! ここからどうやって戻ればいいのよ! ねぇ! ねぇってば!!」


 ガチャガチャという音が響き、そして館の扉がバンバンと激しく叩かれた。


「はぁ」


 レクトルは深いため息と共にエリスを星屑の館へと再び招き入れるのだった。


 そして、そのしばらく後に天使であるセピアと妖精のクルス、神子であるハクナが戻ってきた。


次回4/27更新予定

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