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110.5 幕間:ベルの追憶2

今回は少し短め。前話とまとめようと思っていたのですが、流石に1万字を超えたので……

ちょっとしたエピローグです。


 私は昔に思いを向けていた瞳を開け、再び前を見つめた。眼前には大罪の悪魔の魂が変わらず飛び交っている。


 その魂に向けて、私は迷いなく告げた。


「私は後悔していないわよ」

『そりゃそうだろうよ。お前にとっちゃ生き残って、魔王にもなって、望んだ平穏を手に入れたんだからな』

「なに? 嫉妬してるの? 憤怒であるあなたが? まぁ、彼女と仲が良かったものね」

『てめぇ……』

『話とはそのことだ、ベルフェゴール』


 幸せな今を邪魔されまいとサタンを挑発していると、まさかのルシファーが会話に口を挟んできた。


 ……なんだか嫌な予感がするわね。


 それでも、気にはなるので先を促す。


「……どういうこと?」

『お前が封印され、鍵を失った俺はその奪還を試みたが、今度は東の魔王……オリエンスの邪魔がはいった』

「…………まぁ、そうでしょうね」

『最初にベルゼブブがやられてしまってな』

『ごめんね』

『だからベルゼは悪くねぇよ』

『あぁ。それにこれは俺の落ち度でもある。ベルフェゴールから話を聞いて、奴の試みを暴けなかった俺のな……』

「ルシファー……」


 【傲慢】たるルシファーが自身の失態だと認めるのはいささか異常に思えた私はじっと彼の魂を見つめた。


 異常。そう、異常なのだ。まるで何かの前触れのように。


 そこに何かを感じ取った私は思わず後ずさる。


『故にお前に託す』

「な、何を……」

『我らが無念を、だ。このままでは終われん。生き残ったのなら、役目を果たせ』

「私は鍵として協力するとは言ったけど、それ以上は知らないわよ」

『その役を果たせなかったのだろうが』

「……内容次第ね」


 聞くだけなら問題ない。全てから解放された今の私はいつもより機嫌がいいのもあるかもしれない。


『彼の地にサタンとレヴィアタンの忘れ形見がいる』

「…………え?」


 言われた言葉の意味を理解するのに、少し時間を要してしまった。


 でも、それって……え? うそ、まさか!? 本当に!? そういうことなの!?


「あ、あなたたち……やることやってたのね……」

『わ、悪いか!? お、俺はレヴィアの強さに惚れたんだ!』

「いえ、お似合いよ。おめでとう」

『ありがとうなのね。な、なんか恥ずかしいのね……』

『あ~ん、初々しいったらないわよね! あなたもそう思うでしょ? ねぇ?』


 道理でアスモデウスのからかいが減っていったわけだわ……。まさかそんなことになっているなんて、その当時は思いもしなかったわよ。


 はぁ、と私はため息をつくとルシファーの魂に問いかけた。


「それで? まさか、私にその子供を育てろって言うんじゃないでしょうね?」

『その通りだ』

「い、いやよ! なんで私が!」


 面倒くさがりの私が、まして他人の子どもなんて育てられるわけないじゃない。


 どうして私なんかに……


 私が無言で問いかけると、それが通じたのかルシファーは話を続けた。


『その娘に儀式を施した。今は眠りについているが、お前があの石板に触れれば最後の鍵を石板が認証し残りの儀式が発動する。そうなれば、力はその娘へと完全に受け継がれるはずだ』

「……それがあなたの最後の望みというわけ?」

『心残りではあるがな』

「そう……わかったわ」


 気づいたら私はそう返事をしてしまっていた。ここで断っても、結果は同じなのよ。聞いてしまったのなら、きっと私は無視できないもの。


 彼ならきっとどうにかしてくれるだろうという希望的観測もなくはないけど。


『いいのか? 断られると思っていたが……』

「まぁ、ね。私にも思うところはあるのよ。でも、最後は彼次第よ」

『あぁ、あなたの思い人ね!』

「違うわよ!」


 アスモデウスの言葉を即座に否定する。まだ私の中で整理出来ていない気持ちを勝手に決め付けないでほしい。


『もう、なんで否定するのよ。私は嬉しいのよ? あなたにそんな気持ちが芽生えてくれて。どう? 今、楽しいでしょ? それとも、まだ退屈?』

「…………………………」

『沈黙は肯定と受け取るわね』

「好きにしなさい」


 やはり、敵わない。だから嫌いなのよ、この女は。いつもわかったように……


 人の心にズケズケと、容赦なく土足で踏みにじる。


「でも、すぐにはいけないわよ」

『あぁ、問題ない。だが、忘れてはくれるなよ』

『ベルフェゴール……いや、ベルフェ。俺たちの子を、頼んだぞ』

『きっと可愛いく育つのよ。成長が見れないのは残念なのだけど』

「えぇ」


 さっきまで怒っていたあのサタンが……それほど、レヴィアタンの事を、そしてその子供を愛しているのね。


 何もできなかったんだもの。それくらい、頼まれるのも悪くないわ。


『そろそろ時間ですな。私もあなたに贈り物を。死んでしまっては意味がないのでね。まぁ、餞別とでも思ってくれたまえ。場所は彼らの子と同じだ。はっはっは』

『そうだね。短い時間だったけど、楽しかったよ』

『精々足掻くといい。せっかく生き残ったのだ。無駄死には許さん』

「大きなお世話よ」


 ふわふわと舞う魂は薄れ、空へと昇っていく。


 これで本当にさようなら、ね。


『え~私はまだ愛しの彼の話を聞けてないんだけど?』

「い・い・か・ら・消・え・な・さ・い!」


 闇雲にブンブンと【堕落鎌(レイジネス)】を振り回す。


『もう……素直にならないと、どんどん先を越されちゃうわよ? ま、今はその思いを大切にしてゆっくりと育みなさいな』

「余計な御世話だって、言ってるでしょ……」

『それじゃ、ばいば~い。愛しの彼によろしくね~』


 残っていたアスモデウスの魂も最後の意地だったのか、そのまま消えていった。


「ふぅ、やっといったわね」


 落ち着いた私は彼の元に戻るために振り返り……ばったりとこの一部始終を目撃していた者と目があった。


「あ、あなた、彼の仲間……よね? 魔王……だったの、ね」

「……………………」


 チャキと私が鎌を持つ手に力を入れた途端、エリスティアといったかしら? 彼女は慌てて手をぶんぶんと振って否定した。


「ち、違うの! て、敵意はないわ! どうせギルマスも知ってるんでしょ? ただ、その……そう! 依頼! あなたたち、コレギアを立ち上げたのよね!? その強さを見込んで依頼があるの!」

「…………?」


 あまりにも必死に内容を述べるものだから、私は思わずその依頼とやらに耳を傾けてしまった。


 あぁ、相変わらず彼のまわりは波乱に満ちている。楽しい日々がまた始まりそう。


 彼と出会ってからは退屈なんて感じる暇なんてないほどに充実していた。あの時の私の選択はやっぱり間違っていなかったのよ。


 ひとつの心配毎もこれでなくなった。きっとこれからも退屈とは程遠い日々が続くに違いないわ。


 そうよ。彼となら、きっと……



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 魔王オリエンスが討伐された次の日、私はサクラと被害にあった近くの商店街を歩いていた。あの時魔王オリエンスの襲撃で中断された散策と昼食の続きね。


「だいぶ壊れちゃったね」

「そうね、でも人は強いもの。すぐに復興するわよ。サクラが気に病むことはないわ」

「うん。あっ!」


 嬉しそうに歩くサクラは路地で準備する一人の男性を見つけて指をさした。思わず視線がそちらに吸い込まれる。


「おお、嬢ちゃんたちか」

「あぁ、あの時の」


 そこにいたのはオリエンス襲撃時にいた肉串屋台の店主だった。


「無事だったのね」

「あぁ、お陰さまでな。あの時は助かったよ」

「……私が恐くはないの?」


 あまりにも平然と話す店主に、思わず問いただしてしまう。何せ、彼は私の正体もその力も間近で目撃しているのだから。


 彼はあの戦いを見て怯えていたはずだ。


「恐い? あぁ、いやぁ俺にとっちゃ嬢ちゃんは命の恩人だからな。正体なんか関係ないさ」

「そう……。もう営業を再開しているのね」

「あぁ! そういや、あの時結局渡せず仕舞いだったな! 是非受け取ってくれ!」


 がさっと袋に入った肉串を渡される。そんなつもりで言った言葉ではなかったが、確かにあの時はお金を払った後商品を受け取っていなかったのでそれを受け取った。


 ただ、その袋は購入した量に対してずいぶんと重かった。


「多いようだけど?」

「そりゃ、感謝の気持ちも入ってるからな。俺に返せるのはこれくらいだからな。気にしないでくれ」

「そう」

「良かったね、ベルベル!」

「何が?」

「えへへ」


 サクラはその理由まで言わない。けど察しはつく。


 悪魔であり、元魔王である私が普通に街の住人に受け入れられている。普通ならありえないはず。


 誰もが畏怖し、恐れ、逃げまどうか排除しようとする。それが魔王なのだから。間違っても感謝され、施しを受けるようなことはない。


「これも彼の仁徳なのかしら」

「え? ベルベルだからだよ。師匠もすごいけど、ベルベルだって負けてないよ」

「サクラ……」


 そういえば、フェニックスがサクラの憧れがどうのとか言っていたわね。


 私の憑代として生かされていたサクラも元気になったものね。


 あの時はこんな風に一緒に生活することになるなんて思ってもいなかった。


 この状況を受け入れている自分がおかしいのか、この状況を生み出した彼がおかしいのか。


 きっと、そんなことは些細なことだ。


 私はこの今を気に入っている。それでいいじゃない。悪魔だ魔王だなんてどうでもいいのよ。


 私はクスッと笑みを浮かべると、店主に礼を述べる。


「ありがたく受け取っておくわ」

「あぁ、これからも贔屓にしてくれよな! ベルベルちゃんたちならまけとくぜ!」

「そ、その名はサクラだけが呼んでいい名なのよ! 気安く呼ばないで! 私はベルフェゴール。偉大な魔王なのよ!?」

「お、おう、悪かった。未だ信じられてなかったが……すごむとすごいな」

「わ、わかればいいのよ」


 ふぅ、あぶないあぶない。サクラ以外でこの呼び名が普及でもしたらたまったもんじゃないわ。


 思わず胸倉を掴んでしまったけど、この店主、意外と胆力あるわね。


 オリエンスが襲ってきた時にはあれほどビビっていたのに……もしかして私、舐められてる?


「あ! あれもおいしそう!」

「きゃあ! ちょ、待ちなさい! サクラ!」

「ははは、またな嬢ちゃんたち!」


 考えに耽っていた私の手を次の獲物を見つけたサクラが強引に引っ張り私は考えを中断させられた。


 そんなのお構いなしに笑顔であれこれと商人に質問するサクラを見ていると文句も言えなくなる。


 はぁ、仕方ないわね。


 たまにはこんな日も悪くないものね。


 きっとこれが、私が望んでいた退屈でない平穏なのよ。


 もう、手放すつもりはないわ。


 何があっても守り抜く。次こそは、必ず。怠惰に、だけど確実に。


 えぇ、だってそれが私なんだもの。誰にも邪魔はさせないわ。


「それじゃあ、彼にお土産でも買って帰りましょうか」

「うん! 師匠何がいいかなぁ?」

「さぁ、あなたが選んだものならなんでも喜んでくれるわよ」

「ベルベルが選んだものでも喜んでくれるよ?」

「……そうね。じゃあ、一緒に選ぶ?」

「うん!」


 きっとこの選択に、間違いはないんだもの。例え間違っていたとしても、私はもう後悔なんてしない。


次回4/6に3章キャラ紹介、4/13より4章開始となります。

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