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110.5 幕間:ベルの軌跡3


「こんなところを誰かが訪れることがあるとはな」

「そう? ここは私のお気に入りの場所なんだけど」

「ほう……名は何と言う」

「……ベルフェゴールよ」


 魔王に相対してなお平然としているベルを見て、オリエンスは名を問うた。名乗りを聞いたオリエンスは少し考え込むと、「ふっ」と笑みを浮かべさらにベルへと質問を投げかける。


「ここへは何をしに来た」

「……ただの昼寝だけど」

「となると【怠惰】か」

「――っ!? なんで……」

「いや、邪魔したな。好きにするといい」


 それだけ言うとオリエンスは何をするでもなく立ち去って行った。


「なんなのよ……」


 残されたベルは大罪の力について知っていたオリエンスを不審に思い立ち去るその姿を見つめながらも、特に邪魔されないなら問題ないといつもの昼寝スポットへと移動した。


 少し丘になった場所に生える木の根元。涼しげな風と木漏れ日に鳥のさえずりが自然の子守唄を奏でるベルの数少ないお気に入りの場所。


 布団ほどの柔らかさはないにしても、そこには自然で構築された十分な快適性があった。


 そこに寝転がったベルは少しの間小鳥のさえずりに耳を傾け、しばらくするとそのまま眠りについた。この時はまだ自分が大きな陰謀に巻き込まれようとしていることに気付くことはなかった。


 この瞬間が全ての始まりだったのだ。


 何時間か眠ったところで肌寒さを感じて目を覚ましたベルは何をするでもなく大罪の拠点へと戻った。


 そこからさらに月日が流れた。


 その間にもベルは何度かお気に入りの寝床である草原を訪れた。その際、3度に1度くらいの頻度で再びオリエンスと遭遇していた。


 あまりに何度も出会うものだからベルはオリエンスの事をかなり訝しんでいたが、会ってもいくつかの問答の後すぐに立ち去られていた。


 何かを確認するようであったものの、特に何かされたわけでもなかった為その時は大きく気にすることはなかった。


 大罪のメンバーにも大きな変化はない。


 ルシファーは相変わらず1人で動いている事が多い。最近は拠点へ戻る時間も減っているようにベルは感じていた。何か進展があったのかもしれないと思いながらも、それをベルから確認することはなかった。


 ベルゼブブも変わらず常に例の石板の傍らにいる。何かが変わるわけでもないのに、そんなにずっと同じものを調べて意味があるのかベルにはわからなかった。


 だが、時たま嬉しそうにルシファーに結果を報告しているところを見ると、こちらも順調なのかもしれないとベルは考えていた。


 サタンはレヴィアタンとじゃれあうことが多かった。といっても脳筋のサタンである為、その場には毎度激しい戦闘音が響いていた。レヴィアタンよりはルシファーの方が強いということで、まず目標をレヴィアタンと定めたようだった。


 相手をされる方は迷惑だろうにと思っていたベルだが、レヴィアタンは思いの他乗り気で偶に勝った際の対価を要求し、サタンを突き合わせていた。


 しまいには拠点が崩壊しそうだとベルは懸念していたが、ルシファーは「問題ない」の一言だった。


 スキルシャッフルの結果故か、最近はサタンが勝つ事も生まれ始めていた。レヴィアタンはその結果に不満を持つことはなく、素直に賞賛していた。


 アスモデウスについてはベルは特に何も把握していなかった。というより、意図的に視界から外していた。記憶に残るのは幾度と繰り返されてきたからかいの言葉だけだった。


 だが、最近はそのからかいの機会が減り、その矛先が少しサタンたちに向かっているようにも思えた。何か新しいおもちゃを見つけたのかもしれないとベルは安堵していた。


 マモンは一度大きな案件とやらで盛大な失態をやらかし、一度死にかけていた。その時は辛うじて近くにいたネズミに自身の魂を移すことで生きながらえていた。


 それには流石のルシファーも怒りをあらわにしていたが、マモンに反省の色は見られない。ベルも呆れるほどに金にがめつく、欲望に忠実だった。


 ベルが見たマモンの姿はこの数ヶ月で優に百を超えていた。

 

 そんな最中でもベルの生活は変わり映えしないものが続いていた。それが大きな変化を迎えることとなったのは、オリエンスと10度目の邂逅を果たした時だった。


「今、なんて言ったの……?」

「我が魔王の座を継ぐ気はないか? と言ったのだ」

「私が……? 魔王? なんで……あなたは死にたいの?」

「まさか……継ぐといってもこの先ずっとではない。ただ一時、その座を明け渡すだけに過ぎない。少々やりたい事ができたのでな、その間この地を離れることとなる。この地を支配する代理の者が必要だ」

「代理の魔王……」


 いきなりの提案に、ベルは戸惑っていた。特に親しいわけではない。偶然会った時に少し会話を交わす程度の間柄だ。ベルにはオリエンスの考えている事がまるでわからなかった。


 知っている事も多くはない。世間では最弱の魔王と言われている事。だが、性格は残忍で狡猾、逃げる者にも容赦しない魔王らしさがある。


 あくまで魔王としては最弱なだけで、人間にとっては最悪な相手であることに変わりはない。


 ベルにとって、魔王に思うところがないわけではない。もっとも魔王に近いとされているルシファーですら上回る存在になる。それは必ず今の生活を根本から変えることとなるだろうことは容易く予想できた。


 だが、それがどういう方向に転ぶのか、何故自分が選ばれたのか、ベルに答えを出すことはできなかった。思い当たることもない。故に、ベルはオリエンスへと問いかけた。


「なんで私なの?」

「何故……か。そうだな、貴様なら我が不在の間、その地位を維持できると思ったからだ。他に頼めそうな者もいない」

「私にメリットはないわ」

「本当にそうか? 退屈な日々を変えたいと思っているのは知っている。魔王になれば、世界は変わるぞ?」

「何を……」


 あまりにも図星を突きつけられ、ベルはうろたえた。だが、例えそうだったとしても、魔王と言う座はあまりにもリスクが大き過ぎた。


 オリエンスのやりたい事が何なのかも気になった。断ろうとした時、オリエンスが追加で条件を付け加えた。


「ふん、これでは足りんか。なら、ひとつ願いを叶えてやろう。我が身にできることに限られはするがな」

「願い……? はっ、ならこんな子供っぽい身体を大人にでもしてもらおうかしら、なんてじょうだ――」

「はははっ! まさかの願いだが、その貧相な身体を変えればいいのだな? 実に容易い」

「え? いや、今のはじょ――」


 願いと聞いてベルが最初に浮かべたのはいつもアスモデウスにからかわれている自身の体型についてだった。だが、それももちろん本気ではなく、あくまでそういうこともできるのか冗談混じりに答えただけだった。


 だが、ベルの制止空しくその願いを聞いたオリエンスがベルに手を翳すとすぐさま実行に移す。


 相手に反論の余地すら与えない、迅速な対応だった。ベルの身体が光り輝き、その形を変えていく。


 それに焦り、ベルが抵抗する。


「ま、待って! 違うのよ! 今のは……!」

「問題ない。もう終わったからな」

「なっ、何よこれ……!」


 ベルが自身の身体を見て、驚愕に目を見開く。それは自身が想像していたものと大きく違っていた。いや、一部しか、同じではなかった。


「む、胸だけ……胸が……胸……」


 たぷたぷと自身の大きくなった胸を下から掬いあげるように感触を確かめるベル。身長や体型は元とほとんど変わっていなかった。胸だけが、あまりにも不自然に大きく成長していた。


「下手に抵抗するからだ。だが、願いは叶えたことに変わりはない」

「……………………え?」


 しばらく胸の感触を確かめていたベルだったが、オリエンスの言葉に我に返り振り返る。そこに自身の体内から魔王核を取り出しているオリエンスが目に入った。


「これが魔王核だ。新たなる魔王、ベルフェゴールよ。ここに誓約は交わされた。願いを対価に、我が戻るまでその座を守れ」

「…………え?」


 ベルの思考が追い付く暇もなく、着々と事は進められていく。ベルがきちんと自覚した時には対価となる願いは交わされ、魔王核はベルの中へと浸透していた。


 それに伴い“東の地の支配者”の称号もベルへと渡っていた。


「え? うそでしょ? ちょっと待って!? 待ちなさいよ!」

「ではしばらく我は留守にする。精々死なぬように留意することだ」

「なっ!」


 ベルが抗議しようとした瞬間、オリエンスの身体はまるで空気に溶け込むように薄っすらと消えていった。


 残されたベルはただ呆然と立ち尽くす。


「どうするのよ、これ……私が魔王? うそでしょ……」


 再度自分の身体を眺める。アスモデウスにからかわれ、反論するのはそれを気にしているからだ。自覚があったベルは押しつけられたとはいえ、せっかくその対価として胸が大きくなったのだからアスモデウスに自慢でも、と足を拠点へと向けようとして止めた。


「……流石に昨日の今日でこれはないわよね……。何かずるしたのがバレバレじゃない」


 今さら成長し大きくなったといくら時間が経ってから言ったとしてもそれは同じなのだが、出会った次の日というのはいかがなものかと、ベルはささいな抵抗を試みた。


 とはいっても、拠点に戻らないのであればベルの帰るところは限られる。


 昔の住処は既に別の者が住みついており使えない。その辺に野宿するか、人間に擬態しどこかに宿泊するか、もしくは新たな拠点を作るかだった。


「流石に、魔王になったのに人間の街は無理よね……」


 下手に正体がバレて襲われたらたまらない。魔王の座を継いだとはいえ、ベルには魔王としての力はまるでなかったからだ。


 魔王核を受け継いだことで元より強くはなっているが、それも仮初の力。勇者などに抗うことはできない。


(何が世界が変わる……よ。ただ、死のリスクが高まっただけじゃない。オリエンス……やってくれたわね。次会った時は容赦しないわよ)


 一発なぐってやると恨み節を思い述べるとベルは寝床を探しにその場を後にした。


 幸いにも廃れた館を見つけることができたベルはそこを仮の寝床として魔王としての生活を始めた。


 そして一ヵ月が経った頃、ベルは久々に大罪の拠点へと戻っていた。


「ベルフェゴールか。今まで何をしてい――っ!?」

「そんなの私の勝手でしょ? 好きにしていいって話だったじゃない」

「お前……一体何があった? その力は……」

「私もただだらけるだけじゃないのよ」


 ベルはどこか自慢げに胸を張って威張りあげる。だが、ルシファーはおかしな成長を遂げたベルの胸には目もくれず、ただ魔王としての力にのみ興味を示した。


 事情説明を求められ、ベルはしぶしぶとそれに応じる。


「そうか、東の魔王が……やっかいなことをしてくれる」

「何よ。私のせいじゃないわよ。有無を言わさぬ勢いだったんだから。文句ならオリエンスに言って頂戴」 

「お前はその座の意味を理解しているのか?」

「土地の支配者でしょ。何をしているのかまでは知らないわ。何も言われてないもの」


 そのベルの言葉にルシファーは「はぁ」とどこか呆れの籠ったため息をついた。


「ふざけているのか? これは警告だ。身を潜め、決して表に出るな。いいか、魔王より強い者なんてこの世界にはいくらでもいる。何故その者たちは魔王の座を狙わないのか、逆に、その座にある者が何故それにこだわるのか、わかるか?」

「知らないわよ」

「魔王の座を継いだのであれば、手にしたはずだ。土地の管理の力を。あれは災いの元だ。決して無闇に使うな。あれはいとも容易く争いを生む」

「そんなこと……言われても……」


 ルシファーのいつもとは異なる態度に戸惑いを隠せないベル。


「死ぬことは許さん。お前は我が計画の鍵のひとつなのだからな。抗え。いざという時は手を貸してやらんこともない」

「あなたが? 珍しい事もあるものね」

「誰のせいだと思っている。そう思うなら大人しくしていろ」

「………………」


 ベルはルシファーの忠告を受けた後、思いのほか深刻な話に目入り俯きながら拠点の中を移動していた。


 歩きながら、今後どうすべきかを頭の中で整理していた。


 だから気付く事ができなかった。向かいからやってくる1人の存在に。


 普段のベルだったなら、事前に察知して回避しただろう。特にこの拠点の中であったならなおさらだ。


 だが、今は外に注意を向けるほど余裕がなかった。


 故にベルは気付かない。だが、相手は違う。特に最近見かけていなかったこともあって、まるで獲物を見つけた猛獣のようにベルへと急ぎ足で駆け寄ってきた。


「あら、ここに来るのは久々じゃない? 一体どうし……た……の? え?」


 パァっと笑みを浮かべてベルの元にやってきたのはアスモデウスだった。その視線はベルの胸元に固定されている。


「げ」

「あらあら、とうとうみすぼらしさに耐えきれずパッドにでも手を出したの? でも流石にこれはちょっとやり過ぎよ? あら?」

「ちょっと、何するのよ!」

「本物?」


 もみもみとベルの胸を遠慮なく揉みし抱くアスモデウス。容赦なく揉まれたことで、普段感じない変な気持ちになり、ベルは抱くようにアスモデウスから自身の胸をかばい逃げた。


「どういうこと? それにあなた……」


 訝しむアスモデウスにベルはどう誤魔化したものかと考えていると、そこにルシファーがやってきた。


 そしてあっさりとベルの事情をばらされてしまう。


「あひゃひゃひゃひゃ! ちょ! お腹痛い! ベルフェゴールあなたっ……! まっ、し、死ぬ! 笑い死ぬわよ、こんなの!」

「…………………………」


 本人の目の前だというのに、その話を聞いたアスモデウスは洞窟の中だということも忘れて盛大に笑い転げる。ゴロゴロと転がり、バンバンと何度も床を叩くその姿にいつもの妖艶さは一切感じられなかった。


「ひーひー、偽物の胸の為に魔王になるって……あ、ダメ、ぷっ、こらえ、きれなっ! あははははは!」

「もうそのまま笑い死になさいよ……」


 ベルが死んだ目で見つめる中、ようやく落ち着いたアスモデウスはゆったりと立ち上がるとぐしゃぐしゃになった服を整えながらベルの肩にポンと手を置く。


「何よ」

「私も、何かあったら協力するわよ? ほら、胸を大きくするには男に揉まれるのがいちっ、いちっば、な、んだかっらっ! ぷぷっ」

「いい加減にしないと殺すわよ!?」

「ごめん、なさっ、だめ、あなたを視界に入れてると耐えられないわ。はー、あなた、魔王になったんだからシャレにならない冗談はやめなさいよね。じゃあねー」

「冗談じゃないわよ。まったく……ほんと、さいあくだわ」


 だが、ベルにとってこんなのは序の口だった。ここからが苦難に満ちた生活の始まりだったのだ。


 オリエンスが魔王の座を明け渡したのには理由があったのだ。他の魔王のひとりが倒された事が耳に入る。


 ルシファーの懸念は見事に的中し、魔王となったベルの元に幾度となく敵が押し寄せた。


「あーもう! しつこいわね! なんで私がこんなに狙われるのよ!」


 まだ表舞台には出ていない。ルシファーの警告はしっかりと守っていた。それでも、明らかに魔王であるベルを狙った進軍が続いていた。


 痺れを切らして使った“東の地の支配者”の力による抵抗も大きな効果を示さない。


 魔物をけしかけ、自身の分を残して周辺の食物を枯れさせる。それでも進軍の速度がわずかに落ちるだけだった。


 殺してしまえば向こうに大義名分を与えてしまう。そう思って追い返すことだけにとどめていたことが返って仇となり、しまいには力試しのような者まで現れる始末だった。


 最後には勇者すらもやってきて、たちまちの内に魔獣が消し飛ばされていく。


 そんな時、ルシファーから連絡が届いた。小さな蝙蝠が言葉を繋ぐ。その報告を聞いたベルは安堵の吐息を零した。


「そう、ようやく準備が整ったのね」


 それは長きにわたりベルゼブブが解析していた石板の秘密がついに暴かれ、ルシファーによる準備も整ったという知らせだった。


 明日に実行するので、今すぐ拠点に集まれという指示を終えると蝙蝠は再び飛び去っていく。


「なら、もうこんなところに長居は無用ね」


 (デコイ)となるルシファーから貰った世創道具(アーティファクト)を残し、ベルは早速とばかりに館を出て森を進む。


 空を飛べば見つかる可能性もある為、ある程度は隠れながらこの場より離れる必要があった。


 周囲の警戒は怠ってはいなかった。


 だが、それは力ある者に対してのみだった。その辺の動物まで警戒していてはキリがない。故に、それは偶然の出会いだった。


「人間……!?」

「え? ――っ!? 角にその羽……悪魔!? そ、そんな……わた、私っ!」

「なんでこんなところに……」


 しなびれたボロボロの服を着た栗色の髪の少女。手に持つ籠にはわずかに薬に使われる薬草と思われるものがすこしばかりとキノコなどの食料が入っていた。


 ベルがこの場所より遠いところは“東の地の支配者”の力で枯れさせているので、こんなところまでやってきてしまったのだと見当をつける。


(村娘ひとり……この場で殺す? でも、すでに立ち去ろうとしているわけだし、別にもうあの館が見つかっても何も問題はないわね)


 そう判断したベルは未だ死の絶望に震え、オロオロする村娘を無視しここから立ち去ろうとした。


 その時だ。


『ピンチの思いに颯爽と登場ーー!』

「え?」

「何?」


 ゴォっと強く吹き抜ける風とともに何かが過ぎ去り、それはUターンするとそのままベルと村娘の間に珍妙な叫び声と共に突き刺さった。


『うぅらっひょぉおおおおおおおおおわぁあああああああああい!』

「きゃあ!」

「な、何!? 何なの!?」


 その勢いで村娘は尻もちをつき、籠の中身をばらまいてしまう。


 盛大な土煙が巻きあがった為、そこに何が刺さったのかベルにはすぐに判断できなかった。わかったのは人ではないことだけだった。


 だが、その珍妙な声は土煙が腫れる前に、なおも言葉を叫ぶ。


『さぁ、嬢ちゃん! 私を使え! この窮地を脱するにはそれしか方法がない!』

「えっ!? 杖が喋って……!?!?」

『何を呆けているのだ! 死にたいのか!? さぁ! 早く! 間に合わなくなるぞ!?』


 謎の事態に混乱する少女を余所に、時間がないと捲し立てる杖の声はまるで相手に考える余地を与えまいとしているようだった。


「え、えっと……」


 それが功を奏したのか、少女は恐る恐る杖に触れる。


『そうだ! そのまま私の言葉に続け!』

「なんなのよこれ……」


 呆然とその光景を眺めていたベルが悪態をついたその時、杖の先端についた宝石が眩い光を発する。


『慈愛の心は私の胸に! 夢と希望が私の力!』

「じ、慈愛の心は私の胸に! 夢と……希望? が私の、力……?」


 目をつぶって、もうやけくそだとばかりに杖の言葉に従って復唱する少女。


『マジカル・シャイン、メイクアップ!』

「マジ……マジカル・シャイン……えと、メイクアップ?」


 少女が唱えた言葉を受け、今度は杖だけでなく少女の身体全体が光りだし、服が弾けとび、新たな服が虹色の光とともに構成されていく。


 服は弾け飛んで裸に近い姿になってはいたが、光によってわかるのは輪郭だけだった。


 光が収まった時には貧相な古びた服を着ていた少女の姿はそこにはなく、ピンク色のフリフリした可愛らしい衣装に身を包み、元の栗色から派手なオレンジ色の髪へと変貌した少女がそこにいた。


「え……? なにこれ?」

「は……?」


 その姿に思考が停止する少女二人。だが、それすら許さない杖の声は、変身して困惑する少女を強引に行動へと切り替えさせる。


『よっしゃぁあああああああああああああ! 変身成功! 後は封印だ! ほらやっちまえー!』


 変身したことで少女の身体制御にまで影響を及ぼせるようになったのか、ビシッと杖をベルに向けるとさらなる詠唱が続いた。


「ぴゅ、ぴゅあな心にとき、ときめくハート! あしき刃を砕く正義の使者! マジカル・シャイン・ティリエ! 魔の者捉えよ! 愛が導く永久(永久)の牢獄! 必・殺!」

「ちょ、ちょっと待ちなさ――!」

「エターナル・ラブリー・シール!!」

「きゃあああああああ!」


 事態に付いていけないベルは何の抵抗も許されず、どういったカラクリの力なのか理解することもなく、あれよあれよという間に封印されていくのであった。


次回3/23更新予定です。

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