012 創造の拠点
「……何かおかしいですね」
「何がだ?」
「人の気配がありません」
「? それは見たらわかるが」
「いえ、建物の中も含めてこの村に、です」
「何!?」
それは確かにおかしい。古臭そうな村とはいえ、結界に囲まれており鉱山まで有しているらしい村になぜ人がいないのか……
どこかに集まって祭りでもしているのだろうか?
「そういや、商人のジアムさんは村に着くなり奥へ向かっていったな。取引相手が奥にいるだけかもしれないが、一旦奥に進んでみるか?」
「そうですね。ここで考えていても仕方なさそうですし」
生活感が感じられるのに誰もいない、そんな雰囲気を不気味に感じながらも俺たちは村の奥へ向かって歩き出した。ちんけな村だから当然かもしれないが、出店なんかも見当たらずただ畑や家が並ぶだけだ。
奥まで歩いているとひと際大きな家が見えてきた。構造は同じ木の家だが、この村では現状唯一の2階建てだ。
「村長の家でしょうか?」
「かもしれないな。ここからはどうだ?」
他の家同様、人がいるのかハクナに確認してもらう。流石に俺にはなんとなくの雰囲気はわかっても建物内に人がいるのかどうかなんてわからない。ハクナがわかるならそれは神術かスキルの一種なのかもしれないが、その力を得たばかりの俺にはもちろんそんな技術はまだない。
今できるのは精々ハクナに魔力を分け与えることくらいだ。
……真剣に力については身につけないと、本当になんかの電池扱いにされそうで怖くなってきたな。
そんなことを考えていると、ハクナが何か口に手を当てて考え込んでいるのが目に入る。
「どうした?」
「あ、ご主人様、それがここにも誰もいないみたいなんです」
「村長宅らしきここにもか?」
そういって俺は目の前の家を指差す。
「はい。それどころか、範囲を広げてみましたけどこの村に人の気配が感じられないです」
「おいおい、マジかよ……」
一気にきな臭くなってきた。最初の村でこの異常事態は勘弁してほしい。
「もう滅びた村だったのかもしれないです。私もあまり地上には詳しくないので申し訳ないです」
「いや、でも商人のジアムさんが話してる感じでは定期的な取引がされてたんじゃないのか?」
「そういえば……、その商人すらも見当たらないですね。しかも、他の家は洗濯物がほしてあったり、蜘蛛の巣もはってなかったりと誰がが住んでいた形跡はあるんですけど……」
「……………………」
確かにおかしい。神隠しにでもあったのか? 特に荒らされているわけでもないので盗賊などの被害にあったわけではないだろう。それにここに来てからそんなに経っていない。ここはほぼ村の奥のようだし、後は紅韻石がとれるという鉱山方面への道があるだけだ。
商人については親切にしてもらったので無事なのか気にはなるが、何かあったとしても俺にどうにかできることだとは思えない。
なので、
「取りあえず、昼はとれたし一旦創作世界へ戻るか!」
「えっ!? この状況で、ですか?」
「この状況だからだよ。なんか不気味で怖いし、食料調達もできなさそうだし、とても一夜を過ごす気にはなれないじゃないか」
「まぁ、確かにそうですけど……」
勝手に誰かの家に入るわけにもいかないし、こんな村では宿屋などもおそらくないだろう。なら星屑の館がある創作世界へ戻る方が断然安心して眠れそうだ。
いい加減“創作”とやらを試したいしな。
「何か変なことに巻き込まれる前に自分のスキルのことを把握しとく必要があると思わないか?」
「……そうですね」
「じゃ、そういうことで」
そう言うとすぐさま創作世界へ転移する。2度目だが、もう手慣れたものなのか呼吸をするかのごとく転移できた。めまいやフラつきも感じない。
「きゃあ!? ……もう! 移動するなら一言いってください!」
「いきなりじゃないだろう。ちゃんと戻るっていったしな」
「もう……屁理屈です……」
契約の時の自分のことは棚に上げてジト目でこちらを睨んでくるハクナ。それを無視して辺りを確認する。
場所は初めて訪れたときと同じ泉の前だ。景色にも変化がない。それはつまり――
「やっぱり夜だな」
「そうですね。契約時に発生するスキルの種類や内容は契約者本人の影響を強く受けるんです。ご主人様は夜がお好きなんですか?」
「えっ? いや、気にしたことはないが特に好きでも嫌いでもないと思うんだけどな……」
「そうなんですか? なら別の影響かもしれませんね。例えば星空とか幻想的な風景とか冷たい夜風とか……そういったものが好きなんじゃないですか?」
「………………」
ハクナが今挙げた中で気になるものがある。星空だ。名前に星が入っていたこともあり、夜に星空を眺めるのは好きだった。
ただ、技術が発達した現代では空気が澄んでおらず綺麗な星空はあまり観ることができなかった。
まさか、綺麗な星空が観たい。その願望がスキルに影響したっていうのか? どの程度の願いの強さが影響を与えるのかは知らないが、そんなスキルに影響するほど強い望みではないと思うんだが……。
そんなに観たいのだったら、綺麗に見える場所にいけばいい。だが、俺が観てたのは住んでる家か、帰り道、後は仕事場の窓から見える星空くらいだ。
テレビで見るような夜景100選を求めて旅行などしたことがないし、しようと思ったことすらない。
俺はそんなに星空を渇望していたのだろうか? そんなことを考えているとハクナが心配になったのか呼び掛けてきた。
「ご主人様?」
「あぁ、すまない。ちょっと考え事をしていた」
「そうなんですか? それで、これからどうします?」
「それなんだが、この世界で試したいことがある。一旦“星屑の館”の部屋にいこうか」
そう話すと星屑の館に向けて歩きだす。
星屑の館に着くと、最初の応接室のような部屋とはまた別の部屋に入る。そこはかなり広い空間になっており、暖炉やソファなどが拵えてあった。いかにもリビングといった感じだ。
いまだに2階には上がっていないが、少しこの屋敷の間取りもわかってきたような気がする。異世界よりもまずはこの屋敷を探索したほうがいいかもしれないな。
そんなことを考えながらソファに腰掛け、俺は今後の方針をハクナに説明する。
「さっきの話だが、流石にこの世界、“アーステリア”だったか? について何も知らない状態で自分を守る力が何もないって言うのは不安なんだ」
「ご主人様は私の主ですので、私が護りますけど?」
「いや、それについてはありがたいんだが流石にハクナ頼みっていうのもな。それに男としてもどうなんだって話だ」
「修業でもするんですか?」
「はは、それも一つの案ではあるな。ハクナには魔術について教えてもらいたいと思ってる」
「え!? それは……いいですけど。あまり戦う力は身につけたくないんだと思ってました」
「あぁ、いや、闇の神と戦うような強大な力はいらないが、身を守る力くらいないと流石にこの先やっていけないだろう。さっきの魔物の時もそうだがあれに対処できないようじゃ先が思いやられる。場合によってはハクナと別行動をとる事や大量の魔物に囲まれることもあるかも知れない。それに、魔術自体に興味もあるしな」
想定していなかったのか、驚いたようだ。実際、魔術については戦う力というよりも最後の個人的興味、憧れの方が強いがハクナに習おうと思っていたのは事実だ。
せっかく【神術】のスキルのおかげで使えないと思っていた魔術が使える可能性が出てきたんだ。覚えない手はないだろう。
「力だけでなく知識もだな。俺はこの世界のことを知らなさすぎる。その点ではこの世界の一般人よりも常識が欠けている点で弱いと言えるだろう。経験による危険予知ができないからな」
「転生者ですからね。教えられる範囲では教えたいですけど、常識なんて逆に何から教えればいいのか……」
「それはおいおい俺が疑問に思ったことを聞くので、これまで通り都度教えてくれたらいい」
「はい、それなら大丈夫です」
「後はこの創作世界の固有スキルとしての本来の能力だ」
「本来の能力……ですか?」
「あぁ」
そういって俺は視界端に表示されていたスキルの詳細項目を目の前に可視化する。
「これは……」
「どうやらこの世界“創造の拠点”の名を冠する通り、物や力を生み出すことができるみたいなんだ」
「物だけじゃなくて力も……ですか?」
「まだ俺も詳細を完全に把握したわけじゃないが、ある程度対価と引き換えに望むものを生み出せる。ただ、その効力や性能、価値などが大きければ大きいほどその対価も大きく、創作にかかる時間も増していくみたいだ」
「それでも、望む力を創れるってすごいじゃないですか!」
「まぁな。ただ、明確に指定できるわけではなくある程度の方向性や内容の指定にとどまる感じだ。対価については魔力を大量にささげれば緩和も可能みたいだが、もちろんデメリットもある。基本創り出したものを扱えるのはこの創作世界内だけだ」
「えっ!?」
歓喜にうち震えていたハクナの顔が暗くなる。それもそうだろう。この世界だけで揮える力に何の意味があるのか。それでは闇の神打倒には活用できないからだ。
無制限に、かつ自分が望む力を自由に生み出せる。ハクナじゃないがそんな神のごとき力を人一人が持つには身に余る。それゆえに設けられた制約か、これでは危険時に対応できる力として運用できないだろう。
ひとりで俺ツエーを楽しんだりするのにはいいかもしれないが……まさか名前だけじゃなく、こんなところにも昔の中二病の影響が!?
……流石にそれは勘弁してほしいところだな。




